29 魔力と瘴気
「瘴気…、ですと?」
ケインの言葉に反応したのはウォーレットだった。
「そうさ。魔族が魔力の代わりに行使する力だ。
その力を手に入れたのさ。」
瘴気は魔力と近い働きを行っているが、魔力で作られた魔法よりも威力が優れている。
それは魔族1人に対して魔術師3人でないと対抗できないと言われるほどの差だった。
不可侵条約を結んだことで、互いの領土を荒らすことは表面上無い。
ただ、個々の事例はその限りではなかった。
「邪法に手を染めたのですか?」
「そこまでは教えられませんね。
ですが、邪法に興味がおありですか?」
ウォーレットの問いにケインは挑発するように返した。
「わかりました。」
静かに強い意志のこもった声を一言いうと、ウォーレットは目の前から消えた。
目にも止まらぬ速さで移動したため、錯覚したのだ。
ウォーレットの動きと呼応するように、マーリンはカール達の前に立つ。
「ドルフ様、カール様。危険ですので、お下がりください。」
直後、ケインに雷柱ができ、周囲を煙が覆った。
雷の落ちた中心部にウォーレットが突っ込んでいき、キンキンと金属音だけが周囲に響いた。
「何が起こっているのです?」
「ウォーレット様が放った雷です。
カール様たちが話している間に、事前詠唱を行い準備を行っていたようです。」
ワルドの問いにマーリンが淡々と答える。
* * *
霧が晴れてきたころ、ケインの周りの部下たちはことごとく地面に臥していた。
ケインだけは、笑みを残したままウォーレットの猛攻をしのいでいた。
「いいね。瘴気は素晴らしい。
昔、あれだけ敵わないと思っていたウォーレットの動きが手に取るようにわかる。」
ケインは饒舌だった。一方、無言を貫くウォーレットの表情は浮かなかった。
次第にケインの方が優勢になり、ウォーレットは追い詰められていった。
それを察したマーリンは、ケインとウォーレットの間に魔法で土壁を作る。
ケインがウォーレットから距離を取ったところに、マーリンの氷の矢が飛んできた。
しかし、ケインが氷の矢で迎撃した。
それどころか、マーリンの氷の矢を貫通し、マーリンに襲い掛かってきた。
マーリンはとっさに防御魔法で氷の矢を防いだ。
「魔力より瘴気の方が優れていることが証明できましたね。
ウォーレット、マーリン。
力の証明に付き合ってくれて感謝します。」
ケインは喜びに満ちているようだった。
「ですが、そろそろ幕引きでしょうか。
私のもとに来る人はいなさそうですし、全員殺して差し上げましょう。」
ケインの殺気を孕んだプレッシャーに、場は凍り付き、誰も動くことができなかった。
それは金縛りにあっているようだった。
唯一、ケインだけが悠々と歩いてカールたちに近づいてくる。
「一番面倒なのは、カールのようだからね。
悪いけど死んでくれ。」
そういうと、ケインの作った氷の矢がカールに襲い掛かっていく。
しかし、カールに当たる直前、上空から打ち付けるような風が襲ってきて、氷の矢は砕け散った。
直後、ドサドサと数人が空から落ちてきた。
「いったー。サンカネル先生。
着地の際はもっと丁寧にお願いしますよ。」
「いや、私は言いましたよ。
着地はケガ可能性が高いですよって。」
なんとも緊迫感のない声が聞こえてくるが、彼らのおかげでカールは九死に一生を得たのだ。
「はは、やはり人脈を作っておいて正解だったな。
こんなところで活きるとは思わなかったが。」
カールを救ったのはヴィレたち、オイオット学院の者たちだった。




