表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/7

2/6


*これは「存在しないドキュメンタリー番組の採録」およびレポート、という体裁の読み物です。

*実在の人物・団体とは何の関係もありません。


*NA=ナレーション



―これは…


自宅にて

キップ「ぶっちゃけ現役アイドルの女の子であってもメイクオフにした普段の姿なんて見られたもんじゃない場合だって少なくありません」


―そう…ですね


「ところが何の飾り気も無い普段着…素の状態…でこれだけ可愛いってことになるとそりゃもう「真に可愛い」ってことになっちゃいます」


―真正面から正攻法で乗り切ったと


「そういうことです」


―ちょっと待ってください。彼はテレビ画面に映ってるところだけがプロのアイドルってことじゃなかったんでしたっけ?


「本人はそう言ってますが、あんなに可愛く着飾られる人が脱いだらその辺のあんちゃんになる訳ないでしょ。元々かなり造形も女性的なんですよ。それに…」


―それに何です?


「これは番組の一場面を見てもらった方がいいですね」


「愛宕坂工事中」

相良「最近の悩み…はい半田」

つかさ「はい」

相良「言ってみて」

つかさ「結構ガチなんですけど…いいですか?」

火山「はいいいよ~」

つかさ「その…この頃ズボンが入りにくくなって…(消え入りそうな声)」

相良「え?何て?」

つかさ「買ってたズボンがその…お尻が入りにくいんですよ」

火山「お尻が大きくなって来てるってこと?」

つかさ(顔を真っ赤にして無言で頷く)


 周囲からひゃ~と言うような声。


相良「お前何黙ってんだよ!ガチかよ!」(軽くスタジオ騒然)

つかさ「仕方ないんで、奥さんのジーンズ借りて履いてます」

火山「え?レディースしか入らないの?」

つかさ「…はい」

生馬「スカート履けばいいんじゃん?お尻入るよ」

つかさ「いや、そういう訳には…」

生馬「もう女の子になっちゃえばいいよ。いろんなの取っちゃって」

つかさ「いやいやいやいや!」(スタジオ大笑い)


―これは…医者に行った方がいいんじゃないですか?


「もしかしたらナチュラルなホルモン異常で、女性ホルモンが優勢なのかもしれませんね。というか確実にそうでしょ。あの身体つきじゃね」


―これ、アウトなんじゃないですか?


「ん~微妙なところですね。余りおおっぴらに報道されたりはしてませんけどこういう男性って一定数いますよ」


―そうなんですか?


「半田つかさくんの場合は子供も出来てますし、あの身体は商売道具でもありますんで一概に治療すればいいとも言い切れないですね。そもそも男性は21歳くらいまでは身体が成長すると言われているので、18歳の男の子が買ってたズボンがキツいって話はそこまでレアでもないです…ということにします」


―はあ


「ともあれ、「オチ担当」だったはずの「普段着・部屋着」写真によって下手すりゃメンバーの誰よりも「ナチュラルに可愛い」オフショットさらす結果になってしまいました」


―これって、他の生粋の女の子にしてみればたまらないんじゃないですか?


「内心穏やかではない…かどうかは分かりませんが、一般的に言うなら他のメンバー全員が『引き立て役』にされた形ですからね」


―そうですね


「毎回毎回「コイツよりは可愛い」扱いをされるメンバーとかたまらなかったでしょう。ファンには申し訳ないんですが、可愛らしさはぶっちぎりとされている愛宕坂47でも明らかにモデル軍団に比べれば容姿が「庶民的」なメンバーもいるので…」


―普通に考えればそうですよ


「この世で一番面白いのは『リアクション』だ…ってな話をしましたけど、この頃には番組全てが半田つかさの反応を観察して楽しむモードになっちゃってます。6月に加入してますけど、秋ごろ…10月ごろには大体こんな感じでした」


―む~ん


「どんな無茶ブリ企画やっても嬉々としてこなすし、出来ちゃう。失敗しても確実に面白く見せて笑いに繋げる」


―無敵ですね


「なので、『どうにかして半田つかさを動揺させよう』という企画の立て方になって来ます」


―むむむ…


「そしてあの伝説の企画が振られる訳です」


―それは?


「新シングルヒット祈願企画・特別版で、一人でハワイまで行って現地のパワースポットにお祈りして帰ってくる企画です」


―ひとり…ですか


「もちろん、スタッフは同行しますが、他のメンバーは連れないでグループとしてはたった一人ですね」


―もしかして


「そう、あくまでも『メンバーの一人として』行くので基本は女装していく訳です」


―そりゃ過酷だ


「彼は仕事以外で女装しませんからね。何を着てもナチュラルに「男装した女の子」に見えるほど可愛くはありますけど」


―人権的にどうなんです?


