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*これは「存在しないドキュメンタリー番組の採録」およびレポート、という体裁の読み物です。

*実在の人物・団体とは何の関係もありません。


*NA=ナレーション



愛宕坂工事中


メロンガイ相良「半田…今ちょっと思ったんだけど、お前って指の形ムチャクチャ綺麗だよな?」

半田「あ…そうですね」


 右手だけの片手で口元を隠そうとするいつもする仕草をする半田つかさ。

 カメラが手の形と顔を同時にフレームに捉える。「きれーい」とかの声があがる。


「ちょっと顔と両手の指全部入るようにしてみ?」


 顔を両側から軽く挟むみたいにする半田。

 余りの指の細さと美しさに悲鳴が上がる。



階段にて


―指の形がお綺麗ですよね


「流石にこれだけは自覚してました」


―自分の身体のパーツでここだけは女性的であると


「…はい」


―私に言わせれば全身くまなく女性的だとは思いますが…どうして指だけなんです?


「いつも一番目に入りますし…見慣れたものだったから特に何とも思ってなかったけど、ある日指摘されたら何か脳内で変わっちゃったのか知らないけど、意識する様になっちゃいました」


―綺麗な指だなあって


「…まあ…」


―そしてあの話に繋がる訳ですが…


「どうなってんだと思いましたよ(苦笑)」



自宅にて


「前代未聞の男の子アイドルとして、『史上初』記録を幾つも塗り替えて来ましたけど、19歳の男の子が化粧品のCMに採用された例はないでしょう」


―そりゃそうですよ。グループ内でも初なんだから


「そもそもアイドルが化粧品CMに採用されることも珍しいですからね。黒石・東野などは今でこそ押しも押されもせぬファッション誌モデルですけど、就任当初は『アイドルなんて』と女性読者の反発も大きかったそうです」


―そうなんですか?


「アイドル雑誌や漫画雑誌なら堂々と巻頭グラビア飾れますけど、ファッション誌ってことになるとあれだけの美貌を誇る黒石真紀や東野彩萌ですら最初は「アイドルがなんでこんなとこにいんの」と拒否反応があったってことです」


―何ともはや…


「実は純然たる女性のアイテムに男性タレントがCMに起用された例は過去にもあります」


―そうなんですか?


「ノーザン・パート・ダスターズの清原慶介と、押しも押されもせぬ二枚目俳優の福島雅彦、あと落語家の怒天亭亀兵衛どてんてい・かめべえが生理用品のCMに起用されたことがあります」


―…知りませんでしたが…どうなんですかこれ


「まあ、恐らくパートナーって設定の男性が女性消費者に優しく語りかける…という体ですね」


―ああ、そういうことですか


「流石にこの状況下で半田つかさくんが生理用品のCMになんか出たら愈々本格的に性別詐称疑惑ってことになっちゃいます」


―普通にシャレにならないんですが…


「面白いんですけど、普通は化粧品のCMってどんなに笑顔が印象的なタレントさんでも別人みたいにキリッとクールに決めて濃いめのお化粧で映ることが多いんですけど、普段に比べればずっと濃い目とはいえかなり薄目のメイクにニッコリ笑顔でのCMになりまして」


―指の形の美しさも最大限に活かして


「はい。同世代の女性のハートをがっちりキャッチしたみたいで価格が安いこともあって若い女性にかなり売れたそうです」


―…へ、へー…


「先ほど紹介した例とは別に、男性用化粧品のCMを男性タレントが担当することは普通なんですが、女性用化粧品のCMを男性が担当するのは前代未聞です」


―そりゃそうでしょ


「朝のニュースバラエティで記者会見の模様が放送されたことがあります」



スポンサー名の看板の前で

 体型を隠す独自ブランドの服にショートカットより少し長い髪型でとてとてやってくる半田つかさ


レポーター1「とっても綺麗でしたね!」

つかさ「あ、ありがとうございます…」

同2「男性としていかがでした?化粧品のCMに出演してみて」

つかさ「ボクみたいな男の子でもこんなに綺麗になれるってことは女性なら尚更ってことだと思います(笑顔)」

(いやいやいやいや…(お前だけだよ)という空気が流れる)

1「ご自身のお顔を見てみていかがでした?」

「ボク、童顔なんで別人みたいでした。流石新製品ですね」

1「とっても綺麗だったと」

「はい。あとは腕次第ですね」

同3「腕さえあればみんなあんなにきれいになれると」

「そりゃそうです。ボクですら(後ろのポスターを振り返って)こんな風になれるんだから」


自宅にて


―かなりというか完全にスポンサーに気を遣って発言してますね


「俗にいう『義理堅い』性格の発露です。彼は一旦CMを受けたたら、同じ種類の製品のCMには決して出ることなくプライベートな取材だろうが何だろうがずっとそれで通します。スポンサーからしてみればこれほど有難いタレントもいませんね。ちなみにこの後もどのCMに出ても必ずこの調子で、翌朝のワイドショーはどの発言を切り取ってもさりげない製品アピールになるようにしてるくらいです」


―この大胆な器用ですけど、女性用製品としてCM効果はあったってことでいいんでしょうか?


「化粧品のCMって『この製品を使えばこの女優さんみたいに綺麗になれる』…という幻想を売るものです」


―そんなわけないのにね


「…そういう意味で言えば実はこの時期行われていた「なりたい顔」ランキングでちゃっかり2位に入ってた半田つかさくんの起用は大正解なんですよ」


―…女の子に訊いてんですよね?そのランキング


「はい。流石に黒石真紀には後塵を拝しましたけど…一説には事務所に配慮してこの順位発表になった…なんて噂もまことしやかに流れましたが」


―女の子は拒否反応は無かったんですか?


「運としか言えないですね。この時期どういうわけかアンドロギュノス的というか性別が良く分からないファッションが流行し始めていたので『幼く・可愛い・男の子』たる半田つかさくんはストライクだったみたいです」


―良く分からん話です


「CMに関しては数えきれないくらいあるんですけど、この化粧品CMはまだ『男の子なのにこんなに綺麗』という「男」部分のフックが必ずしもゼロではない器用だったんですけど、遂に純然たる「外見だけ」で起用されたCMも登場します…建前はね」


―建前は


「起用理由そのものはそうなんでしょうけど、どうしたって「属性」を完全無視することは出来ませんしね。話題作りになればそれはそれでいいと言う考え方もありますし」


―それはどんなのです?


「これまたニュースバラエティなんかでは繰り返し流されたので見たことがあるかもしれません。とある「フォトウェディングスタジオ」のCMです」


―フォトウェディング


「この頃の若者はお金ないですからね。ド派手な結婚式やら披露宴をやって数百万円散在するよりもその後の生活費に充てようって傾向が強いんです。でも写真だけは撮りたいから、言ってみればコスプレして写真だけでも撮りましょうってサービスです」


―…ということはもしかして…


「もしかしなくてもご想像の通りです。CMの中で半田つかさくんは純白のウェディングドレス姿を披露してます」


―…やっぱり


「新婚カップルだけじゃなくて、もう一度写真だけは撮りたいカップルとか、結婚式はしていなかったから改めて写真だけカップルとか…物凄い話ですけど、結婚はもう諦めたんでせめて一歳でも若いうちに花嫁姿だけは撮影しておきたいおひとり様とか…の需要も見込んでます」


―でもこれ、誤解されませんか?そりゃ外見的に半田つかさくんは男性には見えませんけど、それこそ男性がウェディングドレスに女装して写真撮れますよみたいな


「いや、実際そのサービスもあるんです」


―あるんだ…


「ここでさく裂したのがこれです。最初はスポンサーさんに怒られたって話もあったみたいですけど、一部で猛烈に話題になったので結果オーライだったみたいです」



記者会見場


 ウェディングヴェールまでした花嫁姿で入ってくる半田つかさ。


つかさ「どーもー!おはようございまーす!(笑顔)」


 何故か片手を上げて元気よく発しながら入ってくる。

 “おお…”とどよめく数人のレポーターたち。

 しゅるしゅると衣擦れの音をさせて、長いスカートを操りながら中央に立つ花嫁姿の半田つかさ。


「あ、どーもー(にこにこ)」

レポーター1「えっと…この度はおめでとうございます」

「(可愛く)ありがとうございます…(少年っぽく戻って)…ってちがいますって!(にこにこ)」

レポーター2「良くお似合いですね」

「どーもー」

レポーター3「あの…聞いたことあります?嫁入り前に花嫁衣装を着ると婚期が遠のくって言われてるんですよ?」

「(腕組みをして)そーなんですよ―。これでまた結婚する日が伸びちゃったってこーら!(ノリツッコミで軽くレポーター3を叩く)」

   どっと笑い声。

「(おどけて)ボク男なんでお嫁行きませんから。むしろお嫁さんもらってますから」

   とかいいつつ外見は花嫁そのものの半田つかさ。

レポーター2「そのお嫁さんは今の半田さんのお姿見てなんておっしゃると思います?」

「あ、さっき写メしました」

レポーター1「そうなんですか!?」

「(けろっとして)はい」

レポーター3「で、なんておっしゃってました?」

「まあまあだって」

レポーター1「半田さんご自身は結婚式はなさってないんですよね」

「そーなんですよ」

レポーター2「今行えば愛宕坂の皆さんも来てくださるんじゃないですか?」

「あ、でもみんな忙しいんで。そういう時のためのフォトウェディングですから(にっこり)」

レポーター1「改めてこの衣装を着た気分はいかがです?」

「えっと…皆さんはそうやって外から眺めてくださってるからいいんですけど、ぶっちゃけ今自分がどんなカッコしてるんだか全然分からないんですよ(イントネーションが少年ぽく)」

  “ええー”という空気が流れる

「スタイリストさんにもショックが大きいから鏡見ない方がいいよって言われてあんまり見てないんで分からないです」

レポーター2「ドレスの着心地とか如何です?

「掛け布団着てるみたいで、重くて動きにくいですね」」

レポーター3「か、掛け布団…」

レポーター1「それ以外には…全女性の憧れの衣装に身を包んだ感想とか」

「あ!…(あくまで少年っぽく)そういわれればそうですね(首をくるっと回して背中から自分の身体を見下ろすようにする)。でもこのサービスを使えばどなたでも着られますんで…」

レポーター2「それこそ男性でも(会場笑い)」

「そこはCMに電話番号出てるんでお問い合わせください(にこにこ)」

レポーター3「それにしても…お綺麗ですね」

「ありがとうございまーす。あ、さっき習ったんですけどね。この格好で動くときにはその…背中側のこの辺(ドレスのスカートの一部を掴む)を掴んでよいしょっと!」

 しゅるしゅるしゅるしゅるしゅるっ!ざららららららっ!と衣擦れの音を響かせながらその場で大きなスカートを翻し、ヴェールをなびかせながら一回転する花嫁。

「こう言う風にすると動きやすいんだそうです(にっこり)」



自宅にて

「特にこのその場で一回転する場面は余りにも画面映えするんでかなり長い事使われました」


―…見た目が女性で中身が少年の強烈さっていうのが分かった気がします


「自分の姿を見てないなんて言ってますけど、まあそんなことは無いでしょう。仮にそうだったとしても、自分が今どういう状況なのかは勘付いていたと思います。だから敢えて少年っぽさを大きく出したんだと思います」


―け、計算高い…


「スポンサーはあくまでも幅広い年齢の女性向けサービスの積りだったんであそこまでタレント個人のキャラクター性を全開にした記者会見は寝耳に水だったみたいです。ただ、とはいえどんなCMに使おうが翌日のワイドショーにおいては別のタレントのスキャンダルについての感想を一言答えたところだけが使われたりなんてことも日常茶飯事なんで、かなり尺を取って映っただけでも非常に良かったと思います。事実反響も大きくてかなりの売り上げになったそうですから」


―結果オーライっていうのはそういうことですか


「恐らく本当に純粋無垢な男の子があんなカッコさせられてメイクまでされたらもっと恥ずかしがって俯いたりするでしょう。少なくともドレスの分厚いスカートを『掛け布団着てるみたい』なんて脚本家が書いたみたいなセリフを言えたとは思えません」


―凄い言葉のチョイスですね


「あれがまた「男の子なんだからドレスに感激しないのも仕方が無いな」と見立てて貰えたわけです」


―…一部の男性はそれこそ女性よりもドレスに感激したりするもんなんですけど、それこそ逆に女性には分かりにくいでしょうね


「スゴイのはこれ、卒業前なんです」


―完全にピンのタレントとして活動してますね


「この記者会見はこと見た目という意味においてはタレント・半田つかさくんが現在までに行ったパフォーマンスの中でもトップクラスに強烈なそれの一つです。ドレスのターンまで含めて完璧だ、なんてことを言う人もいますね」


―動きでギャップを見せてるんですね


「純白のウェディングドレスの花嫁姿で動きやイントネーションが男の子ってのはちょっとでも配合を間違えると見てられない有様になったでしょう。『男の子』っぽ過ぎてガサツだとやっぱり駄目だし。実にお見事でした」




  テロップ「元・愛宕坂47メンバー 永嶋聖羅ながしま・きよら

廊下にて


―永嶋さんは半田くんの入る少し前に卒業なさってたんですよね


「はい、まみまみ(深山)が6月だけどあたしは2月くらいです」


―いかがでした?


