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23 首謀者の意図

ドルフ=ピジョーは笑いながらカールのもとにやってくる。

「よう、カール坊じゃないか。久しぶりだな。元気してたか?」


そんなドルフにカールは表向きは冷静を装っているが内心は警戒心を高めた。

ドルフは筋肉隆々な武闘派で野心的な性格をしている人物だ。

さらに、ドルフはリーダー的なカリスマ性も持ち合わせており、かなり厄介だ。

ドルフの周りには脳筋な奴らが多く所属しているため、ドルフに喧嘩を売るとその後が大変だ。


現在、マルティンはまだ家督を誰に譲るか明言していない。

そのため、後継者候補の中で功績をあげたものが一躍有力候補になる。

ただし、四男のカールだけは領地を任されていないため、よほどの功績をあげなければ勝ち目は無いだろう。

そう言った意味で、カールは兄弟の中でも特に敵愾心を持たれてはいなかった。

だが、例の事件が発覚したことでカールの置かれた状況は一変した。


カールの事件は他の貴族達にとって都合のいい展開であり、ピジョー家にとっては困る展開である。

けれど、後継者候補達の視点で考えれば別の解釈もできる。

すなわち、この件をうまく納めることが出来れば他の候補者と差をつけるための好機である。


そして、事件の決着の付け方も重要になってくる。

例えば四男が何者かの陰謀により害されたとなれば大義が出来る。

それを後継者候補指揮の下で武力を持ってその何者かを制圧したとなれば、結果としてピジョー家の名にキズはつかない。


それどころか、功績を挙げたとしてピジョー家次期後継者として後押しすることが出来る。

野心家であるドルフあたりはそれくらいの考えは持ってそうだ。

だから、カールは当たり障りの無い言葉を選びドルフに答えることにした。


「お久しぶりです。ドルフ兄さん。

 ちょっとした失敗を父に咎められていまして少し落ち込んでいたところですが、この通り元気ですよ。」


ドルフの後ろに隠れていた男がひょこっと顔を出し、笑顔をカール達に向けてくる。


「カール様お久しぶりです。ルワンでございます。

 お元気そうで何よりですが、あまり無茶されませんようご自重下さい。」


その男は、ドルフの右腕であり、凄腕の剣士にしてワルドの兄でもあるルワン=クロスロードだった。

幼い頃からルワンに剣の指導を受けていたこともあり、カールとワルドにとっては師に近い存在で若干頭の上がらない相手であった。


「おいおい、カールに言ってるのに、俺に向けての言葉みたいだぞ。」

ルワンの科白をドルフが冗談めかして答える。


「はぁ~っ、ドルフ様。あなたの場合は言っても聞かないでしょう。

 少しでも気にしているなら、ドルフ様も自重してください。」

ルワンはため息をつき、肩をすくめ大げさに首を横に降る。

二人のやりとりはまるで漫才をしているようだったが、それだけフランクに振る舞えるのは彼等の間に信頼関係がある証だった。


「ルワン兄さん。廊下で立ち話もなんですので私の部屋で話しませんか?」


「おい、カール。ルワンじゃなく、俺に聞けよ。」


「そうですね。そうしましょう。」


「おい、ルワン。お前も俺を無視して話を進めるんじゃねー。」


 *  *  *


カールの部屋に移動すると部屋にはすでにマーリンが待ち構えていた。

カール達の世話と同時に監視役としてマルティンがよこしてきたのだろう。


カールとて監視役が付くことはすでに想定済みだ。

だからこそ、ドルフ達をカールの部屋に迎え入れたのだから。


カール達4人は部屋のソファーにカールとドルフ、ワルドとルワンが対面するように腰掛けると、マーリンはそれぞれに紅茶を配った。

カールは一口紅茶を飲むと、ちらりとマーリンに視線を向ける。

それに呼応するようにマーリンは無言で頷き魔法を行使する。

カールの部屋の音が外部に漏れないようにする遮音魔法だ。


魔法の展開を確認したカールはドルフに向き直り話を切り出した。

「ドルフ兄さんに報告することがあります。

 俺はオイオット学院から帰郷するまでの間に一度、盗賊と思われる集団の襲撃に遭いました。」


「ほうっ。」

ドルフはその台詞に短く言葉を漏らすが、特に驚いた反応を見せてはいなかった。

それはルワンも同様に顕著な反応を示していなかった。

むしろ、ワルドやマーリンの方がわかりやすく驚きの反応を見せている。


その様子を見て、カールは推測がより確信めいたものに変わる。

「それで、率直に聞きます。

 襲撃の指示を出したのはあなたですね?ドルフ兄さん。」


その言葉に今度こそルワンは驚きの表情を示した。

ドルフも一瞬真顔になり鋭い視線を向けたものの、すぐに口許を緩ませ興味深そうにカールを見る。

「どうしてそう思う?」


「理由は2つ。

 1つは、襲撃のタイミングが良すぎます。

 帰郷することを知っているピジョー家内部の可能性が高い。

 2つ目は、そのことを報告したときのあなた方2人の反応だ。

 襲撃の件は先ほど父上に話をしたばかりでそれ以外の人には一切説明していません。

 それなのに、特に驚くこと無く平然とその言葉を受け取った。

 それで関係していると確信しました。」


「なるほど、中々周りを見ているじゃないか。

 そうだ。俺が指示をだした。

 それで、それを知ってどうする?

 父に報告するか?」


カールは無言で首を振る。

「そんな無意味なことはしません。

 それよりも、理由を教えていただけませんか?」


「理由ね。お前のことだ。どうせ想像は付いているだろう?

 お前の起こした例の事件で父が激怒していてな。

 何か良からぬ企てを考える奴が現れる前に、お前を保護しようと思ったまでだ。」


「それは、わざわざ山賊の格好をさせてまでですか?」


「そうだ。貴族の世界は魑魅魍魎の世界だ。

 誰かがミスをすればそれにつけ込んで潰しにかかるなんてことはざらだ。

 だからこそ、隙を見せてはいけない。

 表立ってカールを庇えば何があるかわからない。

 そこで、カムフラージュとして山賊の格好をさせて襲わせた。

 マーリンはともかく、ウォーレットは純粋な父の配下にいるからな。

 敵を騙すにはまず味方からという奴だよ。」


「それは、本心ではありませんね。

 せいぜい目的の半分と言ったところでしょうか。」


その言葉でドルフとルワンの視線がカールに集中する。

「なぜ、そう思われます?」

今度はルワンがカールに尋ねる。


「ドルフ兄さんがここに来ているからです。

 今回、父から呼び出されたのは俺だけなので兄さんがいるのは不自然です。

 そして、先ほど言った保護が目的ならなおのこと領地を出ないはずだ。

 なぜなら、俺が彼等に連れてこられることを待ってればいいだけなのだから。

 それをしなかったのは、襲撃の失敗はある程度織り込み済みだったと言うことになります。

 俺の安否を確認しつつ、改めて保護するとことを条件に何かの交渉に来たということですよね?」


ドルフとルワンはお互いに顔を見て驚いていた。


「やれやれ、カール。

 昔からお前は妙に鋭いところがあるな。」


観念したように、ドルフは体を投げ出して椅子に深く座った。


「その通りだ、カール。

 お前に交渉したいことがある。」

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