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*これは「存在しないドキュメンタリー番組の採録」およびレポート、という体裁の読み物です。

*実在の人物・団体とは何の関係もありません。


*NA=ナレーション



「熱情台地」第二弾 未放送部分


*****


CM


NA「年が明けて2月。ここに来てちょっとした事件が起こる」


   グッズのアップ。


NA「メンバーで唯一、「愛宕坂47として」の「公式グッズ」が製作されていなかった半田つかさだったが、一部の要望に応えて限定100品だけ制作されたところ、瞬く間に完売してしまったのだ」


―どうして買ったんですか


イベント会場

オタク風のファン「ファンなので」


―でも、男ですよ


オタク風のファン「男の方じゃなくて、歌ってる時に降りて来てる人格の方のファンなんです」


イベント会場

アイドル研究家「はい、かなり魅力的ですね。あの笑顔に癒されるって言う人も少なくないです」


―でも、男ですよね?


アイドル研究家「あれは仮想人格なんですよ」


―仮想人格


アイドル研究家「この世のどこにも存在しない、純粋なアイドルなんです。プライベートが存在しないからスキャンダルも起こさない。アニメキャラやCGでもないのにね。肉体があるのにバーチャルな存在なんです」


NA「「愛宕坂工事中」において、『笑顔の可愛いメンバー』でなんと居並ぶ本物の女子メンバーを差し置いて「第5位」にランクインすることになる」


番組映像

つかさ(女性時)「(女性人格で)…ゴメン」


NA「この時点でメンバーやファンにも違和感なく受け入れられていたと言えるだろう。そして遂に事件が起こる」


CM


NA「握手会において、遂に配布チケットが完売するという珍事が発生した」


つかさ(男性時)「…誰が握手しに来るんですか…って思ったんですよ。シャレにしてもあんまりですから」


NA「最初は握手会はキャンセルしたい意向だったという」


つかさ(男性時)「ボクに握手に来るファンなんて一人もいないと思ってたんで…ウチの劇団動員して10人くらいは確保しようとか、いっそゼロで何かの記録を更新しちゃおうかとか(笑)。何の記録なのか分かんないけど」


NA「元々需要など無いだろうと踏んで少なめに発行していたことと、万が一本物の女子メンバーよりも高い売り上げにならないよう配慮された握手券発行部数だったのだが、急遽増刷したことと人気メンバーの欠席が相次ぎ、非公式記録ながら売り上げトップを記録してしまった」


  握手するつかさ(女性時)。


女子高生たち「むっちゃくちゃ可愛い~っ!顔ちっちゃい!!!」


男子高校生たち「超可愛い!」


NA「所属する期間は一年と限定されていることもあるが、恐らく握手会に参加するなどということは最後であろうことからプレミア化したとも言われている」


   握手会の写真。


NA「この頃になると『人格の憑依』という『設定』も受け入れられつつあった。一部では『多重人格アイドル』や『人格切り換えアイドル』といった言われ方もしたこともあった」


   そうした見出しの雑誌など。


NA「ただ、心理学を専門とする医師の団体からクレームが付き、現在はこの表現は用いられていない」


   白黒ザラ紙の週刊誌の報道。


番組中

つかさ(女性時)「とりあえず乗り切ろうと思ってることをかなり乗り切れました」


火山「メンバーの着替えを覗いたりとか」


(メンバーからブーイング「つばさちゃんならいいよ~!」との声も)


つかさ(女性時)「そーなんですよ―。結構壁厚くって…ってお~い!(ノリツッコミ)」


会場笑


つかさ(女性時)「そうじゃなくて真面目な話、MVにも出させてもらったし、この間遂に握手会まで出させてもらったし」


相良「お前、売り上げ一位なんだろ?」


つかさ(女性時)「(困って)違います違います!そんなことないです!」


相良「え?でも正規の発行数は3位で、増刷分足すと1位になるってスタッフに聞いたぞ…そうなんだよな?」


つかさ(女性時)「(照れて顔真っ赤)それは黒石さんとか東野さんとかがたまたま欠席だったり色々重なったからですって!…いいじゃないですかそれは…いいんですっ!」


(可愛い!のメンバーからの声)



控室にて


相良「あの清純派アイドルグループによりによって男が参加!って随分煽ってましたし、…公式とかもね…事実ではあるんだけど、現場でつかさに(じか)に接してきた僕からするとそれはちょっと違いますね」


―どう違います?


相良「月並みな表現ですけど、やっぱり『人』なんですよ。個人的なタレント性というか」


火山「そうっすね」


相良「半田を(じか)に見ればとにかくタレントとして魅力がハンパ無いんで」


火山「あれは恋しちゃいますね」


―でも、男ですよね


相良「なんかネットには僕があいつと寝てるとか書かれてるみたいですけど(笑)」


火山「え?そんな羨ましい話になってんの?」


相良「でも僕らみたいな見た目のコメディアンってどっちにしても可能性無い訳ですよ。別にあいつ(半田つかさ)とじゃなくても、他のメンバーとであっても。大体二人とも結婚してるし」


火山「せいぜい一緒に写真撮るとかくらいしかどうせ出来ませんし」


相良「半田の外見だけ見れば『ああ、こりゃ女の子のアイドルグループにいてもおかしくない』って思いますもん」


火山「実際いるんだけどね」


相良「『男なのに』って分かりやすいからそう強調するのは分かるんだけど、公式までがそれに半ば乗っかるってのは良くないですね。まあ、勘違いしないように注意書きみたいなことで必要かとは思うけど」


火山「半田ってお笑いの瞬発力でも天才なんですよ」


相良「そうね。そもそも落ち着いた美少女の外見とあの声で笑顔で切り返せば何言ってもある程度面白くなるのに、『自分は男だ』ってのは散々自分でいじるからね」



「愛宕坂工事中」にて

   初老の女性が質問に答えている

   制服姿のつかさ(女性時)が笑顔で正対して座っている。


講師「今日はどんなお悩みですか」

つかさ(女性時)「今度子供が出来たんです」


NA「半田つかさは活動中に『妻が妊娠』したことを公にした。当然ながら現役女性アイドルグループの一員としては空前絶後である」


講師「(動揺して)…あらそう」

つかさ(女性時)「はい(にっこにこ)」(事情を知るスタジオの雛壇に並んでいる女の子たちメンバーがクスクス笑っている)

講師「予定日はいつ?」

つかさ(女性時)「六か月目なんでもうすぐ。女の子みたいです」

講師「…おめでとうございます」

つかさ(女性時)「どーも」


  お互いに礼をする妙な画面。


つかさ(女性時)「ついては相談なんですけど、親がこういうこと(制服姿の自分を指す)をやってるのを秘密にしておいた方がいいかなって」

講師「…いいんじゃないかしら」

つかさ(女性時)「やっぱそうですかね」

講師「それにしてもあなた妊娠六か月にしては全然お腹出てないわね」

つかさ(女性時)「ん?(笑顔で小首をかしげる)」

講師「いやだから…」

つかさ(女性時)「あ、ボク男の子なんで妊娠はしないです。ボクの妻の話」

講師「…?(事情が全く理解出来ていない)」(スタジオかなり笑いが漏れる)

つかさ(女性時)「だからパパとしてどうかって」

講師「…?あなた男の子なの?」


  スタジオ大爆笑。メンバーの多くが腹を抱えて笑っている。


講師「あなた何言ってるの?」

つかさ(女性時)「いやだからボクの奥さんが…」

講師「(食い気味に)レズなの?」


  尚更大爆笑。



朝のバラエティ番組

司会    「半田つかさちゃん…は男の子なんですよね?」

つかさ(女性時)「はい。結婚もしてます」

女アシスタント「ええ…女性と…ですか?」

つかさ(女性時)「はい(にこにこ)」

司会    「その声って…生まれつきですか?」

つかさ(女性時)「仕事で出してます。練習したんで」

司会    「え?じゃあ、男の声に戻したりとか出来ます?」

つかさ(女性時)「折角なんで物まねします。(口元を隠して青年の声で)『ジャスティスマン!へんっしんっ!!』」

司会    「え?ジャスティスマンってあの懐かしのアニメですか?」

つかさ(女性時)「(女声で)え?ご存じなんですかぁ!?」

司会    「うわっ!女の子の声になってる!」

つかさ(女性時)「ボク、この間までやってた深夜アニメで主役やってました」

司会    「はぁ!?せ、声優さんでもあると」

つかさ(女性時)「はい」

司会    「えっと…男の子の声で役をやられてる」

つかさ(女性時)「はい」

司会    「そしてその…今みたいな女性アイドルもやられてると」

つかさ(女性時)「そーですね」

司会    「周りの人…声優さんたちから何か言われない?」

つかさ(女性時)「ムチャクチャ言われます。色々」

司会    「はぁ…」(好奇の目でジロジロ見る)

女アシスタント「もう一度男の子の声だしてみてもらってもいいですか?」

つかさ(女性時)「折角なんで切り換えてみますね。あーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー(途中で声の高さが澄んだ女の子の声から青年の声、ダミ声になり、また元に戻る)」

女アシスタント「す、すごーーーーいーーーーー!!!」

  スタジオじゅうで拍手が起こる。



NA「同年2月。5月に卒業を控える半田つかさが参加する最後の楽曲17枚目シングルの選抜メンバーが発表された」


 センターに選ばれる半田つかさ

 アニメ風PV

 同年5月の卒業ライブ



階段にて

つかさ(男性時)「…良かったですよ。冗談から始まったみたいな話だったのにあんなに話が大きくなっちゃって本当に申し訳なかったと思いますけど(笑)」



会議室にて

荒井「美味しかったですねえ(笑)。あたしは営業の仕事ほぼしませんでした。断るのが大変だったくらいで」


会議室にて

野中「双方にとってプラスでしたね」


現在もアニメライブなどで盛り上がっている様子


NA「これからも我々を楽しませてくれることだろう」


*****



自宅にて


「これは私感ですが…芸能界デビューするとしたら、集団アイドルの一員ってことではデビューしない方がいいのかもしれません」


―といいますと?


「仮に独立して元「なんとか」って形で紹介されたとしても、ファンにとっては絶対でも一般的な知名度はゼロに等しい訳です」


―まあ


「申し訳ないんですけど、グループの誰それ…という形でしか仕事が来なかった人は元々芸能人としてそのレベルのポピュラリティが限界だったとしか言えません」


―…申し訳ないけど、それには同意ですね


「繰り返しますけど、半田つかさくんのタレント性は疑いようがありません。今も『女性シンガー』として普通にアニメ主題歌の新しいのをバンバン担当してますし、そのまま歌番組にも出てるし、ライブ活動もしてます」


―そうですね


「この頃の番組だといちいち突っ込まないですからね」


―当然知ってること…みたいな扱いになりつつありますね


「ですからそろそろ余りにも笑顔が魅力的な歌い方をして、楽曲もとてもいいもんだから純粋にファンになっちゃってすぐに『既婚男性である』と知らされてショックを受ける…って展開も当たり前になりました」


―そうみたいですね


「ただ、若干の暗部もあるんですよね」


―といいますと?


「彼そのものというよりも派生した現象ですね」


―はあ


「まず、愛宕坂47には『男でも入れるんだ』と「既成事実」と解釈してオーディションでもかなりの数の男性が申し込んでくる様になりました」


―…図々しいですね


「半田つかさくんなんてそれこそ100年に1人、いや空前絶後の突然変異なんですけどね」


―そうですね


「繰り返しになりますが、集団ガールズグループに所属するアイドルの一人としてどうこうじゃなくて、純粋にタレントとして抜群の魅力のある人がたまたま所属してたってだけです」


―それは認めざるを得ないですね


「当然全く受け付けずに書類審査で跳ねるんですけど、オーディション会場に乗りこんでくる様なのも多くてスタッフはかなり困ったみたいですよ」


―でしょうね


「事務所に電話を掛けてごねるなんてのは当たり前で、脅迫めいた行動に出る過激な人もいたとか」


―女の子っぽくないですね


「しかも女装のクオリティが著しく低い。そもそも造形が男女どちらであっても関係なくブサイクだったり」


―辛辣ですね


「雑誌記事をそのまま信じればですが…まあ、予想はつきます」


―はあ


「仕方がないんで別のグループのオーディションに突撃したりとかもして、業界全体から『お前らのせいで』とかなり白い目で見られていたそうです」


―む~ん


「つかさくんを見て『あんな風になりたい!』と『ある種の男の子』が思うのは分からんでもないんですが、いかんせん世の中結果が全てです。本人に魅力が無いとどうにもならない」


―全くそうですね


「前からそれなりの数がいた『両声類』の歌い手も爆発的に数を増やします」


―ああ、ありそうな話ですね


「流石にガールズグループに所属は無理だったみたいですけど、一人実際にデビューしました」


―いましたね。思い出しました


「年齢はぴっちぴちの16歳…この時点でつかさくんは愛宕坂卒業の直前だからもう19歳だったんで3歳若いことになります。光山ひかり(みつやま・ひかり)…ですね」


―はい


「見た目もなるほどムチャクチャ可愛いし、歌声もなるほど洗練されてます。ダンスも上手い」


―ですね


「ただ、単体として負ける要素が無さそうに見えるんですが、結局はパッとしないままいつの間にかいなくなってました」


―どうしてでしょう?


「まあ、二番煎じ…ってのがまずあります。「男なのにどう見ても美少女で、一瞬にして男声と女声を切り換えられて、女声歌手として物凄く歌が上手い」というインパクトは絶大には違いないんですが、続けざまに出てこられてもね」


―うーん


「彼がデビューした時期は半田つかさくんがメディアに最初に出てから約1年が経過していて、愛宕坂に入ってから10か月くらいかな。流石にそろそろ「アンチ」が湧いてくる頃です」


―それまでいなかったんですかね


「確かに立ち位置の特殊さを考えるともっと早くからいてもよさそうなもんですよね。ともあれ、アンチは当然「半田つかさに比べてもこっちの方が歌が上手いし可愛い!」みたいな論陣を張る訳です」


―コップの中の嵐ですな


「その当時に作られたブログなどが残っているんでかなり読みましたけど、これを読んで後発の彼の楽曲を分析すると半田つかさくんが『受けた』理由が逆に浮かび上がってきます」


―ほう


「まず、光山ひかりは歌い上げ過ぎです」


―歌い上げ


「大げさな振り付けでいかにも苦しそうに歌います。物凄く歌が上手くは確かに聞こえるんだけど」


―大衆が求めているのはそういうのではないと


「半田つかさくんの歌い方を思い出していただきたいんですが、彼は愛宕坂に入る前のカラオケにおいてはほぼ直立不動で全く動きません。上半身を軽くゆするくらい。顔の表情は豊かですが」


―それ、放送当時にも言われてたそうです


「曰く、どうせ踊るなんて無理なんだから、だったら全く動かない方がいいとか」


―はあ


「思わず身体が動いちゃう程度の動きくらいしか無いんですよ。「カラオケ・デュエル」はスタンドマイクが禁じられてたので両手で持って身体の前にマイクを固定して全く動かずに歌います。この頃出演した歌番組だとスタンドマイクの前に立って、両手を身体の前に合わせて全く動かさずに歌います」


―そうですね


「この時点で対照的です。要は『歌い上げ』られると、『自分の歌の上手さに酔っている』様に聞こえるんですよ」


―まあ、そうとも言えるかもしれません


「そして半田つかさくんはどんな歌だろうと満面の笑顔で爽やかに気持ちよさそうに歌います」


―この笑顔にヤラレルんですよねえ…


「面白いのは元歌を歌ってる当のアイドルたちであっても無表情に近かったり、それこそ眉毛を「八」の字に(ゆが)めて苦しそうに歌ってたりするんですが、どんな歌だろうがつかさくんはにこにこと楽しそうに気持ちよさそうに歌うんですよ」


―…癒し系ですね


「そして…私も気が付くまでちょっと掛かったんですけど、実はこの笑顔でいながらつかさくんってアップテンポの激しい歌…要は「格好いい」「盛り上がる」曲しか歌わないんです」


―…え?


「歌ってる表情だけ見ると童謡とか『夢見るラブソング』歌ってる様に見えますけど、実際には「戦え!」みたいな歌ばっかりです。確かに女性ボーカルにもそういう歌沢山ありますからね」


―そうでしたっけ?


「実はこのギャップも魅力になってたんです」


―…そうか…


「愛宕坂に入る前のソロデビュー曲が1曲だけありますけど、それがアニメのオープニング主題歌だったのはご存じの通り。そして今も定番になる盛り上がる曲です」


―はあ


「要するにどれだけ歌い手に魅力があろうが無かろうがそんなのはどうでも良くて「只管ひたすら盛り上がる歌」をまず第一に考えていたんですね。歌ってるのが誰かなんてどうでもいいと」


―だからあんなにライブが盛り上がるのか…


「愛宕坂に入ってからはグループの方針もありますからミディアムテンポ…所謂いわゆるバラードみたいなのも歌ったりしてますけど、バラードなんてそれこそ歌ってる側の自己陶酔一歩手前じゃないですか」


―…まあ


「光山ひかりはデビュー曲でいきなりバラードです」


―あ…


「正直、『何も分かっていない』と言わざるを得ない。二曲目が歌い上げ系でしょ?しかも露出度の高いセクシードレス。報道はされてませんけど恐らく投薬によってかなり身体もいじってますね」


―まあ、見た目が女性なんだから女性らしさを売りにするのはありなんじゃ?


