10 カール=ピジョー
ピジョー家はウルハメード建国からの貴族で、伯爵の位を得ている。
そのため、数ある貴族の中でも発言力の強い貴族に分類される。
そのピジョー家にカール=ピジョーは四男として生まれた。
現在、ピジョー家は当主であるマルティン=ピジョーは3人の妻を娶り、妻たちの間に6人の子をもうけた。
1人目の妻が長男・次男、2人目の妻が三男・長女、3人目の妻が四男・次女を産んでいる。
ウルハメード国では家督の継承は男系の子どもに限られている。
そのため、成人したピジョー家の男性はピジョー領の一部を統治するために分け与えられる。
カールの兄達は10歳以上も年上であるため、カール以外の3人はすでに成人し領土を与えられている。
各自のやり方で領土をうまく統治しており、着々と経験を積んでいる。
しかしカールはまだ成人していないため、領土は与えられていない。
よっぽどのことがなければカールが家督を継ぐことは無いため、マルティンはカールに別の可能性を見出した。
そして、カールの見聞を広げること、コネクションを作ることを目的としてピジョー領から遠く離れたオイオット学院に送り込んだのだ。
そうしてカールは護衛であるワルドとともにオイオット学院に入学してきたのだ。
カールは入学早々、魔法適正が高いことが判明した。
ピジョー家はこれ幸いとカールを大々的に宣伝し、他貴族にアピールをすることにした。
由緒正しいピジョー家から優れた魔術師が誕生したとなれば、その血統は他の貴族たちも欲しがる存在だ。
そして、公爵家など格上の貴族達から縁談の話が舞い込んでくれば、ピジョー家の繁栄は約束されたものだからだ。
その時点でカールはピジョー家の政略の道具としての価値を高める存在となった。
* * *
魔法適正の結果が判明した時、俺はまずいことになったと頭を抱えていた。
ピジョー家は魔術師としての才能を喜んでいるが、当事者は手放しで喜べない。
名の知れた貴族であるということは人知れず恨みを買っている可能性もある。
つまり常に妨害や暗殺の危険があるのに、注目されようものなら余計に危険度が増すというものだ。
ピジョー家の意向に表立って意見するだけの力は俺には無いため、この決定を覆すことはできない。
だから、魔術師として宣伝されることもオイオット学院に入学することも甘んじて受けよう。
しかし、オイオット学院での目的ぐらいは自分で決める。
俺はオイオット学院での目的を2つに絞った。
1つは、自分を護れるだけの力と知識を手に入れること。
これはピジョー家との意向にも沿うことであるが、力と知識は将来の自分にとっても必要なものだと思う。
そのため、オイオット学院を優秀な成績で卒業しカンカニ魔学院に入学する。
2つ目は、オイオット学院の特性を活かして、コネクションを手に入れる。
ただし、ピジョー家と関係のある繋がりは俺を監視する役割を与えられかねない。
そのため、信用の足る人物であること、そしてピジョー家と関わることのない独自の繋がりであることが重要だ。
2つの目的のうち、1つ目は喫緊の課題だ。
俺の優れている点は魔力保有量だ。
その長所を生かすためには、多くの魔法を学び、効率よく使えるようにすることが必要だと思った。
オイオット学院には魔法書があるため、魔法を学ぶにはもってこいの環境だった。
最初はよく失敗もしたし、魔力切れ寸前の症状にも悩まされた。
ワルドにはかなり心配されたが、そのおかげで基本魔法はかなり覚えた。
2つ目のコネクション作りも最初は難航した。
思った以上にピジョー家という肩書が悪目立ちしてしまうのだ。
俺の周りに人は集まるが、有象無象は俺の家の影響しか見ていない。
だが、貴族相手は無碍に出来ないため、そこは諦めるしかないが、商人の子息までいちいち相手をしていられない。
俺は血統を重んじ貴族以外を差別するような貴族至上主義の考え方は好きではないが、この選民的思想は商人の子息達を遠ざけるのには持ってこいだった。
その結果一部の例外を除き、商人の子息達は一歩引くようになった。
そのキャラクターを演じ続けるのはしんどいし、周囲の評価は落ちるがそれさえ気にしなければ問題なかった。
何人かとのコネクションを作ることにも成功していた。
すべては順風満帆に推移しているはずだった。例の事件が発生するまでは…。
【火烈】の詠唱魔法の実践。
魔法行使の方法の一つに詠唱魔法があることは知っていたが、魔法書の読み解き方は初めて習う。
俺は魔法書を読み解いてみて、他の班の詠唱している言葉と違うことに気づいた。
ただ、サンカネル先生の説明によると、正解の詠唱は複数あるとも言っていた。
それは、精霊言語と個人の相性によるものであるらしい。
俺は多少の違和感を覚えていたが解読した詠唱を唱える。
すると、大量の魔力が放出されるのを感じた。
唱える魔法が上位魔法であればあるほど必要となる魔力量は多くなる。
俺は魔法の練習を積んできた経験から、詠唱途中ではあるが、この魔法は必要となる魔力量がかなり多いことを感じた。
そして、今回唱えようとしている魔法が【火烈】でないことを悟った。
とっさに魔法符を取り出し、魔力を供給しつつ詠唱魔法を制御しようとする。
俺にはそれだけの力があると思っていたが、上手く制御することができなかった。
俺は自分の力を過信していただけの未熟者だと思い知らされた。




