34 異世界人と宗教
今、コウとマッケインの二人は店の非常口から出て人通りの少ない路地裏で息をひそめている。
コウはイヤホンを耳に付けて真剣な顔で何かを聞いているようだった。
10分が経過した後、コウはイヤホンを外す。
「よし、そろそろ戻るぞ。お前もついてこい。」
「全然意味が分からないんだが、わかるように説明してくれないか?」
マッケインは首をかしげている。
「ついて来れば教えてやる。」
そういわれては、マッケインは付いて行かないわけにはいかなかった。
「なかなかにやられたな。」
マジックアイテムの店は泥棒にでも入られたように荒らされていた。
店頭に置いてあったマジックアイテムは根こそぎ無くなり、コウが使っていた部屋も散らかり放題だ。
コウは部屋の壁を押し込むと隠し扉が出てきた。
扉を開けると、中にはマジックアイテムと思われるものが複数入っていた。
その中の一つを取り出して、テーブルに置いた。
それは、立方体でルービックキューブのように見える。
特に声は出さないが「これは何?」と言いたげなマッケイン。
「それは試作のボイスレコーダーだ。
さっき襲撃した奴らの会話を録音した。
真ん中にある○にiと書いてあるマークを押してみろ」
コウに言われるがまま、マッケインは立方体のマークを押すと音が流れ出した。
そこには、リーダーと思われる男の声が鮮明に残っていた。
『ちっ、もぬけのからだ。
逃げられたがそう遠くには行ってないはずだ。
街の外に出る前に先回りしておくぞ。
あと、司祭様にも報告しておけよ。』
ボイスレコーダーの再生が終わり、コウはつぶやいた。
「司祭様…ね。」
この世界では大きく2つの宗教がある。
1つはガウス教。これは多神教に属し、各世界にいる神が信仰の対象となっている。
もう1つはロスムイ教。これは一神教に属し、この世界の神のみが信仰の対象となっている。
その性質上、ガウス教では異世界人の転生者を厚く遇しているが、ロスムイ教では世界を乱す者として忌避している。
英雄の1人フォレス=レストは経済や技術力を発展させ、多くの人が喜んだが中には喜ばない人もいた。
技術革新などの弊害で生活に支障をきたすほどの余波を受けた人々にとっては異世界人は邪魔な存在に映ったからだ。
そして、異世界の知識を活用するほどに、その影響は顕著に表れていき、それゆえに宗教対立は激化の一途をたどってきた。
さらに、ガウス教では現在、宗教対立に加え、司教や司祭間での競争も起きている。
異世界人の知識を上手く活用すれば、経済的なメリットが見込めるため、地位向上に一役買うことができるためだ。
ウェルスト司教など異世界人を保護することで司祭から司教に上がった例もあり、みな躍起となっている。
特にウルの街は人々が多く暮らしているため、宗教上の争いが特に激しい場所であった。
そして、今回の侵入者が宗教関係者である以上、彼らは宗教対立に巻き込まれたことを意味していた。
* * *
「こうなったら、ガウス教の教会に駆け込むか。
このままでいたら、ロスムイ教の過激派に殺されそうだ。」
「ま、待ってください。
教会に駆け込むということは、教会の保護を求めるということですよね。
それはつまり…、」
マッケインは途中で言いよどんだ。
教会側は異世界人を保護し利用したい。しかし、それでは元の世界に帰還するというマッケインの希望を叶えることはできない。
「さっきも聞いたが、なぜ帰還にこだわる?
リスクばかりが高い。
それよりも、こっちの世界で第二の人生を謳歌すればいいじゃないか?」
「この世界はやはり俺の世界じゃなかったと気づいたからだ。」
「なんかまどろっこしい言い方だな。
女にでも振られて自暴自棄になってるんじゃないか。」
コウは冗談半分で言ったことだったが、マッケインは語気を荒げて反応した。
「違う。そんなことはない。」
コウはその反応にびっくりしたものの、にやりと面白そうな顔をした。
「そういうことなら、話を聞こうか。」