「つかさくんは歌ってる時に肩を見せたことがほぼありません。楽曲によってはノースリーブ衣装のものもあるので、その時は仕方なく合わせていますが」


―あ…


「徹底的に露出度を控え目にしてるんです。実はTシャツに半ズボン姿になっても女性にしか見えないくらいのスレンダーさなんですけど、とにかく絶対にそれを見せつけて売りにしなかった。これはグループの方針とも一致はしてるんですが」


―これは…光山ひかりの戦略ミスですね


「はい。少なくとも「男なのに女の子にしか見えない」路線で売りたいんだったら、肉体性を感じさせるのは駄目なんですよ。妖精さんじゃないけど。だってセクシーさなんて女性アイドルであっても結構見てて疲れます(笑)」


―ははは、「疲れる」…ね。いいえて妙ですな


「オタクがよく言う『くさそう』って奴ですね。ぶっちゃけそっちはそっちで半分おっぱい出してるグラビアアイドルとかもっと見せてる方々とかいるんで、中途半端に媚びても大怪我するだけです」


―そうですね


「しかも半田つかさくんはあのトークスキルです。どんな場面でも『自分が男である』ことで笑いを取りに行ったりギョッとさせる効果でトーク部分を面白くしようとしてます。司会者にしてみればこれほど助かる共演者もいないでしょう。タブーが全く無いんですから。それこそちんちんがどうした…レベルのことを言われてすら何事も無かったように受け流せます」


―自分を笑いものに出来ると


「どれほど見た目が可愛らしかろうと…実際可愛らしいんですが…所詮は男です。「イロモノ」であることを自覚してボケたりするし、『何を言ってほしいと思っているか』を察知する能力が物凄く高い」


―はあ


「普通は『こんな外見ですが、実は男です』的な自己紹介も、テレビ出演30回目越えても毎回毎回やらされるのって本人がうんざりして来そうなんですけど、彼は全く嫌がりません」


―そうなんですか


「それどころか、1時間の番組で3回話を振られて毎回同じことをするのも全く厭わない訳です」


―それはなんでなんでしょう?


「視聴者が何を求めてるのか…ここで必要なのが何なのかを察する嗅覚でしょうかね」


―といいますと?


「1時間の番組といっても、途中でチャンネル合わせる人だっているでしょ?」


―まあ


「そういう人に対しての配慮ですよ。「実は男」の自己紹介兼ねたボケも。だから20分おきにやるのも全く厭わないと」


―なるほど



某番組


  とても可愛い美少女アイドルデビューのニュースVTRが流れた後スタジオに戻る。

司会「可愛かったですね~。どうでした半田さん」

つかさ「(完全に美少女声で可愛く)そうですね。とっても可愛いです。ボクも惚れちゃいそうです」


  虚を突かれてギョッとするゲストの表情。


キップ「下手に男であることを感じさせて…それこそ「オカマの谷」に落ちてしまっていたら見てられないほど悲惨になるところです」


―はい


「彼が男であることは、知ってるはずなのに、一瞬「…え?」ってなりますからね」


―ですね


「遂に最近の番組では『ボク』を封印されたことが一回あったらしいです」


―どういうことです?


「言葉にすると陳腐ですけど、キュン!とし過ぎて刺激が強いからやめてくれと」


―え?でもそうなると、ただの女出演者ってことになりますよね


「全くその通り。そこまでに持ってったのは大したもんです。とはいえこれは例外で、基本的には「オカマボケ」みたいなのの対象です」


―でしょうね


「ところが光山ひかりはこれが出来ない」


―できないんですか


「半ばオカマ扱いされていじられるのに露骨に不快感が顔に出ちゃってます」


―あ、ホントだ


「当然空気は悪くなります」


―画面見てても伝わりますね


「きっとつかさくんのいいところだけ見て勘違いしてるんでしょうけど、つかさくんって「可愛い!」とか「綺麗!」ってことでちやほやされてるのっていいとこ半分くらいで、後は『男女ボケ』みたいなのばっかりなんですよ。しかもそれでしっかり笑わせてる」


―なるほど


「これじゃ幾らきりっとした美少女だろうが、造形だけは勝ってようがタレントの総合力として勝てません」


―はあ


「そもそも常にニコニコしてるつかさくんは男だろうが女だろうが画面に映ってるだけでこちらも癒されます」


―…悔しいですが認めざるを得ないです


「事態はさらに進んで、『男の娘』を加えた第二のガールズグループが登場します」


―これまた二番煎じですね


「焦ったんでしょうね。愛宕坂が余りにも注目されるもんだから」


―どうでした?


「愛宕坂47の成功の要因は、…はっきり言えば『女の子のいい部分』を凝縮したようなところです」


―また随分と大胆な言い切りですね


「「少なくとも外見はそう見える」って注釈はいるかもしれませんけどね。これは明らかに後発グループのメリットでした。要は清楚な美人ばかり集めた…プロレス用語ですけど…ストロングスタイル(正統派)のザ・アイドルだった訳です」


―はあ


「品のいい私立の女子校みたいな露出度の低い制服風のコスチュームに全員が…下手すりゃ区別もつきにくいくらいの真っ黒な髪です。しかも人数が少ないためか本当に仲がいい」


―らしいですね


「そういう雰囲気って出ますからね。そしてこれが相当に人工的に管理されたものでした」


―人工的


「若い女の子の集団って…実際は放置するとこんなに洗練はしません。こういう言い方が適切かどうかわからないんですけど、公立の底辺女子校みたいな感じに…放っとくとすぐになるんです。当の愛宕坂47自身すら、最初のオーディション終わった後のレギュラー番組「愛宕坂ってそこ?」第1回に登場した時には『田舎のヤンキー娘』寸前の蓮っ葉な雰囲気もありましたから」


―そうなんですか?


「ええ。今じゃ色白でモデルもこなす清楚イメージの代表である黒石真紀くろいし・まきですら「2.5次元から来ました」みたいなことを言う迷走ぶりでしたし。ただまあ、その後は正統派として洗練することに大成功します」


―む~ん


「その愛宕坂47というところに、100年に一人のタレント(才能)を持った半田つかさが加入したからこそ起こりえた奇跡だったんです。そもそも愛宕坂47はファンもやさしいと言われてます」


―そうなんですか?


「愛宕坂47だったからあの程度の反発で済んでたのは間違いないですね。本家のBKAなんてファン同士で刃傷沙汰起こすほど殺伐としてます。「選挙」で前山の一位が確定した瞬間、会場のアンチが怒号とブーイングを上げる場面はお馴染みでしょ?」


―へ、へー…


「内部の派閥の存在も結成当初から噂に上るくらいですし、内部の風紀の乱れも…私みたいなアマチュア評論家がちょっと調べても状況証拠がゴロゴロ見つかるほどです」


―アイドル業界も大変ですね


「この時『男の娘』が加わったアイドルグループは…申し訳ないけど、非常に平均的な「単なるアイドルグループ」って感じのところでした」


―それじゃ駄目なんですか?


「駄目…ですね。そもそものガールズグループとしてのポテンシャルも平凡なものでした。確かに「素人の女の子集める」ところからスタートはするんでしょうが、結局「ただ女の子集めただけ」じゃアイドルにはならないんですよ。そして致命的なことが」


―何です?


「…申し訳ないけど、「オカマの谷」が出ちゃいましたね」


―嗚呼、遂に出ましたか


「ここで加入した早乙女大蛇さおとめ・おろちくんは確かに可愛いし、歌も上手いんだけどどうしても造形が男の子を感じさせることが…結構多々ある」


―要は「女装した男の子にしか見えない」と


「全部じゃないですけどね。動かないジャケット写真とかならいいんだけど、いざ歌ったり踊ったりしたらどうしても隠し切れない…まあ、実は本物の女の子が歌って踊るところだって日本人全員がそんなに鵜の目鷹の目で見てた訳でもないんですけどね」


―う~ん


「このグループは最悪の道である『可愛い女の子たち』イメージが『オカマのいるイロモノ』に堕しちゃうという道を辿ってグループごと沈没。全く人気が無くなって半年後には解散してます。その後メンバーとの熱愛発覚からの出来ちゃった結婚ですから、正に「女を漁りに女装して女の子グループに入って来たのか」状態」


―ありゃあ


「まあ、その頃にはすっかり忘れられていてバッシングでも無かったのが救いですが」


―む~ん


「現在の早乙女大蛇くんの写真も報道されてますが、普通にヤンキーというか粋がったちゃらい兄ちゃんという感じで、女の子アイドル時代の黒歴史を掘り返されると激怒するそうです」


―…これは大変だ


「そして…物事っていざ企画されてから動き出すまで時間がかかる悲劇で、そろそろいい加減『この路線まずいぞ』って空気になってるところで最悪のグループが動き出します」


―ああ、あれですか


「はい、グループ全員が女装した男であるという『ガールズグループ』です」


―これは…


「大抵は動きの無いジャケット写真くらいならまだ見られるものなんですけど、これはもうジャケット写真からしてヒドい」


―はい


「愛宕坂47は結成5年目で最年長こそ25歳ですが、最年少だと13歳です。平均が18歳かな。とにかく実際に若いし、年齢よりもずっと幼く見えるメンバーばかり。とにかく若返りに積極的でメンバーの新陳代謝も早い」


―はい


「そこに持って来てこれです。確かに美人だとは思うけど造形は骨ばってるし、メイクも濃すぎです。平均年齢はなんと21歳!…というのは実はウソでリーダーはなんと結成時点で27歳だったことが後に発覚します」


―はあ


「このジャケット写真見て如何です?」


―…ニューハーフ・ショーですね


「いや、場末のオカマバーでしょう」


―そこまでは…


「声の作り方も全く甘い。正直言って全然お話になりません。そもそも本人たちが「こんな馬鹿馬鹿しいことやってられっか!」って態度がにじんじゃってます」


―そりゃ、男ですからね


「今では芸能史からその存在を実質的に抹消された『黒歴史』で、半田つかさくん登場以降で最悪の『事件』『事故物件』です」


―あんまり詳しくないんですが


「男が女装してガールズグループに所属…ってことになると、当然考えられるのが性的スキャンダルです」


―そりゃそうですね


「つかさくんの場合は過剰なくらいの用心で…本番以外ではメンバーにも余り会えないほどに徹底して…それを乗り切り、しかも本人が『男の性欲』の対極にいる様に“見える”癒し系キャラだったのでそこはまあ、一応は回避されました」


―そういうことにしときます


「しかもそれでいてつかさくん本人は性的にはストレート。ノーマルでした。妻帯者で、帰れば普通の夫婦生活を送っている。実はこれも相当に大きかった」


―特異ですよね


「まずリーダーが『女の子アイドルだから』と別のアイドルの控室にずかずか忍び込んで強姦未遂事件を起こします」


―え…


「更にメンバーの一人がゲイをカミングアウト」


―あ…


「もう一人は…これはアングラ雑誌ですが、ステージ衣装…もちろん女物…を着て一人エッチをしている写真が流出」


―…


「更に今じゃ芸能界を引退したメンバーの一人が、…もちろん男です…事務所の関係者にレイプされていたことを激白し、性転換手術の強要を受けていたと語ります」


―あ…


「今この人行方不明なんですがね。おおよそ『男が女装して女の子アイドルをやる』場合に考えられるスキャンダルの全てを起こして見せたといっていいでしょう」


―やっぱり無理ですよね


「でも、つかさくんはそこは上手~く演じてますよ。てゆーか「男がセクシーで格好いい系の女」を演じるのは無理があります。実際やってない」


―元々無理はありますが


「やるんならつかさくんくらいのポテンシャルが無いと。彼がやったならばもしかして…とも思いますけど、でも彼は結果的に『癒し系』路線を選んだ訳です」


―それでいてオカマいじりも嬉々として受け入れてと


「この頃の歌番組は正直つらかったです。次々に「女みたいな男」が出て来てはクオリティの低いパフォーマンスばかり見せられましたから。私はそういう風潮に理解もある方ですが、流石に辟易しましたね」


―私もです


「ちなみにこの頃に出演した番組がこんな感じです。もちろん卒業前です」



とある番組

女アシスタント「ということで、視聴者からの相談です。『僕は女の人が好きな普通の男の子なんですけど、女の子の服が好きで姉の制服などを隠れて着たりしてます。どうしたらいいでしょう?』…とのことです」


つかさ(愛宕坂の清楚系制服姿で)「う~んそうですねえ(難しい顔で腕組み)…どうかと思いますよ。オトコなのに女の子の制服着るとか」


  スタジオ中がずっこける。


つかさ「え?え?(わざとらしくおろおろする)」

男司会「いや、あんたに言われたくないがな!」

つかさ「…(両手の人差し指を頭にあてる可愛い仕草)」

  黒石、その手を反射的に払いのける


黒石「いや、全然可愛くないから」


  スタジオ爆笑


  黒石とつかさが睨みあったままCMへ



―…相変わらずのキレですね


「個人的には黒石真紀との息の合ったコンビネーションというか、むしろツッコミ役の黒石を褒めたいところですがね。ともあれ、自分の存在を掛けてボケてます。普通の番組に求められてるのってこういうスタンスなんですよ」


―確かに


「あと、とにかく立ち位置に敏感でした」


―というと?


「メンバー同士って年頃の女の子がそうであるように、ほぼ全員がお互いをあだ名というか愛称で呼び合うんです。「にゃあちゃん」とか「まみまみ」とか「まきやん」、「ななん」みたいに」


―そうですね


「しかしつかさくんは絶対にそれをしませんでした。ずっと年下の新入メンバーに対してすら「苗字」に「さん」付けでした。実は卒業回の打ち上げ部分が収録されてるところで一回だけ口走ってるのが収録されてるんで、カメラが回ってないところでは多少は言っていた可能性はありますが」


―ちょっと他人行儀じゃないですか?


「そうとも言えますけど、多くの男ファンをさしおいて同僚としての距離感を『詰め過ぎ』ること…少なくともそう見られることへの警戒感があったんでしょう。ぶっちゃけファンはこの時点くらいになると「全く構わない」スタンスなんですけども。全く憎たらしいくらいに見事なもんです」


―そんなもんですかね


「とにかく謙虚!謙虚!でした。やり過ぎなくらい。やりすぎると空気が悪くなるので、それを察知したらボケでまぜっかえしますが、とにかくこれでもか!っていうほど謙虚。これがポイントです」


―まあ、謙虚なのは大事ではありますが


「今もスタッフ…それこそAD相手にすら…物凄く丁寧で人当たりがいいと評判です。15歳から芸能界にいてその辺りが骨身にしみてるんでしょうね」


―実際会ったらそんな感じでした



「熱情台地」第二弾 未放送部分

*****


NA「半田つかさがアイドルグループ愛宕坂47を卒業して約一か月後、とある洋画の吹き替え版の記者会見が行われた。半田つかさの役は、美女ではあるが性転換した元・男という難役だ。元はハリウッド女優が演じている」


  フラッシュを浴びている半田つかさ。ゆっかりしたベルスリーブにロングスカートのドレス姿


記者「今回の役はいかがでした?」


つかさ「ボク、本来は俳優と声優なもんで…やっと本業で注目してもらえて嬉しいです…何故かこんな恰好することになっちゃってますが(軽くスカートをつまむ。会場笑)」


NA「彼の元には今も歌やドラマ、吹き替え、アニメなどの仕事が引きも切らない。中にはモデル業まであるという」


書斎にて

萩原吉「純粋に面白かったです。そりゃ最初から最後まで『変態』言う人はいましたけど、つかさくんって自分で「変態で~す」とか笑顔で言っちゃうタイプですから」


自宅にて

群尾拓哉「あんまり毎回いうもんだからフィクション性が一周回って「女の子なのに男の子が女装してるって設定の痛い子」みたいな認識になりかけましたからね」


書棚の前にて

アイドル評論家「アイドルとしての完成度が高いです。ただ、歌は上手いけどあの上手さって目指してる方向としてはアイドルソングよりもポップス歌手よりではありましたね。器用なんでアイドルソングでもバリバリ歌えてるんですけどね」


*****



 以下、キップ氏との対談中に挿入されるメンバーのインタビューなどは同番組の素材より。


 なお、時系列が「カミングアウト前」と「カミングアウト後」のものが混在していることはお断りしておく。



  テロップ「愛宕坂47メンバー 春元真冬はるもと・まふゆ

廊下にて


春元「あたしもよくビジネスアイドルとか言われるんですけど(笑)、つーたん(半田の愛称のひとつ)の方が完全にビジネスアイドルのはずなのに…なんであたしばっかり言われるのぉ…?とは思いました」


―男性だと感じたことは


春元「あの状態でしか会ったことがないんで、想像が付かないです」



  テロップ「愛宕坂47メンバー 幾田絵理いくた・えり

廊下にて


幾田「雑誌の対談をあたしだけやらせてもらった時のことが印象深いです」


 半田つかさはグラビア記事や対談などにはほぼ参加していない(単独インタビューは多々ある)。プライベートな交流を禁じられていたためだが、所属期間中、幾田絵理と雑誌記事で対談した記事が一度だけある。


―どうでした?


幾田「同い年なんですよ。あ、違うか。あたしが1こ上だ。それまでの舞台経験とか話してるだけで終わっちゃいましたね」


―読みましたけど面白かったです


幾田「有難うございます。普通に友達として演者として得るところが多かったです」


―どんなところが?


幾田「え―なんだろー…(考え込んで)あたしもたまに言われることあるけど、つかさちゃんって物凄く沢山いろんなことをこなしてるんですよ。いつ練習してんのかな?ってくらいに。なんというか、余りにも淡々としていて逆に人間味が無いくらいに感じられるとひそかに思ってて(笑)、そこについてストレートに訊いてみたんですよ」


―そしたら?


