14 告白
アイリはいつもどこか余裕のがあり、物腰の柔らかい女性だ。
さらには商人の娘らしく計算高く先を見通すのが上手い。
男兄弟の中で育ったため、男っぽい雰囲気が強い、あまり深く物事を考えず直感で動くタイプの自分とは正反対の女性だ。
そのアイリが最近はどこか余裕のない表情をしていることが増えた。
きっかけはカールの事件が起こってからだ。
事件が起こってから、アイリは時々思いつめたような表情をすることがある。
もちろん私や他の学院の生徒がいる時にはその不安を出さないようにしている。
だが、今日のアイリはいつもよりも追い込まれているようだった。
だから私は彼女の力になりたいと思い協力を申し出た。
「ヴィレ君のことについて、本人から聞き出してほしいの。
誰で何の目的でこの学院にいるのか。」
アイリの科白に私は一瞬意味が分からなかった。
思いつめた表情をしていたのになぜ、ヴィレ君の話が出てくるのか。
私にはよくわからないけど彼女にとっては重要な事なのだろう。
ただ、私は彼女の言葉を聞いて、心の奥で何かチリチリとしたものを感じていた。
「なぜアイリからヴィレ君にそのことを聞かないの?」
だからかわからないけど、私は疑問に思ったことが口をついて出ていた。
だが、その質問を聞いてアイリを表情を暗くしていた。
「私ではだめね。彼は賢い人だから。
裏の意図や打算なんかを少しでも理解したら離れていってしまう気がするの。
私は商人の娘だから、どうしてもそういった計算の部分が出てしまうと思う。
でも、カノンはそういった計算は無いから上手く聞き出せるんじゃないかと思ってるの。
それに…。」
いったん言葉を区切り、アイリは言葉を続けた。
「カノンも彼のことが気になってるんでしょ。
私が彼に接近したら少し妬いちゃうんじゃないかと思って。」
彼女は少し悪戯っ子のように笑っている。
しかし、私はそれどころではない。その科白にあたふたしてしまっている。
「ちょっと、なんでそういう話になってんの。」
何となくアイリの表情が先ほどの思いつめるような張りつめた雰囲気から柔らかいいつもの柔和な雰囲気に変わっていくように感じる。
アイリはニヤニヤした感じで聞いてくる。いわゆる恋バナで盛り上がっていたクラスメイトの女子トークのようだ。
「サンカネル先生と特別授業を受けている時に2人で組んでるじゃない。
その時にカノンはヴィレのことをよく観察しているなと思って見てたのよね。
それで、何となくだけどカノンはヴィレ君に好意があるんじゃないかと思ってね。
でも、ヴィレ君もカノンに対して気がありそうな雰囲気もあったのよね。」
私は全身の力が抜けていくのを感じていた。
何のことはない。気になる彼のことを知ってきなさいということなのだろう。
けど、アイリは少し憂いの表情を見せながらこう言ったのだ。
「カノン。ありがとう。
少し気持ちが落ち着いたわ。
でも、ヴィレ君のことを調べてほしいのは本当よ。
たぶんあなたが適任だってことも含めてお願いしたいの。」
私はアイリに甘いようだ。それに、確かにヴィレ君の謎な部分に興味があるのも認めよう。
だから私は親友のために一肌脱ぐことにした。
* * *
「君は一体何者だい?」
ヴィレはその質問にどう答えればいいか悩んでいた。
カノンは妙に鋭い時があり、下手に嘘をついても見破られるだろう。
それに、今の状況は説明しづらい部分が多いため、素直に説明するのも戸惑いがある。
「それは、どういう意味で聞いてるんです?」
「えっとね。ヴィレ君はどうしてこの学院にいるのか?とか。」
カノンの質問を聞いてヴィレは少し考える。
「それは、勉強とコネクションを作るため。という事ではダメということです?」
カノンは少し悩みながらも頷く。
「んー、嘘じゃないと思うけど、正しい目的じゃないと思う。
ヴィレ君てどこの出身だとか誰も知らないでしょ。
遠くからわざわざこの学院に来てるなら何か理由があるのかと思って気になってたの。」
ヴィレは、カノンの直感の鋭さに驚きを隠せないでいた。
しかし、ヴィレは自分にないものを持っているカノンのようなタイプを不思議と魅力的に感じていた。
「うん、わかった。賭けに負けたし素直に理由を話そう。
だけどその前に一つ俺から要望がある。
カノン、俺と付き合ってくれないか。」
その言葉にカノンは思考が停止し、顔が少しずつ赤らんでいく。
「は、はわわわわっ!!!?」
カノンの口から間抜けな声が漏れ出ていた。
* * *
私は大パニックに陥っていた。
ヴィレの方を見ると、私の反応を見て楽しんでいるようだ。
非常に納得がいかないが、思考が追い付かない。
なんで急にそんな話になるのよ。
これじゃ私が負けたみたいじゃない。
だから私はヴィレに断固抗議することにした。
「ちょっと、なんでそんな話になってるの?」
だが、ヴィレは私の考えもつかない回答をしてきた。
「男女で秘密を共有するということは恋人同士がするようなことですよ。
だから、ここは男らしくカノンに告白をしたんです。」
「いや、だから。さっきヴィレ君も自分で言ってたじゃない。
賭けに負けたからって。」
「ですが、このご時世何があるかわかりませんからね。
信頼に足る相手じゃないと、軽々に秘密を話したりはしないでしょう。」
私はなぜだか言い返すことができずにいた。
でも、ここで私がヴィレの告白を断れば、彼の秘密を明かしてはくれないということだろう。
なんだかヴィレに煙に巻かれたような感じがして釈然としなかった。
売り言葉に買い言葉というやつだ。
それに、アイリからも依頼されてのことだ。そう、困っている親友を助けるためにもヴィレのことを知る必要がある。
だから、気が付いたら私はヴィレに答えていた。
「分かった。恋人になりましょう。だから、教えて。」と。




