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16 ピジョー伯爵家というもの

その日、マルティン=ピジョー伯爵は招かれていた晩餐会に出席していた。

この晩餐会は王宮で盛大に執り行われていた。

ウルハメード王国のバルバット=ウルハメード王の5女マリステンとカネル=ウルハード公爵の3女イツマールの生誕15年の成人を祝う宴であった。

それは、マルティン=ピジョーにとって宣伝のための格好の舞台となるはずだった。


しかし、そこにもたらされた報により思惑は脆く崩れ去った。

「カール=ピジョー様が魔法事故を起こされたそうですよ。」

オイオット学院にほど近い場所に領土を持つマニ=グエン子爵はマルティンにそう語り掛けてきたのだ。

すぐ近くに居た貴族達もすぐにマニ子爵のところに集まり詳細を催促する。

一方、マニ子爵から報告をされたマルティンはその衝撃に思考停止に陥った。


「カール様は学院で非常に優秀な成績を修めていたそうです。

 ただ、基礎魔法の実践授業の際、魔法制御に失敗しケガを負われたと聞き及んでおります。

 その後、周囲に居た教師によって迅速かつ適切な処置が行われたようで今では当時のケガも残らず元気にされておいでのようです。」


「カール様にケガが無くて安心しましたわ。」

「本当に。将来魔術師としても期待の高い方ですからな。

 そんな方が不慮の事故で命を落とされては国としても大損失になります。

 無事で何よりですな。」


マニ子爵の科白に周囲に集まっていた貴族達が口々にカールの無事を喜んでいる。

だが、その白々しい科白はマルティンにとって感情を逆なでするだけだった。

晩餐会を壊すわけにはいかないため、マルティンは屈辱を甘んじて受けるしかなかった。


ピジョー家以外の貴族からすれば、カール=ピジョーを周囲に宣伝して回っていたマルティンの行動は、王族に取り入ろうとする思惑が透けて見えて快く思っていなかった。

そんな中、晩餐会という絶妙なタイミングで飛び込んできたカールのスキャンダル。


魔力保有量が人並外れて多くあり、ピジョー家の秘蔵っ子と言われてきた四男カール=ピジョー。

そんな彼が下位学院のしかも基礎魔法の授業中に魔法の制御に失敗し、あまつさえ自身がケガを負うという事故を起こしたという情報は、マルティン伯爵が周囲に触れて回っているカールの印象と180度異なるものだ。

当然、王族の耳に入りマルティンの思惑は当てが外れるということになる。


マルティンはその悪夢のような晩餐会が終わると、足早にピジョー領に引き返していった。

そして、カールに事の顛末を報告してくるように伝令を出すのであった。


 *  *  *


ヴィレは調べものをするため図書室に出かけている時、カールとワルドは寮で魔法学の復習を行っていた。

コンコンとドアをノックする音が鳴り響き、ワルドが扉を開けると、そこにはサンカネルが立っていた。


「休日にすいませんね。今居るのは2人だけですね。

 丁度いいです。2人とも来てください。面会です。」


「面会?」

カールは嫌そうな顔をしてサンカネルに尋ねる。


「ええ、ピジョー家の使用人と名乗る方が来ています。

 理由は、恐らくカール君の思っている通りだと思いますよ。

 私も少し前にアイリ君からそうなる可能性を示唆されていましたがまさか本当になるとは思っていませんでしたが。」

サンカネルは少し困ったような表情でカールに答える。


「そう…、ですか。

 分かりました。では、行きましょうか。」

カールは深呼吸を一つした後、ワルドとともにサンカネルの案内で面会人のいる学院の応接室に移動した。


応接室に入ると見慣れた人物が立っていた。


クラシックな燕尾服に眼鏡を掛けた老齢の執事、ウォーレット=ミルド。

黒いドレスに白のエプロン、キャップを被ったメイド、マーリン=シーボルト。

彼らはピジョー家の使用人で、当主からの信頼も厚く、幼い頃にはカールとワルドがお世話になった人物達であった。


「お久しぶりでございます。カール様」

「お久しぶりです、カール様。また逞しく成長されましたね。」

2人はカールに挨拶したあと、彼らが面会に来た経緯を説明する。


彼ら2人の使用人に与えられた任務は、カールをピジョー家に連れ戻すことであった。

それはつまり、魔法事故の件について真相をカール自身の口からの説明を聞きたいとのマルティンの意向があるということだ。

その話を聞いて、やっぱりなと思いながらもカールは渋い顔をせずにはいられなかった。


カールはピジョー家への帰郷の荷造りということでしばしの猶予をもらうことを条件に帰郷を了承した。


 *  *  *


カールたちとの話がひと段落ついたピジョー家の使用人ウォーレットたちは一度オイオット学院を出ていった。


「予想はしていましたが、想定より早い反応ですね。」

「そうだな。父に説明するのはいいとして、兄たちが問題だな。」


寮に戻っていく途中のワルドのつぶやきにカールが答えた。


「兄たちのことだ。自分たちにとって害悪と判断したら、実力行使に出る可能性もある。

 特に次兄のドルフは野心家の傾向が顕著だから、奴と会うときは慎重にならないといけないな。」


カールはピジョー家を内側から見ているとわからない歪さを、オイオット学院に入り外から感じることで理解した。

今は兄たちにそれぞれ領土を与えており、その対応で手一杯なので平和が保たれている。


しかし、もともと野心的な部分強い兄たちはいずれ牙をむくだろう。

カールは今回の事件がそのきっかけにならないかと心配しているのだ。


「私も注意を払うようにいたします。」


「頼む。だが、まず気を付けるのはウォーレットたちだ。

 彼らはピジョー家の使用人ではあるが、同時に俺の監視役でもある。

 そのための対処はしてきたつもりだが、気を引き締めてかかるぞ。」


2人は無言で頷き、帰郷の準備を始めることにした。

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