幾田「『練習してない』疑惑とか、『練習しなくてもできる』疑惑とかはやっぱりウソでちゃんと練習してました(笑)。でもまあ、普通は単に上手くなるだけじゃなくて『ちゃんと出来るかな?』ってプレッシャーとかも感じちゃうし、駄目だったら落ち込むし、上手く出来ればテンション上がるし…人間だと色々あるんですよ」


―そうでしょうね


幾田「でもつかさちゃんって、ある意味そういう『感情』…じゃないな『感想』をあんまり持たないんですよ。『何分あったらこれだけ練習できるから、あそこまで覚えられる。じゃあやろう』みたいなことを淡々と積み上げ続けるっていうか…トレーニング・マシンみたいな(笑)」


―そうなんですか


幾田「全体練習の時だけは一緒なんで観察してましたけど、その点物凄くクールでした。愛宕坂の活動もそうだけど、合間にアニメのアフレコやって、本業の所属劇団の舞台にも出てるんですよね?本当にいつ練習してんのかと思ったら普通にしてたんだけど(笑)、その切り換えが凄いんです」


―なるほど


幾田「別に男の子なのに女の子アイドルとしてどうこうってあたしは感じたことないです。純粋に演技者として尊敬してるだけで…」



  テロップ「愛宕坂47メンバー 生馬理科いこま・りか

廊下にて


生馬「つかさちゃんはね…ヘンだしずるいんですよ」


「愛宕坂工事中」

  相変わらずアニメについて熱く語っている生馬。雛壇の最上段。

  雛壇の最下段、前列でちらちらと後ろを振り返っている半田つかさ。


相良「なんだ?半田どうした?」

つかさ「あの…いいですか?質問して」

相良「生馬にってこと?いいよ」

つかさ「生馬さんその…そのアニメって『スターファイター・ジ・アニメーション』のこと?」

生馬「そうですそうです!」

つかさ「…ボク、そのアニメ出てるよ」

生馬「い゛え゛え゛え゛え゛え゛ーーーーーっ!?!?」


  スタジオ騒然。

  凄い表情の生馬。


相良「ああ、出てんだ」

つかさ「はい。そっちは本名でですけど」

火山「獅子脅権三郎ししおどし・ごんざぶろうみたいな名前だっけ?」

つかさ「いえ、小便垂太郎しょうべん・たれたろうですってそんな馬鹿な(ノリツッコミ)」


  スタジオ笑い。


生馬「え!?それじゃあ、それじゃあ神田忙かんだ・せわしさんとか大野小助おおの・しょうすけさんとか会ったことあんの!?」

つかさ「会ったことある…っていうか今日この後ごはん食べに行く」


  生馬、何を言ってるのか分からない奇声を発する。


廊下にて

生馬「ありゃあ、魔性の女です。間違いない」


―でも、男の子ですよ


生馬「あたしゃあ信じませんから(目を閉じて何度も頷く)。みんな騙されちゃ駄目ですよ」


―…一応アイドルからは引退したってことになると思いますが、同じグループに所属していたメンバーとして総評を頂ければ


生馬「色々間違ってますね。次の来世ではちゃんと女の子に生まれてきてください。…以上です(きりっ!)」




  テロップ「愛宕坂47メンバー 伊東まりん(いとう・まりん)」

廊下にて

伊東「一度一緒に囲碁を打たせてもらったことあるんですよ」


NA「伊東まりん(いとう・まりん)は特技の囲碁を活かしてテレビのレギュラー番組を持ち、囲碁雑誌に連載を持つ囲碁アイドルだ」


伊東「ほとんど初体験だったらしいんですけど…教えてる内にモリモリ強くなるんで驚きました」


―そうなんですか


伊東「一般的に男と女って脳の構造が違うらしくって、どうしても空間把握能力?っていうんですか…に女の子は劣るらしくて、男の人の方が強いんですけど…あたしはそういう意味ではつかさちゃんの男らしさを一番肌身で感じたかな(笑)。あたしのヘボ碁じゃああんまり参考になりませんけど」


―強くなりそうでした?


伊東「あたしじゃなくてもっとちゃんとした先生に見て欲しいんですけど(笑)、強くなると思います。というか、つかさちゃんの凄さをちょっと感じたことがあるんですけど…ちょっとだけ専門的になりますけどいいですか?」


―どうぞ


伊東「囲碁って厚みを取るか地を取るか…っていう考え方があって…どっちがいいとか悪いとかじゃなくて純粋に好みなんですけど、つかさちゃんってある試合だと厚みを取りに来て、次は地を取りに来たりするんです」


―どういうことです?


伊東「出来ることは全部試すというか…普通は厚み派だったら厚みだけ打ったりするもんなんですけど。その点ああ、こういうところが凄いんだ…と思いました」


―男性としてどうです?


伊東「といっても既婚者ですしね。番組にも来てくれた素敵な奥さんとお嬢さん大事にして、また打ってくださいね!今度はわたしの持ち歩いてたマイ・九路盤じゃなくて十九路盤で打ちましょう!」




  テロップ「愛宕坂47メンバー 江藤千里華えとう・ちりか

廊下にて


江藤「バレエのこと聞かれました。全体練習の時に」


―というと?


江藤「あ、個別練習の時も聞かれたか。同じアンダーのセンター経験者としてってことで」


―アドバイスを求められたと


江藤「そうですね。ある意味つかさちゃんのすっぴんを一番見てるのあたしかも(笑)。つってもすっぴんでもあの有様なんですけどね」


―どうでした?


江藤「一応バレエっぽいことはやったことはあったらしくて教えなくてもかなり動きは出来ましたよ。身長もそれほど高くないし、ちゃんとやれば結構なところまで行くんじゃないかって思いました」


―バレリーナとして


江藤「(笑)そうそう、バレリーナとして(笑)。愛宕坂の動きとバレエなんて全く違うんで、とにかく吸収できるものは何でも全部吸収してやろうって意識が凄いなって」


―男性としてどうです?


江藤「う―ん…制服衣装が可愛すぎるのでイヤです(笑)。あ、でも…つかさちゃんってえっと…涙袋なみだぶくろでしたっけ?目の下が膨らんでるの」


―そうですね


江藤「すっぴんだと涙袋のあたりがかなりクマになってて…特に卒業間近だとやること一杯あったから…うわー大変だなーって思ったんで…ゴメンねすっぴんの話こんなにしちゃって(カメラ目線で申し訳なさそうに)…これからも頑張ってください!あたしも…じゃなくてあたしたちも頑張ります!」



  テロップ「愛宕坂47メンバー 井之頭さゆ(いのかしら・さゆ)」

廊下にて

井之頭「つかさちゃんって男の子だって言ってますけど疑ってますね」


―それはどうして?


井之頭「だってアニメは結構詳しい…まあ声優さんでもあるから当たり前だけど…のに特撮のこと何にも知らないから」


―そうなんですか


井之頭「だって女の子のあたしより特撮に詳しくない男の子とか…ねえ」


―はあ。でも確か「ジャスティスマン」って


井之頭「80年代に放送された『正義戦士ジャスティスマン』ですね。あれって特撮の企画が流れてアニメになったものです。あたし、テスト撮影された写真持ってますよ」


―それは…かなりのマニアですね


井之頭「つかさちゃんって男の子の真似をする時に真実まことくん…これ、アライブの方の主人公ですけど…の声と一緒に振り付けもするんですけど、あの振り付け指導したのあたしです(胸を張る)」


―あ、そうなんですか


井之頭「アニメだと振り付けの演技覚えなくていいですからね。アフレコの時には絵が無いらしいし、知らなくても無理はないんだけど」


―その点、かなり助けてますね


井之頭「そうですよ…多分愛宕坂の中であたしが一番つかさちゃんを直接助けてますね!今度発売される「ジャスティスマン・アライブ」のコミカライズ版3巻の帯に推薦文寄せたんで買ってくださいね~(カメラに手を振る)」


―宣伝どうもです


井之頭「今度2クール目が始まるんですけど!つかさちゃんにぴったりの展開があるんですよ!」


―(勢いに押されている)は、はあ…


井之頭「旧シリーズの4クール目に出てきた「倒錯怪人ポリモルフ」っていうのが他人を性転換出来る能力持ちで、主人公の正義せいぎくん…今の真実まことくんのお父さんですね…もすっかり女の子にされちゃうんです!多分2クール目にこれもリメイクされるからつかさくんにぴったりですって!!」


―(全くついて行けていない)…はあ。で、半田つかさくんについてですけど、男の子としてどう思います?


井之頭「折角男に生まれたんだったらたしなみとして日曜朝は早起きするくらいでないと。まあ、私服のセンスはあたしに似てるからそこは評価できますね」


―最後に一言


井之頭「男なのにあたしより可愛いとかどういうことなんじゃボケぇ!…ってことで(笑顔)」



  テロップ「元・愛宕坂47メンバー 端元奈々はしもと・ななお

廊下にて


(引用者注:このインタビューは端元の卒業前に行われている)


端元「(憮然として)まあ…良かったですよ。ええ」


―端元さんはずっと反対の立場だったんですよね


端元「基本的には今も反対です。半田の歌とか大好きですけど…ウチのグループに女として参加とかそういうふざけた状態でなきゃ大ファンになってたかもしれないんで…そういう意味では残念ですね」


―でも、もう卒業しましたが


端元「まあ、これで余計な心配しなくて良くなったかなって思います」


―余計な心配とは?


端元「そりゃ着替え覗かれたりするかも知れないじゃないですか」


―その心配は無いんじゃ…


端元「(かぶせ気味に)分かってます!分かってますよ…」


―何か印象に残ったエピソードなどあれば


端元「…」


―何かないですかね


端元「…ほんっとに…ふざけてますよね…。もう済んだことだからいいけど…みんな言わないから言っちゃうけど…あ、これ使えないんだったらカットしてください…あいつとはヤッたのかとか散々言われて…確かにミリオン売ったけど以前とは別グループになっちゃったかなって…」


―そうでしょうか?少なくとも愛宕坂らしさが失われたとは思えませんけど


端元「…いいですもう。どうせ外の人には分かってもらえないし」


―男性としてどうです?


端元「はぁ!?(怒気を含んで)」


―いやその…


端元「(顔を真っ赤にして)そんなの…何とも思ってる訳ないじゃないですか…そんなの…」


―えっと、最後に何か一言あれば


端元「ノーコメントで。すいませんね使えなくて…(走り去る)」




  テロップ「元・愛宕坂47メンバー 深山麻美ふかやま・まみ

喫茶店にて


深山「どーもー」


―半田つかさくんのことはご覧になってました?


深山「もちろん!最初から全部見てました」


―そうなんですか


深山「はい。あたしとはすれ違いみたいなもんだったから一度もちゃんとお話ししたことは無いですけど、出演番組とか全部見てます!卒業ライブにも行きました。あの円陣って卒業生は参加できないんですかね~なんて(笑顔)」


―いかがです?一部のファンは半田つかさくんの顔立ちは深山さんに似た雰囲気があると言ってますが


深山「いやいやいや!あたしあんなに可愛くないです」


―癒し系の落ち着いた雰囲気に化けるとされてますけど、愛宕坂47の先輩としていかがでした?


深山「先輩って…(笑)、年齢のことだけ見れば一応そうは言えますけど…つかさちゃんは天性のスターなんであたしとは違います」


―そう思われる理由があれば…


深山「笑顔爽やかで歌も上手いし話も面白いし…大ファンです」


―男の子ではあるんですが、その点如何です?


深山「そんなのどうでもいいですよ!卒業して後悔したことなんて無いけど、ちょっとお話くらいはしてみたいかなって思ったりはしました」


―少なくとも10月までは倫理制限が厳しくて余りメンバーと会えなかったらしいですが


深山「そうらしいですね。この取材ってつかさちゃん本人とかもインタビューなさるんです…よね?」


―はい。大体終わってますけど、必要があれば追加も


深山「いいなあ…いいですね。頑張ってください(にっこり)」




  テロップ「愛宕坂47メンバー 川町千尋かわまち・ちひろ

廊下にて


川町「どーもっす」


―川町さんといえばカラオケ・デュエルの先輩ですよね?


*テロップ「川町千尋は半田つかさの加入前にメンバーとしてカラオケ・デュエルに出場し、健闘している」


川町「そうなんですよ(関西弁のイントネーションで。以下同じ)。一応愛宕坂の歌上手い代表みたいな感じだったんですけどね…すっかりお株を奪われてしまいました」


―悔しかったですか?


川町「いやなんつーか…つかさちゃんの歌聴いた後だと「歌上手い代表」とか言ってた過去の自分をタイムマシンで殺しに行きたいですわ」


―そこまで言わなくても…


川町「なんつーかモノが違います」


―ああいう歌い方はしてますけど、男性ではありますが…


川町「そんなん隠しとけばいいんですって。誰も分かりませんわ」


―最後に何か一言あれば


川町「今度チケット下さい(どや!)」



自宅にて

キップ「女性疑惑も…ありましたね」


―要は男を名乗ってるけど余りにも男らしさが無いから実は女なんじゃないかという


「ええ。アメリカのノンフィクション作家で「性転換した元・男性」を詐称してた女性がいました」


―そんなこと名乗って何かいいことあるんですか?


「ありますよ。実際著書はベストセラーになってかなり売れましたし。ただまあ、半田つかさくんの場合は女性と結婚して子供まで作ってますからね。これは本当に大きかった」


―紛れもない男性である証拠ってところでしょうかね


「そうですね。もしつかさくんが結婚してなかったならば『そっち系の人』認定されて今とは立ち位置が大分違ってたでしょうね」


―恐らくは


「女性との熱愛報道されても生々しくなるし、ましてや男性との交際疑惑なんて致命的です」


―そもそも恋愛禁止でしょ?


「実は愛宕坂47ってスキャンダルとは無縁みたいなイメージがありますけど、不倫込みの熱愛報道で3人ほど謹慎くらってたりするんです。一人は素行が治らずに事実上のクビになりました。卒業生のAVデビュー報道もありましたね。結局してはいないんですが」


―あ、そうなんですか


「そりゃあこれだけ大勢の年頃の若い子がいれば色々ありますって。しかもアイドルというくらいなんで女性としての魅力は大いにある人たちの集まりでしょ?それこそモテるに決まってる」


―確か偽装結婚疑惑もあったんじゃなかったでしたっけ?


「まあ、鵜の目鷹の目であることないこと書いて売り上げを伸ばそうとするゴシップ雑誌は世界中にありますから。ご本人たちは表立っては言わないでしょうけど、夫人がテレビ出演したのもそれに対するカウンターだったとも言われてますし」


―そうだったんですね


「ともあれ、加入する時にはもう既婚者でした。ある意味一番高いハードルを最初から越えてた」


―そうですね


「同時にそれが身を守る一番の盾ともなってた訳です」



階段にて

つかさ(男性時)「結婚してて良かったと思います。本当に」


―世間的にも「結婚してるんだったら安心」といったムードはありましたしね


つかさ(男性時)「メンバーに手を出す気なんて無いですよ(笑)。といってもそりゃ世間的には信じてもらえませんよね。ボクがアイドルファンでも信じないと思う」


―一応お伺いしますけど、何も無かったんですよね?


つかさ(男性時)「はい。何にもないです(力強く)。あの子たちには女の子モードでしか会えないから『そういう雰囲気』にもなりませんよ。女同士で(笑)」


―結婚式自体はやったんですか?


つかさ(男性時)「やってないです。一緒に市役所に籍を入れにいったくらい。披露宴はやってないです。いつもの劇団の飲み会の延長でのキス強要くらいかな(笑)」


―披露宴したいと思ったりします?


つかさ(男性時)「思わないですね。呼ぶ親戚も全然いないし。貧乏だったし」


―今なら可能なんじゃないですか?


つかさ(男性時)「今やればきっと愛宕坂のみんなとか列席してくれるとは思うから、客席がむちゃくちゃ華やかになるでしょうね。…でも絶対やりません」


―それはどうして?


つかさ(男性時)「絶対ウェディングドレスとか着せられるし…」


―流石にそれは嫌なんですね


つかさ(男性時)「いや、別に嫌じゃないけどああいうの着ると目立つじゃないですか」


―でしょうね


つかさ(男性時)「結婚式とか披露宴とかって女性のものだと思うから、ウチの奥さんが目立ってあげないと」


―あ、そういうことですか


つかさ(男性時)「あんまりそういうこと気にする人じゃないですけどね(笑顔)」


―いっそお揃いの花嫁衣装でいいんじゃないですか?


つかさ(男性時)「だからそういうことをするとボクの方が目立っちゃうんですって!(笑)」



自宅にて

キップ「それにしてもちょっと体型が女性的過ぎる…とは言われてます」


―一瞬忘れるんですよね


「158センチという身長は男女どちらで考えてもそれほど極端に小さかったりはしません。愛宕坂47で1枚目から5枚目までのセンターを務めた生馬理科いこま・りかは153センチとかなり小柄ですが、彼女と比べれば5センチ高い。とはいえモデル揃いのメンバーの中にいると、明らかに埋もれるくらいです」


―身長はそれぞれどれくらいなんですか?