「ん~卒業しててよかったなと(笑)」


―それはどういう…


「あの子は多分アンダーですよね?最初は」


―最初は選抜の選考からは対象外とされてました


「あんまりアンダーってイメージ無いけど、アンダーライブに来たらあたしたちと一緒だったってことでしょ?」


―そうですね


「あたしだったらいじめたと思うもん(爆笑)」


―そうですか


「かるーくすれ違いざまにイヤミ言ってみたりとか」


―そうなんですか?


「ま、体育会系の軽いノリですけどね。でもアイドルって愛宕坂みたいに清楚なグループでも結構体育会系のノリはあるんですよ。選抜組は個人が目立ってるけど、アンダーは全員一丸となって燃える方向で結束してきたから…そこに男の子って言われても…っていう」


―抵抗ありますか


「ありますよそりゃ!」


―かなり可愛いですけど


「そりゃ可愛さでいえばあたしよりずっと可愛いけど、そういう事じゃないですから。本人に責任無いのは分かるけど、つき飛ばしたり足を引っかけたりまでするかどうか分かんないけど」


―そういうことします?


「分かりませんよ。だから卒業してて良かったって言ってるんです!(笑顔)」


―約一年在籍して先日卒業しましたけど、どの程度ご覧になってました?


「まみまみは毎週録画して愛宕中観てるらしいけど、あたしはそこまでやってないんで…あんまり見てないです」


―じゃあ、加入には反対だったと


「あたしは『男の子が加入するらしい』って騒動の事実だけを後から聞かされたんでそこだけ取って怒り心頭でしたね」


―あ、そうなんですか


「あたしら一期生が築き上げた愛宕坂になにしてくれてんのよ!って」


―実際の半田くんをご覧になっていかがでした?


「いや、あたしもう卒業してたから実物は見たことないです」


―画面越しでもいいんですけど


「まあ…可愛いことは可愛いけどそれでも男の子ですからね?不意を突いてスカートめくってパンツずり下げたりしたかも」


―そ、それは強烈ですね…。


「あと、廊下に延々立たせて説教してトイレにも行かさずにその場で漏らさせたりとか…」


―あの…何をおっしゃってるんです?


「自分から辞めるって言ってくれれば万々歳じゃないですか」


―そういうことをしかねなかったと


「流石に卒業生がそこまで口挟めないんで現役生に電話で指示とかはしなかったですけどね。でもまみまみ(深山)と電話で喋った時にはそのことについて愚痴ばっかり言ってましたね」


―でも、殺されかけるようないじめでも耐え抜いた彼だからそれくらいではめげなかったんじゃないですか?


「だったら私物とか隠したり捨てたりすればいいんですよ。落書きするとか。あることないこと噂流すとか」


―…ちょっとヒドくないですか?


「女の子グループに男の子混ぜる運営の方がヒドいと思いまーすーけーどー(笑顔)」


―でも、彼に罪がある訳じゃないでしょ


「断ればいいんですよ。そんなの無理だって。だって普通に考えたらそうでしょ?そんな女の腐ったみたいな依頼だか何だか知らないけど男のくせにそんなの受ける方が恥知らずですよ。みっともない(笑顔)」


―恥知らずですか


「あたしが男の子だったらスカート衣装でくるっと回ってぶわっと広がるとかテレビでやりませんもん。うわー気持ちわるっ!(笑顔)」


―カミングアウトはご覧になりました?


「観てないです。興味無いんで」


―大体の事情はご存じなんですか?


「まあ…大体はね。セガーレ(岡山)さんから聞いたんで」


―それでどう思いました?


「関係ないでしょ。親のいない人なんて世の中沢山いるけど、それで女装して人前で歌って踊るかどうかは別問題なんで」


―あくまでも反対であると


「ピンでなら勝手にやればいいと思いますけどグループに入るのはありえないです。あたしがいたら辞めるまで追い込みますよ」


じかに会ったことは


「だから無いですって(笑顔)」


―実際に会ってみると籠絡ろうらくされると言う話もありますが


「…なんかみんなそういうこと言うんですよ。…だから会いたくないんですって」


―籠絡されるかもしれないから


「…あたし色々自分で自分のイメージ悪くなる様な事今いっぱい言いましたけど、実際には何もやってないですからね(笑)。会ってもいないんだから。そこはお願いしますよ。冗談なんで」


―はあ


「…まあ、何だかんだでグループの知名度あげてくれたし…とりあえず勘弁してやりますよ(笑顔)」



  テロップ「愛宕坂47メンバー 寺川鈴世てらかわ・りんぜ

廊下にて


―寺川さんは宝塚ファンなんですよね


「はい(笑顔)。その気になれば幾らでも語れます」


―宝塚は女性が男性を演じますけど、逆ではありますが半田つかさくんも性を超越したアイドルですよね?


「そうですね…不思議ですよね。だってつかさちゃんのセリフって文字にしたら普通に男の子なのに、声は女の子で見た目も女の子で…頭がこんがらがります(笑)」


―宝塚ファンでもそうですか


「そりゃもう」


―男の子が加入と聞かされてどう思いました?


「ん~部活のマネージャーとかって男子の部活でも女子がやったりしますよね」


―ああ、そうですね


「そんな感じなのかなーって」


―あ、「あくまでも男の子として参加」と思ってたんですか


「そうです。オーケストラの指揮者みたいな。…んー違うな。宝塚の男役の人みたいな…でも愛宕坂って全員女の子なのがいいのに一人だけポツンと男の子がいてもヘンなのに…って思ってて」


―それはそれで面白そうなアイデアではありますね


「そしたら制服とかも女の子の格好して参加するっていうからビックリして…」


―まあ、普通は驚きますよね


「実物見たらムッチャクチャ可愛くて…あれは冗談で女の子が参加ってことでしょ?って思ってました」


―ああなるほど


「みんな放送で驚いてましたけど、あたし見ちゃったんですよ。真夏の全国ツアーの時、地方会場でつかさちゃんがどこで着替えてるのかな?って思って後を付けたら地下一階の廊下の突き当たりの薄暗いところで着替えとかしてて」


―知ってたんですね


「そしたら自分のことみたいに涙出てきて…でもそれについて声を掛けるのも変だし…(涙ぐむ)…片山さんが近くにいたから相談したんだけど『そっとしといてあげよ』ってことになって…」


―多分、片山さんは半田さんの「楽屋」に激励しに行ってたんだと思いますよ


「ですよね。ずみん優しいから…」


―じゃあ、抵抗は無かったんですね


「ん~…全く無いわけじゃなかったですけど…10月以降は大丈夫でした」


―それはどうして


「慣れて来たからですかね」


―「慣れ」ですか


「危ないって訳じゃないことが分かったし…はい」




自宅にて


―個人的には加入反対の意思を明確にしていたのは端元奈々緒、片山一美…というのは知っていたんですが、永嶋聖羅ながしま・きよらのインタビューはちょっとした衝撃だったんですが


キップ「別にそれほど驚く様な内容でもないでしょ。それこそBKAの現役メンバーとかに聞いたらむしろ過半数が永嶋と同じようなことを言ったと思います」


―そうなんですか?


「真の意味での和解が10月からという言い方も出来ますけど、それでも基本的にはきっちり受け入れてますからね。むしろこの方が異常事態ですよ。彼女らも芸能生活5年目に突入してキャパシティが大きくなってたんでしょ」


―はあ


「元々永嶋は愛宕坂には珍しい「アネキ」キャラというか、BKAっぽいリア充ノリみたいなところがありますからね。それがアンダーから一度しか選抜に上がれなかった理由…なのかもしれません。厳しい話ですが」


―愛宕坂の気風に合わないと


「本人は決して悪人じゃありません。むしろサバサバしててきっと友人になったらいい人だとは思います。ただ、…悪い言い方をすれば暑苦しいとも言える」


―それにしてもあそこまで嫌悪感を露わにするとは


「(考え込んで)敢えての露悪的な発言だとは思いますけどね。もしも本当にやる気なら態々(わざわざ)口に出さずに黙ってやります。それどころか実際にやっておきながら「知りません」としらを切るでしょう。私なんかはむしろ「いい人」に聞こえますけどね」


―あ…


「ただ、永嶋が在籍していた場合の軋轢は多少は現実になったでしょう。彼は11月の16枚目シングルで正式に選抜入りするまでは一応アンダー扱いではあるものの、テレビ出演は常に選抜と一緒でしたから余りアンダーと行動をともにはしていません」


―そうですね


「その辺も万年アンダーだった永嶋には面白くないでしょう。証言を信じるなら半田くんは選抜アンダーの区別なく全員と積極的にコミュニケーションを取っていたそうですから…その時にどうなったかは何とも言えません」


―カミングアウトを見ても基本的態度が変わらなかった唯一のメンバー…元・メンバーってことですかね


「案外半田くんは永嶋にも積極的に接触しに行って『オトして』しまったんじゃないかと思いますけどね。その後も『芸能界のご意見番』みたいなベテラン歌手にも積極的に接触して結局は味方にしてしまう様なことを繰り返していますから」


―はあ


「もしも私物を荒らされたりを本当にしていたら、引っ込みがつかなくなってたとは思いますけど…その意味でも10月までは楽屋を別にする対策が成功してたってことですね」


―あ…


「色々な幸運に助けられていますよ」




  テロップ「愛宕坂47メンバー 加藤純音かとう・じゅんの

廊下にて


―加藤さんは「楽屋番長」と呼ばれるほど楽屋で面白いんですよね?


「本番では余り面白い事言えないのにね(笑)」


―いや、そんなことないでしょ


「つーたん(半田)も楽屋が同じになったら絶対モノマネショーやろうって決めてました」


―実際行われたんですよね?


「やりましたやりました!超面白かった。途中から幾田さんも参加してめっちゃカオスでした(笑)」


―幾田さんも?


「幾田さんも謎のパフォーマンスが多いんですよ。歌ってる人の隣でマイナーコードで全く同じ歌を熱唱するポーズするとか、勝手に相手の答えを先取りして『物凄く深刻な悩みを受けてる』お芝居にしちゃうとか」


―それは…


「でもってつーたんもそれに乗っかってアドリブ合戦になるんですよ。超面白くて!」


―楽屋だけにしとくのは勿体ないですね


「でしょ!?もう毎日笑い過ぎてお腹が痛くって。にゃあちゃん(東野)に『うるさい!』言われましたもん」


―ああ、遂に。あのローテンションの東野さんに注意されるってよっぽどですよ


「ですよね?…でもあたしとつーたんと幾田さんが並んでしょんぼりした後にお互い顔を見合わせてクスクス笑いをこらえるのに必死で…何かお友達になれた気がしました(笑)」



自宅にて


―なんて証言が取れたんですけど


キップ「…もうこれはファンにとっては羨ましいどころじゃないでしょ…。マンガですよマンガ。ただ、楽屋が同じになったのってあのカミングアウト後だから『あの辛かった半生のご褒美だ』ということでファンも許さざるを得ないですね」



  テロップ「愛宕坂47メンバー 加藤純音かとう・じゅんの

廊下にて


―最初に男の子が加入するって聞いてどう思いました?


「新しいマネージャーさんだと思ってました」


―あ、男性スタッフだと思ったと


「はい」


―そしたらメンバー加入だったんですよね


「そうなんです…けど、あたしは超面白かったですけど」


―超面白い?


「だって男の子なのにウチの制服とか着せられるんでしょ?ムッチャクチャ面白いじゃないですかぁ!絶対スカートめくろうって決めてました」


―…はあ


「あたし、中学とか高校の体育祭とか文化祭の『女装コンテスト』の楽屋とかに突撃してセクハラしまくる方だったから」


―え…


「不意を突いてスカートめくったりおっぱい揉んだりすると男の子でも「きゃー!」言うんですよ!超おかしくて(爆笑し始める)」


―えっと…加藤さん?


「そしたら楽屋別だっていうから…まさか本番中にめくり上げるわけにもいかないから…っていうかあたしその時もアンダーだったから結局あんまり同じ番組出られて無いんですよ」


―その割には10月から5月の卒業まで「楽屋番長」コンビだったんですよね?


