冒険者ギルドへ
書くぞ~
目を開けるとそこは美しい街並みが広がっていた。
白い石でできた綺麗な家や整備された道に大きな噴水。町の中央には大きな鐘がついているひときわ高い塔が立っている。
まさに想像していた通りの、いやそれ以上の広大な街並みに期待と興奮が高まる。
「ん?なんだ?」
今気が付いたが視界の端の方に何かある。見ようと意識を向けるとそれは目の前まで移動してきた。
『都市:?????』
何なんだろう、?ばかりで読めない。
たぶんこの街の名前が書いてあるんだろう。
いや、よく見れば街中を歩いている人に意識を向ければ同じく頭の上に?マークが表れた。
「もしかして、一度教えてもらったりしなきゃ、きちんと表示されないのか?」
そうだとしたらかなりシビアなゲームだ。いや、RPGなんかではこれは当たり前なのかもしれない。
少しずつ情報収集をしていかなければならいいということだろう。
「まぁ、それは後回しでいいかな。とりあえず適当に歩いて街を見て歩こうかな」
本当は町の外に出て走り回ろうかと思ったがまだいまいち足がなじんでいない、なのでこの街を観光がてら探索することにする。
それにしても本当にリアルだ。街を歩けば人々の喧騒の声から屋台から漂う美味しそうな肉の匂いまでする。
行きかう人々もとてもNPCとは思えないような表情や会話をしている。
ドンッ
「あ、すいません」
「っち、気を付けろ」
うわー、めっちゃ態度が悪いな。まぁ、よそ見していた俺がいけないんだけど。
そのまま歩こうとしたその時だった。
「う、うわぁーー‼」
さっきぶつかった男が後ろから飛んできた。
まるで水切りのように地面で跳ねて飛んでいく。
「だ、大丈夫か!?」
男に駆け寄って声をかけるが返事がない。
「もしかして死んだ?」
「あほか、その程度で死にはしねーよ」
後ろから声をかけてきたのは巨人のような男だった。
身長は二メートルを超え、厳つい顔に加え服の裾からは逞しい筋肉が見え隠れしている。
しかし足の筋肉はあまりいいとは言えない、完全に走るのとは別の筋肉が発達している。
とてもじゃないが速く走れるとは思えない、残念な足だ。
「な、なんだ変な顔しやがって。まあいい、それよりもお前そいつに金掏られたぞ」
「俺が掏られた?でも俺はぶつかっただけだしそもそも金なんて持ってませんよ?」
「はあ?金持ってねえって何言ってんだ?異界の冒険者は全員アイテムボックスを持っていて、この街に現れた瞬間から必要最低限のお金は持ってるはずだろ?」
「異界の冒険者?アイテムボックス?なんですかそれ」
「………」
「………」
な、なんか気まずいぞ。いや実際に知らないし、お金なんてもってないし。
「とりあえずほれっ」
男はぶっ飛んだ男から小さな巾着袋のような物をなげわたしてくる。
それは俺が受け取ると同時に光となって消えてしまう。
「なあ、なんか消えたんですけど?」
「だからアイテムボックスに入ったんだっつてるだろ」
彼はぶっ飛んで気絶している男を衛兵に引き渡すと俺に手招きしてから歩き出す。見た目によらず優しい奴だな。
「俺はこの街を根城にしている冒険者のドジルだ。」
『ピロン‼』
音が鳴ると同時に男の頭の上の『?』が『ドジル』に変化した。さっきまでの俺の考えは間違っていない裏付けが取れた。
「あ、ああ、ご丁寧にどうもクレア・ジークスです。あとさっきはありがとうございます」
「気にすんな、あとその言葉遣いをやめろ。むずがゆい。」
「わかりま……わかったよ」
睨まれた。やばい、超怖い。
「それで、異界の冒険者っていうのは今日この街にいきなり現れた奴らのことを言うんだ、ていうかお前もそうだろ?」
もしかして異界の冒険者ってプレイヤーの事なのか?