「全員暗記してる訳じゃありませんが、所謂いわゆる「御三家」の黒石真紀・端元奈々緒・松山百合は全員163センチです。半田つかさは158センチだから彼女らの中に入ると5センチ低いことになります。生粋の男として、女の子集団の中に入って見下ろされるのは複雑ではあるでしょう」


―ちなみに、身体を何か女性的にいじることは何かしてるんでしょうか


「して…ないでしょうね。匿名掲示板やゴシップ雑誌なんかでは盛んに書き立ててますけど、状況証拠しかないし、これだけの存在に『整形疑惑』がささやかれたことが無いってのも凄い話です」


―ああ、そう言えばないですね


「胸板も薄いし、横幅も狭くてそれこそ『棒』みたいに見えることがあるんですよ」


―確かに


「人って『記号的特徴』で対象を判断するところがありますからね」


―記号的特徴ですか


「ええ。「髪の毛が長いから女」とかが典型的ですけど」


―いつの時代の話ですか


「まあ、ベタな話です。それと同じで「細いウェスト」ってのは女性的記号そのものですからね」


―まあ…そうですね


「半田つかさくんが視認による性別判定でいつもあっち側に誤認される理由の最大のものの一つが非常に細いウェストであるのは間違いありません。男性の腹は突き出るのが普通なのに明らかにくびれてる」


―はあ


「あのウェスト絞り気味で常にふんわり広がっているスカートの制服衣装が多いこともありますが、そもそもあれらの衣装だってずん胴の人が着たならあんなに可愛く見えません」


―そこは強く同意します


「格好の題材があるんですよ」



「愛宕坂工事中」


*年中行事のコスプレ企画

  次々にペアでコスプレしたメンバーが入場してくる。何人かは男装して、パートナーを従えるかの様に。


  音楽と共に入場してくる二人の人物。一人は甲冑の騎士に男装している。

  もう一人は、純白のウェディングドレスを思わせる大きく広がって波打つスカートに丸く盛り上がった肩と長袖が手首までつながった長袖の衣装に身を包んで満面の笑みを浮かべる半田つかさ。

  何故かアップスタイルの髪型でうなじが全露出している。


  くるくるともてあそばれ、細いウェストを抱き寄せられて至近距離で見つめ会う騎士と姫。喝采。

  スタジオが異様な緊張に包まれる。


  改めて紹介する司会たち。


相良「はい、えーと…半田の男装が見られると思ったんだけどな」

つかさ(お姫様みたいな恰好で)「え?でもボクみたいな男が男装しても面白くないでしょ」

相良「しっかしお前…」


  まじまじと見る相良。カメラが足元から顔までパンアップしてドレスのディティールを映す。

  何故か背後にも回り込んでいたカメラも同様の動きをする。


相良「まるで女みてえだな」

つかさ(お姫様)「(食い気味に)今ごろ!?(スタジオ爆笑)」


  何故か細い細いウェスト部分にクローズアップしているカメラ。



―これは…


自宅にて

キップ「この後のやり取りで、流石にナチュラルでは難しかったらしくって補正下着…コルセットを使ったことは認めてるんですけど、だとしても凄いです」


―複雑な気持ちになりますね


「バラエティ的に当然と言えば当然ではあるんですが、本来女性であるメンバーに男装させ、本来男性である半田つかさに女装させることで『性別逆転現象』的な趣も出してしまいました。差が際立つというかね」



自宅にて

オタク評論家

群尾拓哉「みんな表立って言わないから私が言っちゃいますけど、半田つかさくんって人間として究極形なんですよ」


―人間としてですか


「漫画の「らんかん×2(ダブルダブル)」ってあるでしょ?」


  単行本などのイラストが映る


―ありますね


「あの中に出て来る主人公って、物凄くカジュアルに性転換するんですよ。水をかぶったりお湯をかぶったりで」


―カジュアルにね…


「物語の設定としては一応デメリットというか、ハンディキャップみたいなペナルティみたいな位置づけに一応はなってますけど、別に女の子になったからって戦闘力が落ちる訳でもないし、見た目が可愛くなるというメリットしかないんです」


―はあ


「つかさくんがまさにそれですね。最強の人類」


―良く分からないんですが


「よく男にも女性化願望があるとか女装願望があるとかいうでしょ?」


―まあ、話としては聞きますけど


「あれって要は『ちやほやされたい』『うっとり憧れてもらって優越感に浸りたい』ってことなんじゃないかと思う訳です」


―はあ


「大事なことを忘れてて、生物学的に単なるメスになったからってそれって単なるメスでしかないんですよ」


―はあ


「今の自分の男としてのレベルを考えてみれば分かりそうなもんです。同レベルの女になったとしてもただのブスが出来上がるだけです」


―いや、そんなことないでしょ


「ま、マンガやアニメじゃないんで検証なんかできませんがね。少なくとも私が仮に女装したとしても「どういうレベルの代物」が出来上がるかは…自分が一番良く分かる訳ですよ。そういうんじゃなくて『美人』とか『美少女』になりたい訳です」


―…はあ


「しかも、人間って『執着』が一番見苦しいじゃないですか。煩悩と欲望ですからね」


―ん~どうなんでしょう。そういう風にも言えますけど「目的意識」だったり「貪欲どんよく」で情熱的だったりするのかもしれませんよ


「オレTUEEおれつええ系ってご存知ですか?」


―なんですかそれ?


「物語傾向の分類の一種です。主人公がこれといった修行も無しにとにかく只管ひたすら一方的に強いばかりで、下手すると苦戦すらしない…という」


―はあ


「水戸黄門とか遠山の金さんのオチだけ読んでるようなもんで、ただただ気持ちいい」


―む~ん、そんなの面白いんですかねえ


「一番のポイントは『執着しない』ってことにあるんじゃないかと思うんです。それこそクールにポーズなんぞきめながらそっぽを向いてパチン!と指を鳴らしたら相手が吹っ飛んでる…みたいな」


―???


「単に能力が使えるってだけじゃなくて、そこに如何いかに余裕があって、結果として執着せず、超越しているか。これですよこれ!」


―それが何か…


「半田つかさくんの凄いところは、女装すればあんなに可愛くなるのにそれでいてケロッとしてるところです」


―…はあ


「最も、我々は男の姿を観た訳じゃないんで疑いの余地はありますが」


―普通にドキュメンタリーで男の姿は映ってますし、舞台やアニメでは基本男役ですけど…


「まあ、いいんです。重要なのはそこじゃない」


―はあ


「少なくとも、自分では『どう?可愛いでしょ?』とは全く思わずに…実際どう思ってるのかは知らないですけど…仕事として仕方なく…あくまで淡々と平常心で…女装して、それでいてムチャクチャ可愛い…これが理想形ですわ」


―?すいません。良く分からないんですが、つまり『可愛くあろう』としていては駄目ってことですか?


「はい。少なくとも自分から望んで女装なんて邪道です」


―???


「リードとかパスってご存知ですか?」


―いや、全く知らないです


「パスってのは「通過」って意味ですけど、男性が女装した状態で女性と思われてそのまま通過されることです」


―はあ


「女装を趣味にしてる人はこの「パス」こそが目標で、パスをされると小躍りして喜ぶ…んだそうです」


―良くご存じですね


「知人にそういう人がいるので。個人的に調べたりもしましたけど」


―じゃあ「リード」というのは?


「その反対で、女装した状態で「女装した男だ!」と気付かれてしまって距離を取られることです」


―はあ、プロ野球のベースにいるランナーが「リードを取る」みたいな


「それですそれ。言葉の定義としてふわっとしていて恐縮なんですけど、今って技術が進んでるからお面にしちゃうレベルで塗りたくれば、今の若い子で多少顔が整ってる子なら女の子に仕立て上げるのって可能は可能だと思うんですよ」


―はあ


「ガッチガチに女装して見た目も整えれば。でもそれって、『作られた』美しさとか可愛さじゃないですか」


―まあ、そうとも言えます


「そういうのが欲しいんじゃなくて、ナチュラルに自然な可愛らしさと言うか…それこそズボン履いて普段着でいるのにナンパされるクラスというか」


―…それって、普通に女性じゃないですか


「違います!『綺麗な』女性ですよ」


―???それになりたいってことですか?


「なるんならってことですよ。一生懸命なブスになってもしょうがないでしょ」


―…ポーズが大事ってことなんでしょうか…分かったような分からないような


「だから、それが半田つかさくんなんですって。あれだけ仕事として番組で色んなカッコさせられてて、ある種の男からしてみれば羨ましくて仕方がないのに、嫌がるでもなくそして喜ぶでもなくあくまでも仕事として淡々とこなすクールさというか…」


―…女装出来て羨ましいと言う風にしか聞こえませんが


「それは一部分だけ恣意的に選んでますよ。一応そういうことは言ってはいますけど、そうだなあ…元から綺麗な女の人が『あ、美容で気を付けてることとか特にありません』とか『ダイエットしたことないです』とか言えちゃう感じというか」


―それならちょっと分かります。


「でしょ?」


―分かりますけど、どうして女性的なるプラスポイントにそんなに重きを置くんです?男性ですよね?


「分かんないかなあ。執着の無い人への憧れというか…つかさくんって「愛宕坂工事中」でお姫様みたいなドレス着たことがあるんですけど」


―そうなんですか


「多分、その事実すら今はすっかり忘れて覚えてもいないくらいなんじゃないかなって」


―どうでしょうか


「少なくとも…もしも僕みたいなのが同じシチュエーションに遭遇したら一日中鏡見てますよ。どっちの意味にしても一生忘れないでしょう」


―はあ


「でも、それにすら執着の無い格好よさというか…本当に実在の人物なんですかね。マンガかアニメのキャラクターかなんかなんじゃないかなって思うことがあります」



階段にて

―番組で白いドレス着たのって覚えてます?


つかさ(男性時)「(考え込んで)…あれかな?コスプレで男女ペアになった時の」


―それですそれ!


つかさ(男性時)「覚えてますよ。ええ」


―どう思いました?


つかさ(男性時)「どうって言われても…仕事です」


―あんなに綺麗になってても?


つかさ(男性時)「(苦笑)だから仕事ですって。あなたスーツにネクタイ締めて会社に行って自分のスーツ姿にうっとり見とれたりしないでしょ?」


―そりゃ…


つかさ(男性時)「それと同じです」


―あの時って珍しく「補正下着」を身に着けていたことを公言しましたよね


つかさ(男性時)「よくご存じですね…結構マニアだったんですか?(にこり)」


―取材中に他の方に教えてもらいました


つかさ(男性時)「ああそうですか…。あれってサイズが9号しかなくて」


―9号のドレスお召しになってたんですか!?


つかさ(男性時)「はあ…」


 9号は痩せている女性サイズと言える。一般的な中肉中背の男性が女性物のドレスを着ようと思ったら15号前後でないと着ることは難しいと思われる。


つかさ(男性時)「で、コルセットで締め付けはしましたけど、ドレスのスカートの下は短パンでしたよ。流石にハイヒールは履いてましたけど」


―ハイヒールは履いていたと


つかさ(男性時)「ええ。ドレスのスカート丈というか全体のバランスってハイヒールを履いていることを前提に作られてるらしくって、流石に履いてないと色々おかしくなるからって。この時に限ってですけどね」


―差支えなければ靴のサイズなど


つかさ(男性時)「22.5です」


―小さいですね


つかさ(男性時)「そうですか」


―私は26.5あります


つかさ(男性時)「あのロリ系女優の深地明日子ふかち・あすこちゃんも同じ26.5サイズですよ」


―そうなんですか?


つかさ(男性時)「足のサイズなんて人それぞれでしょ。幸いボクは男にしては小さ目だからハイヒールもわざわざ探さなくていいから助かるって言われますけど」


―うなじがお美しいですよね


つかさ(男性時)「(苦笑して)…どうも」


―どう思います?


つかさ(男性時)「あんまり自分で見たことないから…まあ、有難うございます(ぺこりと頭を下げる)」


―あんまり自分で見たことが無いとおっしゃってますが


つかさ(男性時)「はい」


―一応そういう姿もすることを考えるとしっかり研究されたりした方がいいのでは?


つかさ(男性時)「あ…そう…なんでしょうねきっと」


―余り考えてない?


つかさ(男性時)「一応普通のメイクは頑張って練習したんで出来る様になったとは思うんですけど、そういう特殊なのってプロのメイクさんにお任せして委ねた方がいい結果になることが多いし…今までそれで上手く行ってたからそれでいいかなって」



控室にて

セガーレ岡山「冠番組として有名なのは「愛宕坂工事中」の方なんでしょうけど、ウチの「ATABING!」は基本1クールで数か月に1回、年の1/4ですからね。まあでも共演出来てよかったですよ」


―どうでした?


「いや可愛かった。噂には聞いてたけど、あんなに普通なんだって思いましたね」


―普通?


「僕も職業柄グレーゾーン(笑)の方には随分会いますけど、やっぱみんなどうしても「盛る」感じなんですよ」


―化粧が濃いとか


「分かりやすい表現で言うなら、そうです」


―半田つかさは違うと


「僕、男子トイレで会ったんですけど」


―そうなんですか?


「ええ。入り口ですれ違ったんですけどね。「あ、こんなにちっちゃいんだ!」というのがファーストインプレッションでした」


―まあ、大柄とは言えないでしょう


「やっぱりあの年は特別でしたよ。彼女…じゃなくて彼中心にならざるを得ないもん」


―メロンガイさんもそうおっしゃってました


「ハッキリ言って何をやっても面白くなったんで…本当にありがたかった。僕ってこんなキャラだけど根は真面目なんですよ」


―はあ


「僕の方があんなにいじられるとは思わなかったなあ」


―そうですか


「世の中には『実は男ってところがいい』みたいなひねくれたことを言う人もいるみたいだけど、僕は彼女…っていうか半田つかさくんは女の子であってほしかったな…と思ってます」


―それはどうして


「う~ん、上手く言えないけど、あんな子がこの世のどこかに今も存在してるんだって思うだけで面白いじゃないですか。ワクワクするというか…そんな存在でしたね」



  テロップ「愛宕坂47メンバー 黒石真紀くろいし・まき

廊下にて


黒石「他のメンバーも同じこと言うと思いますけど、つかさちゃんの男の子姿見たことないから信じられないんですよ。あることはあるけど、あれって「男装企画」の時のだし。うん、やっぱり信じられないですね」


―実は男性って言われてもってことですか?


黒石「はい。まあ、男の子っていうのが本当ならモデル業には進出してこないだろうから、そこは助かってます(笑)」


―それはやっぱり「脅威だから」ってことですか?


黒石「確かに身長はあんまりないし、おっぱいも無いですけど…それ以外は完璧だと思います」


―完璧ですか


黒石「でもなんかアレなんですよね?海外には男の人でも女性服のモデルやってる人とかもいるんですよね?」


―いますね


黒石「じゃあやっぱり安心でもないか…(苦笑)」


―恐らくモデル業は本格的にやることは無いと思いますよ。身長が158センチのモデルさんはいないでしょ


黒石「そんなことも無いと思いますけどね。…最後のシングルの振り付け凄かったー。本当に良くあんなことできるなって」


―黒石さんも一応センター経験者ですよね?


黒石「2回だけです。1回はダブルセンターだったし…あたしってセンターへの執着があんまりない方だから…」


―でも、負けてませんよ


黒石「他のメンバーもそうだけど、あたしも可愛い女の子大好きなんで(笑)…つかさちゃん大好きですよ。このグループにいてよかったこと沢山あるけど、間違いなく「半田つかさ」と一緒に活動できたことはその内の一つですね(笑顔)」




  テロップ「愛宕坂47メンバー 若戸由美わかと・ゆみ

廊下にて


―若戸さんは舞台経験者ですけど、半田くんのことはどう思います?


若戸「確かにそれなりに回数もこなさせていただきましたし、多少は自信もっていいのかな?なんて思いましたけど…うちのめされましたね。比較するのも失礼です」


―半田くんのお芝居を観た感想ですか?


若戸「元々舞台役者さんがアイドルやってるんだ…って思い知らされました。月並みな表現だけと舞台上だと本当に別人みたいです。しかも男も女もやれるから…。声が通る通る…。マイクも使わないで、張り上げてないのになんであんなに劇場の隅々まで通る声なんだろ…」


―舞台役者として凄いと


若戸「アイドルとしてバラエティ出てますけど、本来の持ち味の十分の一も出てないと思います。本当に地声も物凄く大きいし…みんなアイドルとしての顔しか知らないのが勿体ないですね。本当に舞台の上でこそえると思いますよ。それでも声優さんしないと生活費に困ってたらしいから…舞台って厳しいですね」


―アイドルとしてより舞台役者「半田つかさ」を観て欲しいと


若戸「はい。なんてことを言いつつも今度舞台で共演させていただくんですけどね(笑顔)。純粋にファンとして共演者として楽しみです」




  テロップ「愛宕坂47メンバー 江藤美也えとう・みや

廊下にて


―江藤さんはカラオケ番組を見に行かれて一足先に会ってるんですよね?


「はい。あれは2回目に出た時…だったと思います(テロップ:実際は3回目)。一応女装っぽいことはしてたのかな」


―どう思いました?


「とにかくちっちゃくて可愛くて…歌も上手くて凄かったです」


―その後紆余曲折あってグループ加入しますが


「あたしは「みやみや」、とか「みや先輩」って呼ばれることが多いんですけど彼女…じゃなくてつかさちゃんは一旦許可を貰いに来てすぐに「みや先輩」って呼び始めてましたね。全く人見知りしないのは羨ましいです」


―呼びやすかったんでしょうね


「あだ名に「先輩」ついてますからね(笑)。途中からこっちがファンになって至近距離から随分見ましたけど(笑)、たまにお人形として持って帰りたくなる欲求を抑えるのが大変でした」


―あなたもアイドルですよね?


「一緒にいると顔が長いのが分かっちゃうのでイヤです(笑)。男の子じゃなかったらもっとグラビアの仕事とかあったんじゃないかなって思うとそこは残念ですね」


―凄い話ですね


「…あのこと(孤児および壮絶な境遇のカミングアウト)あってから更に距離が近くなったけど…あたしはつかさちゃんは女の子であってほしかったな…と思いますね」


―というと?


「一緒にお泊りとか出来ないでしょ?でもがーさん(テロップ:半田つかさ夫人・半田雅羅はんた・がらのこと)とは個人的にお友達になったし…がーさんが来たことはあったんです」


―江藤さんのお宅にですか?


「ええ。だから将来お互いに子供が出来て夫婦の家族ぐるみのお付き合いみたいなことになったらいいのかなって」



  テロップ「愛宕坂47メンバー 堀井奈央ほりい・なお

廊下にて


―確か半田つかささんが「もしも次に女の子に生まれ変わるんだとしたら、堀井さんの顔になりたい」って番組内で言ったんですよね?


堀井「…そうみたいです」


―それ聞いていかがです?


「ありがたいですけど…あたしギョロ目だし、アゴ出てるし…どう見てもつかさちゃんの方が整ってるのになんでかなって」


―そんなことありません。可愛いですよ


「いやいやいや…そう言えば結構見つめられました」


NA「半田つかさは本人に許可を取って、至近距離とまでは言わないがかなり近い距離で相手の顔を凝視する癖がある」


―やっぱり顔に興味があるんですかね


「でもあれ、みんなにやってましたよ(苦笑)。まきやんとかにゃあちゃんとかにも」


―堀井さんは抵抗ありませんでした?


「何にです?」


―愛宕坂に男の子が加入することについて


「?(首をかしげる)」


―だから…半田つかさくんって男の子じゃないですか


「…(瞳孔が開いた状態でしばらくじっとしている)…あ、そうか…つかさちゃんって男の子でしたっけ」


―そうですよ


「改めて言われるまで忘れてました」


―え…


「あっそーか…うんうん(頷く)。別に無いです。はい。叩いてた人みんな知らないでしょうけど、企画で加入が決まった後、体力というか技能オーディションみたいなのにもちゃんと合格してます」


―そうなんですか


「不公平だとか思ったことないです。急な抜擢で困った気持ちもわかるし…」


―卒業後の半田つかささんに何か一言あれば


「…ないです。頑張ってください!また愛宕坂工事中に遊びに来て欲しいです!(笑顔)」




  テロップ「愛宕坂47メンバー 南野日佐子みなみの・ひさこ

廊下にて


―南野さんって半田つかさくんより年上なんですよね


「はいぃ(笑顔)。つかさちゃんホント可愛いですよね!」


―確か「つかさちゃんは全ての女の子に謝って欲しい」って言ったのって南野さんでしたっけ?