「なんかつーたん一人漫談?みたいなの仕込んでくるし…みんな笑いが絶えなくて…あれ、絶対録画して発売した方がいいですって!超最高でした」


―楽しそうで何よりです。最後に何か一言あれば


「ゲストでジョイントすることになったら絶対楽屋来てください!てゆーか来い!(笑)今度は負けないんで!!」




自宅にて


キップ「卒業コンサートのことはもうやりました。むしろあの後の方が凄いんですよ」


―はい、まるで卒業を待っていたかの様に単独ライブの全国ツアーが発表されます。あと、6月卒業なんですが、7月期のアニメのオープニングが決まり、主演が1本、準レギュラーが3本決まります


「アニメ業界が手薬煉てぐすね引いて待っていたってところですね。アイドル活動が一段落したってことで」


―かなりの本数ですね


「いや、全く違います。あり得ないほど少ないです。こんな本数は売れっ子声優にしてみれば屁みたいなもんですよ。厳選して絞り込んで相当セーブした結果です。よくこらえたと思います。能瀬麻美代のせ・まみよさんとか平原絢ひらはら・あやさんなんてブレイク直後は週に10本のレギュラーを2~3期連続でこなすなんてことも当たり前でしたから」


―ちょっと極端すぎませんか?


「元々実力がある人たちなんで、ある時期からオーディションに一斉に受かる様になって、しかもヒット作が出たりするとそこにオファーなんかも重なって、それがまた運悪く同じ期に一斉に放送にこぎつけちゃったりするんです」


―嬉しい悲鳴ですね


「テレビドラマと同じで、人気のある声優をブッキングするのが第一になって本人の声質に合っているかどうかとか二の次になる現象もまま起きます。中には未だに「ミスキャストアニメ」の代表と見做されてるアニメまであったりします」


―それはまた…


「順調にこなしてる内はいいですけど、過密スケジュールで2~3日倒れたりしたらもう大変です。退院と同時に『別撮り』扱いにしてたアニメ10本分を1日でスタジオマラソンとかになっちゃいます」


―声優さんって一般的なポピュラリティはほとんど無いのに忙しさだけは一流芸能人並ですね


「ここに来てやっと正式なファーストアルバム「ファースト・インパクト」が発表されます。ちなみに半田くんの意向で、アルバム名は何枚目か分かる様に全て付けられてます。この後になりますが、2枚目は「セカンド・バラエティ」、3枚目は「第三の少年」です。あと、更に久しぶりの「カラオケ・デュエル」への参戦が発表されます」


ほとんどフィーバー状態ですね


「実際そうです。ちなみに半田つかさくんはここから3か月置きくらいのハイペースで恩返しとばかりに「カラオケ・デュエル」に出場しまくるんですが…ご存じの通りなんとここから「7回連続100点満点」というデタラメな記録込みで勝率100%記録を維持して10連覇します」


―誰も敵がいない状態ですよね


「通算10勝した選手という意味では演歌・民謡勢の木崎三波きざき・みなみがいますし、「連続100点満点のパーフェクト勝利」と言う意味では番組からの歌手デビューの先輩である森部智もりべ・さとしなどもいますけど、「初登場から負け無しの10連覇」「3回連続予選・決勝とも100点満点のパーフェクト勝利」なんて前人未到です」


―流石にやりすぎじゃないですか?


「いや、番組的にも『圧倒的強さ』の存在ってのは盛り上げる意味でもいて欲しいし、何しろ見ての通りの美少女の半田くんは華があるんで最後まで歌ってくれれば視聴率もいい感じって訳です」


―それにしてもこうも同じ番組に出続けるのも異例ですよね?


「民放の歌番組は少なくなってますからね。歌えてもワンハーフ(引用者注:一番と二番の半分まで)だし。歌部分よりトーク部分が長いですから。しかし、「カラオケ・デュエル」は歌をじっくり聞かせるのがメインの番組だし、機械判定だから人間の主観的な価値観に影響されないフェアさが気に入ってたんでしょ」


―それにしても激戦続きですね


「出身番組ってことで出場者のレベルも上がった上に出演希望も以前に増して増えたそうです。上手くすれば直接対決も出来ますしね」


―なるほど


「ある週の決勝はなんと100点満点同士で並び、仕方がないので予選時のスコアを比べて予選でも100点を取っていた半田くんが判定勝ち…なんてこともありました。遂に予選ブロックですら100点同士で並んでしまったので、「加点要素比較」で判定勝利…ですからね。番組側としてはこれほど有難い出演者もいないでしょう。その週の番宣でも番組冒頭でもコマーシャル前でも『緊急事態発生!』とか煽りまくってたし」


―半田くんのカラオケマスターぶりも凄いですが、それに全く引けを取らない参加者もたいしたものですね


「この番組の出演者のレベルの高さは知られたところですからね。でも、結局誰も勝ててません。同じ予選ブロックなんて99点台が出た瞬間絶望して座り込むのが当たり前になりますし、100点を取ってすら判定負けしてしまうので、『勝つには100点を取るしかない』はずが『100点取ってすら勝てない』状態でした」


―もう殿堂入りさせた方がいいんじゃないですか?


「面白いやりとりがあります」



「カラオケ・デュエル」

笠井「さて、半田つかさ君ですけども…相変わらず可愛いですね」

半田「いえいえいえいえいえ…」

笠井「今回の歌もやっぱりアニメの歌ですか」

半田「ゲームです」

柳沢「練習もバッチリなんですよね?」

半田「はい(笑顔)」

笠井「練習での点数はどれくらいでした?」

半田「???どういう意味です?」

笠井「いやその…練習ではやっぱり100点出してるんですよね?」

半田「え?基本100点って出すもんなんじゃないんですか?」


 会場、静まり返る


柳沢「え…半田さんはカラオケでは100点以外出さないと」

半田「はい。たまに調子が悪いと99点台になる感じで…違うんですか?」

柳沢「…(気を取り直して)では歌っていただきましょう」



自宅にて

―これは…


「どうもこんな認識だったみたいですね」


―他の出演者が絶望するのに十分です


「2015年の年末と2016年の年初には出場していましたけど、2015年には間に合わず、2016年のシーズンも出演回数は結局3回だけということで年間チャンピオン大会は出場しなかったんですが、2017年にはこの有様ですので当然出場し、予定通り全てパーフェクトで年間チャンピオンになっています。間違いなく番組の歴史上最強の出演者ですね」


―しかし、卒業が全くマイナスになってませんね


「言いたかないですけど、むしろ『アイドル』というかせが外れて思う存分暴れはじめたってところですね」


―お馴染み性別不詳の体型を隠すオリジナルブランドの衣装で各種トーク番組に引っ張りだこになりますね


「そろそろ視聴者も『え?男の子!?』の驚き疲れて来てやっと前提が要らなくなってきた時期です」


―歌番組にはソロアーティストとして出演するようになりましたね


「そして愛宕坂との共演…っていうね」


―結構見せられた覚えがあるんですが


「実際にはそこまで多くないんですけどね。3回くらいかな。どっちも人気者なんで共演が増えるのは全く不可解おかしくないです」



  テロップ「愛宕坂47メンバー 松山百合まつやま・ゆり

廊下にて


―松山さんといえば愛宕坂のアイドルらしいアイドル代表にして声優志望でも有名ですよね


「はいぃ(笑顔)」


―確か、唯一「憧れのアイドル」アンケートでアニメキャラのアイドルを挙げられているという


「ラブステージの穂香乃ちゃんです!」


―現役声優の半田さんとは何かお話したりはしました?


「(関西弁のイントネーションで。以下同じ)アニメ声優になりたいねんけど…って相談したら『じゃあオーディション行こう!』ってすぐ言ってました」


―実際行かれたんですか?


「行ってないです(笑)」


―そうなんですか?


「オーディションのスケジュールがあわへんのです。それにつーちゃん(半田)みたいに声優活動するって野中さんとかにも言うてないし…」


―事務所の許可を得てないと


「毎週やるテレビアニメやとしんどいから、映画とかないの?とかつーちゃんに聞いたんです」


―そしたら何と?


「映画なんてそんなに本数無いし、数やった方が練習になるからテレビアニメでいいじゃんって」


―で、どうしました?


「事務所にお願いしたら映画の仕事取って来てくれました(笑顔)」


―え…オーディションとかは?


「忙しいんですっ飛ばしですわ」


―それってコネですよね?


「あたし声優やってみたかったんです!超嬉しくて!」


―…半田さんは何か言ってました?


「何も言うてませんでした。あ、この映画の別の役のオーディション落ちたって言うてました」


―え…


「だから『気にしないで!』って慰めてあげましたぁ(笑顔)」


―あの…おっしゃってる意味分かってます?


「何がです?」


―…その後松山さんは声優活動とかなさってるんですか?


「してないですね。忙しくて」


―レッスンとかは


「受けてみたいと思ってます。あ、ていうかつーちゃんに個人レッスンお願いしたことあります」


―え…


「一緒に台本の読みあわせしたりとか」


―それは贅沢ですね。日本でもっとも著名にして実力派の個人レッスンなんて


「あたしが台本通りに読まんとアドリブばっかり入れるんで、つーちゃん途中で帰っちゃいました(笑)。どうしたんやろ?忙しかったんですかねぇ?(笑顔)」


―…差し出がましいことを言いますけど、本気でアニメ声優目指すならきちんとレッスンなど受けられた方がいいと思いますよ


「ん~でもアイドルも忙しいし…」


―BKA卒業生の佐光亜美さんみたいに卒業して専念する方もいらっしゃいますけど


「確かにそういう人もいますけど、あたしは現役アイドルのまま声優さんになりたいんですぅ。そういうアイドルがいてもいいのかなって(笑顔)」



  テロップ「BKA49メンバー 渡部あゆ(わたべ・あゆ)」

スタジオにて


―渡部さんは妹グループの半田くんの一連の推移をどうご覧になってたんですか?


「あたし愛宕坂大好きですよ(笑)。生馬ちゃんとか個人的に一緒におでかけしたりもしますし」


―そうですか


「半田くんね…あたしはリアルタイム組かも」


―リアルタイムというと?


「『音楽駅』のあの初共演と号泣見てたんです。半ば罰ゲーム加入のあの辺とかも」


―愛宕坂工事中とかもご覧になってたと


「はい(笑)。普通に一視聴者として」


―で、どうでした?


「大半の視聴者の皆さんと同じです。手に汗握って応援してました」


―男の子であることに抵抗ないと


「無いですね(きっぱり)。あたしもコンピュータグラフィックスアイドルなんて言われてたこともありますけど、半田ちゃんなんて「修正済みアイドル」とか言われてるんですよね」


―ああ、最初から作ったんじゃなくて修正ソフトで修正した後みたいに顔が綺麗だと


「綺麗っていうか、整ってるっていうか…でも間違いなく動いてるのにあんなに可愛いって…ねえ(笑)」


―BKAの皆さんは男の子が姉妹グループに加入することに対して何かおっしゃってました?


「あたしの周囲ではあたしと同じ反応だったと思います。普通は無いんだけどあんまりにも可愛いからありかなって」


―なるほど


「でも、別チームの子たちと話すと『ないわー』とか『キモい』とか言ってましたね。主に番組観てない子たちでしたけど」


―「男の子が加入」ってところだけ聞くとそういう反応になると


「はい」


―半田くんがBKAに加入したらどうなってたと思います?


「う~ん…流石にちょっと厳しいかな」


―そうですか


「愛宕坂のみんなおっとりしてる子が多いんで…ウチって体育会系だから多分男の子だと泣いちゃうんで」


―男の子だと?


「ええ。男の子だと(笑顔)」


―女の子だったら大丈夫なんですか?


「いえ、ウチに泣いたことの無いメンバーなんていませんよ。女の子は泣いてもいいんです。でも男の子が泣くのは駄目なんで」


―…なるほど



  テロップ「愛宕坂47メンバー 松山百合まつやま・ゆり

廊下にて


―改めてお伺いしますけど、男の子がメンバー加入することについてどう思いました?


「ええんちゃう?って思ってました」


―それは何故


「当時はつーちゃんのこと心も女の子やと思うてたんですよ」


―ああ、精神的に


「はいぃ。それやったら女の子と変われへんし、見た目も女の子やからええんちゃうかって」


―ファンの方がどう思うかとか考えませんでした?


「う~ん、どうなんやろ。あの時は1箇月くらいとか聞いてた気がするんで…結果としてあたしらみたいに3万人から選ばれた訳ちゃうけど…わかれへん(笑)」


―何か一言あれば


「つーちゃん、今度アイドルの出るアニメでアイドルの役やりたいんで監督さんによろしく言っといて~(笑顔)」



自宅にて


―この他にありますかね


「アニメ業界は後回しにされた形ですけど、アイドル業界というか普通の芸能界は卒業前に既に動き出してまして、メンバーで唯一ゴールデンタイムのレギュラーを持つにいたります」


―これも凄いですね


「BKAの佐原莉恵とかは今みたいな人気を獲得する前から深夜とはいえ個人の冠番組を持ってたりしましたし、時間帯を問わなければ地上波レギュラーを持っていたメンバーは何人かいます。でも夜の9時から1時間のクイズ番組のアシスタントですからね」


―ああ、あれですか


「メイン司会の草原均くさはら・ひとしさんの隣で微笑んでいるのが半田くんですね」


―普通に女の子なんですが


「実は卒業まで『愛宕坂47の半田つかさです』と自己紹介する場面はほとんどありません」


―え?そうなんですか?