「うん、たぶん俺もその異界の冒険者で間違いないと思う。その言い回しは初めて聞いたけど」
「自分の事わかってなかったのかよ。アイテムボックスの事と言いお前は他の奴らとはなんか違ってんな」
ドズルは珍獣でも見るような目でこっちを見てくる、普通に目つきで人を殺せそうなんでやめてくれ。
「そうか?たいして変わんないだろ」
「いや、他の奴らはいきなり現れたと思ったらいきなり街の外に向かって走り出すは、武器屋の前で高いやら金が使えないやら騒ぎ出す奴ばっかでな。挙句の果てにこっちから話しかけても無視してくる始末だ」
「ははは……、なんか俺が言うのもなんだけどすごいね」
「フンッ、まあそういうやつらに比べたらお前はまだましってもんだ。」
「でもなんでその俺らが異界の冒険者だってわかったんだ?そのアイテムボックスの方も俺たち方が知らないぐらいだし。」
「ああ、それは神託があったからだ。この世界には実際に神が存在している。それに百年前にも一時的にだが今回と同じことがあったらしいしな。」
なるほど、神っていうのは運営の事かな、となると百年前のはβテストの事か。
それから俺はドジルに色々なことを教えてもらった。この街、この世界の名称、アイテムボックスの使い方、ステータスの見方まで教えてもらった。
本当に見た目に反比例して優しい奴だ。
「おい、クレア。お前今変なこと考えただろ」
「別にー、何も考えてないよ」
この通り名前で呼んでくれるぐらいだ。
「フンッ、まあいい。それより付いたぞ」
「どこにだよ?」
ドジルはいきなり立ち止まると俺を見てニヤリと笑う。
「ここがこの街の冒険者ギルドだ‼改めて歓迎するぜクレア。
ようこそ‼様々なものや人が行きかう外交都市、ケルディアへ‼‼」
『ピロン‼ NPCドジルとの友好値が一定値を超えました。
Sクエスト『NPCと交友するもの』をクリアしました。
報酬:称号「友と呼ぶもの」』
こうして俺は初めての街、ケルディアにたどり着いたのだった。
◆◆◆◆◆◆
あれからドジルとは別れた、何やらクエストに行く途中だったようだ。
それよりさっきのログである。
「なんだよSクエストって」
アイテムボックスを使うのと同じ要領でステータスを開く。
『クレア・ジークス
種族:人族
職業:--、--
筋力 7
耐久 8
敏捷 10
器用 7
魔力 7
<スキル>
【堅牢 1】【使役 1】【英雄の神足 1】
<称号>
「友と呼ぶもの」 』
「な、なんじゃこりゃ」
キャラメイクの時に見たステータスと所々違うところがある。
筋力とか全部値が5だったはずだ、特に敏捷値なんて10になってる。
「どうなってんだ?スキルの効果か?」
スキルの名前をタップすると詳細が表れた。
『堅牢:パッシブスキル
耐久値をスキルレベル×1加算する』
『使役:アクティブスキル
モンスターを使役できる。(枠:一体)』
『英雄の神足:ユニークスキル
パッシブスキル:
敏捷値をスキルレベル×5加算する。
筋力、耐久、器用、魔力を敏捷値÷5加算する。
(装備値は含めない)
アクティブスキル:
????????(真名未開放により使用不可)』
「やばすぎるだろ……。上の二つはともかくユニークスキルがぶっ壊れすぎる。
これは秘密にしとかなきゃ周りから叩かれるな。」
敏捷が上がればより速く走れるのでこれはかなり嬉しいスキルだ。
「あとは称号か……、まあ、これは普通かな」
『友と呼ぶもの:
NPCの友好値の上昇に補正(小)』
なかなか便利そうな称号だ、たぶんこれからたくさんお世話になるだろう。
「まぁ変わったところはこんなものかな、それじゃあそろそろ入ろうかな」
俺はステータスのウィンドウを消すと顔をあげる。
目の前には大きな木と石でできた青い三階立ての建物、他の建物とはどこか違う雰囲気がにじみ出ている。
そう、言わずと知れた冒険者ギルド、さっきドジルがあんないしてくれた建物だ。
冒険者ギルド、それはヤクザみたいな冒険者が多く集う酒場兼仕事を見つける場所。毎日喧騒が絶えない腕っぷしがすべての場所、それが俺のイメージ。
ゲームだと思っていても厳つい顔でにらまれたらすごく怖い。
無意識に木でできた扉を押す手が汗で滲む。
「よしっ‼」
思い切って扉を開けた。
「っつ‼」
入った瞬間酒場らしき場所で飲んでいたごつい冒険者たちの視線が俺に刺さる。
しかしすぐに全員違う方を向いてまたそれぞれ個人で話を始めた。
怖っ‼怖いわ‼
入った瞬間全員こっちを向くとか怖いにもほどがある。普通だったら漏らしていてもおかしくない。
というか現実の俺の方が漏らしていないか心配である。
思わず息を吐く。
しかしそんな俺の方に向かってくる冒険者がいた。
「おい、手前ぇ、異界の冒険者だかなんだか知らねぇがなぁ~ヒック、調子乗ってんじゃねーぞぉ?おい‼」
「「そうだぁ、そうだぁ~‼」」
三人組の男が絡んできた。……テンプレである。
完全に酔っているのか顔が真っ赤で呂律が回っていない。
てか怖い、そして臭い、酒臭い。
「なんなんだぁ~てれぇらは~、俺たちがせっかく親切に教えて話かけてぇーやったのに、無視しやがってぇ~~‼」
「「無視しやがって~~‼」」
ちょっ、みんな無視しすぎでしょ‼てか何で俺なの⁉俺より前にいっぱい異界の冒険者きたでしょ‼
「なぁ~にがスタートダッシュだぁ~、なぁ~にがゴリラ顔だぁ~知るかぁ~ぼけぇぇ‼」
「「知るかぁ~ぼけぇぇ‼」」
おい、取り巻き二人。完全に復唱しているだけじゃん‼
てかゴリラ顔は知らないよ。
「大体てれぇらみたいなもやしが~冒険者できんのかぁ?ああん?」
「「できんのかぁ?」」
「そもそもぉ誰のりょうかひぃ得てここにきてんじゃ~?うひゃひゃひゃひゃ」
「「うひゃひゃひゃひゃ」」
酔いが最高潮に達したのかいきなり高笑いし始めた。
「えっと、ドジルに案内してもらってきたんだけど……」
「ひゃひゃひゃ、ドジルの兄貴に案内って‼ひゃひゃひゃ……まじで?」
「「まじで?」」
「マジです」
「あ、あははは、ちょっ、ちょっと飲みすぎたみたいだ。腹が痛てぇ、トイレに行ってくる。」
いきなり顔を真っ青にしてトイレに駆け込んで行く。
「え、じゃあ俺もトイレ」
「え、じゃあ俺は……どうしよ?」
トイレ行っとけ、にしてもドジルパワーすごいな。
名前だけでここまでとは。
「はあ、びびった~。やっと冒険者登録できるな」
俺は意気揚々と受付のお姉さんのもとに向かっていく。
そして、
「職業が無くて冒険者ギルドには登録できません」
新たな問題にぶつかるのだった。
書くのが辛いわ~