「そうです。その前にあたしが…これは別の子からですけど…『ひさこは全ての二十歳はたちに謝って欲しい』って言われてたんで、つかさちゃんにいい返しちゃったんですよ」


―ああ、若々しい雰囲気だから


「童顔だからですよぉ!(笑怒)でもつかさちゃんもちっちゃいですよね。あれ、絶対に二十歳になっても見えないと思う」


―私が今、南野さんがお酒飲めると言っても信じられないんですが


「あーひどーい!」





  テロップ「愛宕坂47メンバー 片山一美かたやま・かずみ

廊下にて


「半田ちゃんの加入に一番反対してたの多分あたしです」


―それは余り表ざたになってないですよね?端元さんはかなり表立っていた印象ですが


「ななん(端元)もねー。確かに。でも最初の…罰ゲーム企画の時からあたし抗議に行ったんですよ。スタッフさんのところに。ちょっとヒド過ぎだって」


  初めて愛宕坂の制服風衣装を着せられた状態で恥ずかしそうにメンバーの前に連れてこられる半田つかさの場面。俯いて顔を真っ赤にしている。

  囃して楽しんだり爆笑しているメンバーの中、端元と片山だけが渋い顔をしているのが良く見ると確認出来る。


―それはやはり男の子だから


「半田ちゃんが可哀想じゃないですか」


―片山さんたちが生理的に無理とかではなく


「ち~がいますって!ん~あたしも普通だったらそういうのが全く無い訳じゃないけど…てゆーか半田ちゃん間違いなく可愛いんですよ。間違いなく。少なくともあたしなんかよりぜんっぜん可愛いんで!」


―いや、そんなことないですよ


「いいですってそれは。だから可愛いとか可愛くないとかそういうレベルの話じゃなくて…やっちゃ駄目だと思うんですよこういうことは」


―男の子が加入することですか?


「まあそうです」


―あの時点ではかなり企画的なものではあれ、「女装して女の声で歌う男の子の歌手」として認知され始めた時期ですよね?本人がどの程度望んでいたかはともかく、女装すること自体は仕事の内だったんじゃないですか?


「かもしれないですけど…一人で女の服着て歌うのとアイドルグループに入るのは違います」


―別に片山さんが、半田つかさくんを嫌いとかってことじゃないですよね?


「だから違いますって。むしろ大好きですよ!でもその…あー難しいっ!難しいんだけど…やっちゃいけないことってあると思うんです。あたしも好きなイブニングお嬢。でも男性のお笑い芸人さんが女装して同じステージで踊られたことがあるってのも知ってます。そういう、一回きりの企画とかだったらいいと思うんですよ」


―加入するのは駄目だと


「はい。最初に出会ったのって歌番組であたしたちがバックダンサーとして登場した時ですけど、あんなに泣いて喜んでくれて…あたしもつられてもらい泣きしちゃったんだけど…男の子だって事実と見た目のイメージが全然ちがくて…」


―もっと男の子みたいだと思ってたんですね?


「そうですね。こりゃシャレになんないわ…と思いました。ぶっちゃけ一目で男の子と分かる感じだったら逆にアリかなとも思うんですけど。いや、やっぱりないかな」


―はあ


「なんかあたしも最近『キレイになった』とか『最近ヤバい』とか言われて有難いんですけど…それって前は駄目だったってことじゃないですかぁ。まあ、分かってるんですけど。えぇ」


―いえ、そんなことないですよ。


「だからいいんですってそれは。…とにかく半田ちゃんにも言えるんですよ。半田ちゃん、この頃可愛らしさがぐんぐん増してるんですよ。幼児退行してんじゃないかってくらいに。あれ、マジでヤバいですよ。…何というか、男の子が女の子の格好どんなにキレイにしてもなんつーかこぉ…体臭?違うな、とにかく雰囲気というかが違うんですよ。普通は!」


―フェロモン?でしょうか


「ああそれかも!何か、違うんですよ。男の子と女の子は。それは女装してようがなんだろうが変わらないんです。お化粧とか香水だけじゃ絶対に誤魔化せない部分というか…握手会にはそういう男性の方もいらっしゃるんですけど、多分目をつぶってても男性か女性かは分かると思います」


―何となく分かります


「でも、半田ちゃんはそこも女の子なんですよ。ほんっとうに分かんなかった!です」


―そうなんですか


「はい。まあそれはいいです。あんまり表ざたにはしませんけど、アイドルなんてウチのまきやん(黒石真紀)とかにゃあちゃん(東野彩萌)みたいな綺麗な子でも文句とかかげ口とか言われるし、握手会に来る人でも何万人に一人は罵声を浴びせに来る様な方もいらっしゃるんです」


―やっぱりいますか


「ええ。確かに半田ちゃんはファンの方々にも基本的には歓迎されて入った形なんですけど、それでも絶対『男のくせに』とかって言われるに決まってるんです。罰ゲームで提示されるくらいなら面白くても、「本当に」入っちゃ駄目なんです」


―頑固ですね


「あたしはいいですって。女子中学生じゃないんだし、お互い大人だし…半田ちゃんまだ19歳だけど…そうじゃなくて絶対半田ちゃんのところにもバッシング行くし、メンバーの熱心なファンから叩かれるに決まってるし…お互い不幸になるんですよ」


―片山さんがフォローしてあげれば


「そりゃしますよ!…ここカットしてくださいね…多分半田ちゃんが楽屋同じになる前は一番喋ってたの多分あたしなんで…。慣れない環境でしかも男の子なのに女の子に混ざってたらさぞ心細いだろうし、なるべくリラックスできる様に緊張をほぐそうとして…半田ちゃん全然緊張しない子なんでその心配いらなかったんですけど」


―そうだったんですか


「だからあたしの話はいいんですって!あたしが悪役になって半田ちゃんへのバッシングを和らげられるもんなら和らげて上げられればいいんだけど…でもそれをやると、あたしのファンの方が『半田ちゃんの所為せいで、ずみん…あたしのニックネームです…が悪役になった!』ってことでうらまれちゃう。彼女…じゃなくて半田ちゃん…の所為せいで誰かが悪役になっちゃったら絶対にダメなんです!」


―やさしいですね


「(一瞬戸惑った後、にへらっという笑顔になって)いやその…困った時にはお互い様というか…結局加入する流れは止められなくて…結構な罪悪感を感じてたんです」


―片山さんが?


「そりゃそうですよ!無理のない形で『流石にそりゃないよね』って風に治められなくて…」


―そこまで考えてあげてたんですね


「半田ちゃん可愛いし、ちゃんとお化粧してキリッとした表情で写真撮ったらもしかして一番キレイかもしれないんで…余計に心配で」


―それでどうして心配なんです?


「そうすると正真正銘の女の子のメンバーを「オチ」というか「引き立て役」にしちゃうってことでしょ?」


―確かに


「バラエティ的に面白いからきっとそういう流れになっちゃうんで…あたしなんかは最初の引き立て役にしてもらって別に構わないし自分からそういう風にふっていくけど…引き立て役にされたメンバーの子のファンにしてみれば面白くないじゃないですかぁ」


―あ…


「しかもそれって別に半田ちゃんは何もして無い訳ですよ」


―でしょうね


「あの子も愛宕坂っぽくて自分からガッついて前に前にって行かない性格だし…でもその流れって止められないでしょ?」


―そうですね


「その流れに乗っかったらみんな不幸になっちゃう…」



階段にて

―カミングアウト前に一番話したのって片山さんなんですか?


つかさ(男性時)「ん~…多分そうかも。あとは若戸さんくらいですね。みんなフレンドリーでしたけど、特にずみん…じゃなくて片山さんはガンガン話しかけてはくれてました。確かに」


―もう卒業されてるんで取材上の秘密喋りますけど、加入にかなり強硬に反対されてたとか


「あ、それ本人から聞いてます」


―そうなんですか?


「ホントに嬉しかったです。あんなに考えてくれてたなんて。妹の位牌のこともずみん…片山さんだけはあの放送の前から知ってました」


―それは初耳です


「楽屋別だったんですけど、流石に時間の余裕の無い時はありましたけど、そうじゃない時は必ず訪ねてきて色々話してくれたんで…荒井さん交えてですけど」


―いい人ですね


「ナンバーワンだと思います。しかもそれを隠そうとするから…隠し切れてないのに(笑顔)」



廊下にて

片山一美「記者さん、あたしたちのライブご覧になったことあります?」


―最初から最後までではないですが、何度か


「テレビとか愛宕中(愛宕坂工事中)だけ観てる方には想像し辛いかもしれないんですけど、やっぱ可愛い女の子たちだらけのアイドルグループなんて、ファンの大半が男性の方なんですよ」


―そうですね


「この頃女の子も増えてるなんてことを言われて、実際そういうところありますけどそれでも8:2くらいで男性ファンですね。女の子のファンが増えたのと同じかそれ以上に男の子のファンも増えて頂いたので」


―確かに


「ライブの掛け声はなんかプロレス会場みたいな感じです。『きゃーっ!』じゃなくて『うおおぉーっ!』みたいな」


―…そうですね


 ライブの一場面。歌に合わせて『あ゛あ゛ぃ!!あ゛あ゛ぃ!!』みたいな野太い声が飛んでいる。


「別にそれが駄目とかそういう話じゃないですからね!基本あたしたちみたいな女の子アイドルのライブってそういう感じだから」


―それで?


「あたしたちのファンの皆さんって割と優しいとかって言われてますけど、基本はやっぱりライブ来たからには燃えたいんですよ。その…火が燃える方の「もえ」分かります?」


―わかりますわかります


「そこだとその…『クールでないもの』の拒否反応というか、ノリをしっかりコントロール出来ないと危ないんです。ぶっちゃけていうと、あたしたちは…それこそあたしみたいなお笑い要員みたいなのでもその…ぶっちゃけ女の子なんで、何しても結構許されるわけですよ」


―え?でも春元真冬さんのぶりっ子とかは結構ヤジとか飛んでる感じですけど


「あれは一連のお約束じゃないですか。それに、それも含めて女の子だからありなんですよ」


―はい


「ライブ会場で、その場の空気のノリが『オカマ野郎ひっこめー!』方向に行っちゃったら最後なんです」


―あ…


「絶対に取り返しが付きません。だからどうにかして、半田ちゃん含めて、メンバーとそしてお客さんもみんな一緒にライブを盛り上げる方向に一体化出来るおぜん立てを整える必要があって…ホントにムチャクチャ一生懸命考えましたもん」


―でも確か、それって一回も無かったんですよね


「まあ、今から考えるとバカみたいな話でして…(笑顔)。あたしなんかの想像以上にファンの皆さんも温かく迎えてくれてて…半田ちゃんの可愛らしさが一番だと思いますけど…告白の後は完全に追い風でしたね」


―そうですね


  『頑張れよー!』という野太い声援に笑顔で手を振って応えるアイドルモードの半田つかさ。


「絶対に腰低くした方がいいよってしつっこくアドバイスしました。それこそ芸人さんにどんなに促されてもメンバーの悪口を別の番組とかで言ったら駄目だって。どんなに笑い取れてもそれはやっちゃ駄目だって。あたしとか真冬みたいなお笑い要員だろうと絶対に駄目。基本は褒めて褒めて褒め倒して、尊敬して自分が一番後ろに下がってるアピールをした方がいいってアドバイスしたんです」


―それはどういう…


「あたしのカンです」


―カン…


「はい。半田ちゃん、確かに異色だし珍しがってもらえてるけど、ちょっとでも調子に乗ってる風にみられたら一気にバッシングの空気になっちゃうから。『そこまで謙虚にならなくても』くらいで丁度いいって。多分意識してないけど、それこそにゃあちゃん(東野)が人気になったのってそういうキャラ含めてなんで」


―なるほど


「ま、あたしなんかがアドバイスするまでもなく半田ちゃん全部分かってたみたいだから…おせっかいでしたね(笑顔)」


―今もプライベートな交流はあるんですか?


「本人とはたまにメールするくらいですけど、がーさんとは良く会います。てゆーかがーさんがウチの父とよく飲んでるらしいんですよ。もお…。あ、節目のライブとかにはお互いの楽屋とか良く行きます。結構会ってますね(爆笑)」


―最後に何か半田つかささんにあれば


「ん~なんか照れるなぁ…。不思議な存在ですね。間違いなく男の子…この間お父さんになったわけだし…のはずで、奥さんともよくいちゃいちゃしてるんだけど、あたしのなかでは全く男の子認定出来ないんですよ。仲のいい女の子との接し方も一応は分かるし、仕事仲間とか、仲のいい男の子との接し方も一応は分かるんだけど…最近になってやっとふっきれたんですよ!スタンスに!」


―最近ですか


「そぉ!最近!もぉ何か半田ちゃんは半田ちゃんっていうか、そういう存在だって思って接してます。妖精さんの友達がいるって思えばなんとかなるかって感じで。でも、構えてるのあたしの方だけなんですよね。半田ちゃん人見知りしないから…すいませんまとまんなくて」


―いえいえ…じゃあ、このカメラを半田つかささんだと思って一言


「えっと…半田ちゃん元気?…ちょっとご無沙汰だね。この間お芝居行けなくてゴメン。これからもひばりちゃん(筆者注:「半田ひばり」…半田つかさの妹・故人)も一緒に仲良くしてね!…ってことで。うわぁー恥ずかしいっ!(真っ赤になって顔を覆う)」



自宅にて


―ちょっと待って下さい。時系列を整理したいんですけど、つかさくんが最初に「カラオケ・デュエル」に出演したのって17歳の最後あたりですよね?


「はい。直後に18歳になって、年をまたいだ春に高校を卒業します」


―ということは、10月に続いて12月に出演した時にはもう女装してますよね?


「まあ、そういうことになりますね。もうこの頃は女装しなくても女の子にしか見えないし、声は完全に女の子で歌ってますけどね」


―つまり、あの半ば殺されかけるほどのいじめを受けた高校にまだ在学していた?


「…そういうことになります」




階段にて

半田つかさ


―いじめてた子たちってどういう反応だったんです?かつてのクラスメートが女装して女の子の声でカラオケ番組に出演してるのを知って


「その頃には完全に学校なんて行ってないんで分かんないですね」


―やっぱりてのひら返したりするんでしょうか?


「…どうかなあ?あ、でも男子は『オカマ野郎』っていじめてきたけど、女子には愛宕坂のファンっぽい子もいたか…うろ覚えですけど」


―本当に全く行ってないんですか?


「おっかなくて行けませんよ(笑)。ボクはいじめと戦わなくてエスケープすることで命を長らえたんで…」


―単位が足りずに卒業できなかったりとかしなかったんですか?


「その辺の仕組みは良く分かんないです。でも、舞台役者に学歴が必要とも思えないから中卒でも構わなかったんですけどね。何だか卒業だけは手続き上出来てたみたいです」



某県某所

クラスメートA子さん(仮名)


―あなたはどれくらい半田つかさ君と一緒だったんですか?


「一年生の時です。というより半田くんは一年の時しか学校来てないので」


―当時はどうでした?


「…はっきり言って可愛かったです。ただ、ちょっと大丈夫なの?ってくらい痩せてて健康的じゃあなかったと思います」


―可愛かったですか


「はい」


―彼は暴行事件の被害に遭って入院しますよね?


「…(小さく頷く)」


―当時のことを知っていたら教えてください


「…直接殴ったり蹴ったりしてたのは男子なんで…あまり…」


―半田つかささんは女子全般に余りいい思い出が無いそうですが…


「それは!…(ピー音)ちゃんです!」


―その女子が中心になっていじめていたと


「(頷く)」


―あなたも加わってましたか?


「…それは…だって仕方がないんです。逆らうどころか、同意するのに間が開いたらもういじめの対象になるし…ポイント制とか」


―ポイント制?


「…本当にちゃんと身元隠してくれるんですよね?モザイク掛けて声も変えて」


―大丈夫です。テレビの取材じゃありませんから声なんて出ません


「あたしたちは東京が地元ってことになると思うんですけど、その子は未だに周囲を従えてます。あたしは地方に進学できたからこうしてインタビューとかにも答えられますけど、…東京に就職してたら絶対にインタビューなんて受けません」


―…その…仮にB子さんとさせてください…。B子さんがクラスを恐怖で支配していた…と理解してよろしいですか?


「(頷く)」


―ポイント制とは何です?


「その子に忠実な態度が認められたら与えられるんです。『あんたは今ので1ポイント』みたいな感じで」


―…それは…


「女子はみんなその子を中心にまとまってて…半田くんはそのターゲットになってました」


―そうですか


「…そういうことが無かったら…かなりモテてたと思います。物凄く美形だったし…女の子っぽい綺麗さではあったけど」


―彼の話と大分違いますが


「!?っ半田くんにインタビューとかしてるんですか?!」


―ええ


「…元気…ですよね?」


―テレビで観ての通りです。というかご覧になってます?


「はい!アルバムもDVDも全部買ってます。テレビも出演してれば全部録画して…」


―彼のことを憎からず思っていたクラスメートは一定数いたと


「…今となっては取り返しがつきませんけど…そうですね」


―そんな彼がどうして半殺しの目に遭ったんでしょう?


「…男子の方のいじめの中心になってた子に目を付けられて…」


―どうして彼ばかり狙われるんでしょうか?やはり「いじめられる側にも責任はある」と思います?


「さっきも言いましたけど半田くんは一学期しか来てないから…。いじめられるのが怖いんで一度も話したこともないし、近寄ったことも無いので…良く分かりません」


―『近寄ったことも無い』…って共学校のクラスメートですよね?


「(金切り声で)仕方ないんです!もしも会話を交わしたりしたらあたしの方が殺されます!」


―…つまり、クラス全員に無視されていたと


「…全校…です」


―全校?


「(金切り声で)しょうがないんですってば!えっと…B子ちゃん怖いし…」


―(ため息)入院した時のことは覚えてますか


「覚えてます」


―なんと説明されたんです?


