36 ヴィレとマッケイン
俺は人の恋路に首を突っ込む趣味はない。
ただ、単純に興味はある。特に若い奴の話は青春真っ盛りな恋だ。
昔の古ぼけた思い出が蘇ってくるようで、話を聞くのは好きだった。
だから、突っ込んで聞いたのだが、これがいけなかった。
そこから、コウは不幸にも巻き込まれてくのであった。
* * *
コウとマッケインは裏通りから教会に向かっていた。
向かっている途中、マッケインは何かを見つけ、一目散に走り出した。
残されたコウは待っているわけにもいかず、マッケインを追う。
マッケインはどうやら時計台の下に佇んでいる黄色いローブを着た少女に声をかけた。
「やあ、カノン。久しぶり。
こんなところで会うなんて偶然だね。」
その声に振り向いた少女は、驚愕に眼を見開いていた。
そして、その瞳の奥は恐怖に怯えるようだった。
少女を見つけたマッケインのほうは満面の笑みを浮かべている。
少女の反応とマッケインの反応から、コウは嫌な予感がした。
そして、嫌な予感は大体当たる。
マッケイン、彼は思い込みが激しいストーカー気質を持つ男。
カノンと呼ばれている少女は、マッケインのことが好きではない。
幼少のころに同じ教育を受けながら、別々の学院に進むにはそう相応の理由があったということだ。
しかし、コウはその状況を放置しているわけにはいかない。
例の襲撃者たちに見つかれば窮地に追い込まれてしまう。
そう思って、周囲を警戒していると、一人の男が猛然と走ってくるではないか。
彼は少女と同じく黄色いローブを着た男だった。
* * *
「そこの男、カノンから手をどけろ。
嫌がっているだろう。」
ヴィレは急いでカノンが絡まれているところに割って入った。
「はっ?
あんた誰だ?何勝手にカノンとか言ってんの?」
マッケインは先ほどの上機嫌が嘘のように、キレながら答えた。
「俺はヴィレ=トーサ。
カノンとは同じ学院に通っている。今は学院の任務中だ。」
さらっと嘘を交えながらマッケインに説明する。
「それより、あんたこそ何者だ?」
「俺はマッケイン=ドーラ。カノンとは幼馴染だ。」
マッケインはなぜか得意そうに答えた。
「そうか、幼馴染か。
だが、本人が嫌がっている。悪いがまた今度にしてもらおう。」
ヴィレはそう言って、カノンの手をつかんで連れて行こうとするが、マッケインがとめた。
「ちょっと待て。
たかが学院の仲間だからって、勝手に連れていくなよ。
何の権利があって連れていく気だ。まだカノンと話してる最中だろうが。」
マッケインの反応にやれやれだといわんばかりの反応を見せるヴィレ。
それはマッケインの怒りを助長するだけだった。
「分かった。それでは教えてやろう。
1つ目、さっきも言ったが任務中だからだ。
そして2つ目、権利というなら、俺はカノンの恋人だからな。十分権利がある。」
ヴィレの回答にマッケインは衝撃が走った。
マッケインの嫉妬の相手が目の前にいたからだ。
マッケインはその言葉に、目つきが変わった。
先ほどまでは、怒りだけだったが、今は嫉妬心も見え隠れしている。
「貴様に決闘を申し込む。」
だから、直情的にマッケインは決闘を口にしていた。
「「は?」」
その科白を聞いたヴィレとコウは呆けたような声を出していた。
カノンは終始驚きの表情で固まったままだ。
マッケインの行動にコウは焦りを覚えた。
あまりにもお粗末な目立つ行動は、敵に見つけてくださいと言わんばかりだ。
さらに、周囲には人だかりができ、この三角関係の成り行きを見守っている。
「いや、…」
コウは決闘を止めるため動こうとした時に第三者によって遮られてしまった。
「いいですね。若々しくて大変結構。
決闘を受けましょう。ヴィレ君。」
その声を聞いた瞬間、ヴィレは頭を抱えたくなるような思いにかられた。
そこには、ご機嫌な様子でいつの間にか現れたルワンがいたのだ。




