19 マルティン伯爵への報告1
ウォーレットの投げかけた質問に、ワルドとマーリンの2人は固まる。
一方、投げかけられたカールは少し考え込むがすぐに答えた。
「昔は魔法で何でも解決できると考えていた節はある。
だが、オイオット学院では魔法だけでなく武術や座学など様々な事を学んでいる。
率先して戦いに出るような無鉄砲なままでは無いところを見せたまでだ。
ほら、ピジョー家の男がいつまでのお前達にハラハラさせてばかりではダメだろう。なあ、マーリン。」
カールから話を振られて、マーリンは一瞬反応が遅れた。
「えっ、ああ、そうですね。
的確な指示だったと思います。最後のリーダーとの対峙は少しハラハラしましたが難なくこなしていましたし、かなり鍛えられていると思います。」
「なるほど、カール様の成長しかと見届けました。
このウォーレット、あらぬ噂に振り回され、カール様を疑ってしまいました。
大変申し訳ございません。」
ウォーレットは背筋を伸ばし、腰から上体を45度に折り曲げ最敬礼を行う。
「その噂の件でピジョー家に戻るのだ。気にしないさ。」
カールとマーリンのやりとりを聞き、ウォーレットはとりあえず納得した。
その後再びの襲撃もなく、カールたちはピジョー家にたどり着いた。
オイオット学院を出発してから5日が経っていた。
* * *
コンコンとノックの後、伯爵家執務室の扉が開かれる。
「伯爵様、カール様が御戻りになられました。」
メイド長のナニィ=マシテは椅子に座り、書類に目を通しているマルティンに報告した。
「そうか。わかった。」
マルティンはそれだけ言うと、書類を横に置き、席を立ち応接室に移動する。
応接室にはすでにカールたち4人が待っていた。
マルティンが入ると、カールたちは片膝を床につけお辞儀をする。
「カール、只今戻りました。」
「時間が惜しい。手短に聞こう。」
マルティンは低い声で簡潔に答えるが、どこか刺々しい言い方をしていた。機嫌が悪いことを隠そうともしていない。
カールは右手をギュッと力強く握り、覚悟を決めてマルティンを見据えた。
「では、申し上げます。」
* * *
帰郷前日、カールは今回の事件に関する回答内容をサンカネル先生やヴィレ達と話し合っていた。
サンカネル側としては、自分の関与及び背後関係が表に出なければ構わない。
カールとしては、自身の身の安全が最優先事項だ。
それは、ピジョー家とサンカネル達を敵に回さないということだ。
一方、ピジョー家として考えた場合、面子がつぶれない事が肝要だ。
カールの起こした事件が誤報であることを望んでいるだろうがそれは無理なため、一番傷にならない理由が必要となる。
それだけの情報を確認して皆が押し黙り、数分間の沈黙が訪れた。
沈黙を破ったのはカノンだった。
「素直に妨害工作によるものだと報告すればどうです?
実行犯が分からなければ、サンカネル先生も影響ないでしょう?」
「いや、だめだ。
その場合、ピジョー家は犯人探しを行う可能性がある。
そうなれば、指示を出した人物がサンカネル先生を口封じして事件を終わらせる可能性がある。」
カールはその案を即座に否定する。アイリが手を挙げる。
「では、魔術師としての才能が偏っていたことによる偶発的な事故だとすればどうでしょう?」
「それはなんとも言えませんね。
確かに魔術師として治療に特化している者や攻撃に特化している者はいます。
ただ、得手不得手があるとしても、基本魔法をクリアしているのは前提条件です。
今回の基本魔法での事故というのが重要だったのはその点です。」
今度はサンカネル先生が説明し、アイリの案を否定する。
「でも、実際には基本魔法ではなかったんでしょ?なら…」
「それだと、基本魔法以外の魔法を詠唱していたということを説明しなきゃいけない。
そうなると、サンカネル先生は疑われる。」
アイリの科白を途中で遮り、カールが答える。
再び沈黙が訪れるが、ここでヴィレが声をあげる。
「2つ聞きたい事があります。1つ、カールはプライドを捨てることができますか?
2つ、ピジョー家では兄弟の仲、特に信頼関係は強固なものですか?」
「1つ目について、どういうことだ?人間としてのプライドなら無理だぞ。」
「説明不足でした。ピジョー家としてのプライドです。伯爵家の子息ならではの家訓や矜持があるでしょう。
そう言ったものを含めてかなぐり捨てることが出来ますか?」
「矜持を抱いて死ぬにしても自分で一歩を踏み出す前に死ねない。
そのために邪魔になるなら、そんなプライドなど喜んで捨てよう。」
「わかりました。では2つ目はどうです?」
「兄弟間は表立って対立はしていないものの、牽制していると言ったところだな。
まだ長男が最有力ではあるが、次男や三男も家督を継ぐことをあきらめてはいないからな。
俺は年齢が離れているから家督争いから遠のいているため、良好とまではいかないが悪くもないと思う。」
カールは渋い顔をしながら答えた。
その回答にヴィレはなるほどと返しながら、にやりと笑みを浮かべた。
「それなら、なんとかできるかもしれませんね。」