「余りハッキリは…入院したことだけはホームルームで発表されましたけど」


―学校側はいじめ加害者をかばって隠ぺいを図ったりしたんですか?


「…分かりません」


―しかし、暴行されたとは言わなかった


「…はい」


―妹さんが直後に殺害されますが


「っ!!(突如号泣し始める)」


(ひとしきり泣いて、泣きやむまで数分後)


―もういいです。彼は退院後に短期間だけ学校に来て、その後来なくなりますけどその時の思い出は?


「…余り無いです。半田くんは当事者そのものだから腫れ物に触るみたいな感じでした」


―来なくなったことに関して学校側は何と言ってました?


「噂では自主退学したとか言われてましたけど…」


―一連のいじめからの暴行事件と妹さんの死亡事件はそれなりにクラスに影を落としていた…という理解でいいんでしょうか


「…そう…ですね。無かったこと扱いというか…」


―分かりました。話を飛ばしますが…彼が地下劇団で劇団員をしていたことは知っていましたか?


「全く知りませんでした」


―クラスの誰も?


「一人も知らなかったと思います。…というか、死亡説もあったくらいで」


―一年の一学期だけで行方をくらました形だからですか?


「…ていうか、旧校舎のトイレに『出る』って噂がありました」


―半田つかさくんの幽霊がですか?


「(頷く)」


―…カラオケ番組にあのなりで出演し始めた時に誰か気付きました?同級生は三年生になってますよね


「あたしは1回目の放送は見逃したんですけど…噂になってました」


―それはどれくらい?


「…表現が難しいんですけど…『あれってあの半田じゃね?』って感じで。でも誰も表立って大声あげない感じというか…」


―それは後ろめたいから?


「まあ…そうですよね。学校中で応援して送り出したって感じじゃなかったですし…」


―というか、半殺しにして叩き出してますよね?


「(ふるふると震えながら下唇を噛んでいる)本当に…何なのかって思いますよね…一番のいじめの中心人物だった…B子ちゃん…なんて、気が付いた途端にはしゃいでるし」


―はしゃいでる?


「『一番仲が良かった』みたいなこと言いだして流石に周囲の女の子たちも引きましたよ」


―…


「あたし、こんな言葉使ったことないけど『死ね』って思いました」


―じゃあ、学校中で噂になってたんですね


「ちょっと時間が掛かりました。といっても一週間くらいですけど。だって男の子だったのが女の子になってたから」


―まあ、そうですよね


「同姓同名じゃないかって…。あんまり聞いたことが無い苗字だけど、そこまでムチャクチャ珍しいって訳でもないし…でも面影ありましたから」


―同級生は同一人物認定したんですね?


「はい。しました」


―それでどうしました?


「…あたしはそんなに先生と気さくに話す方じゃなかったし、それほど成績も良くなかったんで…情勢が良く分かりませんでした。でも『まだ籍は残ってるらしい』って噂が駆け巡って」


―そうだったんですか


「12月に2回目の出場をした時には…みんな受験生なのにほとんど全員が生で観てたと思います」


―連絡を取ろうとしたりはしました?


「あたしはしてませんけど、しようとしてた子はいたみたいです。でも半田くんってスマホ持ってなかったし、誰も連絡先知らなくて」


―家に尋ねたりは


「半田くんって…孤児院から通ってたんですよね?」


―よくご存じで


「その頃には孤児院も引き払ってたみたいだし…学校は連絡先教えてくれないし…」


―結局一度も来なかったんですか?


「…噂ですけど、最後の冬休みのお正月とかの間…三学期が始まる前…に一回だけ手続きに来たって言われてます。多分それ以外は来てないと思います」


―会おうと思いました?


「…噂の女装の男の子が半田くんだって分かってから盛り上がりましたけど…冷静に考えれば一年の一学期の最初しかいなかったし、段々と『そんな奴もいたっけ』状態に熱が冷めた…ってとこはありました。あくまであたしの皮膚感覚で申し訳ないですが」


―いえいえ…とはいえ、冷たいですね


「あたしは素敵だと思うけど…やっぱ男子は複雑みたいで」


―どういうことです?


「まだあたしもひよっ子女子大生風情ですけど…あの年頃の男の子なんて、「ムチャクチャ可愛い女装した男の子」なんて複雑じゃないですか。照れくさいというか…イキがりたい年頃だろうし」


―何となく分かります


「あ、そうだそうだ。愛宕坂の熱狂的ファンの子が友達にいるたんですけど、その子なんて怒ってました」


―怒っていた?


「はい」


―男のクセに愛宕坂に加入とかって?


「加入どうこうって話はあたしたちが卒業した後です。カラオケ歌ってた頃ですね」


―もしかして、『半田なんかが自分が大好きなアイドルの歌うたって汚してんじゃねえ!』みたいな感じってことですか?


「…そう…ですね。その子も今時の若い子にありがちで、アイドル並とまではいかないけど結構可愛いのに態度も言葉もキツくて『ざけんじゃねえぞオカマ野郎が!』みたいな感じでしたね」


―過激ですね


「隣のクラスだったかな…確か3期生に申し込んで落ちた子とかもいたみたいです。あたしは会ったことないけど、学校一の美少女でしたけど…まあそんな感じでしたね」


―当時のクラスメートってやっぱりそんな感じだったんですか?


「上手く表現出来ませんけど、忘れてた古傷でしたからね。男子の方が愛宕坂ファン多かったと思うけど…不思議と男子は愛宕坂どうこうで何か言ったりはしてなかったです」


―全体として、どう思われてました?大体でいいんで


「その…やっぱり『女の子になっちゃった』と思ってたみたいです。みんな」


―それは…所謂いわゆるニューハーフとか


「そうですね。いくら口で『この女装は仕事でやってるだけで、普通の男の子です』って言われてもその声もあんなに可愛いんじゃ説得力が無いというか…」


―でも、ボイスチェンジャーみたいに口元を隠して男の子の声も出してましたよ


「その辺はニューハーフの方の仕組みが良く分からないんで…ああそうだ。半田くんってあの頃にはアニメに出演してるんですよね」


―詳しいですね


「…一部のアニメファンの子たちはちょっと騒いでましたね。クラスの…オタク?の男の子に半田くんについて聞いてみたことあるんです」


―オタクですか。太ってメガネかけたりしてる


「???何で知ってるんですか?」


―…何となく言ってみただけです。続きをどうぞ


「中々いい演技してる。将来大きく伸びるだろう…って言ってました」


―その上から目線がオタクっぽいですね


「(苦笑)ホントにね…。でも、話題になって直後に結婚したっていうから…もうビックリというかパニックっていうか…」



階段にて

半田つかさ


―18歳になった直後にご結婚なさいましたよね?


「はい」


―それはどうして?


「法的に可能だったから」


―…在学中ですよね?


「さっきも言いましたけど学校行ってないんで、別に気にしてなかったですよ」


―学校は何か言ってきませんでした?退学にするぞとか


「別に…。もし言われても『するんならすれば?』としか言えないですね。てゆーか籍が残ってたこともビックリだったんで」


―よく学校側が了承しましたね


「あー…悪いけど『クソくらえ』ですね。殺されかけても何もしてくれないどころか何もかも無かったことにした学校が今更人の人生に口を挟めると思ってるんだったらね」



会議室にて

半田つかさ専属マネージャー 荒井恵子


―荒井さんは半田くんのいじめ被害のことはいつごろお聞きになったんです?


「いつだったかなあ…あ、デビュー前だわ。3月…いや2月頃には接触してたけど…その辺かなあ」


―どんな風に?


「思い出しました。サプライズ企画とかは止めてくれって」


―サプライズ企画?


「あの子あんまりテレビ観ないって言ってたのに結構そういうのには敏感なんですよね。テレビ局としてはロクに高校も行ってなかった底辺の地下劇団の役者が華々しくテレビで活躍するようになった!…ってんで母校の卒業式にサプライズライブでも仕込もう!…なんてされたらたまりませんって話でした」


―考えるだけでも悪夢ですね。誰一人幸福にならない


「案外いじめてた連中なんてミーハー的に騒いだりするのかもしれませんけどね。ああいう連中ってそういうツラの皮の厚さがあるんで」


―それで?


「だから、まかり間違ってそういう企画が来たら荒井さんのところで断ってくれって話でした」


―まさかとは思いますが、来てないですよね?


「…来てました」



廊下にて

半田つかさ


―荒井さんによるとそういう話が来てたとか


「みたいですね」


―どう思われました?


「…言わせたいですか?」


―失礼しました。勿論行ってないですよね?


「(無表情)」


―どうやって断ったんです?


「まあ、立ち消えみたいです。一応何も事情を知らなかったテレビ局さんの主導ってことになってますけど、学校も何だかんだで乗り気だったって聞いてます。ってゆーかこれで円満解決ってことにしていじめ問題をチャラにする意図があったんでしょあっちは。あと、『結婚は容認してやるから』みたいなことを言ってたみたいですね。」


―なんですかそれは


「18歳の男が大学生ならともかく、高校生のみそらで在学中に結婚なんてことになったら、『不純異性交遊』に厳しい学校としては示しがつかないってことなんでしょうね」


―いや、『不純』ではないですよね?


「そんな理屈は通りませんよ。頭硬いから。とにかく『卒業証書が欲しいなら、せめて卒業する3月まで籍を入れるのは待ってくれ』って言ってたみたいです」


―卒業の資格をちらつかせて脅した訳ですか


「そんなものに価値があると決めてるんだからねぇ…。おめでたいというかなんというか…。だからこっちも言い返しましたよ。3年近くも塩漬けにしてた生徒を今になって突然退学にしたら、その原因を追究されるかもしれないですねえって」


―あ、いじめ隠ぺいスキャンダルでカウンター浴びせたと


「有名人の立場利用して何かしようなんて思ったことも無いですけど…まあ、向こうがどう取ったかまでは知りません」


―結果として「いじめスキャンダルを公にしないことを条件に在学中の結婚を認め、卒業扱いにしてやる」事になった訳ですね


「みたいですね」


―おめでとうございます


「どうも。…まあ、一応卒業試験めいたものはしましたよ。流石に何も無しにって訳にはいかなかったでしょうし」


―それってデビュー前の春ですよね?


「はい」


―勉強はされてたんですか?


「全く」


―じゃあ一夜漬けで


「まあ。…っていうか形式だけでしょ?試験結果だって知らされてないし。卒業式にだって参加してないし。卒業証書は郵送されてきましたから」



某県某所

A子(仮名)


「ウチの学校って都内だから、距離的にはそれほど離れてはいないんですよ」


―そうですね


「だから卒業式には来るんじゃ?って言ってましたね。特に下級生が」


―あの騒動を知らない世代ってことですね


「まあ…そうです」


―歓迎ムードだったんですかね


「…卒業間際の高校生って結構複雑なんですよ。有名大学に進学を決めた子とかだったら前途洋洋ってところなんでしょうけど、卒業式の段階でも進路があやふやな子とかもいるし」


―3月でそんなことありえるんですか?


「そりゃもう。何次試験だか分からないけど正に卒業式当日もごたごたやってた人もいるし、春の新学期に備えてもう引っ越しちゃった子だって多かったし」


―まあ、確かに高校の三年生の三学期なんてそんなもんですよね


「中学の卒業式なんてみんなで集まって泣いたり、卒業パーティで夜通しカラオケで騒いだり楽しい思い出ばっかりだったんだけど…高校三年の時なんて、クラスで顔と名前の一致しない子が半分くらいでした」


―はあ


「卒業式の当日も三々五々っていうか…よっぽど仲のいい友達でもない限り特に無関心っていうか…しかもあたしたちの学年って、結局半田くんの事件もあったし、最後まで仲良しグループとそうじゃないグループが別れたまんまでバラバラって感じでしたね」


―はあ


「だから少なくとも当事者の大半が集められてたあたしのクラスでは、自分たちを差し置いて目立って有名人になった半田くんは…苦虫を噛み潰す様な存在っていうか…浮かれてはしゃぐ空気と真逆なんだけど、そういうのがないまぜになった感じというか…」


―分かりますけど、有名になったから気に入らないって逆恨みですよね?


「でも、みじめでしたよ。自分たちは将来も知れない底辺なのにあっちはトップの方行ってるんだなあ…っていうか」


―大げさな。18歳の高校生でしょ?人生これからじゃないですか


「…大人はみんなそう言いますけど…半田くんみたいな天才とあたしたち凡人は違うんですよ。生まれつき持ってる人って何をやっても出来るんです。あたしたち凡人が何をやっても手が届かないっていうか」


―…


「学校が表立って半田くんに言及することはほぼありませんでした。でもまあ、卒業生らしいとか、事情があって通ってないとか噂が独り歩きしてました」


―いい方に解釈したということですか?


「そうですね」


―下級生は自慢話にしていたと


「…あたしも聞かれました。どんな人だったんですか?って」


―何と答えたんです?


「…答えられませんよ。下手なこと言ったら何をされるか分からないし」


―それは、そんな時期になってもまだいじめ首謀者のB子さんが怖いってことですか?


「(頷く)…あと、あの当時の男子も」


―(ため息)


「犯人の男子のお母さんって…これ、本当に内緒ですからね…モンスターペアレンツとして有名で…そりゃもう怖い人でした。あの事件はもう無かったこと扱いっていうか…さわらぬ神にたたりなしでした」


―そんな時期までクラスを支配してたんですか


「そりゃ一年の時みたいに始終誰かを殴ってたりはしません。でも、緩やかな監視・支配が続いてる感じでした。あたしはいいけど、クラスの…オタクっぽい男子とか本当に可哀想でしたね」


―可哀想というのは?


「…人権が認められて無いっていうか…」


―そんな状況でも「卒業式にサプライズライブに来てくれるかも」って信じてたんですか?


「あたしはありえないって思ってました。あの頃はまだプロ歌手じゃなかったし」


―半田つかさくんが結婚したのはカラオケ・デュエル1回目の出演と2回目の出演の間なんですけど、知った時はどう思いました?


「…先生が…ヒドかったですね」


―先生?


「偶然というか、3年の時のあたしがいたクラスの担任が1年の時の担任と同じだったんですよ」


―ということは、いじめ暴行事件の時にも担任をしていた当事者


「はい」


―どう酷かったんです?


「18歳で結婚するなんて乱れてるとか何とか…」


―大きなお世話ですね


「しかもその…彼って女の子みたいな声で歌うじゃないですか?だからその…スケベのオカマ野郎だとか何とか…」


―ちょっと待ってください。公立高校ですよね?それってホームルームで言った訳じゃないでしょ?


「ホームルームですよ」


―…(絶句)


「実はウチの学校って、この3年でもう一人亡くなってて…その子は夜遊びも激しくて、泥酔したボーイフレンドの車の事故に巻き込まれて死んだみたいなもんだったんですけど」


―それはまた…


「そしたら『あんな恥知らずは死んだ方がよかった。せいせいした』とか言ってるし」


―…あの、ホントの話してます?


「(金切り声で)本当です!本当なんですって!」


―す、すいません


「(ぜぇはぁいいながら)…こちらこそすいません…でも、あの先生は特に半田くん嫌ってたから」


―それは何故


「…一応、担任した生徒が入院したとなったら指導責任を取られるから…いじめられるのは構わんけど病院行ってんじゃねえとかなんとか…」


―(絶句)


「あと…噂ですけどその…半田くんに言い寄って拒否されたからとか…」


―取材する側として私情を挟んではいけないんですが…こいつこそ死刑にすべきですね


「(ふっと軽く微笑んで)今のあたしじゃありませんからね。記者さんがおっしゃったんで」


―覚悟してますよ。話を戻しますけど、半田くんの結婚については?


「安心…というか…あたしは女の子だから別に男の子が女の子の格好するのは好きにすればいいと思うし、友達がそういう風になったとしても…それこそ好きな男の子とかだったら分かんないけど…別にいいと思ってます。思ってました」


―はあ


「でも、結婚したってことは…それこそ手術して女の子になったりはしてないってことで…ああ、男の子だったんだって思ったと言うか」


―安心した?


「そう…ですね。でも、そっち系の人なのかどうか全然判断が付きませんでした」


―まあ、そうですよね


「結婚してるってことは…下品ですいません…女の人とやることはやってるってことだろうし…それであんなに可愛いって…そういう例ってよくあるんですか?」


―いや、私に言われても


「サークルにもいたんですよ。男の子で」


―ニューハーフの方ですか?


「今のところ違うと思います。あたしが知ってた頃は単なる女装趣味の男の子です」


―機能的には男性であると


「学園祭でウェディングドレス着たから目覚めちゃったとか言ってますけど…あたしがメイク役でした」


―その方は半田くんなみに綺麗なんですか?


「(ぶんぶんぶん!と全力で首を振って)…全っ然です。てゆーか今の半田くん、あたしより…っていうかその辺の女の子より可愛いんですよ?…その子なんて…まあ、ぶっちゃけ…ちょっと…という感じです」


―やめといた方がいいと


「本人の意識と見た目なんて関係ないでしょうけど…少なくとも、どんなに頑張っても『女装した男性』以外に見えることは無い感じですね。というか、背も高いし筋肉質だし…今の記者さんよりずっと「男らしい」感じでした。はっきり言って『やめといた方がいい』って思いました」


―それ、本人におっしゃいました?


「遠まわしに何度か」


―それでどうなりました?


「疎遠になりました」


―今、その彼は?


「…分かんないです。手術受けるために海外に行ったとか聞いてますけど…」


―性転換手術を


「…記者さんなんだったら用語は正確にお願いします。今は『性別適合手術』です」


―失礼しました


「今も半田くんに関しては良く分からないです。あんなに可愛い…っていうか、日常生活でも男性と思ってもらえないレベルで、普通の男の子ですって言われても…それでいて『仕事で女装』っていうか『仕事でアイドル』してるんでしょ?」


―でも、歌舞伎の女形おやまみたいに仕事で女装してる人はいますよ。普段はダンディに決めてる二河蟹蔵にかわ・かにぞうだって舞台の上ではお化粧して女装したりしてます


「でも、それと『美少女アイドル』じゃやっぱり違いますよ。ウチの母のところに帰省して一緒にテレビ見てた時に半田くんが映ったことがあるんですよ」


―どうでした?