「少なくとも自分からは余り言ってないです」


―何ででしょう?まだ疎外感があったとか


「本人に聞かないと何とも言えませんが、ここで残り4か月なんですけど自己紹介テンプレを持ちました」


―あれですね



世界不可思議探検

半田つかさ「はいどーもー。『愛宕坂47の中でも最弱!半田つかさです。よろしくお願いします』」


―変わった挨拶ですね。


「これ、少年マンガのあるある展開で、「ふふふ…奴は四天王の中でも最弱…」とか言ってる悪の幹部のセリフのパロディです」


―マニアックすぎるでしょ。っていうか自分が最弱になってるんですが


「要するに、可愛い可愛い言ってもらえるけど自分は男の子なんで仮に順位を付けるとしたらビリで、自分なんかよりもずっと女の子として綺麗で可愛いメンバー沢山いますよ!…という意味が込められてるんだそうです」


―ややこしいですね…。それに人気ビリってことないでしょ。ついでに言えば可愛さも…


「知名度だけで言えばグループトップでしょ。人気は…何を持って人気ランキングとして看做みなすかによりますが、五本の指に入るのは間違いないんで…あくまでもイヤミになりすぎない謙虚さってことで」


―はあ


「この番組からは『名言』も生まれましたね。流行語大賞は受賞しませんでしたけど候補になった『そんなことよりクイズしようぜ!』です」


―流行りましたねこれ


「『そんなことより〇〇しようぜ!』と言う具合に応用しやすいですからね」


―あの可愛い声で少年ぽいセリフってことになるんでしょうねきっと


「実はこれもパロディで、日曜の夕方やってる究極の定番日常アニメ『ホタテさん』の中で主人公のホタテさんの弟のタタキくんの友達の中山が近所で草野球をしに誘いに来る時の「そんなことより野球やろうぜ!」からの引用です」


―誰が分かるんですかそれ!ていうかそれホントですか?


「これ、声優仲間の杉山さんに教えてもらったそうなんで本当でしょ」



アフレコスタジオにて 杉山智弘すぎやま・ともひろ


―杉山さんは同じ格闘ゲームとそのラジオ、それから幾つかのアニメで半田つかさくんと共演なさってますね


杉山「ええ」

(引用者注:紙面だと声は伝わらないが、低めの物凄く格好いい声である)


―半田くんの存在を知ったのはいつごろですか?


「カラオケ番組に出る前は正直知らなかったです。ジャスティスマンの怪人役を何回かやったんでそこで共演してますが…それ以前だと…(考え込む)良く分からないです」


―最初に存在を認識したのはアフレコスタジオでは無かったと


「はい。カラオケ番組でした」


―どう思われました?


「う~ん…ちょっとよく分からないです」


―分からないというと


「我々は声の仕事をさせていただいているので、大抵の声は『どういう風に出しているか』は推測が付くんです」


―なるほど


「それこそ『こんな声』(甲高い裏声)とか、『こんな声』(重苦しい重低音)とか」


―凄いですね


「でも、彼の女の子の声は本当にどうやって出してるのか全く分からなかったです」


―プロの耳をもってしてもですか


「はい」


―…プライベートでも懇意にされているとか


「お互いの家に行ったりはしてませんけど…よく現場で出会いますし、大勢でカラオケ行ったりはしました」


―カラオケですか


「贅沢でしたね…。凄かったあれは。あんなのタダで観ていいのかってくらいで」


―でしょうね


「あんまり歌いたがらないんですよ半田ちゃん」


―そうですか?意外な感じですね


「自分ばっかり歌っちゃうと迷惑掛かるからって。無理やり歌わせましたね」


―無理やりですか


「ボクらより女性陣にもみくちゃにされてました」


―女性の声優さんたちに


「ええ。まあ、現役アイドルみたいなもんだし、どこへ行ってもマスコットですから」


―なるほど


「この時、栗森ななくりもり・ななみさんもいらっしゃったのに本人の前で歌わせちゃいました」


―ものまねで


「ええ。ムチャクチャそっくりで…色んな役者さん観てますけど、あそこまで豹変するって本当にスゴイです。しかもやらせといてなんだけど本人の目の前で歌えるクソ度胸も(薄い笑顔)」



  テロップ「愛宕坂47メンバー 渡部みりわたべ・みりおん

廊下にて


―渡部さんは半田くんについてどう思われてました?


「男の子で女の子のアイドルやってるのに自然体なんで本当にびっくりしました」


―自然体ですか


「あたしなんて最初の頃ムチャクチャにアイドルっぽく作ったお芝居してたから…(笑)」


―確かに10月以降はどんどん少年っぽくなっていましたね


「やっぱりアイドルは作らない方がいいですね」


―最初に加入が発表された時はどう思いました?


「ん~小学生の頃にクラスに物凄く可愛い男の子がいたんですよ」


―そうですか


「女子全員がその子を男子から守ってたこともあったんで…(笑)。多分そんな子だから守ってあげないと!って思ってました。半田さんの方が年上なんだけど」


―世間から守ってあげると


「女の子が守ってあげれば大丈夫かなって(笑)」



  テロップ「愛宕坂47メンバー 斎賀 さいが・あきら

廊下にて


―斎賀さんは最初に加入が発表された時にどう思われました?


「特に何とも思わなかったですね」


―そうなんですか?結構大事だと思いますけど


「色々あるじゃないですか。ヒット祈願企画とかロケとか」


―ありますね


「そういうのの中の一つです」


―でも、男の子ですよ?


「グループの一員として加わるって話でしょ?一緒に住むとかっていうことならともかく…別にそれで何か起こる訳でもないじゃないですかぁ」


―はあ


「その子だってバカじゃないんだから問題になることしたりしないでしょ」


―達観してますね


「そうですか?それこそアナウンサーさんとかがハロウィンイベントで一時的に入ったこともありますし…大体プロの方々がちゃんとしつらえて企画としてやってることなんだから何か問題が起こる訳が無いんですよ」


―確かにそう考えるとそうですね


「本当だったら『えーうっそー!』とかリアクションしなくちゃいけないんでしょうけど…あたしって先回りして覚めちゃうところあるから」


―じゃあ、「面倒臭いな」とは思ったと


「そういう表現をされると…まあ、一番近いのはそれかも」


―実際どうでした?


「可愛かったですね」


―斎賀さんには及ばないですけど顔も小さいし


「はい」


(しばし沈黙)


―何か一言あれば


「頑張ってね」



自宅にて


―卒業間際に特番が組まれて愛宕坂の顔の一人である生馬理科いこま・りかとの対談がセッティングされたんですよね


「日曜の朝でしたけど興味深かったですね」




対談特番

 二人とも17枚目シングルの歌衣装(制服)


生馬「最初に会ったのって『音楽駅』のサプライズの時だよね?」

半田「はい」

「つかさちゃん敬語やめて。始まる前にも言ったよね?」

「…ええ」

「じゃあそゆことで」

「はい…うん」

「あんときから可愛かったよね」

「(手をブンブン振っていやいやいや…という仕草)」

「そっから2か月くらいしてジョイント企画がいつの間にか加入するって話になって」

「そう…だね。うん」

「どう思った?」

「色んな雑誌のインタビューとかで100万回くらい訊かれたけど…そんな馬鹿なって(片手で口元を押さえて笑)」

「だよねー」

「ぶっちゃけメンバーさんはどう思ったんです?」

「ん~うちも企画だと思ってたけど、参加ってことだったから正直複雑だった」

「やっぱり変態だと」

「いや、そこじゃなくて」

「違うんですか?」

「うちら一期生とかってさ、デビュー曲の時にティッシュ配ったりさ、あっちこっちに張り紙したりさ、知名度も何にもないところからコツコツやってきた訳じゃない」

「そうですね…そう…ね」

「二期生入ってきた時ですら複雑だったもん」

「立ち上げ時の苦労を知らないと」

「一期のみんな口には出してなかったけど…仕方ないんだけどレッスンの時に返事の声が小さい子とか挨拶もちゃんと出来てない子もいたし」

「愛宕坂のオーディションも受けてないですし」

「『17人のエトワール』も経験してないし(テロップ:愛宕坂の結成から2~4年目まで開かれていた二部制の投票舞台)」

「そうですね」

「でもまあ、スタッフさんも了承してるってことは実力はあるってことなんだろうと思ってたけど…やっぱり複雑だったの」

「すいません(ぺこりと頭を下げる)」

「いやいやいやいや!いいっていいって!」



  テロップ「愛宕坂47メンバー 神田はにい(かんだ・はにい)」

廊下にて


―神田さんは男の子が加入することについてどう思われました?


「ウチのグループって男前キャラ多いんですよ」


―そうみたいですね


「卒業しちゃったけどきよりん(永嶋)とか、若ちゃま(若戸)とか…あと「山のおっちゃん」とか「少年」とか言われてる生馬ちゃんとか」


―結構いますね


「だから『どんな活発な子がくるのかな?』って楽しみにしてました」


―神田さんみたいに


「はい!そしたらなんか駄目っていうか頼りない感じの子が来たし…大体見た目が完全に女の子だったし」


―?もしかして本当に男の子っぽい男の子が来ると思ってたと


「後でみんなに『バカじゃないの?』って言われました」


―というと?


「えっと…これ誰と話したんだったかな…忘れちゃったけど、『もし来るとしたら物凄くきれいで可愛くておしとやかで女の子にしか見えない男の子』とかしかないじゃん!って…確かにそうですよね」


―一理ありますね


「つっちゃん(半田)って、あのセーターとロンスカから制服に着替えるとムチャクチャ可愛いんですよ!びっくりしました」


―そうですね


「入ってからすぐムチャクチャ話しました。ずっとそんな感じなの?とか」


―そうなんですか


「男の子なのに大人しいねえ!とか。別に普通だったんですけど」


―初期の頃は立ち居振る舞いのスタンスが一定していなかったそうですね


「あ、でも5歳?くらいの頃は外を駆けずり回ってたみたいなんでそこはあたしと一緒かなって」



  テロップ「愛宕坂47メンバー 古内真理ふるうち・まり

廊下にて


―古内さんといえばアイドル業界でも珍しい「OL兼任アイドル」ですが


「そうですね」


―一連の流れについてどう思われました?


「あたしって言ってみれば一番『外の世界とつながってる』メンバーだと思うんですよ」


―はい


「だからOLさんたちの間で愛宕坂の知名度がどんどん上がって行くのを肌で感じてました」


―ちなみにOLさんたちの間で人気のあるメンバーはどなたです?


「それはもうまきやん(黒石真紀)です。ぶっちぎりです」


―なるほど


「あ、でも半田くん…年下なんでいいですよね…も結構注目されてましたよ」


―普通のOLさんに


「はい(笑顔)。あたしの同僚だからとりわけ芸能界にアンテナ立ってる子たちだってこともあるけど(笑)」


―彼は常々「年上の女性に憧れる」と言ってて実際姉さん女房なんですけど、年上の女性から見てどうです?


「可愛いですね(笑)」


―何か余裕を感じますね


「ん~…あたしは直接見てないんだけど、友達の生徒会委員だった女の子が一年生の男の子を放課後よってたかって女子の制服着せて遊んだことがあるらしいんですよ」


―…はあ


「むっちゃ可愛かったらしくて…その話聞いただけできゅんきゅんしました!」


―そんな感じだと


「見た目は完全に女の子なんですけど、私は脳内の回路繋ぐみたいな感じで“この子は男の子!この子は男の子!”と思い込むことにしてたんで…その甲斐あってちゃんと「女装した男の子」に見えましたね(笑顔)」


―えっと…それは女性の立場として女装させられて女の子のアイドルの中に放り込まれて、困って右往左往する男の子を観察して楽しんでたってことでよろしいんですか?


