進化と進化
……前より文章力?が下がってきている気がする。
静まり返った夜の森に二つの影が交差する。片方の大きな影は片方は大きな獣、轟音を響かせ木々を薙ぎ払い森を駆ける、それに対して小さな人影は全く動かず防戦一方のようだ。
いや、むしろ両者の体格の差を考えればよく持ちこたえていると言った方がいいかもしれない。
「っく‼」
ひたすら巨熊の猛攻を弾き、避け、受け流す。絶対に真正面から受け止めない、次直撃すればおそらくその時が俺の最後だ。
攻撃もできずにひたすら凌ぐ。
巨熊は俺の状況を知ってか防御もせずに突っ込んでくる、ただの力任せの攻撃、それ故にこの上なく厄介な相手だ。
「糞、攻撃さえできれば」
ロングソードを構え次の攻撃に備える。戦闘が始まってから五分、俺は攻撃できずにいた。
ただでさえ光が遮られている森の中、その上地面は奴が踏み荒らした陥没や倒された木でまともに戦える状態ではない。カウンターを決めようにもどこから来るのかが分からず反応が遅れてしまっていた。
ただただ時間と俺のHPが減っていく、そんな状況に焦燥感がこみ上げてくる。
「っらぁ‼」
躱すと同時に放つ斬撃も空を切るばかりだ。
「はぁ……はぁ……、やっぱり逃げときゃよかったかな」
思わず自分の口から洩れる弱音を鼻で笑いながらひたすら機会を待つ。
今の俺にできる手段は感覚を研ぎ澄まして奴を察知しカウンターをぶち当てることだ。
「どうせ見えないなら……」
俺はロングソードを構えながら目を閉じ、体中の神経を耳に鼻に空気に触れる肌に集中させる。全身の力を抜く、全感覚をフル活用した反射攻撃、否、すでに勘の領域に達したカウンターである。
耳が肌が巨熊の行動を鮮明に感じとる。
――ここ
右に避けると同時にその場を巨熊が走り抜ける。
もっと、正確に早く。
右に、左に猛攻を避けていく。しかしその避ける速さはより速く、かわす距離は短くなっていきすでに拳一つ分ほどしかない。
巨熊も攻撃がかわされて焦っているのか攻撃の合間が短くなってきている。
そしてその時は来た。
「ここだ‼」
「グ、グォォオオオオオ‼‼」
俺はゆっくり目を開ける、そこには転げまわる巨熊、そして斬り飛ばされた奴の腕が転がっていた。
剣を振るいこびり付いた血を飛ばす。
決定的な一撃、致命傷だ。
息を吐きながら巨熊に近寄る、すでに奴は瀕死だ、後はその心臓にロングソードを突き立てるだけ。
「危なかったよ、だけど俺の勝ちだ」
俺はロングソードを奴の心臓めがけて振り下ろす。
「グオォ‼」
「ぬおっ」
俺は巨熊に蹴り飛ばされ後ろに後退する。
油断した、とっさにロングソードを盾に防いだもののきついのを一撃貰ってしまった。
死にかけの獣ほど恐ろしいものは無いというがここまで力が残っているとは思っていなかった。
巨熊は俺を蹴り飛ばすとすぐに腕を残して森に姿を消した、しかしあの巨体だ、そうそう逃げられるとは思えない。
「最後の悪あがきか? ……いや、何か違う」
奴の血が続く獣道を走りながら追跡する、その時だった。
「ウオォォォーーン‼」
「ギ、ギギャギャ‼」
奥から聞こえてくるモンスターの叫び声と何かを踏み潰すような音。
そして濃厚な血の臭い。
「マジかよ、おい」
目の前には何体ものモンスターの死体、踏み潰されたものやかみ砕かれた死体があちこちに積み重なっている。
木や草に撒き飛ばされた血肉は軽く地獄絵図を思い出させる。
そして奴はそこにいた。
全身を奴自身の血と惨殺したモンスターの血で深紅に染め、口に咥えたフォレストウルフを咀嚼する。 大きかった体格は縮み二メートル近くになっている。
そして切り飛ばしたはずの腕からは新たな深紅の腕が二本生え、二足歩行で立ち上がっていた。
俺に気が付いたのか血走った眼をこちらへ向ける。
「冗談きついぜ」
思い当たるのは一つ。
――進化
先ほどの巨熊がモンスターを倒して新たな姿に至った姿。【気配察知】も先ほどより強い気配を感じとる、すでに俺より格上だ。
逃げたのは死にそうだったからではない、俺に勝つためだったのだ。
先ほど油断してとどめを刺そうとした自分を今すぐぶん殴ってやりたい気分だ。
「ゴルルゥ‼」
巨熊、いや赤熊は俺に向かって拳を振るう。
力任せの一撃、しかしその拳は木を木端微塵に砕き地を割る。
思わず咽が鳴る。
「はは、第二ラウンドってか」
俺は怖気づいた自分を奮い立たせロングソードを構える。
今、第二ラウンドの鐘なる。
◆◆◆◆◆◆
「おいおいおい‼ マジか、マジか‼」
再び赤熊との戦闘を開始して三十秒俺は暗闇の中を必死に逃げ回っていた。
防がれた、ロングソードが防がれたのだ。俺は『スラッシュ』を発動し切りかかった。進化したとは言え俺の武技も昇華され奴の腕を断ち切るには十分な威力、そのはずだった。
しかし俺の武技はたやすく防がれた。奴の腕を断ち切る瞬間にその肉体から白い骨のようなものが浮かびあがり防いだのだ。
まさしくそれは手甲だった。もしくは拳の攻撃に特化したガントレット。
そしてとんでくる四つの拳。
ロングソードで防ごうにも攻撃が多すぎて対処できない。
結果的に逃げ出すほかないのだった。
夜の森を木の間を縫うようにして逃げる、そして木を薙ぎ払いながら追いかけてくる赤熊。
捕まったら最後の死の鬼ごっこ。
必死にこけないよう細心の注意を払いながら迫りくる拳をひたすら避ける。
「はぁ、はぁ。っつ……どうする⁉」
逃げながら考える、奴を倒すための逆転の一手を。俺が持ちうる最強の攻撃手段を。
――長槍なら?