「『ああ、あのオカマの子ね』って言ってました」


―お年寄りだとそういう認識なんでしょうね


「その…それこそ女の子でもいるじゃないですか、『精神は男の子』みたいな」


―いますね。性自認が男性だけど肉体的には女性みたいな


「だからそんな感じの子なのかなってこの頃思い始めました。精神が男の子なら男の子だし」


―でも、女の子のお芝居上手いですよね


「(前のめりになって)ですよねー!!あれ、何なんですかね!!」


―(ちょっと気おされて)…そこは「役者」ってことなんじゃないですか?


「そっかー…でも、『見た目は女の子、意識は男の子』ってことなら納得です。そういう意味でいうなら半田くん変わってないんだなって」


―A子さんって同い年ですよね?


「そりゃ同級生ですから」


―会いたいと思います?


「…そりゃ…純粋にファンですし…思いますけど…何をいまさらっていうか…どのツラ下げてですよね」


―でも、あなたは加担していなかったんでしょ?


「そりゃ殴ったり水かけたり首絞めたりはしてませんけど…無視したり加担してたりはしましたから…」


―しかし、首謀者じゃなかった


「半田くんにとっては同じですよ。大勢いるクラスメートの内の一人です」


―未だにボスとして君臨するような暴君に一介の女子校生が立ち向かえる訳がありません。きっと半田くんも許してくれると思いますよ


「…あなた何なんですか突然」


―え…


「あなたにあの頃のあたしたちや半田くんの一体何が分かるっていうんですか!」


―それは…取材で…


「もう帰ります(立ちあがる)。いいですか?あたしはあくまでも一介のファンとしてこれからも半田ちゃんを支えます。絶対に!いいですか!絶対の絶対のぜっっっったいに!あたしを取材したこととか半田ちゃんに伝えたりしないでくださいね!そんなことしたら許しませんから!」


 レシートを掴んで立ち去るA子。


「(遠くから)絶対にですよ!」



階段にて

半田つかさ


―握手会にクラスメートが来たことってあります?


「…ありますよ」


―それは男性、女性どっちです?


「男ですね」



都内某所

半田つかさの元・クラスメートC介(仮名)


 太ったメガネにチェック柄のシャツ。ハチマキには「半田つかさ」の文字


―半田つかさくんの握手会に参加したとか


「いや~苦労しましたよ!20枚送って3枚当てましたから!この強運っ!」


―…半田つかさくんの元・クラスメートだとか


「はい」


―高校生当時のことをお伺いしたいんですが


「…一学期のってことですよね?」


―ええ。複数の証言から入学とほぼ同時に苛烈ないじめが開始されたと


「まあ、そうですね。あの当時一番話したのがオレですよ。間違いない」


―そうなんですか?


「あいつ覚えてましたもん」


―あなたを?


「ええ」


 半田つかさの異様な記憶力は、握手会に来たファン一人一人すら目の前にすれば記憶が蘇るほどだと言われている。


―それで?


「当時は余り喋らなかったですね。無口というか。テレビ観ないみたいでアイドルの事とか何もしらなくて」


―アイドルの話振ったんですか


「ええ。愛宕坂ってその頃はまだ知る人ぞ知るというかあんまり人気無かったんだけど、オレが魅力を説いたんですよ」


―…もしかしてあなたがこっちの方向を目覚めさせたとか?


「いやいやいや!流石にそれはないでしょ。『妹が好きだって言ってた』って言ってたから、あくまで妹さんの為に関心を持ったと思いますよ」


―何か差し入れしたりとか


「もう時効なんで言いますけど、オレってシングルを全部買ってたんでダビングしてやりましたよ」


―そうなんですか!?


「それもカセットテープですよ」



階段にて

半田つかさ


―カセットテープで愛宕坂聴いてたんですか?


「ゴミ捨て場に捨ててあった古い携帯型カセットプレイヤーが唯一に近い所持品だったんです。妹の位牌を壊された後もそれだけは持ってて…バイトの合間とか、往復の電車の中で聴いてました」


―クラスメートの男の子に愛宕坂の曲を貰ったって聞きましたけど


「…もらいました」


―その子とは?


「入院騒動のごたごたで在学中は会ってません」


―幸運でしたね


「…まあ…そうですね」



都内某所

半田つかさの元・クラスメートC介(仮名)


―もう少し当時のクラスの雰囲気等についてお伺いしたいんですが


「…まあ、酷かったですよ。半田もターゲットだったけど、クラス全体が監視社会みたいな感じで」


―ボスが君臨していたと


「教師もクソの役にも立たないどころか率先していじめてましたから」


―…そうなんですか


「その中でも何とかならないかと頑張ってはいたんですけどね」


―というと?


「穏便にボスの機嫌を損ねない様に、上手くかわすというか」


―具体的には


「連中は半田をみればちょっかい出す訳です。だから保健室に行くとか、タイミングを外して職員室近くのトイレ使うとか」


―細かいですね


「しかしまあ…それも全部徒労に終わりました(軽く肩を落とす)」


―私の取材した限りですけど、あなたはその程度であっても頑張った唯一の存在だと思いますよ


「あいつ自身が殺されかけて、妹さんは殺されて…オレもやられましたから」


―え?


「腕をへし折られて入院してました。幸い障害も無く完治しましたけど」


―それって傷害事件ですよね?


「(失笑)二人も殺しかけても何の問題にもならないんですよ?ていうか実際殺してるのに無かったこと扱いです。腕の一本なんてハナクソ同然ですわ」


―どうしてそこまで無法地帯なんですか?


「さあ。ともかくオレはそこから引きこもりです」


―え?


「申し訳ないんですけどその後学校なんて行ってません。てゆーかあの学年は不登校が3年通して10人くらいは出てますよ。殺人は1件だけだけど、未遂は半田のが1件あるし、自殺も1件あってきっとあいつらのせいですわ」


―…(絶句)


「性的に乱れてたってことになってる事故死がありますけど、そんなの問題じゃないですよ。1人自殺したってことはその陰で10人20人はノイローゼになったりしてます」


―立ち入ったことをお伺いしますけど、現在のお仕事は?


「働いてません。ニートです」


―じゃあ…愛宕坂とか半田つかさのCDとかはどうやって買ってるんですか?


「親のすねですね」


―いや…自分で稼いだお金で買ってあげた方が彼女たちも喜ぶと思いますが


「ガールズアイドルグループに出したお金がメンバー個人に幾ら還元されるってんですか。とにかく大きなお世話です。見てくださいこれ!」


 出してきた写真には、ドヤ顔でカメラ目線を決めるC介と、その隣にいる美少女然とした半田つかさが少し困った表情で映っている。

 顔のサイズが倍ほども違い、身長も頭一つ違う。「美女と野獣」ならぬ「不細工と美少女」という風情だ。実際には男同士なのだが。


「この間ついに撮れたんですよ!いや~苦労したなあ」


 満面の笑み。


―…これはどうやって…?


「だから幸運だって言ったでしょ?2ショット撮影会が半田つかさが愛宕坂加入中に1回だけあった握手会の後にあったんです。それに受かったんですよ!」


―(引いている)…はあ


「あいつの手、冷たかったなあ…冷え症ってところまで女をコピーせんでもいいのにねえ。あ、オレって愛宕坂と半田つかさのファンブログやってるんで良かったら見てください!」



スタジオにて

半田つかさ


―C介さんのことは覚えてます?


「(頷く)」


―どうです?


「何か熱心なファンだって言ってくれてるんで…有難いです」


―意地悪な言い方になりますけど、消費者としてってことですか?


「ホント…意地悪ですね(微苦笑して)…まあ、ボクがこんなこと(自分を指す)になる前からの知人っていうと奥さんと劇団員のみんな以外だと、彼くらいだと思うんで…」


―それほど熱烈な親友って訳じゃ無いと


「う~ん…何しろ一か月くらいしか高校行ってないんで…愛宕坂のカセットもらったのは有り難いと思ってますけど、親友なんて言ったら彼にも迷惑が掛かるだろうし」


―そんなことないと思いますよ。言ってあげてみては?


「一緒に写真も撮りましたけど、無銭むせんでこれ以上話せないから!とか言ってすぐに離れたし、別に楽屋に来れば普通に話すけど特に来ないし…あっちはあっちで気を遣ってくれてるみたいですし、いい距離感なんじゃないかと」


―すいません、無銭むせんって何です?


「握手権ありのアイドルって、言ってみればお金払わないと会えないんですよ。でも関係者とか友達は普通に会えるし話せるでしょ?」


―まあ


「こういう「一般のファンがお金払ってアイドルにやっと会えるのを尻目に、特権でタダでアイドルに接触する」行為を無銭むせんって言うんです」


―それを避けてると


「律儀にね(笑顔)」



テレビ局の廊下にて

 「桜坂47」メンバー平足百合絵ひらと・ゆりえ


―直接会ったことはあるんですか?


「番組の企画で、初ワンマンライブの後に取材に来て頂きました」


―いかがでした?


「もう本当に綺麗で可愛くて…ほぁ~ってなりました(笑)。年上でいらっしゃるのに(平足とは4歳差)あたしよりちっちゃくて…」


―男の子ですけど、その辺は


「それは単に男の子ってだけです」


―いや…小さくない問題でしょ


「あたしは別に…」


―私の印象で恐縮なんですが、桜坂さんはお姉さんグループの愛宕坂よりも現代っ子っぽいというかギャルっぽいイメージがあるんですが


「全員がそんな風じゃないですよ。大人しい子もいます」


―そういう子たちって、女装してアイドルやってる男のなんて「キモい」とか言ってそうなんですけど、実際問題どうです?


「まあ…言ってましたね」


―やっぱり


「でも、半田さんだけじゃなくて世の中のあらゆるものに口調がキツい子だから…」


―イマドキの若い子ですねえ


「…コメント頂いたんですよ!ワンマンライブの後に!」


実際に放送されたワンマンライブ後の廊下

半田つかさ「皆さん本日はお疲れ様でした!」

桜坂47「「「「「お疲れ様でした~」」」」」



テレビ局の廊下にて

 桜坂47メンバー平足百合絵ひらと・ゆりえ


「その時に頂いたコメントが本当に素敵で…大ファンになりました!全員がこの時大好きになったと思います」


―そうなんですか


「今も『あの時凄かったよね~』ってメンバーの子とよく話題になります」


―そんなに


「一生忘れないと思います。あの時に頂いた言葉があればアイドルである間は思い出して頑張れると思います。陰で何言ってても実際に会っちゃうと大好きになりますね。一番のアンチだった子が今じゃ一番のファンですから」




キップ

自宅にて


「逆に僕の方からお伺いしたいんですが、半田つかさの愛宕坂時代にインパクトがあった出来事と言えば?」


―…カツラを取ったことですかね


「お目が高い。あれは画期的でしたよね」


―そうですね


「衝撃的な生い立ちのカミングアウトは16枚目選抜の直前に行われたんですけど、この時背中まであった長い髪が一気にショートよりも少し長いくらいになってるんですよね」


―見た目の変化も衝撃的でした


「これも単なる『女装男子』ではありえないです。普通は」


―そうなんですか?


「長い髪は、直接的なガーリーでフェミニンな『記号』ですけど、色んなところを『隠す』役割もあるんで都合がいいんですよ」


―隠す?


「顔の輪郭もそうですし、生え際とかうなじとか…お化粧やら何やらで誤魔化せる箇所じゃないところを隠して目立たなくする役割もあって一石二鳥なんですよ」


―髪を切ったのかと思いました


「別に切ってなくて、地毛がやっと女の子としてもそれほど無理が無い程度まで伸びたんでいいきっかけだからカツラを脱いだってことらしいですけどね。とにかく、見た目が大きく違うので半田つかさファンの間では『前期』と『後期』で分けられる…なんてことを言ってる人もいるみたいです」



とあるカラオケボックス

半田つかさファンの女の子N「あれヤバかったです。ショートになった時」

同じく女の子M「ヤバかったヤバかった!」


―カミングアウトの時ですね


N「もう可愛い!ムチャクチャ可愛くてきゅんきゅんします!」

M「一家に一人欲しいですね」


―男の子ですけど


N「男子…っていうか男の人ってそればっか言いますよね?気にしてんのそっち側だけですよ」

M「そーですよ!」


―え…こういうのって女性の方が気にするもんじゃないんですか?


M「しませんよ!女は下心あるかどうかなんて見れば分かるんです!」

N「そーそー!」



キップ

自宅にて


「皮肉なことに…って訳でもないんでしょうけど、ショートになったことで益々女の子っぽく見える様になっちゃいましたね」


―いや、髪が長い方が女の子に見えるでしょ


「ファンもショート派とロング派で血で血を洗う抗争を繰り広げています」


―何やってんですか


「これも後知恵なんですが、実は単に髪を短くしたら少年ぽく見えるって訳じゃないんです」


―といいますと?


「実は女の子の『ショートカット』と男の『短い髪』は全く違うものなんです」


―…長さだけで言えば似てるんでは?


「やっぱり騙されてる」


―はあ


「つかさくんはこの後、卒業しても大体このくらいの髪の長さをキープしてて、一種のトレードマークみたいになってます。映画に出た頃にはもう少し長くなってますけど」


―そうですね。新しいファンはショート時代以降しか知らないなんて人も出始めてます


「私も美容師じゃないんで逐一全部指摘できる訳じゃないんですけど、もみあげの有無やら位置やら頭頂部の髪の毛の残し方やヴォリューム、毛足やらとにかく細かいところが全く、全てに渡って違うんですよ」


―そうなんですか


「試しにいかつい顔のおっさんを「女の子風ショートカット」にしてみれば分かります。ハンパじゃなく気持ち悪いんで」


―はあ…


「半田つかさは卒業後、女の子アイドル枠に縛られなくなったということでテレビ番組なんかに出演する時にも愛宕坂の制服衣装みたいなのではなくて『ボーイッシュな女の子』風に見えるスタイルでよく出演しますけど、その時にあのショートカットが武器になるんですよ」


―武器って大げさな


「何だかんだ言ってもどれほど可愛くても生物学的には男ではある訳で、余りにも恣意的な女装とか長い髪ってのはわざとらしいと見えるんです」


―はあ


「でも、ショートカットなら『髪型は男の子なんだ』と言う風に見えないこともないでしょ?」


―あ…


「実際には全くそんなことなくて、『ショートカット』ってのは『下手なロングヘアよりも女性的』な髪型なんです。戦略的なんですよ」


―確かに、ヒッピーとかでもロングヘアだけど別に女性的には見えないですからね


「その通り!噂では行きつけの理容室に指定の美容師さんがいて、しっかり整えてくれてるそうです。普通の床屋さんに行って、男の感覚で『とりあえずちょっと切って』なんて言って「男の切り方」でやられたら大変なことになります」


―…そうなんですか


「それこそ、生まれつきの女性…美少女であっても「男っぽい」髪に切られたら「服だけ女装した男の子」に見えちゃいますよ」


―はあ


「よく言われますけど、ショートカットが似合うってのは本当に造形が綺麗な美少女だけです。全く憎らしいくらいにお見事ですよ」


―結局16枚目はMVもそうですし、ステージもライブも全部あのショートなんですよね。


「どうしても半田つかさっていえばあの長い髪もセットで認識してましたから、あのまま選抜だったらなあ…って思わないことも無いですね。私はロング派なので」


―キップさんはアイドルファンではないとお伺いしましたが…


「(無視して)半田つかさが愛宕坂に残した最大の功績…何てことも言われてる17枚目のMVですが」


―冒頭に選抜メンバー紹介のアニメ風演出が入るあれですね


「ええ。あれも基本はショートのままです。でも…1カットだけお遊びで変装場面があるんですけど、そこでロングに変装したカットがあるんですよ。つかさくんもやっと自分の魅力が分かって来たじゃないかと」


―…(ドン引き)


「在籍期間はわずか1年ですけど、前期と後期で別人みたいに髪型が違うってのはどの程度計算だったのか分かりませんけど新鮮な効果を生みましたね。カミングアウトを境にしたのも結果的に良かった」



廊下にて

半田つかさ


―カミングアウトと同時にショートにした理由はあります?


「髪が伸びてきた…っていうか伸ばしたんです。荒井さんとも相談してこれくらいならアイドルとしてありだろうってことで」


―長い髪をバッサリ切った印象になりましたよね?


「そうですね。ま、細かく切りそろえはしましたけどね。あと、メイクの時間が大幅に短縮出来る様になったんで…」


―あ、長い髪だとやっぱり違いますか


「はい。ネット被ってウィッグ付けて整えて…まあほかにも沢山あります」


―熱心なファンには残念がられたりもしていたみたいですが


「…ムチャクチャ色んな意見もらいました。みんな結構髪型には幻想見てるんだなーって(笑)」


―利便性だけですか?


「それが主ですね。あと危険性とか」


―危険性?


「ただでさえ幻想に支えられてるじゃないですかボクって」


―まあ…


「それこそドッキリとかに引っ掛かってカツラ取れちゃったらかなりマヌケな姿をさらすことになるから」


―清純派アイドルグループにそれやりますかね?


「ATABING!の一期観てないんですか?」


―…そうでした


「カツラしてなきゃ取れることも無いし…。暑いし重いし…」


―あ、やっぱりそうでしたか


「夏の全国ツアー長いままだったんで…取ってから楽で楽で…もっと早く外してればよかったなって」


―幻想が壊れることおっしゃいますね


「男に幻想も何もないでしょ」


―それを言ったら話にならないじゃないですか


「まあね(笑)。でもまあ、制服着てメイクして、あのウィッグの重い感じが来るとアイドルスイッチが入る感じはありましたけどね」


―やっぱりありますか


「長めのスカートと並んで長い髪は回転すると“ぶわっ”と広がるから、あれをどう操るかが腕の見せ所だったんで、武器を一つ失っちゃいましたけどね」


―武器ですか


「アイドルはスポーツですよ。格闘技とまでは言いませんけど、間違いなくスポーツなんです」



部屋にて

キップ


「『アイドルはスポーツ』ってけだし名言ですよね」


―何かの番組で言ったんですよねこれ。


「在籍中にトーク番組で言ってます。「アイドルはスポーツです!オリンピックにアイドルって種目があっても不思議じゃないです!」ってね」


―随分あやふやなスポーツですね(笑)


「過去には『詩』とか『絵画』なんてのもあったんで芸術部門という意味ではそこまで荒唐無稽でもないんですけどね」


―そうなんですか?