「よろしいんです(笑)」


―そういう風にご覧になってたと


「他のメンバーのことは分かりませんけど、あたしと友達は完全にそうでしたね」


―それで可愛いと


「川前ちゃんが着せ替え企画やったでしょ?」


―はい


「あれやりたかったー!みんな「どんな格好させたら可愛いと思う?」とかメッチャ盛り上がってました」


―…半田くんが女性人気がある理由が少し分かった気がします


「OLの制服とか似合うと思うんですけど…どう思います?」


―いや、そう言われても…彼はお尻大きいのを気にしてて体型が出る服は着たがらなかったと思いますが


「そっこがいいんですって!恥ずかしがってミニスカートぐいぐい下ろしてるところとか想像するともお…」


―あ、あの…


「少なくともあたしは…可愛ければ男の子の女装は大好物なんで…眼福でしたね」


―そうですか…


「最初の頃って結構オドオドしてたんだけど、だんだんやんちゃな男の子っぽくなっていくでしょ?」


―はい


「もうたまんないです!あの無自覚な感じとか」


(キリが無いので省略)



対談特番


生馬「だから「男の子が入る」ってところじゃなくて、メンバーの反発があるとしたらそこだったんじゃないかと思うの」

半田「そう…だ…すよね。すいません」

生馬「でも男の子を普通にオーディションする訳にもいかないし…でも半田ちゃんって舞台俳優さんで声優さんでしょ?」

半田「一応そう言う風に自称してますけど、ボクの所属してる劇団って団員5人しかいないから…だからちゃんとオーディション毎回勝ち抜いてるって意味だと胸張って言えるのは声優業なのかな…とは思います」

生馬「そう!そこ!すんごいよね!」

半田「いえいえいえいえ…」

生馬「『MENMA』とか出ないの?」

半田「長年続いてるアニメってレギュラー固定してるからあんまりオーディションとか無くて…」

生馬「今も新しいの出てるんでしょ?」

半田「お蔭様で何本か。深夜ですけど」

生馬「3か月に1回エトワールやってるみたいなもんだよね?」

半田「いえいえいえ…」

生馬「愛宕坂の活動…夏の全国ツアーとかやってる間もレギュラーあったんだよね?」

半田「はい」

生馬「打ち合わせやっててアニメのアフレコあるからって抜けるつーたん格好よかった~…憧れだもん。一度言ってみたい!」

半田「…普通に仕事してるだけですよ?」

生馬「愛宕坂の仕事から普通の仕事に行くときって着替えてメイクも落とすんだよね?」

半田「はい。制服とか持ち出し禁止だし、声のお仕事って言ってみれば普通のオフィスみたいなもんだから女の子の格好して行ったら非常識なんで…」

生馬「だよねえ」

半田「制服まで着た状態で行ったのって1回だけなんですけど、実はここだけの話メイク落とさずに行ったことはありあます…」

生馬「え!?」

半田「パーカー目深にかぶってて、キャップもしてたから誤魔化せたかな…って」

生馬「声優さんってみんな何て言ってるの?」

半田「そこは皆さんプロなんで…初めてのゲストさんとかはたまに聞いて来たりしますけど、基本詮索されたりは…ちょっとだけしますけど…しません」

生馬「そうなんだ」

半田「あ、でも歌番組の次の日とか、CD出た日からしばらくとかは結構言われました」

生馬「センター決まった時は!?」

半田「めっちゃ『おめでとう』言われました(笑)」

生馬「だよねー…で、つーたんってアニメの台本も全部覚えちゃうってホント?」

半田「…はい」

生馬「アニメって台本覚えなくても出来るよね?読みながらお芝居出来るから」

半田「ボクは覚えちゃった方が楽なんで…舞台出身だからかな」

生馬「覚えるの得意なんだ」

半田「別に苦ではないです」

生馬「じゃあ何も持たずにアフレコするの?」

半田「いえ。持ってやります」

生馬「何で?覚えてるんでしょ?」

半田「…その…いらないプレッシャー掛けちゃうじゃないですか。回りの人に。それって意味ないし…前日に台本渡されなかったりってことは無いけど、その場で口頭で直しを指示されたりするから現物がないと」

生馬「そういうことか!そこで書き込んでそれ読むんだ」

半田「ええ。まあ。最初はそれでも持たないでやってたんだけど監督に呼び出されていいから持ってる振りだけでもしてくれって頼まれたんで」

生馬「え?どういうこと?」

半田「だって、修正って言っても頭の中で直してそれ読めばいいじゃん…って思ってたから」

生馬「もしかして全部暗記してるから頭の中で修正を書き込めるってこと?」

半田「うん」

生馬「それって凄くない?」

半田「全然。舞台の世界には4時間5時間のセリフ全部覚えてる人いっぱいいるもん。ふつーだよ」



  テロップ「愛宕坂47メンバー 関口里奈せきぐち・りな

廊下にて


―関口さんは愛宕坂の中でもセクシー担当なんですよね?


関口「一応そう言われてます(笑)」


―半田つかさくんについてはどう思いました?


「いや…あたしは単純にこれ以上個性的なメンバー増えたらまた目立つの大変だなーって思ってました」


―ある意味これ以上無い個性でしたからね


「そうですよね」


―じゃあ、それほど抵抗は無かったと


「う~ん…想像できなかったですけど…最初は楽屋から何から全部別だって言うからそれなら安心なのかなーって」


―幼少の頃歌舞伎を習ってらしたとか


「よくご存じですね(笑)」


―歌舞伎なら女形おやまかなと


「いや、あたし普通の女の子だったんで普通にやってただけです」


―半田くんはある意味女性的ではありますが「セクシー」ではないですよね


「ロリコンですよね。あ、男の子だからロリコンじゃないのか…この場合何て言うんです?(笑)わかんないや」




自宅にて


―一部のサブカル文化人の方々は半田くんについて加入直後から盛んに語ってはいるんですよね?


キップ「サブカル文化人というのが何を指すのかは判然としませんけど…まあ語り甲斐のある素材には違いないですね」


―どういう風に見られてたんです?


「女の子のグループアイドルって言ってみれば完全にブロデューサーについて語ることとイコールなんですよ」


―そうなんですか?


「これは海外事情をかんがみても全く同じです。100%仕掛ける側のてのひらの上です」


―愛宕坂で言えば夏元硬なつもと・かたし先生の


「そうですね。少なくとも女の子アイドルたちが『音楽性の違い』で分裂騒動を起こしたりはしません(笑)」


―聞いたことが無いですね


「元々「偶像」です。虚構と幻想と言ってもいい。だからある意味においてアイドルを語ることは時代と文化を語ることでもある」


―話が大きくなってきました


「それを言ったら何でもそうとも言えますけど、少なくとも「みどりいろダイヤモンドX」を語る際にプロデューサーについて語らないことはありえないし、初期に楽曲を提供してくれていた「ヒャダルコ」さんについて触れない論はお話になりません」


―そう…なんですか?すいません。アイドルについてうといので


「「みどりいろダイヤモンドX」は日本のアイドルシーンがBKA49とその姉妹グループ一色になって行く中でほぼ唯一独自色を出せていたグループです」


―どう違うんです?


「長くなるので簡単に触れるにとどめますけど、このプロデューサーの方はそもそもアイドルをプロデュースしたことが無く、熱烈なプロレスファンでした」


―…え?


「なので、基本的に意図して仕掛けたハプニングとか、どう考えても会話が成立しそうにない対談相手とか、メンバーが誰一人知らない濃いプロレスファンが知ってる名言を言わせてみたり」


―そんなことしてたんですか


「若くてかわいい子に「お前平沢だろ!」って言わせたりとか」


―すいません。何ですかそれ?


「これはニュー日本プロレスの当時の次世代エースの藤島辰夫が、盛り上げるために主催者側が仕掛けた乱入マスクマンに対して思わず中の人の名前を呼んじゃった…という事件の際のセリフです」


―何のことやらさっぱり分からないんですが…


「まあ、分からないでしょうね。とにかくそれを若いアイドルが言い放つもんだから観客席のおっさんたちは腹を抱えて転げまわって笑ってるわけです」


―どういう世界なんでしょう?そのアイドルの子たちとか元ネタ知らないですよね?


「生まれる前ですから知る訳がありません。まあ、これもほんの一部で、こんな調子で延々やってたら、「みどりいろダイヤモンドX」には粘りつくほど『濃い』ファン層が形成されて、一般的な人気という意味ではBKAの足元にも及びませんけどカルト人気が出て「スローリー・ニッポン」というこの手のサブカルで有名な月刊誌に特集が組まれたりし始めます」


―…はあ


「話を半田くんに戻しますけど、「男のおとこのこ」文化は90年代にはもう萌芽していまして、社会全体が幼くなっていて栄養状態も良くなっていたのか様々なボーダーライン文化が跋扈し始めていました」


―やっと最初に聞きたかったテーマが出てきた気がします


「ちなみにSFは読まれます?」


―いや…ほとん


「映画『ブレードランナー』みたいな近未来を描いたSFみたいに、遠い未来を描く作品においてはほぼ全てで「男女の境目が曖昧になる」未来が描かれます」


―そうなんですか


「ジョージ・A・エフィンジャーの「重力が衰えるとき」とかラリィ・ニーブンの「リングワールド」とか、「風俗の一部」として男女どっちだか分からない街の人が描かれてます。3つおっぱいで有名な映画「トータル・リコール」の原作者フィリップ・K・ディックの「ジョーンズの世界」では目の前でムクムクっと性転換する登場人物がいます」


―つまり何がおっしゃりたいんです?


「男女が別れた理由は、元は全て女性の身体を元にしていたんですが、多様性を持たせるために敢えて男女差を設けて交配する形を取ったと言われてます」


―多様性とは?


「例えばA種族がXという病原菌に弱かったとして、B種族が平気なら半分は生き残るでしょ?多様性が無いと常にその種族は絶滅の危機に瀕します」


―はあ


「ただ、科学技術等々が極限まで進んだ場合、外部の脅威が存在しなくなったとすると無理に性を分化する必要が無くなる将来が訪れる可能性はあります」


―…人類の科学技術の発展の行き着く先は性差が無い世界だと


「元々女性は男性に比べて体毛の少なさや身体の小ささなど『幼体』であるという説もあるくらいでね。仮にそうなった場合、恐らく人類の大半は外見が限りなく「少女」のそれに近くなるでしょう」


―え…女の子ですか?


「生殖能力が無いと存続できませんからね」


―交尾はどうやってするんです?


「カタツムリは両性具有ですが自分で自分を妊娠させることは出来ません。別の個体と交換することでお互いを妊娠させます。…まあ、流石にこれはSFの世界ですが」


―なんですかさっきからこの妄想は


「読んだことないですか?80年代に一世を風靡した「別冊トレジャーアイランド」という出版社が出していたムック本には、本文とほとんど関係ない何だか分からない白黒の廃墟の写真と共に三段ぶち抜きでこの手の文章が延々書いてあるようなのが掲載されてたもんです」


―ちょっと分からないですね


「上手く言えないんですけど、80年代のオタクって今ほどインターネットがあった訳でも同人市場が確立していた訳でもないので、この手の妄想に逃げ込むしかなかった」


―それとアイドル…半田つかさがどう関係あるんです?


「まあそう焦らないで。80年代というと私みたいな40代後半のオタク第一世代だと「最近」という感じがしますけど、実際には戦後35年目くらいです。全共闘世代の下のシラケ世代。何だかんだで世の中が豊かになってきて、途切れずアニメも放送されているしマンガも子供が読むものだけじゃない…と言われ始めてからも結構な月日が経過した頃です」


―…はあ


「オタクという用語も登場した頃で、「別冊トレジャーアイランド」のムック本みたいなのも登場したころです。とあるオタクが言い放った言葉で忘れがたいものがあるんですよ」


―なんです?


「別冊トレジャーアイランドのムックを読んでこいつはこう言い放ちました「ああ、俺たちこのままでいいんだ」とね」


―意味が良く分からないんですが


「要はいつまでもオタクとして精神的に幼いままでも生きて行ける世の中が来たんだ…とでもいいますかね」


―いや、駄目でしょそれ


「どの国でもそうですが、平和が続くと文化は女性的になり、戦争になると男性的になります」


―そうなんですか


「戦国時代は誰もかれも戦っていて命の価値も安いですけど、江戸時代になって平和が長く続けば歌舞伎も流行るし女形おやまがファッションリーダーになったりもします」


―はあ


「我々の国は戦争と縁が遠くなって70年も経ってるんですよ。そりゃ文化的に「中性化」もするでしょ」


―その象徴が半田つかさくんであると


「文化的に男性が女性的になったなんてことは既に80年代には言われてます。極論すれば今のオタクはみんな美少女になりたいんですよ」


―それはまた極端ですね


「レディースデーや女性専用車両などを見ても現代社会で男でいることに少なくとも表面的なメリットは見出しにくい」


―そうですか?


「もちろん表面的な意味です。しかし、女性アイドルの役割は言ってみれば「性的対象」から…少なくとも一部のアイドルファンにとっては「同一化願望対象」となりました」


―えっと…とあるオタク評論家の方にインタビューした時に確かにそんなことを言ってました


「実際になりたい訳じゃあないでしょう。女性は女性で大変ですからね。そもそも、「汽車男」で描かれたみたいにオタクが純粋無垢な性欲も無い天使みたいな存在であるわけがない」


―ははは


「今の秋葉原に行ってみれば分かりますが、オタクなんて現実の人間に手を伸ばさないだけで「性欲」は人一倍旺盛だとしか思えないエロコンテンツだらけです」


―あ…ははは(冷や汗)


「だから、オタクの言う「美少女化願望」なんてのは、自分の性欲と自己意識が曖昧なまま混乱しただけの成長過程の一状態に過ぎないと思います。ちなみにこれは「萌え」にも言えます」


―そうなんですか?


