13 可能性と疑問
その日もヴィレは図書室で調べ物をしていた。
彼は度々図書室に籠っては本を漁っているため、一部ではすっかり有名になっている。
当然のように、図書室の自習スペースの一角を山積みの本が占領している。
ヴィレは精神感応魔法に関するものをメインに書物を読み漁っていた。
理由は、サンカネルの授業で現れた過去の記憶。
精神感応魔法がきっかけとなり、記憶の一部が出てきたことにより、ひとつの可能性を考えた。
すっかり記憶を無くしたものだと思っていたが、無くしたのではなく、記憶が封印されているという可能性だ。
精神感応魔法は外から内に働きかける魔法であるため、封印解除のきっかけを与えたと考えれば、過去の記憶が出てきたのも納得がいく。
そのため、精神感応魔法について詳しく調べることで自分の記憶を取り戻すカギとなるかもしれない。
そして、過去の自分がオイオット学院の入学の段取りをしていた理由。
自分の記憶が何らかの理由で封印された場合を想定しての行動だとすれば、記憶の封印を解く事が重要になってくる。
そうなれば、魔法学の授業の中で精神感応魔法に触れるため、封印解除に思い至るのではないかと考えた。
すべては推測でしかないが、そう考えるとオイオット学院入学も合点がいく。
また、精神感応魔法に関するものとともに、マジックアイテムに関する書物も読んでいた。
夢で見た過去のヴィレは複数のマジックアイテムを同時に発動させていた。
通常ならあまり使わない方法であるが、魔力量の少ないヴィレが戦うための手段と戦術なのだろう。
それらを使いこなすということは、少なくともマジックアイテムの種類や扱いを確認しておく必要がある。
そうやって、本を読み漁っていると、カノンがやってきた。
図書室に来るような柄ではないカノンが来たことの物珍しさにしばらく動向を見守っているとカノンと目があった。
カノンはヴィレを見つけるなり、大声でこちらに手を振ってくる。
すると、周囲から刺さるような視線が一斉にこちらに向いた。
ヴィレはそのカノンの大胆さに頭痛を覚えながら、慌ててカノンを連れて図書室を後にした。
* * *
「もう少しさりげなく連れ出してくれ。」
「あっはっは、ごめんごめん。」
謝っているがカノンは反省した様子は微塵も感じられない。
その態度はいっそ清々しいくらいだ。
図書室をでてから、ヴィレはカノンに連れられて、修練所にやってきていた。
修練所は様々な武器や防具等が置かれており生徒達は自由に扱うことが出来る。
ただし、修練所には監督役の教師が一人監視しており、危険行為等があればすぐに対処できるようになっている。
「それで、なんだってこんなところに?」
「最近2人でタッグ組んでるじゃん。
だから気づいたんだけどさ、ヴィレ君て魔術師より騎士っぽいかなって思って。
魔法剣士に近いのかな。まあ、ただの勘だけどね。」
「そうか、ただの勘か?」
「そう、勘だよ。ただ、私の勘はよく当たるんだよ。」
そう言って、カノンは2つの同じような剣を選び1つをこちらに投げてよこした。
ヴィレは無言でそれを受け取る。
「ちょっと、本気でやってくれない?
ヴィレ君てかなり謎なんだよね。」
そういってカノンは口許を緩めるが目は挑戦的だ。
「拒否権は、どうやら無さそうだな。
魔法なしの純粋な剣技のみでいこう。
どうせなら、何か賭けるか?」
「いいね。話が分かるじゃない。
負けたほうは勝った方の言うことを一つ聞くってことにしない?」
そう言うなり、カノンは左右に体を揺らしてヴィレに突っ込んでいき、剣を横一線に振るう。
ヴィレは前進しつつ、剣を振り上げることでカノンの剣の軌道をそらした。
ヴィレが前進したことで威力を殺されたカノンは、剣の軌道をそらされ身体のバランスを崩し、後ろに倒れそうになる。
そこにヴィレの左足の蹴りが飛んできた。
カノンは後退することでその蹴りの威力を殺すが、殺しきれず腹に少しダメージを負う。
「急に試合を始めるとはずるいな。」
「何いってんの。わかってたかのように対処したくせに。
それより、女の子を蹴るとか紳士の風上にも置けないじゃない。」
「真剣に戦えと言われたからね。
命のやり取りをする場で男だとか女だとか言ってたら生き残れない。」
はやりだ。ヴィレは戦いの時になると人が変わったようになる。
騎士の娘として育ってきたカノンにとって、そういった人はよく見かけた。
その多くは命のやり取りを幾度となく経験している人だった。
ヴィレの中にもそういった人達と同じようなものをカノンは感じ取っていた。
「アイリから色々アドバイスをもらってたけど無駄なようね。」
カノンはヴィレと話をいったん区切り、体勢を戻そうと動く。
ヴィレはその時を狙い剣を振り下ろすが、その動きを察知したカノンは左に転がることで難を逃れる。
ヴィレは剣を戻しカノンの移動した方向に体を向きなおそうとするが、カノンの動作の方が一瞬早かった。
ヴィレの首元にはカノンの剣が寸止め状態で止まっていた。カノンの勝利となった。
「ふ、ふふ。じゃあ、約束通り一つ言うことを聞いてもらうよ。
ヴィレ君。君色々と隠し事をしてるよね。その秘密教えてもらうよ。」
肩で息をしているカノンは呼吸を整えながら笑っている。
そして大きく深呼吸をした後、柔和な表情から真剣な表情に変わり、カノンは改めて問う。
「ヴィレ君。君は一体何者だい?」