「まあ、それはともかく外見上『髪を切った』形になったこの辺りで遂に半田つかさくんは『キャラを確立』します」


―それまでの8か月で確立していなかったとはとても思えないのですが…


「いや、非常に細かくではありますけど試行錯誤してました。ここに来て遂に正解を見つけたんですね」


―具体的には…


「1つは『口調』ですね」


―口調


「何しろ意識的に切り換えられるので、男の子の声で喋るのも女の子の声で喋るのも自由自在です」


―ですね


「ということは、その女の子の声はわざとか!?って話になります」


―わざとって…仕事としてアイドルやるからにはそりゃわざとでしょ


「…ここが難しいところなんですが、世間の『女装』に対する視線の厳しさというのは『男なのに女の格好するなんて!』ってところにあります」


―まあ…そうですが


「ここまで縷々説明してきた通り、一応つかさくんは「企画として押し付けられた」という体裁…神話と言ってもいい…で乗り切ってきた訳です。自分から望んでやってるわけじゃないぞと」


―はい


「といっても、その前提を知らない人にとっては『女装した男の子』に過ぎません。どれほど可愛らしかろうがそれだけで気色悪がる人は悪がります」


―はあ


「例えば…メンバー随一の美少女と言えば、東野彩萌ひがしの・あやめ何かがそうですが、仮に「実は男の子です」と紹介されたとします」


―そんなバカな


「例え話ですって。そうなれば一定数「うげっ!気持ち悪い!」と思う人は出ることでしょう」


―まあ…


「でもそれっておかしいですよね?東野彩萌は正真正銘の女の子なんだから男の子っぽく見える訳が無い」


―はあ


「要はイメージや先入観はそれほど強烈だということです」


―えっと…具体的に何をおっしゃりたいんです?


「それまで半田つかさは、『口調』に関しては「たどたどしい丁寧語」で乗り切ってました」


―です、ます調ってことですよね?


「はい。ただ、注意深く聞いていれば分かりますけど特にアイドルの美少女の声ってのは単に語尾が丁寧ってだけじゃなくて、発音法そのものが違うんです」


―何となく分かります


「半田くんは器用だからお芝居でそれも完璧にこなせます。こなせますけど、実際に性転換しちゃった訳でもない。女装も仕方なくです。だから『喋り方』までクネクネする必要はないわけです」


―いや、別にクネクネはしてないでしょ


「…ここが案外微妙かつデリケートなバランスの話でね。半田くんは外見が完全に美少女に見える男の子です」


―はい


「容姿は…そりゃある程度はメイクとかで誤魔化せるにしても、基本的には生まれ持ったものであって、「本人の意思」は関係ありません」


―そうですね


「なので言ってみれば、『本人は望んでいないけど、立場として美少女アイドルにされてしまった男の子』という神話が成り立つ訳です」


―まあ、そういうことにします


「ここで、声が女の子の声しか出せないってんなら…問題無かったんです。それこそ佐山かのみたいにね」


―ああ、あの女性モデルとして活躍してて元・男性だったことをカミングアウトした


「ええ。彼女…まあ、彼女でいいでしょ…は逆に『男の声』なんて出せません」


―そうですね


「ところが半田くんは両方の声を出せます。そしてそれで食べてる」


―はい


「ということは、さっきも言ったみたいに『敢えて女の子の声で喋ってる』ってことになる」


―でも、それが仕事ってことでしょ?


「アイドルってのは総合的なものです。「素のしゃべり」もまた芸の内です。「あのアイドルの裏側を知りたい」から他愛ない話でも珍重されるわけです」


―それで?


「声質ならまだしも、これで口調というかイントネーションまで女性だと、声は澄んだ可愛らしいものであっても機能としては裏声のダミ声…あの『いやぁ~ん』のオカマ声と変わらなくなってしまいます」


―…?そういうもんですかね


「それを察してか知りませんが、…前にも指摘した通り、巨漢のオカマタレントであるマリコ・ゴージャスは「〇〇よ!」とか「××かしら」なんて言いながら声は丸っきり男のままで裏声は使ってません。過剰に装ってないわけです」


―まだおっしゃりたいことが分からないんですが


「(にやりとして)ここでつかさくんが選んだのが『声質だけは完全に女の子のまま、口調は男の子』でした」


―…え?



「動物に感謝!」

   愛宕坂の制服衣装でお笑い芸人たちと猫カフェに来ている。

つかさ「うひゃ~!可愛い!可愛い!」

   猫を追いかけているつかさ。ほどなく捕まえる。

つかさ「うりゃっ!捕まえたぁ~っ(にっこり)」

お笑い芸人1「半田さんは猫好きなんですか?」

つかさ「ボクは断然!猫派です(笑顔)」



―…やっぱり「ボク」が強烈ですね


「実はテレビ局には半田くんがボクボク言う度に苦情が来るらしいんですよ」


―どういうことです?


「公序良俗に反する!とか性の意識が未分化の子供が観て複雑な気分になったらどうすんだ!…みたいな」


―何といっていいのか分からないですが…


「ちなみに海外のアニメだったならば完全にアウトでしょうね」


―アニメ?


「アニメ『カードコレクターざくろ』には主役級の男の子が、二枚目の大人にまるで少女の様に照れる場面が良くありますがアメリカでは完全にカットになってます」


―…もしかして同性愛的だから?


「はい。登場人物が女装したり性転換したりするアニメなんかも放送されませんし、オカマキャラすら口調がヘンテコな女性という設定に改変されたりします」


―まあ、それは分かったんですが


「失礼しました。ともあれ年末に差し掛かる少し前にこの路線に転換します。実は完璧に男の子口調ではなくて、アニメで女性が演じる男の子演技をベースに若干アレンジされたものではあるんですけどね。ともあれこれは路線として物凄く上手かった」


―といいますと?


「私も半田くんを分析していて色々分かったんですけど、どうしても世の中には所謂いわゆる「オカマ」の方に対するぬぐい難い嫌悪感があるじゃないですか」


―…そうかもしれません


「PC(ポリティカリー・コレクトネス(政治的正しさ))で表立って言ってはいけないことになってますけど、ともかくそれがなぜなのかと考えてみたんです」


―オカマの方が何故気持ち悪いかをですか?


「はい」


―はあ


「あくまで仮説ですけど、そこはギャップというかミスマッチじゃないかと思うんです」


―男のクセに女の格好をしている…とか?


「おっしゃる通りなんですが、よく言われますが逆はそこまでタブーじゃないでしょ?」


―女性が男装することですね


「はい。当の愛宕坂でも妹グループの桜坂でもしょっちゅう『男装企画』が行われます」


―どうしてなんでしょう?


「敢えて「大人と子供」で例えてみると分かりやすいんじゃないかと」


―大人と子供ですか


「ええ。例えば「大人」が無理やり「子供」の服を着て、「子供っぽく喋って」いたら滑稽こっけいでしょ?」


―…確かに


「でも、「子供」が無理やり「大人」の服を着て、大人っぽく喋ったとしても違和感はあっても逆よりは恥ずかしくは無いでしょ?」


―…言われてみればそうですね


「男女の関係は要はそういうことなんじゃないかと」


―む~ん、それこそPC的に難しいご意見だ


「ここで注目して欲しいのは『態度』です」


―態度


「服を着ることに関しては…まあ、いいとしましょう」


―はあ


「ところが、口調…喋り方とか、仕草とかってことになると、自ら望んで演じなくてはいけません」


―そうですね


「ここです。ポイントはここじゃないかと」


―良く分かりません


「服を着るのも、肉体的に女性的なのも…言ってみれば環境がなさしめたことであって、本人の意思とは関係ないわけです。あと残るは『精神』ってことになるんだけど、そこは半田くんが常々自称してる通り『男の子として生まれて、今も男の子』なので、男の子でいいわけです」


―???


「マンガじゃないんだから、見た目も声も完璧に女の子なのに精神が男の子ってのはありえない取り合わせです。けど、半田くんは偶然そういう風に生まれついちゃった訳です。ここで絶対に揺らいではいけないのは『精神は男の子』ってところ」


―…?でも、女の子アイドルですよね


「そこなんです。半田くんはこの時点で6月加入で10月になるまで5か月あったんですけど、その点物凄く迷ってた訳です。咄嗟に何かがあった時に女の子として「きゃー!」と言えばいいのか、男の子として「うおおぉあ!」と言えばいいのか」


―む~ん…


「番組内で『アイドル状態の時は余り自分で鏡は見ない』と言ってますけど、反面忙しいのに自分が出た番組は録画して観るらしいんで、恐らくそこで分析した結果なんでしょうね。基本的にあくまでも精神はどこまでも『男の子』…というか『少年』というスタンスを発見…『確立』したんです」



スタジオにて


―…という分析があるんですが


半田つかさ「…(考え込んで)…「少年」ってことではないですけど、「自然体」がいいな…とは思いましたね」


―自然体ですか


「スタジオでキャーッ!とか言ってるメンバーって良く見ると割と固定してるんですよ」


―…そう言ってないメンバーもいると


「ななん…じゃなくて端元さんとかはそうですね」


―ああ、確かにクールなイメージありますね


「わか…じゃなくて若戸さんなんかもそっちよりかな。まふったん…じゃなくて春元さんなんかは真逆ですね」


―あの…別に元メンバーなんだしあだ名は呼んでも誰も怒らないと思いますよ


「あーじゃなくてあだ名だと聞いても分からない視聴者さんいらっしゃるでしょ?テロップ入れるのも面倒くさいだろうし」


―ご配慮感謝します


「まーともかく、みんな素直にリアクションしてるんで、『ああそうか!作らないでいいんだ!』とは思いました。もしかしたらそれがきっかけといえばきっかけなのかも」


―16枚目選抜で髪を切った…じゃなくてショートになった頃からリアクションというか挙動がより少年っぽくなったと言われますけど


「作らないでより自然に…とは思ってました。男の子なんで、それで少年っぽくなったってことならそうなんでしょうね」


―やはり心境の変化はあったと


「冷静に考えればボクの愛宕坂47の一員としての最大の個性って『男の子』だってことだと思うんですよ(笑顔)」


―まあ…歌が上手いとかもありますけど


「有難うございます…。でもまあ、一番大きいのってそれじゃないですか」


―そうですね


「だったらその個性って活かさなきゃ勿体ないなって」


―でも、一応は女性アイドルとして所属してるわけでしょ?


「(にっこり笑って)そこはね…ここ使ってほしくないなあ…そこは腕の見せ所というか…」



自宅にて

キップ「ギャップってのは上手く演出が決まれば物凄く強烈に精神に複雑なものを喚起します」


―もう少し具体的に


「よく言われているのは、『人間に全く似ていない物が人間的な挙動を取ると物凄く可愛く見える』というのがあります」


―なんですかそれ?


「例えば猫なんかが、無理やり人間的なポーズとか取ると可愛いでしょ?」


―あ…


「例えば、アニメーションなんかでぬいぐるみとかが無理やり人間的な挙動を取ろうとして短い手を懸命に伸ばしたりするのって物凄く可愛いじゃないですか」


―なるほど


「実はここにも『不気味の谷』があります」


―ここにもですか


「ええ。人間に物凄くそっくりだけど、人間ではないものが人間的な動きをすると『物凄く不気味』に見えます」


―例えば


「例えば生ごみとか機械のガラクタみたいなのを寄せ集めて人間そっくりの形にしたとします」


―う…


「それが動いて歩いて来たら…気持ち悪いでしょ」


―悲鳴を上げて逃げますね


「要はそういうことです。「ゾンビ」なんかもこの系統ですね。限りなく人間に近いけど人間ではない…ものの恐ろしさというか」


―なんとなく分かる気がします


「要するに、乱暴なことを言えば『男女要素の配合具合』いかんで「物凄く可愛く」見えるか、「物凄く気持ち悪く」見えるかが決まると言う話です」


―それを半田くんが利用したと


「ええ。特に10月以降の半田くんは明らかに『少年』っぽい言動にシフトします。かといってガサツになりすぎたり、口調が汚かったりするのは駄目。あくまでも「許容範囲内」の「演出され」た「少年っぽさ」というのがポイントです」


―難しいですね


「本人は余りハッキリは言わないでしょうけど、イメージとしては『精神年齢10歳くらいの男の子』の感じですね。それが女子高生風の制服衣装で、可愛らしい外見で「ボクは!」とか言ってる。敢えて言うと無邪気で無垢な感じです」


―つまり、「全く女の子でない物が女の子を演じてる」から「物凄く可愛く見える」と


「普通は、可愛い女の子を演じるんならよりおしとやかに可愛らしくする方が可愛く見えると思いがちです。恐らく「オカマ」の方もそう思って演じてらしたと思います。ところが必ずしもそうとは限らなくて、過剰な演技は『男女要素の配合具合』が「不気味の谷」を誘発してしまう」


―…なるほど


「もしも半田くんがもう少し肉体的に男の子要素が強かったら『物凄く可愛い、女装した男の子』に見えたでしょうね」


―え…違うんですか?


「はい。それらの要素があいまった結果『17歳の女の子のアイドルになっちゃった10歳の男の子』に見えることになった訳です」


―…っ!!!


「普通は女の子役なのに男の子演技をするなんてありえません。しかし、挙動を男の子にすることでかえって『美少女アイドルの外見』とのギャップ…コントラストが強烈になりました。アイドル時代にカルト人気があるのは伊達じゃないんです」


―なるほど


「恐ろしいことに、「生粋の女性」ではこれは演じられないんです。何歳だろうとね。現実に「ボク」と自称する女の子の痛々しさたるや惨憺たるものがありますよ」




  テロップ「愛宕坂47メンバー 桜木玲さくらぎ・れい

廊下にて


―半田つかさくんが一番なついていたのは桜木さんという話もありますが


「なんか…亡くなったお姉さんに一番雰囲気が似てるとか言ってくれてましたね」


―いつもひっついていたんでしょ?


「そんなことないです(笑)。つーたんは誰とでも仲がいいから」


―キャプテンとして半田くんをご覧になっていてどうでした?


「頼もしかったですね。一年間のゲストって形だから迷惑かけまいとしてはいたみたいなんですけど、基本的に何でも出来るし」


―ライブではソロパートもあったんですよね


「そうそう!つーたんって人気キャラ沢山持ってるから出番も多いのに…ねえ」


―一応皆さんに訊いているんでお伺いしますけど、半田つかさくんという男の子が加入することに関してはどう思われました?


「う~ん、一般論で言うならないんでしょうけど…つーたんだから…むしろお願いしますというか(笑)」


―お願いしますですか


「グループとしてもより注目されることになったし、こうやって取材も受けられるし(笑)」


―じゃあ、抵抗とかはなかったと


「最初に共演した時一緒に泣きましたもん。がーさんも見たし、この間赤ちゃんも見せてもらったけど今も男の子なんて信じられない(笑)。抵抗って言われても無いですね」


―何か一言あれば


「ポンコツのままでゴメンね。ツアーとかだと無理だけど、歌番組とかでまたジョイントしよう!」



自宅にて


―掘り下げるポイントが全く尽きないのに驚きます。愛宕坂47には母子家庭のメンバーはいても孤児…というか天涯孤独は半田つかさ一人だと思うんですが、18歳で加入するにあたって保護者の許可はどうなっているんでしょうか


キップ「先ほど紹介した通り、父方の親戚を名乗る夫婦が形式上は半田兄妹の親権を獲得したことになってます」


―不気味なくらい表に出て来ませんね


「吉村剛氏の調査を信じるならば、治療費・入院費・葬儀費用などの借金がかさんだ段階で親権は放棄されてます」


―え?じゃあ誰が持ってるんです?奥さんのご両親とか


「いや、劇団『こんにちは計画』の阿部奈爪あべ・なつめ氏のようですね」



劇場控室にて

阿部「ああ。俺ら夫婦が持ってるよ。半田の親権」


―どういう経緯で?


「半田が劇場の隅っこで生活し始めた時に問いただしたんだ。お前、どう見ても未成年だけど家はどうしたんだって」


―半田くんは何と?


「家族はみんな死んで孤児院だって言ってたね」


―それでどうしました?


「家出少年ってのはみんなそんな感じのことを言うからね(笑)。でも、今にも死にそうなほどやつれててさ。何というか単なる絶望ってだけじゃなくて世の中を達観したみたいな表情だから気になって、一応孤児院とやらに連絡はしてみたんだ」


―はい


「そしたらその…例の妹さんの話を聞かされてさ」


―ああ、いじめで殺害された


「こりゃハンパじゃねえなって。どういう訳か孤児院とやらも妙に態度が邪険でね。とにかく迷惑だとしか言わねえから腹立って電話叩きつけて切っちまった(笑)」


―迷惑とは?


「被害者とはいえ暴力事件の関係者だろ?しかも死んだとなりゃ監督責任も問われる」


―冷たいですね


「まあ、色々あったのかもしれん。あいつって見た目はあんな感じだけど結構強情なところがあるからさ」


―それにしても


「それから数日後だったかな、親戚とか抜かす男から電話があったんだ」


―それってもしかして


「つかさのオヤジの親戚って奴だろ?いけすかねえ人を小ばかにしたみてえなクソ野郎だったな」


―なんて言ってました?


「あんまり覚えちゃいねえな。とにかくテメエが面倒見ろって話だよ。これ以上迷惑を掛けられるのはウンザリだって」


―それで何とお答えに?


「それだったらやってやるよ!って売り言葉に買い言葉さ」


―よく決断なさいましたね


「まあ、ウチにゃあガキがいなくてね。いきなりちとデカいのが来ちまったけどいいかなってさ」


―半田つかさくんには借金がありましたよね?


「…悪いけどこちとらアングラ地下劇団なんで金なんかない。そこだけはどうにもならなかったんだけど、あいつは『借金は何が何でも自分が全部返す』って言ってきかねえんで…ま、そういうことだよ」


―親権が阿部さんに行くことには特に抵抗は無かったんですね


「みてえだな」



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