「今のアニメをご覧になると分かりますが、余り意味なく主人公が少女…女の子のものが非常に多い」


―あ…


「むしろこの頃は明確なハーレムものでもない限りは「男が主人公」なのが珍しくなっているくらいです。下手するとハーレムものであっても主人公が女の子だったりする」


―どういうことです?


「友達意識というのは同性愛的なものから始まると言われてます。これは別におかしなことではなくて、男の子でも女の子でも普通最初は「同性の友達」から出来るでしょ?」


―ああ、そうですね。特に女の子同士はベタベタしてます


「動物みんなそうです。やがて異性との付き合いも覚えて行くと言うだけの話です。それこそ「男の娘」コンテンツというのはそこから成長せずに性欲だけを肥大化させたコンテンツとも言える」


―知りませんよそんなこと言って


「記者さんはご存じ無いでしょうけど、半田つかさくんがこうもカルト人気があるのは、90年代から0年代に掛けて発祥し、10年代に大発展した「可愛い男の子」キャラたちの特徴を実際に多く持っているからです。「マンガみたいだ」とよく言われますけど現実にそうなんです」


―まあ、マンガみたいだとは思いますよ私も


「実際に商業出版された「謎本」はたった3冊しかありませんけど、単行本にまとまっていない「スローリー・ニッポン」や「エウレカ」などの評論集もありますし、同人の評論誌は数えきれません。可能な限り入手しましたけど、薄いものまで含めて10冊以上あります」


―みんな語りたがっていると


「これは、言ってみればファンの二次創作マンガとか、コミカライズと言ったものでは無くて純粋に「論」として語られたものばかりです」


―はあ


「最も、私みたいにコミケに行けば『評論』ばかり買って時間ある限り読み倒し続けて、答えの出ない理論を延々考え続けた人間としては『本編を見るより有益なことは無い』という境地に達したりもしますが」


―あはは…そりゃそうでしょ


「回り道しましたけど、要するに『屁理屈をこねくり回したい』輩が現実に存在する半田つかさという格好の素材を前に一生懸命頑張っている…という構図な訳です」


―とはいえ、その「語り」とやらを幾らやったところで現実は何も変わらないでしょ


「ちょっと話が大きくなりますけど、人類が『青年期』を獲得したのは近代に入ってからです」


―どういうことです?


「昔の日本は15歳で男の子なら元服げんぷく、女の子なら裳着もぎという言ってみれば「成人の儀式」を行っていました。この年から大人扱いをすると言う意味です」


―現代の目から見るとかなり早いですが基準は何なんでしょう?


「決まってるでしょ。子供を作れるかどうかです」


―15歳くらいで可能だと


所謂いわゆる「原始人」の平均寿命は長くても40歳は超えないと考えられています。15~20歳の段階で子供を作っておくのは当然ということになります。少なくともそれで150万年くらいはやってきた訳で、ここ数十年で突然それが変わる訳が無い」


―なるほど


「ところが社会が豊かになり、一応の成人は20歳ということになった。つまり、身体は大人でも社会的には大人ではないという期間が登場してしまった訳です。これが「青年期」ですね」


―はあ…


「普通、大人になるには「通過儀礼」儀式を経る必要があります」


―通過儀礼ですか


「バンジージャンプが有名ですが、要するに『一度死んで生まれ変わる』ほどの強烈な体験をすることですね」


―それが通過儀礼であると


「はい。これを経験しないと大人にはなれません。しかし、現代人の多くは…それこそ私も含めて…「通過儀礼」なんか体験してません。これだと「年を取った子供」にはなれても「大人」にはなれません」


―ああ!何か分かった気がします。「オタク」連中ってつまりそういうことですよね「年を取った子供」!


「統計だてた研究をした訳でもないんですが、子供が好きな作品ってスーパーヒーローでも何でもいいですけど『何者かになる』ものが多いじゃないですか」


―そうですね


「大人になるってのは…言ってみればつまらん話ではありますが、その手の可能性を全部切り捨てて『現実の自分を見つめる』ことが出来る様になることだと思うんですよ」


―…はい


「私はサラリーマンやって長いですし、恐らくこのまま定年までサラリーマンでのんびり過ごすと思います」


―そうですか


「そんな私ですけど、流石に最初期からオタクやってるとクリエイター側に憧れたこともあります」


―でしょうね


「しかしまあ…冷静に分析してみればなれる訳が無いことに気が付く訳です」


―そんなことないと思いますが…


「いや、実は全くなれないというわけでもありません」


―そうなんですか?


「私に恥も外聞も無ければ多分クリエイター的な職業につくこと“だけ”は出来るとは思います。ただ、才能がある訳じゃないから誰にも名前を知られない便利な職人程度が関の山です」


―便利な職人ですか


「慢性的な人手不足の業界ですからね。でも、それこそ鹿児島流行かごしま・はやりとか安藤昭英あんどう・あきひでみたいな天才だのなんだのって持てはやされる存在になれるわけもなく、一般的には全く無名で、私みたいなオタクに「ああ、あの大したことの無いあいつね」と小ばかにされる存在にしかなれません」


―…それは悪く考えすぎなんじゃ…


「でも、その誘惑をキッパリ断ち切って、無難なサラリーマンとして日々過ごせる程度には努力してどうにかここまで来ましたから。良かったと思います」


―余り貪欲どんよくじゃないんですね


「才能がモノを言いますから。それこそ石にかじりついて貪欲どんよくに努力すれば傑作が生まれるんだったら命くらい差し出す様なのは大勢いますよ。そういうもんじゃないし」


―そうですか


「悲惨なのは『可能性を捨てきれない』人たちですよ」


―というと?


「どうも私が結婚もせずにアニメばっかり観てるオタクらしいってのを聞きつけて相談してくる人がいるんですよ」


―キップさんにですか?


「親戚の更に親戚とか、会社の同僚の友達とかそんなんでですね」


―どういう相談なんです?


「アニメ業界に進みたいと子供が言ってるんだけど…みたいな」


―お答えになるんですか?


「自慢じゃありませんけど、私もコミュニケーション障害でね。今の職場を見つけられたのも宝くじにあたったみたいなもんです。単なるサラリーマンなんですけど、業界に知り合いが多い…なんて噂を聞きつけるんでしょう」


―業界に知り合い多いんですか?


「何人かは。でも、そのコネでアニメ制作会社への就職をあっせんしたりなんてことは出来ませんよ」


―お知り合いでいうと?


「さっきの安藤昭英あんどう・あきひでなんかは同じ時期に大学のアニ研(アニメ研究会)時代に同じイベントに参加してたことがあります。僕の先輩が安藤の先輩と親友なんで、その気になって頑張れば連絡は取れなくもない…程度の知り合いではあります」


―凄いじゃないですか!


「全然すごくなんかないですよ。僕ら古い時代のオタクだからオタク同士の繋がりが濃いんで、同年代のクリエイターにはルートを幾つか辿ってくと行きあたるってだけです」


―ちなみに就職をあっせんしたりしたことはあったんですか?


「…実は3人ほど」


―どうでした?


「2人は情熱はあったけど絵が下手だったんで制作進行に回されました」


―それで?


「1人は行方不明、1人は精神をやられて逃亡しました」


―え…


「僕の顔は丸つぶれですよ。だから嫌だって言ったのに」


―どうしてそんなことに


「元々アニメ業界なんて、世間…それこそ学校でつまはじきになったひきこもりの救済機関なんかじゃないんです。目を血走らせてテンパって、激怒して怒鳴り散らしてる作画監督の肩に手をやって『〇〇ちゃ~ん!あと一晩徹夜なんだけど…頼むよ~』とか何とか言って承諾させちゃうような『人間力』が無いと務まらないんです」


―それは…ひきこもりどころか、相当優秀な人でないと無理ですね


「おっしゃる通りです。もう1人は、よくこんなんで「アニメーターでござい」って顔してたな…それこそ僕が描いた方が上手い様な腕前だったのに、動画マンってことで業界にもぐりこんで、勝手に仕事をパンクするほど受けて全く描けないか、描けても作監(作画監督)さんが全部描き直しになるみたいなことを繰り返して、誰も仕事を頼まなくなりました。現在の消息は知りません」


―…はあ


「僕が直接かかわった例はこれくらいですけど、長年オタクやってるとこの手の話は嫌というほど耳に入って来ます。私程度の凡庸な凡人が業界に入ろうなんてこれっぽっちも思わない」


―はあ


「これはヨーロッパのことわざですが『仕事をしながら歌うのはいい。気持ちが楽になる。しかし、歌うことを仕事にしてはいけない。靴が鉛のように重くなる』というのがあります」


―直接そのことわざを知ってる訳ではないですが、よく言われますよね


「日本だと『案ずるに筆は一本なり、箸は二本なり、衆寡敵せずと知るべし』ってのがありますね」


―なんですこれ?


「二本のお箸でもごはんを食べるのは大変なのに、一本しかない筆で食べるのはもっと大変…というシャレたいい回しですよ」


―あはは…日本にもユーモアのある言い回しってあるんですね


「実は先ほど紹介した例もある意味まだマシな部類なんです」


―え?そうなんですか?


「少なくとも実際に就職して砕け散ったんだから。リアルに働く気があって一度はチャレンジした訳ですし。まあもしかしたら才能なんてなくてもそうした人の中から何十人かに一人くらいは年金がもらえる年になるまで業界にしがみつくことが出来る人がいるかもしれない」


―えらく厳しい言い回しですね


「事実なんでね。でもいるんです。「通過儀礼」を経てない人間の恐ろしさを垣間見せる事例が」


―というと?


「私の知り合いの子供はずっと引きこもって漫画やアニメやゲーム三昧なんですが、たまに思い出したように「模写」をやってるらしいんです」


―模写?絵の練習ってことですか?


「ええ。子供の頃に「将来はアニメ―ターになって大好きなアニメの絵を描くんだ!」と思ってたことが忘れられないんでしょうね。三十を越えて部屋に引きこもって非生産的な生活をしていても、たまにそうやって『努力してる』積りになってるんだそうで」


―…その年でそんな基礎練習をしてる人なんて大成しないでしょ


「お話になりません。伝説のアニメーターの中には現役高校生の頃から活躍してて、放課後に学校に制作進行が原画を回収に来てた人なんかもいます。まあ、これは極端な例ですけど、少なくともいつまでも練習なんてしてないで現場に飛び込んだ方がいい」


―その方の絵のレベルをご覧になったことは?


「大方の予想通り見せてはもらえませんでした。まあ気持ちは分かりますよ。自分で納得がいくくらいになってからでないと恥ずかしくて見せられないんでしょ」


―え…


「そういう引きこもり多いですよ。中途半端なクリエイターワナビーみたいなのって」


―…他人の人生に口を挟んで恐縮ですが、…悲惨ですね


「その子の『企画書』とやらだけは見せてもらったことがありますが…どこかで見たようなアイデアの組み合わせばかりで、『企画書』の体をなしてなかったです。設定ばかりがごちゃごちゃと凝っていて肝腎のストーリーが良く分からないし、何と言っても勝手に声優のキャスティングしてるのが面白かったですね」


―声優ですか


「私は現役のオタクとは言い難いんで半分くらいしか分かりませんでしたけど、恐らく普段アニメとかラジオとかを観ていいなあと思った声優さんの名前を並べてるんでしょうね」


―う~ん、大人のやる企画ごっことしてなら楽しいんでしょうけど…本気だとしたら大問題ですね


「本人の中では『この企画が実際のアニメになったら史上空前の大ヒット!』とかの輝かしい未来が見えてるんでしょうね」


―その前に部屋を出た方がいいですね


「というか、オタクと言う割には薄いのがよくない」


―薄いんですか?


「恐らく深夜アニメの企画なんでしょうけど、基本的にこの予算規模だと一つの事務所にお願いすることになるでしょう。彼は片っ端から売れっ子声優の名前を並べてますけど、その内メインの3人は所属事務所がバラバラです。こんなキャスティングが実現する訳が無い」


―あの…そういう問題じゃないと思いますが…


「ひがな一日アニメのことばかり考えている…言ってみれば『プロのアニメ視聴者』で『専業』のアニメオタクが私みたいな片手間のオタクに知識で負けるのは大いに問題ですね」


―そろそろ半田つかさくんのことに戻して頂きたいんですが


「少し前に、人は『お金』と同程度に『名声』を求めるって話をしましたね?要はちやほやされたいと」


―はい


「今現在、もっとも嬉しい『名声』ってなんだと思います?」


―…なんですか?


