15 アイリの依頼
「はっ?」
私はきっとすごく間抜けな顔をしているだろう。
カノンからの報告はそれぐらい衝撃的なことをだった。
私はヴィレの情報を集めるためカノンに依頼をした。
それは、半分はカール様のためだが、もう半分はカノンのためでもあった。
戦闘訓練でペアを組んでいる相手の詳細がわからない。
それは実践となると不安要素になってくる。取り返しのつかない状況になってからでは遅いのだ。
そんな危険にカノンをさらすなんて私には出来ない。
けれど、状況は刻一刻と変化している。
今まさにカール様が本家から召集命令が受けることになったとの情報を耳にした。
だから私は、少々強引にでもヴィレの情報をカノンが知れるよう依頼という形でお願いした。
ヴィレの情報が得られれば儲けものくらいの軽い気持ちだった。
結果、カノンはヴィレから情報を聞き出すことに成功していた。
しかも、ヴィレと一対一で剣による試合を行って負けた方は勝った方の言うことを1つ聞くと言うなんともリスキーな賭けに勝ちヴィレの情報を聞き出したという。
カノンらしいが何ともハラハラする聞き出し方だ。もっと自分を大切にしなさいよ。
そこまでは、結果オーライで聞いていたが問題はその次の科白。
ヴィレと恋人になったと言う。
信頼のおける相手、異性であれば恋人でないと教えられないとヴィレが迫ったのだと言う。
言葉だけ聞けば外道の発想に他ならないのだが、カノン自身はまんざらでもなさそうだった。
カノンは顔を真っ赤にしてもじもじしながら私に報告している。
そんなところも可愛いわね。って違う。
確かに、私が少し発破をかけたところもあるけど。
でもよく考えて、カノン、あなた騙されてるわよ。
賭けはあなたの勝ちだけど、結果だけ見れば、完全にヴィレの勝ちじゃない。
最近、サンカネル先生との実践でも連携が良くなってきているし、両者の信頼関係もできている証だと思っていた。
カノンが彼に好意を持っているのなら親友として応援したいけど、彼の真意がわからなくて不安に思ってたところもあるから結果的には良かったのかもしれない。
とりあえず、頭を切り替えてヴィレの情報を聞かないと。
そう思って、カノンに尋ねると、カノンは困ったようにこちらに聞き返してきた。
「アイリもヴィレの恋人になりたい?」
その科白は最初、意味がわからなかったため私は首を傾げた。
先ほどのカノンの説明を思い出す。
「あっ、もしかして。
ヴィレ君の秘密は恋人にしか教えないってことは、秘密を知っている人は恋人とかそういうこと?」
カノンは無言で頷く。
無茶苦茶な理論。まるで悪徳商人のような詐欺まがいの手口じゃない。
ヴィレは、私がカノンから情報を知ろうとしているのを解っている。
これは秘密の漏えいを防ぐと同時に、私に対して釘を刺していると考えるのが妥当だ。
そこまで解るからこそ、私はヴィレの事は気に入らない。
カノンに対して純粋に恋とか愛とかそういった部分で惹かれてるなら文句は言わないけど打算的な部分が見え隠れするのよ。
もっと人として感情とかの部分を大切に扱いなさいよ。
まぁ、私もカノンの情を利用していたところはあるけど。
私は深いため息をつき、気持ちを切り替えた。
「カノン、あなたにお願いがあるの。」
* * *
修練所でカノンと別れたヴィレは、足早に寮に戻った後、ベッドの中でジタバタと悶えていた。
幸いなことにアキトやカール達はみな外に出ていて、部屋にはヴィレしかいないため、奇妙な動きをしていてもそれを咎めるものは誰もいない。
ヴィレは勢いとはいえ、カノンに告白をしてしまったのだ。
カノンのことは嫌いではない。むしろ好意を持っている。
だが、素直に好きと言えない程度にヴィレはひねくれていることを自覚していた。
ヴィレは日が経つにつれて考え方や性格がひねくれていっているような気がしていた。
ひょっとしたら記憶を無くす前の自分はもっとひねくれてて面倒くさい人間なのかもしれないと思っている。
でも、だからかもしれない。
そんなひねくれ者のヴィレだからこそ、素直なカノンに対して好意を抱いたのだろう。
言い方はあまりにもお粗末だったが、告白はヴィレの本心だ。
アイリからは猛反発されるだろうことも予想しているが仕方ない。
カノンに対しては好意を持っているが、記憶喪失である事を周囲に知られたくないのだ。
2つを両立するためには、完全に屁理屈とはいえその理論を貫くしかない。
記憶喪失であることは自分の弱みを晒すことに他ならない。
自分が何者なのか解らない状況で他人に利用されるのはご免だ。
そんなことを考えていると、こんこんとドアがノックされた。
ドアを開けると、そこにはカノンとアイリが立っていた。
アイリは部屋の中を見渡し、ヴィレしか居ないことを確認するとヴィレに向き直る。
「単刀直入に言うわ。カール様を護って。」
「はいっ?」
ヴィレはアイリの言っている意味が理解できず、間抜けな声が漏れた。