確かに槍なら奴の防御を貫ける。しかし駄目だ、場所が悪すぎる。
ましてやこんな暗闇の中ではまともに振れたものではない。
――ならロングソードは?
無理、手数が違いすぎる。
奴のあの骨のような手甲をさけて切りおとすのはそれこそ至難の業だ。
――円盾は?
……吹っ飛ぶな。
「くっそ‼打つ手がねぇ‼」
思わず声に出して愚痴る。まさしく打つ手なし、絶体絶命だ。
進化してすべてのステータスも上がっているのだろう、回復ポーションのおかげで今はHPは満タンだがあの一撃を食らえば今の俺なら三発で死ぬ。
軽率な行動はとることが出来ない。
その時だった。
「なっ」
足元に何かがぶつかって体勢を崩す。腕、赤熊の切り落とした腕だ。
クレアは考えに没頭しすぎて気が付いていなかったのだ。自分が走っている道が獣道などではなく先ほどの赤熊が逃げた際に出来た道であることに、そして足元に奴が踏み倒した木や陥没した地面となっていることに。
「っつ‼」
舌を鳴らしながら踏ん張り倒れるのを回避する、しかしその隙は決定的だった。
「グガァァ‼」
振り返ると目の前には迫る赤熊の拳。
狙いは俺の頭、当たれば即死亡だ。
――避けられないっ‼
俺は死を覚悟し、思わず目を瞑る。
「グ、グガァァ」
迫ってきていた攻撃はいつまでも届かず、赤熊が叫び声が聞こえてくる。
俺はゆっくりと目を開ける、そこには異様な光景が広がっていた。
体中を木の根で縛られ、拘束されている赤熊と俺の数センチ前で止まった拳。そして赤熊の周りを囲む俺の姿。
「ポン‼」
「グラン‼」
目の前にグランが現れる。
しかしいつもと様子が違う、体格は一回りほど大きくなり、緑と灰色の斑だった毛色は黄緑と紫の斑模様へと変化している。さらに体の周りには【幻霧作成】であろうしろい霧に加え、緑と紫の光の玉が浮かんでいる。
そして何よりグランから【気配察知】で前より強くなったのを感じとる。
「グラン、お前進化したのか⁉」
「ポン‼」
グランは誇らしげに腹を叩く、どうやら進化で間違いない様だ。
しかし、グランにはそんな植物で敵を拘束するなんてスキルは持っていなかったはずだが……
「……もしかして【精霊魔法】が使えるようになったのか?」
グランはコクコクと首を上下に振ると自身の周りに浮かぶ光の玉を腕指す。おそらくその光の玉が精霊なのだろう。【精霊魔法】はその場の精霊の力を借りて発動する魔法だ、今回の場合なら木と闇の精霊の力を借りているのだろう。
魔法は自身の魔力の高さとその魔法のスキルレベルに比例して強さが変わる、しかし精霊魔法の強さは精霊に語り掛けることで魔法を発動する、さらに力を貸してくれた精霊の属性の魔法なら使うことが出来る。
今回のように木の根で拘束することも可能なのだろう。
「助かった、危機一髪だったよ」
「ポン‼」
尻尾をブンブン振りながら<感謝して>とでも言うように頷く。
ほんとに俺が死にかけていたのにマイペースな奴だ、グランを見ていると落ち着くというか安心してくる。
それに……
「お前を見ていると悩んでた俺がばかばかしくなってきたよ」
ニヤリと口角が上がり、焦燥し擦り切れていた気持ちが昂っていく。
そう、今までとは違うのだ。今は隣にグランがいる、一人じゃない。
俺はグランの頭をなでると頭の上に乗せる。
「こいつに勝つぞ、二人でだ」
「ポン‼」
グランは返事をすると同時に【変化】を使う。
変化したのはチョーカー、緑と紫の斑模様のチョーカーに十字槍に似たクロスの装飾が付いている。
俺が首に着けるのと赤熊が体の木の根を剝がし終えるのは同時だった。
「グルルゥゥゥ」
赤熊は苛立っているのか今にもこちらに突っ込んで来そうだ、しかし後ろには引かない。こんなところで逃げていたらあのドラゴンに勝つなんて夢のまた夢だ。
――もう、迷わない、もう逃げない。
俺は槍も剣も持たずに拳を握り腰を落とし手招きをする。
「来いよ熊野郎、拳で勝負つけてやる。
力だけがすべてじゃないことを叩き込んでやるぜ‼」
「ゴガァァ‼」
「第三ラウンド開始だぜ‼」
俺と赤熊は同時に走り出したのだった。
グラン進化‼
使役モンスターは進化先などを選ぶことはできません。
召喚しかテイマーが呼び出したモンスターなら選択することが出来る。
ということにしておきますね……