「『可愛い』って言われることですよ」


―え?


「大人になりきれず、「自分は何かになれる可能性を秘めているのかもしれない」と思い込んでいる精神的に子供な人間ってのは、いつまでたっても何かのワナビーであることをやめられません。でも、一人でも実例が出たらどうか?」


―もしかして…


「カイル・ルイーズが100メートル10秒台を切らなくても誰かがいつかは切ったでしょう。でも、実例を示したことで「自分にも出来るかも」と陸上を目指した人は数え切れないでしょうね」


―もしかして、男であっても『可愛い』と言われる可能性はゼロじゃない…と思える希望だと


「あるいはそうかもしれない…って話です。『舞台ひとり』という変わった名前の芸人さんがいるのはご存知ですか?」


―ええ


「彼が週刊誌のコラムで書いていたんですが、佐山かのについて」


―ああ、あの


「「舞台ひとり」氏はれっきとした妻子ある身でありながら…まあ、芸人一流の諧謔なんでしょうが…出来れば佐山かのちゃんみたいに可愛くなりたい!ただの女の子として生まれてああなるんじゃなくて、「男にも関わらずあんなに可愛い」と言われたい!…とハッキリ書いています」


―そんなこと書くのもすごいですね


「ところが佐山かのはここのところ男性ホルモンが勝り始めたのか、非常に骨ばった体型になってきてしまってかつての美貌は失われつつあります」


―どうしてでしょう


「男性機は切除しているという話ですから、男性ホルモンは供給されなくなっていると思うので何ともいえません。ただ、多くの場合男性機を切除してもそこから全身が一気に女性に変化するような劇的な変化はまず起こることはなく、「単に男性器のない男性」にしかならない…という証言もあります」


―まあ、そうなんでしょうね


「中国の宦官かんがんですが、あれとていきなり身体が女性化したりはしません。長い年月をかけて「おばあさんみたいになる」のがせいぜいだそうです。もっとも、「三国志」の中で「ヒゲのない人間を探す」ことで宦官を殺そうとするシーンがあることで「ヒゲが生えない」か「生えにく」くなることは間違いないみたいですが」


―またずれてますが


「これは失敬。じゃあ戻すついでに『さとり』ムーブメントはご存じですか?」


―なんですって?


「何も新興宗教じゃありません。確かゼロ年代の序盤から中盤頃だったと思いますが、一時的にインターネットユーザーの間で流行したんです」


―何です?『悟り』って


「結論から言ってしまうと、思い思いに女装したインターネットユーザーが『首から下』だけを写真に撮って公開するという遊びです」


―すいません。何をおっしゃってるのか分からないんですが


「よりカジュアルな女性化願望の遊びみたいなもんです。確かにこれをやると一瞬可愛い女の子が映っている様に錯覚するんですよ」


―はあ


「非常に記号性の高い服装…女子高生の制服とかメイド服とか…を着て、男性の個性を消すために顔を映さないことで極限まで記号性を高めると…という訳です。ちなみに保存してありますよ写真」


―(写真を見る)…あれ?…以外にドギツクないですね


「むしろ爽やかに見えなくもないです」


―この制服とかって自前なんですか?


「僕は外から眺めてただけなんで分かりませんけど、恐らくそうでしょ」


―む~ん


「この時期になれば通信販売も充実してますから、1人暮らしの男でもクリックひとつで何だって買えます。お金と場所さえあればウェディングドレスだって買えるんだから。大体ブティック経営者なんて半分は男ですよ。男が女物を買ったから即変態なんてのは時代錯誤もいいところです。…ともあれ、最終的に同時にウィンドウを大量に開いて全員が首から下だけを表示した状態で「悟り会議」みたいなものを開くに至ります。結構壮観です」


―確かに『女装』という言葉の持つ生々しさとかは余り感じないのは確かですが…


所謂いわゆる「男の娘」ブームが来るのは更に後になりますが、0(ゼロ)年代のブームってそれこそ「性欲」が絡まない、無邪気なものが多い気がします。今後の研究課題です」


―性欲が絡まない?


「あくまでも『可愛く』というのが基本なのであって、おかずどうこうじゃないわけです。適切な表現がまだ見つかってないんですが」


―はあ…「悟り」ねえ…


「このブームは牽引していたとあるフォーラムの管理人が『悟り』を越えて、顔まで露出する『天竺』という行為をしたことで一気に収束します」


―もしかして…ブサイクだったとか


「ノーコメントとしますが、マリコ・ゴージャスが絶世の美女に見えるかもしれません。比較すると」


―これ、半田つかさくんと関係あるんですか?


「先ほどクリエイターワナビーの話をしましたけど、言ってみれば潜在的な「性の越境ワナビー」みたいな人は多いんですよ」


―それって性同一性障害とか性転換願望とかってことですか?


「違うと思います。それこそ「二泊三日で女になってすぐ戻る」程度の好奇心レベルですね」


―そんなことありえるんですか?


「大いにあると思います。先ほども申し上げた通り、今って「通過儀礼」を経ない人が多いので…私自身も含めてですが…色んなものへの執着が断ち切れないんですよ」


―執着ですか


「昔…戦国時代あたりは言うに及ばずですが、戦中とか戦後すぐとかは、性欲が混濁した未分化な精神状態の一種でしかない「異性への同一化願望」なんてのは、「大人になる」ことで綺麗さっぱり払拭出来てしまったと思います。ところが現在は中途半端に残ってしまった」


―それで一部の若者が「女の子になってみたい」と思っていると?


「極端に断言すればそうなります。ただ、それは単なる好奇心なのでそれこそ一回経験したら雲散霧消したりします」


―そうなんですか?


「とある男の子が「どうしてもスカートが履きたくてたまらない!」ので仕方がなくとある夏の間だけ目一杯スカート履いて女装して過ごしたそうです」


―それで?


「すっかり満足したらしく、それ以降特に何もなくごく普通の男性としての生活を送っているそうです」


―何だったんですかね


「分かりませんが、恐らく世の中の男性の大半が持つ「女装願望」はこのレベルだと思います。100人中99人は一度女装すれば満足します」


―そうですか?ハマっちゃう人もいるのでは?


「何とも言えません。ただ、言ってみれば『バーチャル性転換・カジュアル女装』を満たすためのエンターテインメントは時代を経るごとに数を増やしているのは間違いないです」


―それってアレですか?女装サロンとか女装スタジオみたいな


「いや、そんなにディープなものじゃなくてマンガとかアニメです。或いはもっと手軽な女装というか。『悟り』ブームなんかもそうですし、『全身着ぐるみ』なんかもそうですね」


―あの…また知らない用語が出てきたんですが


「要するに腕も脚も顔も全部肌色のタイツみたいなので覆ってしまって、その上で女装するんです」


―腕や脚はともかく「顔」ってどういうことです?


「言葉の通りです。一種のつながったマスクですね。子供向けの「キャラクターショー」あるでしょ?あんな感じですね。ここに映像あります」


―これは…何とも異様な感じですね…


「顔まで人形ということもありますが、基本的に『喋ってはいけない』ことになっているので雰囲気が独特になるんです。日常観察漫画家のカラスグチサトルは『深海にいるみたい』と表現していますね」


―確かに誰も喋っていませんけど、これはどうしてです?


「声を変えられないから、喋った途端に男だと分かってしまうからです」


―より、手の込んだ女装であると


「それでいて全身タイツを脱げばまんま男に戻れるでしょ?毛を剃ったり髪を伸ばしたりする必要もない」


―はあ


「これまでの論で触れてこなかったんですが、意外に『声』ってのは盲点だったかもしれません。我々がお互いの性を認識するにあたって「声」というのは物凄く大きな要素でした。にもかかわらず、お化粧したり女装したりすることで「見た目」が相当に誤魔化せるのに対して、「声」は言ってみれば完全に無防備だったわけです」


―まあ、そうとも言えますね


「犬や猫、ネズミなどの動物は人間ほど個体による見た目が変わりませんが、これは何故だと思います?」


―…さあ


「これらの動物は情報の90%を嗅覚、匂いによって得ていると言われています。個体差は匂いで判別できるので、見た目はそれほど重要ではない…極端なことを言えば全く同じでも問題無いわけです」


―そうなんですか


「対して人間は90%を視覚情報から得ます。だから「見た目」が違わないとお互いの判別が付きません。恐らく「匂い」に関してはそれほどの個体差が無いのでしょうし、仮にあったとしても我々にはそれを判別するだけの嗅覚の鋭敏さがありません」


―そうですね


「よく、犬は人間の何十倍鼻がいい…何てことを言いますが、あれは臭さが何十倍にもなっておならをしたら大変とかそういう意味ではなくて「より細かく判別できる」といった意味合いです。まあ、より微細な匂いを検知できるのは確かではありますが」


―はあ


「人間にとって「声」というのはお互いを判別する決定的なツールではありません。しかし、「視覚」に比べれば劣るとはいえ、「嗅覚」よりはずっと大事な要素です」


―そうですね


「そこを自在に操られてしまったことで、半田つかさくんに対する我々の「性認識」がガタガタになってしまった訳です」


―やっと戻ってきて安心しました



  テロップ「愛宕坂47メンバー 村崎レイナ(むらざき・れいな)」

廊下にて


―村崎さんは愛宕坂1の歴女れきじょと呼ばれてるんですよね?


「えっと…そうですね。あとあたし「むらさき」じゃなくて「むらざき」です。濁ります」


―すみません。半田つかさくんを歴史上の人物に例えると誰でしょう?


「う~ん…雑賀孫一さいか・まごいちとかでしょうか?」


―すみません、どなたです?


「戦国時代の『鉄砲衆』と呼ばれてた集団の頭領です。不明な部分が多くて、活躍してた時期を考えると代替わりして2人いたんじゃないかとかも言われてます。これは斉藤道三も同じですけど」


―どのあたりが似てるんです?森蘭丸とか言われると思ってましたが


「お蘭さんは殿(引用者注:村崎は織田信長のことを『殿』という)のお稚児さんってだけでしょ。半田くんは女性と結婚もしてる普通の男性だから全然違いますよ」


―すみません


「イメージさせるってことだと風魔の小太郎とか忍者っぽくなりますね」


―それって講談では?


「(にやりとして)多分「真田十勇士」の猿飛佐助さるとび・さすけとか霧隠才蔵きりがくれ・さいぞうとか三好清海入道みよしせいかいにゅうどうとかのイメージなんでしょうけど、「風魔の小太郎」は実在の人物ですよ。服部半蔵みたいに証拠もあります」


―はあ…


「正体不明ってあたりがそんなイメージですね。雑賀孫一って普通の男性に描かれることもありますけど、正体が良く分からないのをいいことに美人の女性で描いた作品もあるんです」


―そうなんですか


「あ、でもそれで言ったら『女性説』のあった上杉謙信とかもいたっけ…あと」


―あ、もういいです。良く分かりました


「えー、まだ幕末の話をしてないんですけど。あと世界史の方で言うとぉ…」


―ちょっと待ってください。半田つかさくんに話を戻します


「…(不満そうに)はあ…」


―男の子がグループに加入すると聞いてどう思われました?


