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21 山賊と課外授業

「おい、野郎ども、撤退だ。」

部隊長であるシューレイは予想外の状況に置かれた中で苦渋の決断をした。

目の前にいる男は今回の襲撃のターゲットだった。


独自調査を行ったところ、ターゲットはオイオット学院に所属していることを事前に突き止めている。

オイオット学院などのいわゆる下位学院は基礎を学習するための学校であるため、一般人に毛が生えた程度の能力しか備わっていないと認識されている。

下位学院の生徒はそのほとんどが実践では役に立たないレベルしか能力が育っていないためその認識はあながち間違ってはいない。


だが、必ず例外は存在するもので、実践で高い能力を示す者もいる。

シューレイ達はその例外を前提とした計画を練っていたつもりだったが、相手は予想の遥か上をいっていた。


細身の爺はこちらの攻撃を巧みにかわし、隙あらば杖でカウンターを決めて次々と部下を蹴散らしていく。

剣で闘ってた坊主も実践不足な感は否めないが、防御主体で闘っていたためかこちらの攻撃を悉く防いでいた。

そして、最後に現れた目の前にいる坊主は対して奴だ。

貴族の坊ちゃんだろうに、こんな戦場に来ても冷静さを欠いていない。

普通はパニックになって命乞いのひとつでもして見せるんだが、堂々たる態度でこちらを挑発してくる始末だ。


周りを見渡せば、部下達がかなり疲弊している。

俺もダメージを負っており、部下達のフォローに回る余裕はない。

だから、現時点で依頼を完遂することは不可能だと判断し撤退を行った。

俺達は一度撤退して準備を整えた後、ピジョー領に入る前に再び奴らを襲撃する予定だった。


 *  *  *


予め決めておいた逃走ルートをたどり、森の中で部隊は再編制された。

見つからないように距離を取って、山賊の衣装を脱ぎ捨て、正規の軍服に着替えた。


「シューレイ隊長。どういうことでありますか?」

部下の1人が詰め寄り、シューレイに尋ねる。


「コルピックよ。それはどういう意味で聞いている。

 撤退命令に関してか?

 それとも今回の依頼の件に関してか??」


「は、両方であります。」


「分かった。説明しよう。

 撤退命令を下した理由はこちらの状況が思わしくなかったからだ。

 それに、山賊の形をして出ていった手前、あまり時間をかけると疑われる可能性もあった。」


山賊や盗賊などが馬車を襲う場合、あまり時間をかけることはない。

時間をかけると、他の馬車に見つかったり、増援が来ることで状況が不利になる可能性があるからだ。


「今回のターゲットとその使用人達は皆かなりの腕前だったしな。

 じじいにかなりやられてただろ。

 それに、坊主二人もかなりの実力だぞ。

 貴族の坊ちゃんの方なんか度胸満点だったぜ。」


「いやー、あのじいさん。めちゃ強かった。

 攻撃が全く歯が立たないわ。」


「ほんと、あれヤバいわ。体力勝負に持ち込まなきゃ勝てる気がしないね。」


「剣を使ってた子供の方もなかなかだったぜ。

 防御重視で堅実に守ってる感じだったけど、隙が少なかったもんな。」


「貴族の子供の方もすごかったぜ。隊長に啖呵きってたしな。」


隊員達は次々と先ほどの戦闘の感想を言い始める。

シューレイはパンッと1つ手を叩き隊員達を黙らせる。


「おい、お前ら負けといて相手を褒めてるんじゃねーよ。」


「でも、隊長ってあの子供達、特に貴族の坊ちゃんの方とか好きなタイプでしょう?」

部下の科白にシューレイは視線を逸らし、頭をぼりぼりとかいた。

部下達は声を殺して笑っている。


「と、とりあえず、今回の戦闘を踏まえて、次の襲撃の準備にかかるぞ。

 馬車を封じればいくら戦闘に長けてても数で押し切ることができる。

 肝心なことは、依頼人の希望でもあるピジョー領に入る前に叩くことだ。」


「「「「了解。」」」」


「なるほど。山賊に紛れて襲撃とは手が込んでますね。」

どこからともなく声が聞こえてくる。


「だ、誰だ。どこにいる?」

隊員の1人がうろたえるようにおびえた声で叫んだ。


「落ち着け。これは精神感応魔法【夢幻】だ。

 気を静めて冷静になれば解ける。」


シューレイはうろたえていた隊員を落ち着かせ、解法を教えた。

すると、視界が一瞬ぼやけ、目の前に赤いローブをきた男が現れた。


「さすが、隊長という肩書は伊達じゃありませんね。」

赤いローブの男は嬉しそうにシューレイをたたえている。


「世辞はいい。盗み聞きとはいい趣味じゃねーな。

 もしかして、俺達は嵌めようとして嵌められた感じか?」


「その通りです。」

「さっさと捕えましょう。サンカネル先生。」

そういって、サンカネルの後方から黄色いローブをきた数名が出てくる。


「サンカネルだと。

 まさか、『蜃気楼のサンカネル』か。」


シューレイはその名前を聞いて驚く。

周りの隊員たちも一斉にざわざわと騒がしくなる。


「…、アイリさん。嵌めましたね。」

サンカネルはムスッとした顔をして、黄色いローブの1人を見る。


すぐに、シューレイたちの方に向き直り不敵に言い放つ。

「さあ、みなさん。課外授業を行いますよ。

 奴らを捕えましょう。」


 *  *  *


ピジョー伯爵家の子息の魔法暴走による事件が発生してから、オイオット学院の教師陣はピリピリとした緊張感に包まれていた。

事件のことは緘口令を敷いていたにも関わらず学院の外に漏れていたからだ。


そして、カール帰郷の話がオイオット学院の教師陣の耳に入ると、一層緊張度合が増していった。

オイオット学院での事故というだけでもスキャンダルなのに、帰郷の際に万が一のことが起これば学院に影響が出る。

貴族の子息が通う学院に安心して留学させておくことができないとなれば学院の信用問題だ。


だが、帰郷を希望する生徒、それも貴族の子息に対して断ることはできない。

かといって、護衛をつけるようなことをして、下手をすればそれこそ学院の責任問題になりかねない。


学院長は困り果てていた。

そこに、救いの手を差し伸べてきたのはサンカネルだった。


「学院長、生徒達を連れて課外授業に行きたいと思うのですがいかがでしょうか?」

サンカネルは課外授業と称して、カール達の帰郷する方向に向かう。

あくまで課外授業の一環という体で、偶々その向かう先がカール達の通った道と同じだっただけであれば護衛にならない。

もしカール達にバレたとしても、課外授業という大義名分があれば問題はない。


サンカネルのこの提案はすんなりと受け入れられ、話はとんとん拍子で進んでいった。

翌日にはサンカネルを筆頭に引率教師6名、生徒50名の集団課外授業が行われることになったのだ。


この課外授業の提案はもともとヴィレがサンカネルに提案していたものだった。

学院全体を巻き込むことで、アイリの協力依頼を拒むサンカネルの協力をこぎつけることに成功したのだった。

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