25 カールの秘密と不穏な動き
ドルフの言うとおり、カールは異世界からの転生者であった。
前世での名前は加藤優成で、日本の商社で営業マンをしていた。
彼は35歳の時にその生涯を閉じた。童貞だった。
彼はアニメやゲームなどのいわゆるサブカルチャーに造形が深く、ファンタジーの世界というものに理解があった。
そのため、ピジョー家の四男として転生した時は大喜びだった。
彼は生まれて、物心つく頃には魔法について積極的に調べ学んでいった。
さらには、剣術についても早くから修練を積んでいった。
しかし、独力では剣術の修練は難しいと思ったカールは、年の離れたドルフと初めて会った時に随行していたルワンに目を付けた。
ワルドとともにルワンに師事して修練に励んでいった。
10歳になる頃には、父に連れられ社交界に駆り出されることも多くなった。
純粋な10歳であれば、社交界の華やかさに目を奪われるだけだっただろうが、カールは前世の記憶を持っている。
社交界の華やかさと裏のドロドロとした部分を垣間見て、なるべく関わらないように目立たないように生きていこうと決めた。
カーるはピジョー家の家督争いから逃れるべく、ピジョー領から離れる策を練った。
それが、魔法を学ぶための学院に行くというものだった。
父であるマルティンはカールの進言を許可し、オイオット学院への入学が決まった。
だが、カールにとって誤算だったのは、入学前に測定した魔法適正検査だった。
その検査で高い数値を記録してしまったため、父が各所でカールの宣伝をするようになったのだ。
挙句、今回の魔法事故が発生してしまい、ピジョー家の家名にケチがついてしまったのだから世話はない。
この一件を好機に考えたドルフ兄さんの逞しさは頭が下がるが、正直巻き込まないでほしかった。
状況を整理するため、カールはマジックアイテムを使い、アイリ達に連絡を取ることにした。
* * *
「そうですか。ドルフ=ピジョー様が関わっていたのですか。
ええ、わかりました。確認します。」
アイリはカールからの通信を終えた後、ヴィレ達のもとに戻ってくる。
今、ヴィレ達はピジョー領手前にあるカラン街の宿の一部屋に集まっている。
シューレイ達を捕えた後、サンカネル達は課外授業を継続してカールの後を追ってやってきたのだ。
ピジョー領は現在、厳戒態勢を敷かれており許可がないと領内に入るのが困難になっているため、その手前の街で待機している。
「それにしてもそのマジックアイテムはすごいですね。
距離のある相手とすぐに連絡ができるなんて。
カール君は面白い発想力を持ってるようですね。」
サンカネルの言うマジックアイテムとはアイリがカールとの連絡に使用していた【通信輪】といものだ。
アイリの商会で作られている試作機らしく、公には流通していない代物だという。
しかし、実際はカールが前世の知識をもとに作り出したものだ。
その事実を知っているのは、カールとワルドそしてマジックアイテムの材料を手配したアイリだけだった。
「ああ、これですか。まだ試作機ですけど、確かに便利ですね。
カール様からその発想を聞いた時は目から鱗が落ちるようでしたよ。
便利なんですけど、商用とするには色々と悩むんですよね。
距離に離れれば魔力消費が多くなってしまいますし、そうなると一般用には難しいでしょうか。」
アイリは腕にはめた【通信輪】を手でなぞる。
「それで、カール様ははんて言っていたんです?」
カノンは心配そうにアイリに聞く。
「そうそう、そうでした。
ドルフ様の側に付くか対立するかの選択を迫られていますが、表立っての対立は双方とも望んでいないでしょう。
ただ、ドルフ様の側に付くかどうかは判断を保留にしています。
最悪の場合はドルフ様達と争うことになるかもしれないとは言っていましたが。」
そのアイリの言葉に反応したのはサンカネルだった。
「そうですか。
最悪のケースを想定して、何かあればすぐにカール君を連れて逃げ出せるだけの準備をしておかないといけませんね。」
サンカネルの言葉にみな頷く。
「さて、じゃあ僕からも報告をさせてもらうよ。
この街の商会にあたってみたんだけど、どうやら最近マジックアイテムの需要が伸びているらしい。
あと、武器の需要も増加傾向にあるので近く何か動きがあるんじゃないかと気にしているよ。」
アキトはウェイス商会の伝手を使い情報を集めてきていた。
「それについては、俺も話を聞いてきましたよ。
街の酒場で飲んでたやつらが話してたが、傭兵募集がかかっているらしいですね。
急きょ募集を出したらしく、条件は腕に自信がある者であればそれ以外は問わないとのことです。
チラシも配っており、もらってきました。」
「理由は分かりませんが、どうもタイミングが良すぎる気がしますね。
カール様が戻ったタイミングで傭兵募集となると、ピジョー家の内紛か他諸侯との争いでしょうか?
このカランの街はパトリック侯爵が統治してますから関係してるんでしょうかね?」
ヴィレの取り出したチラシを見たサンカネルは疑問を呈する。
しかし、誰も答えを持っている者はいなかった。
結局、ヴィレ達の集めた情報をカールに連絡した。
『そうか、ありがとう。パトリック公爵のところで動きか。
こっちでも確認してみるよ。
確かルイス兄さんが懇意にしていたはずだけど…。』
ドンッ
カールの部屋の近くで何かがぶつかるような大きくて鈍い音がした。
それが波乱の幕開けだった。