「そうですね…え!って思いました」


―それは否定的な印象ということでしょうか


「うん…まあそうですね」


―いやらしい!とかそういう


「友達になれるかなって」


―そっちですか


「折角なんで鉛筆画を描いたんですよ」


―これは…お上手ですね


「卒業しちゃって会う機会が少なくなって、愛宕中でも披露する機会が無かったんで…」


―何か一言あれば


「いつか勉強教えてねって言われてるんで…私の方はいつでも準備OKです!」



自宅にて


―2017年の6月に卒業しますけど、芸能界的にはもう既に個人仕事がかなり入ってましたよね


キップ「愛宕坂といえば2月22日にCDデビューしてるんで、この日がバースデーライブと決まってます。それ以外ですとグループとして固定してるのは真夏の全国ツアーくらいです。もともとコンサートとかライブの少ないグループで、劇場も持ちませんからね」


―決まりきった仕事が無かったと


「ホーム番組がありますけど、この頃から欠席が目立ちます。普通は卒業間際ともなれば少しでも目に焼き付けておきたいと思うものなんですが。まあ、欠席が目立つといってもほぼ皆勤だったのでいない時に目立つだけですが」


―新たに獲得したファンが日曜深夜に愛宕中観ようとしても関東ローカルなので観られなかったり、観てもいなかったりするんですよね


「初期のBKAと同じ状態ですね。目立つメンバー目当てにホーム番組観ても忙しくていないっていうね。舞台やアニメ、クイズ番組のアシスタントなどもやってますけど、何しろ存在自体が非現実的なもんだからクリエイターたちが創作意欲を刺激されるらしく…要するに彼に出演してもらえば独特の雰囲気になるってことをあてこんで、地上波のドラマへのゲスト出演がありました」


―ああ、ありましたね


「「ナースY」というドラマで通行人同然のチョイ役がありましたけど、何と言っても『バディ』という刑事ドラマですね」


―はい。今も伝説になってますね


「とはいえ難しい。使い方が。確かに創作意欲を刺激されはするんだけど『どう使っていいのか分からない』んですよ。異様なくらい細くて身長も小柄。そして美形なので「少年役」で出しても不自然だし、ならば大量の「本物の女性」を差し置いて女性役で使うのかっていう」


―よく思い切りましたね


「これまた非現実的な設定なんですけどね。世界を股に掛けた爆弾魔にして大泥棒なんだけど、いつも自画像にしてる男の写真は実はフェイクで、実は美少女なんじゃないかという」


―確かにマンガですね


「主人公のキレ者刑事が写真の正体を突き止めて100年前のアメリカの地方紙の広告のおっさんである…つまり現実の人間の写真じゃないことが判明。同時にFBIから派遣されてきていた敏腕女性捜査官が実は既に死亡していたことを突きとめて…ってなところで翌週に続くんですよ」


―あれはゾッとしました


「結局、半田つかさくん演じる「敏腕女性捜査官」こそがどうやら「ダスト・ボマー」と通称される爆弾魔だったんじゃ?ということになるんですけど、正体を失った様な高笑いとか、半ば白目を剥いての邪悪な「にやり」とする表情とか全シーズン通しても最も印象深い敵キャラでしたね。性別不詳って設定もよかった」


―そうですね


「最後、撃たれた上に爆破に巻き込まれてうやむやなまま終わるかと思われたら、国際線の出発前のガラスの向こうで可愛らしく手を振っているのを主人公コンビが気が付くんですよね」


―あの天真爛漫なアイドルスマイルがにくいという


「同シーズンの7・8話が前後編なんですけど余りにも評判がいいのでここだけ再編集してテレビ映画としてパッケージして外国に売ったそうです。多くの国では「バディ」が10年以上も続くシリーズものだと知らず、この2時間の映画だと思ってるそうです」


―なんというか、アイドルが話題作りの為にするゲスト出演の枠を越えてましたね


「純粋に女優…というか俳優…として映像媒体でも活躍出来ることが完全に証明されましたね。同シリーズは劇場版を何本も製作してますけど、次回作の映画版で再登場するともっぱらの噂です」


―衝撃的な存在感です


「今のところ地上波の連続ドラマへの主演経験はありませんが、オファー自体は既にあったと言われてます」


―そりゃそうでしょ


「でもまあ、予算も貧相で視聴率もじり貧の日本の地上波ドラマになんかには、今となっては出演しないでしょうね」



  テロップ「元・OSS49メンバー 松木理奈まつき・りな

廊下にて


―松木さんは半田くんが加入する前に交換留学生として愛宕坂47に在籍していた経験があるんですよね


「2014年の2月くらいから2015年の同じころまでなんで、半田ちゃんが入る1年前くらいに兼任解除になってます」


―半田つかさくんについてどう思われました?元・愛宕坂として


「(ずっとにこにこしている)ええとですね…ちょっといいですか?」


―はい


「ちょっとこの件については愛宕坂のみんなに言いたいことが一杯あるんですよ!(あくまでにこにこしながら)」


―は…はあ…


「みんなねぇ…その人が誰なんだかちゃんと分かってんの!?あの!あの!あの半田つかさちゃんなんだよ!」


―(迫力におされている)ええと…それはその…


「私ちょっとアニメオタクでもあるんですよ」


―はあ…


「もう今半田ちゃんって言ったら大変ですよ!聴きました!?4番目のシングルとか」


―えっと…聴いてると思います


「超格好いいんですよ!あたし、個人ライブとか卒業ライブとか行ったんですけど!」


―ああ、ご覧になったんですね


「グループのコネあんなに使ったの初めてです(笑)。もうクソ格好よくて…きゃー!!」


―お、落ち着いてください…つまり、松木さんは声優・アーティストの半田つかさくんのファンであると


「そりゃそうですよ!もうマンガですよマンガ!何なんですかあの子!もう一度兼任とか出来ないかなと思ったらあたしOSS卒業しちゃってたんですよ!」


―(知らんがな…と思いつつ)そうですか


「もう超ファンですよ!聞いてください!この間ウチの番組にゲストで来てもらったんですよ!(引用者注:松木は歌手の西海典孝とアニメ・マンガ・ゲームの紹介番組を持っている)」


―はあ


(延々と語りが止まらないので10分ほど省略)


―えっと…一応皆さんにお聞きしてるんですが、在籍時では無かったにしても愛宕坂47に男の子が加入すると聞かされた時はどう思いました?


「これは絶対に将来アニメになると思いましたね!」


―アニメですか


「こういう展開のアニメですよ!そしたら半田ちゃん自分で吹き替え出来ますよね。いや、再現ドラマかも…あ、でも現実の方がより進んでるからきゃーーーー!!」


―(ドン引き)…えっと…つまり反対とかは余り無かったと


「ないですないです!むしろ大好物ですよ!それとですね!…」


(この後30分ほど語りが続くが省略)



対談特番

生馬「10月のカミングアウトのことは…まあ、もういいよね」

半田「はい…」

生馬「それより11月の16枚目の時の方が聞きたいの!初の選抜入りだったんだけど」

半田「うーん…そうですね」


 考え込む半田。


半田「ボクって事情が特殊だから、テレビに愛宕坂のみんなが出演する際に出していただけることが多いんですよ」

生馬「そうね」

半田「単におしゃべりするだけならともかく、選抜メンバーでもないのに歌に混ざらせていただくことも多くて、ちょっと気分的に複雑でした」

生馬「そうだよね」

半田「16人に足らないことも多かったから、穴埋めで踊れたからよかったけど…多分、選抜選考でアンダー行きが決まった皆さんにしてみれば複雑だったんじゃないかって」

生馬「でもさぁ、つーたんむちゃくちゃみんなと喋ってたよね?」

半田「…まぁ…(照れる)」

生馬「世間の皆さんは10月から楽屋一緒になったって思ってるみたいだけど…基本的にはそうなんだけど、とにかくビックリするくらいみんなに話しかけるんですよこの子」

半田「(照れる)」

生馬「めげないよねつーたん。なんで?人見知りしないってのは知ってるけど」

半田「う~ん…話しかけにくいかなって思ってたから…だったらこっちから話せばいいかなって」

生馬「うちだったら絶対無理なんだけど、話してないメンバーをレーダーで魚群探知機で見つけるみたいに探して話してたよね?」

半田「あ、あれは星取表みたいなのが頭の中にあったんで」

生馬「星取表?」

半田「はい。前回はここにいるメンバーだと東野さんと春元さんと黒石さんには話しかけたから、古内さんと話そう!みたいな感じで」

生馬「あたまいいよねつーたん」

半田「いえいえいえいえいえ…」

生馬「てゆーかつーたんがいない時に『誰がつーたんと一番仲がいいか』って話になったんだけど」

半田「なんかボク、モテてるみたいですね(笑顔)」

生馬「モテてんだよ!ってかその笑顔やめろよ!(照)声とか「ボク」とか!カワイーんだよコノヤロー(笑怒)」

半田「すいません…」

生馬「まあいいや。そしたら全員が『この間こんなこと言われた』って話になったんだけど…つーたんってもしかして全員のスケジュール把握してんの?」

半田「大体は」

生馬「なんで?れい(桜木)でもあんなに把握してないよ?」

半田「折角話しかけるなら『情報』持ってた方が実のある話できるから」

生馬「それで?」

半田「はい。事情が特殊すぎるから優遇?じゃないけどいじってもらえるんでせめてそのフォロー代わりに」

生馬「そんな計算してたんだ」

半田「はい」

生馬「う~ん…でも、つーたんってテレビ的に求められてたからいいと思うよ。あたしが使う側でも見てみたいと思うもん。可愛いし」

半田「(いえいえいえいえいえ!というジェスチャーをする)」

生馬「そうやって否定する感じが愛宕坂っぽいよね(笑)。そっかあー。陰口とか言いにくい様に全員と友達になっといたっていうかそういうことかー」


 VTR。16枚目選抜発表で前列下手で読み上げられた直後の場面。


生馬「うちも毎回そうだけど、選ばれるのって嬉しいけど複雑だよね」

半田「そう…ですね。ボクなんか特に事情が特殊だから」

生馬「まあ…そうね。うちには想像もつかないよ。でも(テレビカメラ)回ってなかったけど、昔田さんも言ってたよ。『半田がもしも生粋の女の子でオーディションに応募して来てたら何万人受験者がいようと、絶対に、間違いなく受かってた』って。うちもそう思うよ」

半田「(いえいえいえいえ!というジェスチャー)」

生馬「色々あったけど、つーたん歌死ぬほど上手いし、ダンスもキレッキレだもんね」

半田「(いえいえいえ!というジェスチャー)」

生馬「16枚目のMVにももう「女の子アイドル」として何の断りも無く映ってるけど、でもつーたんって個人で3シングルを出してMVも撮ってんだよね?」

半田「はい。ええ。撮ってます」

生馬「あれも普通に女の子として映ってるよね?」

半田「…まあ、そうですね」

生馬「あれってどんな気持ちだったの?綺麗な衣装着せてもらって、お化粧してさ」

半田「女装そのものは舞台でもいっぱいしてたし、お芝居もしてたからそれ自体は特に抵抗は無いです。仕事だと思えば」

生馬「当時幾つ?」

半田「デビューしたのは18歳かな。高校は卒業してたんで。お芝居始めたのは15歳です」

生馬「いや、凄いと思うよ。舞台のお芝居と一人っきりのMVってやっぱ違うじゃん」

半田「まあ…違うと言えば違うかも」

生馬「全然違うよ!」

半田「カメラ目線とか、舞台だとあんな小さな動きとかお客さんから見えないし」

生馬「感想教えてよ!」

半田「…アニメのアフレコのお仕事自体は16歳の頃にはもうさせてもらってて、売れっ子の先輩声優さんたちともすれ違ったり、同じブースで収録したりするんですよ」

生馬「うんうん!」

半田「その同じ人が普通にミュージシャンとしてMV撮ってたりしたんで…自分がそうなるとは必ずしも思ってなかったけど、身近といえば身近だったかも」

生馬「声優さんだもんね」

半田「こう言う言い方がふさわしいのかどうか分からないですけど…MVの撮影って、いざ始まっちゃいさえすれば淡々と進むというか…」

生馬「ふんふん!」

半田「ボクよりも周りの人が大騒ぎしてる感じで…あんまり言われるから「そんな大事おおごとなのかな?」とか思ったりもしたけど、まあ別に淡々と進んだ感じでした。スタッフさんもみんなプロだし」

生馬「スタッフさんはプロだよね」

半田「大体1日くらいで撮り終わるんですけど、それよりもジャケ写が大変でした」

生馬「写真ってこと?」

半田「はい。一枚でバシっ!と決めないといけないから、お面みたいに顔とか塗りたくって…出来上がったら何だか別人みたいで…こんなんでいいのかなあって」

生馬「まさかとは思うけど、自分の可愛らしさについて自覚してないってことないよね?」

半田「…ん~自分の顔なんで特にこれといった感想は無い…って常々言ってますけど、それって薄目のメイクの時で、バッチリされちゃうとあんまりにも元の顔と違うから自分で自分が誰なんだか分からなくなって」

生馬「ホント!?アニメみたいだね」

半田「衣装も裾が広がったスカートとかドレスとかだと、普通に油断して歩いてておっきな鏡の前通りかかったりしたらムチャクチャビックリしたことあります」

生馬「(爆笑)すごい!本当に!?すっごー!」

半田「でも、それは油断してたからでいつもは別に普通です」

生馬「お化粧とかあんまり好きじゃないんだ」

半田「必要なかったから…あ、でもカラコン(カラーコンタクト)は好きかも」

生馬「そうなの?」

半田「ボクの歌ってるのってアニメの主題歌とかが多いから、SFっぽいジャケ写になるんですよ。カメラ目線で観たことも無い目の色してるあの感じは面白いな~って」


 生馬、背中にもたれて「ふう~」と息を吐く。


半田「…どうしました?」

生馬「うちらとつーたんの何が違うかってずーっと考えてたんだけど、つーたんはソロアーティストなんだよ。一人でやってたんだもんね。そこが一番の違いなんだね」

半田「…生馬さんも一人で舞台とか出てますよ」

生馬「つーたんに舞台のこととか恥ずかしいもん…いいよそれは」

半田「?…お芝居ってそんな窮屈なもんじゃないですよ。みんなそれぞれ持ち味発揮してやればいいだけで」

生馬「……」


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