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17 カール帰郷のリスク

「どういうことか聞いてもいいです?」

ヴィレはアイリに依頼の背景を確認する。


「今から説明するわ。

 この間の魔法事故の件について、カール様の実家から呼び戻されることになったの。

 知っていると思うけど、カール様の実家ピジョー家はこの国でも指折りの名家よ。

 そんなピジョー家の中で魔術師としての才能があるカール様は御家としても王族に取り入るのに重要な存在だったのよ。

 この間、ウルハメード王の五女のマリステン様とウルハメード王の弟であるウルハード公爵の三女イツマール様の成人を祝う晩餐会が開かれていましたし。」

そこまで言うと、アイリは頭を抱えた。


「なるほど。本来ならその舞踏会でカールを売り込んで王家や公爵家と縁を作りたいと考えていたんですね。

 けど、カールの事故の件が表沙汰になってしまったので、ピジョー家の顔に泥を塗る結果になったということですか。」


「ええ、そうよ。絶妙なタイミングよね。

 当然のことながら、ピジョー家では他の貴族による計略ではないかと考えているらしいの。

 それで本人から事情を確認するため呼び出しがかかったということになるわね。

 だけど、帰りの道中に妨害が無いとも言い切れないわ。」


「ですが、それはピジョー家側も理解していることでしょう。

 ピジョー家からしたら、襲撃を受ける可能性を考慮してそれなりの護衛を付けてくるのでは?」


「残念だけど、そうではないの。」

ヴィレの言葉に対しアイリは首を横に振って否定する。


「ああ、それはね。

 ピジョー家からしたら、カールが襲撃を受ければ、それはそれで大義名分が立つからだよ。」

ひょっこりとヴィレの後ろから現れたアキトがアイリの言葉を引き継いでヴィレに答える。


「なっ、お前どこから」

突然の現れたアキトにヴィレが驚きの声を上げる。アイリやカノンもヴィレと同様に驚いている。

アイリが部屋を訪れた時、部屋にはヴィレしか居ないことを確認していたのだから。


「まあまあ、そんな些細な事より、急ぎ何でしょう?アイリさん。」

一方のアキトは3人の驚いている様を特に気にすることもなくアイリに話の続きを促した。


「え、ええ。

 先ほどアキトさんが説明した通りです。

 カール様が仮に襲撃を受けた場合、魔法事故の件も含めて一連の事件は他の貴族の謀略によるものだと主張することが出来ます。

 そうなれば、ピジョー家としての面目は保たれます。」


「なるほど。それなら護衛が少ない可能性もありますね。

 カールが襲撃を受けてピジョー家にプラスに働くなら、貴族達もそれを理解しているはずでは?」


「そこまで考えられればそうなんだけどね。

 貴族もピンからキリまで様々な人がいるからね。短絡的に行動する貴族がいないとも限らない。」


「ええ、そうですね。

 私は今回の帰郷の途中で1回は襲撃を受けるものと思っています。

 もし貴族側がアクションを起こさなくても、ピジョー家が裏でアクションを起こす可能性があるからです。」


「大義名分を得るために自作自演を行うと言うのですか?

 さすがにそれは穿ち過ぎでは?」


「リスクを視野に入れておくことは商人の娘としての刷り込まれてますから。

 もし、何もなければそれに越したことはありませんし。

 ですが、問題はそれだけではありません。」


「まだあるのか。」


「いやいや、むしろこれからが本題だよ。」


「アキトさんは色々とご存じなのね。」


「いえいえ。僕も商人の子だからね。情報は命だよ。」


アイリは鋭くアキトを射抜くがアキトはさらりと受け流して見せる。

その様子にアイリはこれ以上突いても無駄だと悟り話を戻す。


「もし無事にカール様が実家に戻ることが出来たとしても、釈明次第では内々に処理される可能性があります。」


「それでピジョー家は大義名分を得るというわけか。」


「ピジョー家としては暗殺されたことにすれば他の諸侯を責める口実が作れるからね。

 伯爵領は領土も広く兵力も相当なものだし、これをきっかけに他の諸侯と戦争を始めるかもね。

 現当主のマルティン=ピジョーは御家の拡大に躍起になっているし。」


「…、本当にアキトさんは色々と知ってますね。」

「いえいえ。アイリさんこそもっと詳細な情報を知っているでしょう。

アイリとアキトはお互い笑みを浮かべている。何か邪念のようなものも感じるが…。


「なるほど、事情はわかりました。

 それで俺に何をどうしてほしいんです?

 護衛とかは無理ですよ。それなら、サンカネル先生に依頼したほうが確実でしょう。」


「サンカネル先生にはすでに打診しましたが断られました。

 どうにかサンカネル先生の協力を得るために、ヴィレさんの知恵を借りたいと思いまして。」


「なぜ、俺に?」


アイリは一瞬カノンの方をチラリとみて視線をヴィレに戻す。 

「私の知る限りヴィレさん以上に悪知恵の働く人もいませんから。」


アイリはにっこりとほほ笑みながら、さらりと毒を吐いた。

どうもカノンとの件でヴィレに対して攻撃性が増したようだ。

ヴィレは観念するしかなかった。


「わかりましたよ。

 でも、いつも悪知恵が働くわけじゃないんですけどね…。」


その日の夜、カールとワルドの帰郷について関係者協議が行われることとなった。

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