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32 決着と事後対応

ケインは表面上、取り繕って見せた。

いかなる時でも余裕を見せること、それが貴族の矜持だと教えられてきた。


しかし、内面のどす黒い感情がこみ上げてくるのを抑えることはできなかった。

貴族である自分が名も知らぬ男に傷を負わされたのだ。

しかも、瘴気を得て、ウォーレットを圧倒するだけの力を持つにも関わらずだ。

先ほどまで感じていた全能感を否定されたかのような気分になる。

ケインのプライドがそれを許さない。


だから、ケインは歪んだ笑顔を見せながら、ヴィレに宣言する。


「ただでは殺しません。

 生きていることを苦しませて、後悔させてから殺します。」


ケインの身体から黒い靄のように瘴気が溢れ出てくる。

それは、ケインの頭上で球状に集まっているようだった。


ヴィレはまっすぐケインを見据えたまま動かなかった。

そしてヴィレの直感は、これは好機だと告げていた。

だから、ヴィレは一歩危険へと踏み込んでいく。


「瘴気はその程度か?

 そんなんじゃ、俺に苦痛も与えることはできないな。」


「言うじゃないか。魔術師見習いにも満たないくせに。

 まだまだ、私の瘴気はそんなもんじゃありませんよ。」


ケインはヴィレの挑発に乗って瘴気をさらに集めていった。

しかし、途中からケインの様子がおかしくなる。

ケインは途中で瘴気の放出を止めようとするが、頭上の球体が瘴気を吸い出していく。

次第にケインは苦しみだした。


「な、なんだ。き…さま。

 何をした。」


「何もしてないさ。

 お前が無理して瘴気を大量に扱ったから暴走してるんだろ?」

そう、カールの魔力事故と同じような現象だった。


<<瘴気を出しすぎだ、馬鹿が。

 その程度の瘴気を御することもできなくて悦に入っていたとは恥ずかしいな。>>


ヴィレは一瞬、頭痛とともに頭の中で自分とよく似た声が響いた。


「貴様、きさまー。き…。」

ケインの絶叫は次第に弱弱しくなり、事切れた。

球体に集まっていた瘴気は、ケインの死亡と同時に霧散して消えた。

ケインの身体は、砂のようにボロボロと崩れていった。


その様子を見たヴィレは、意識を失った。

だが、意識を失う直前、ヴィレは知らない少年がケインと同じように身体が崩れていく記憶を見た。


 *  *  *


「よう。ここは慣れたか?」


「ガラッと環境が変わりましたからね。

 まだ全然ですよ。ドルフ=ピジョー様。」


「ドルフでいい。そう恭しくすんな。

 かたっ苦しいのは舞踏会だけで十分だ。」


ヴィレに声をかけてきたドルフ=ピジョーは嫌そうな顔をした。


今、ヴィレとカレン、そしてアキトはドルフ=ピジョーの邸にいる。

ケインと戦ったあの日から1か月が経っていた。


ケインはダメージの残る体で瘴気を使おうとした結果、暴走し身体が耐えられなくなり死亡した。

だが、ケインが死んでハッピーエンドとはいかなかった。

当事者であるケインは死んだものの、今回の件の後処理にピジョー家は奔走する羽目になった。


そのため、カールとドルフは協力して事後処理にあたることになった。

と言っても、カールは表向き動くことはできないため、オイオット学院に戻った。


主な事後処理の作業はドルフの部下達とヴィレ達3人が行っていた。

ただ、ヴィレ達3人は事後対応のほかにカールとドルフとの連絡係という役割もあった。

アイリの商会が用意したマジックアイテム【通信輪】をヴィレ達が使い、カールとドルフとの連絡を橋渡ししていた。

その人選にヴィレ達が選ばれた理由、それはドルフがヴィレをいたく気に入ったからであった。


『あー、カール。聞こえるか?』


『えぇ、聞こえてますよ。ドルフ兄さん。』


『ついに、ケインが瘴気とかいう胡散臭い力の仕入先がわかったぞ。』


『ほんとですか。』


『ああ、だがどうも面倒くさいことになってそうだ。

 面倒な貴族も関わってそうだが、魔法協会も絡んでそうだ。』


『ええっ。それは大事じゃないですか。』


カールは、ドルフの言葉に焦っていた。

内容もさることながら、彼の声が上機嫌だったからだ。

まるで、楽しそうなおもちゃでも見つけたときの子供のようだ。


『それでな、まずは面倒な貴族の方から調査のために、ヴィレ達をウルの街に調査隊として派遣するから。』


『『『『はぁっ?』』』』


とんでもないことを言い放つドルフに、ヴィレ達とカールは呆気に取られていた。

ウルの街、それはカネル=ウルハード公爵が統治する街であったからだ。

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