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12 精神感応魔法と効果

パリィッ

左手に装着した指輪型マジックアイテムに取り付けられた宝石が砕け散った。

「これも駄目だったか。やはり耐えられないのか。」

ひとりごちて、俺は落胆していた。


日もとうに落ち月明かりだけが辺りを照らしている中、俺は一人どこか見慣れぬ森の中を歩いていた。


俺は様々なマジックアイテムを身に纏っていた。

先ほど壊れた指輪型マジックアイテムを指から外し、革鞄の中に入れ、別の指輪型マジックアイテムを取りだして外した指につけ直す。

革鞄には他にも様々なマジックアイテムが入っているようだ。


森の奥深くまで入り込んだところで俺は足をとめた。

検知魔法を用いて周囲の様子を伺っていたところ、複数の獣を検知したのだ。


不意に空気を切り裂くような音がするが、その音に合わせるように俺は右に半歩移動する。

左ほほのあたりに一文字の切り傷ができ、血が滴り落ちた。

攻撃してきたのは、狼のような見た目の中型の獣だ。

右前脚の爪のところに血がついている。


周囲には同様の狼のような獣が複数、包囲するように配置されていた。

獣たちは群れで獲物狩るかのように連携して攻撃を仕掛けてきた。

奴らの前脚や噛みつき攻撃を俺は剣と魔法で対応していく。


体躯は人間と同程度だが、俊敏性や筋力が人間を遥かに凌駕する。

さらには群れとしての連携も申し分ない。

しかし、奴らの攻撃に対応していることに俺は笑みを浮かべる。

「いいぜ。来な、犬っころども。

 人間様をなめるなよ。」

そう言うと、俺は身体強化魔法を使用しながら複数のマジックアイテムを並列起動することによって、今まで以上の反応速度と膂力で獣を退けていく。



何か妙だ。得も言われぬ違和感があった。

自分を見ているはずなのに、どこか他人事のように見える。

ありがちなのは、夢か。

しかし妙にリアルという感じがする。


ということは、俺の過去の記憶か。

そのことに思い至った時、まぶしい光に包まれた。


「あ、ヴィレ君起きたー。」

目を覚ますと、そこはオイオット学院の教室だった。

目の前にはカノンが満足そうな笑顔を浮かべて俺を見ている。

周りを見渡すと、生徒達は皆机に突っ伏して寝ているようだ。

目を覚ましているのは俺とカノンとサンカネル先生くらいのものだ。


「おや、ヴィレ君も起きましたか。

 カノン君といいヴィレ君といい、なかなか筋がいいですよ。」

サンカネル先生は楽しそうに頷いている。


じょじょに思いだしてきた。

確か、今日は魔法学の中でも精神感応魔法に関して学んでいた。

サンカネル先生の妙な思いつきで、精神感応魔法を体験することになった。


魔法学の説明では、精神感応魔法は基本的に罠魔法に分類されるものが多いと言われている。

そのため、精神感応魔法を掛けられた時の対処法を学ぶのが体験の目的となっている。


サンカネル先生から今回掛ける精神感応魔法について説明を受けた。

精神感応魔法【誘眠】、それは、精神感応魔法の中では比較的安全な部類に入る魔法で、指定した相手を特定の時間眠らせることが出来る。

今回は授業の事を考慮して、サンカネル先生は30分間に設定した【誘眠】を生徒達に掛けていったのだ。


ヴィレ達が起きてから時間経過とともに他の生徒達も順次起きてきた。

全員が起きたのを確認すると、サンカネル先生は精神感応魔法の特徴を説明していった。


「この【誘眠】に代表される精神感応魔法の効力は皆さんが体験したように個人差があります。

 この精神感応魔法というものは、自力で解除することが出来ます。

 それは、精神感応魔法は外から内へと影響していく魔法だからです。

 イメージ的なものですが、精神感応魔法が効果を及ぼすためには、何かしらのきっかけがあります。

 そのきっかけを足がかりとして外から内に魔法が浸透していきます。

 精神感応魔法に掛った時、その侵入経路を遮断する。もしくは解除キーとなるものを探し出すことが出来れば魔法を解除することができます。

 これは精神感応魔法の対処に重要なものですので覚えておいてください。」


 *  *  *


ヴィレ達は今日も夜の中庭で実践形式の練習を行っている。

サンカネルの特別授業が始まってから幾ばくかの日が経過し、ヴィレ達はかなり上達してきていた。


「さて、今日は昼の授業で教えたことを取り入れてきますよ。

 精神感応魔法の使い方を実践を通して教えましょう。」

そういったサンカネルは楽しそうだ。


「「行きます。」」

ワルドは身体強化魔法を唱え、サンカネルにまっすぐ突っ込んでいく。

カールは詠唱魔法【火烈】を唱え、ファイアボールをサンカネルに飛ばす。

当然サンカネルは防御魔法でカールの魔法を弾くがそれは予想済みだ。

ワルドはサンカネルがカールの魔法に気を向いている隙に、再加速してサンカネルの裏を取り剣で背中を突きにかかる。

対戦相手からすれば一瞬にして見失ったように感じるはずだ。


サンカネルは呪文を唱えながら反転しワルドに向き直ると、ワルドの剣を素手で受け止めた。

「なっ、バカな。」

ワルドは思わず驚きの声が漏らし、たまらずサンカネルと距離をとる。


今までの実践の中で剣を素手で受け止めたことはない。

避けるか剣で受け流すようにして防いでおり、最近の訓練ではあと少しで一撃与えられる程までに競ってきていると自負していた。

だからこそ、下手に素手で受け止めようとすれば無事ではすまないほどの威力はあると思っていた。

全身全霊を込めた一撃が素手で、しかも無傷で受け止められたことへの衝撃が、ワルドを動揺させていた。


一方、カールもまた動揺していた。

【火烈】は牽制のために出したもので、ワルドの攻撃の目くらましになればいいと思っていた。

防御魔法で防がれるのは想定していたが、防御魔法で作った防御壁を変形させて【火烈】を包みこみ、カールの側にはじき返してきたのだ。


自分の魔法が返ってくるとは想定していなかったカールは、大きく右に飛んで回避した。

防御魔法で魔法を包み込むという発想、それはカールの魔法の概念では考えられないことだった。


カールとワルドがそれぞれ動揺を見せる中、傍から見守っているヴィレ達はなぜ2人が動揺しているかわからなかった。

サンカネルはいつも通り、ワルドの剣を剣で防ぎ、カールの【火烈】は防御魔法で防いだだけだ。

ワルドが距離を取った理由も、カールが急に大きく右に飛んだのかわからなかった。


その後も、ところどころ不可解に大きく回避を見せる2人にヴィレ達は首をかしげながら成り行きを見守っている内に、サンカネルは彼ら2人の動揺の隙をついて仕留めていった。

サンカネルが何かしただろうということは理解できるが、何をしたのかは体験するまでわからなかった。


「これが、精神感応魔法の恐ろしいところですよ。

 今回使ったのは、幻を見せる魔法です。

 この魔法の特徴は単純な幻ではなく、その場の状況に合わせた幻を見せることにあります。

 なので、現実に近い結果を与えながら現実とは違う現象が起こっていたでしょう?」


ヴィレ達は皆サンカネルの科白に頷いた。

精神感応魔法を実践で使われるととても厄介なものだと感じずにはいられなかった。

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