「(苦笑)まあ、本当に本気で強要してるんならアウトでしょうけど、番組の企画ですからね。これがむくつけきおっさんだったら国家権力が乗り出して来るかもしれませんけど、つかさくんは「男装してると変態に見える」と言われるほどで…しかもこの頃って一番女性ホルモンが優位だった頃と言われてます」


―今はこの時ほどじゃないんですか?


「元々余り体型を露出する服なんて着ないから分かりませんけど、多分そうです」


―はあ


「流石にバラエティなんかの冠番組やら、歌番組なんかで可愛い制服衣装で歌って踊ったりするのは出来ても、一人っきりで女装のまんま旅をさせられるってのは無理だろう…と思われてたんですよ」


―…というと?


「これがある意味大成功である意味大失敗でした」


―どういうことです?


「基本的に『普段着』としての女物を全く持っていないのでそれはスタイリストさんに全面的に頼んで準備してもらうってことで話はついたんです」


―はい


「番組中に初日、到着してから、寝間着、翌日の午前中、帰りの飛行機…と5回着替えてるんですが…これがその写真」


―これは…


「ちょっとシャレにならないくらいの普通に美女です。というかスタイリストさんのセンスなのか「大人の女性」風です。ポイントが「普段着を着こなしてる」様に見えることですね。これが大きい」


―確か身長ってそれほど高くないんですよね


「158センチですから、メンバーの中に混ぜてもそれほど長身の部類ではないですね。男性としては小柄な部類に入るでしょう」


―確かに


「これでスタッフ2人の男と同じ部屋に雑魚寝ですよ」


―は?


「予算不足という名目になってますが、要するに『アブない雰囲気』を番組的に見せたかったんでしょうね」


―一人の長身スタッフと並ぶと普通に「新婚夫婦」って感じなんですがこれは…


「番組的に美味しいことにナンパされまくるし、出国・入国審査では止められまくります」


―そりゃそうでしょ。これで男のパスポート出されても


「でもって『寝起きに突撃レポート』ですよ」


―これは…


「およそ人間が最も無防備であろう寝起きの状態で、本人が寝ぼけてむにゃむにゃ言ってるのにこのクオリティですからね…」


―これは普通に女でしょ


「まあ、そういう風に見えますわな。この「覚醒」した瞬間の目をパッチリ見開いた状態とか…普段はニコニコしてるもんだから余計に目が真ん丸に見えます」


―どうなってんですか。普通は寝起きなんて目がぐっしゃぐしゃに潰れて細く見えませんか?


「ねえ。しかもこの時『無声音むせいおん』で喋るんです」


―むせいおん?


所謂いわゆる「ささやき声」ですね。『(ささやき声で)…あさですか?あさ?』みたいな感じで」


―エロくないですか?


「これはつかさくん一流の感覚って奴で、流石に起き抜けでいきなり地声じゃない作った声は出せません。出せないと思います。いつもの女声ですね。けどここで野太い…まで言わんでも普通の男の声をかぶせちゃうと一気に生々しくなります」


―そこで無声音と


「これを咄嗟の反射神経でやるんだからたまりませんね」


―何だかヘンな気分になって来ました


「この時のスタジオでの他のメンバーのきゃーきゃーぶりはちょっと常軌を逸するレベルですよ。聞くだにマイク壊れそうですからね。ともかくこの企画は非常な高視聴率を取りまして、まとめ動画とかも大量にアップされました」


―ふむふむ


「企画としては成功は成功なんですが、これはあくまでもグループの冠番組なのであって半田つかさくんの個人プロモーション番組じゃないんです」


―まあ


「彼が番組中に披露したパフォーマンスは沢山ありますけど、『形態模写』とか『物まね』も上手かったです」


―物まねですか


「よく『七色の声』なんて言いますけど、彼はおよそ人間が出せる声ならば誰でも真似できるとすら言われるほど見事です」


―はあ


「女の子の声っぽいのを出せる人はいるんですが、『女の子同士の会話』で数人を演じ分けるとなるとちょっといないでしょ」


―え?一人の男が数人の女の子を演じ分けるんですか?


「はい。男の声も何種類も使えるから「一人で会議場面を演じられる」と言われてます」


―はあ


「ぶっちゃけ女性の声優さんでも「女の子の声」のパターンって一種類しかない場合が大半なんですよ。そりゃ演技で演じ分けてる様に聞こえさせることはある程度は可能でしょうが、「声質」そのものを変化させるってことになると…ねえ」


―凄い話ですね…というか確か声優もやってるんですよね?


「はい。このグループにはモデルを兼任してるのも多いし、ラジオ番組を持っているメンバーも多数ですが、現役の声優としてレギュラーも持ってたのは彼一人です」


―女の子の役ではないですよね?


「まあ、頑張れば出来る…というか頑張らなくてもある程度は出来る…んでしょうが、流石にそれはプロパー(生え抜き)の女性声優さんに失礼ですから。普通に男の子ですよ」


とある番組

つかさ「はいはい!アニメのキャラクターのマネをやります!(にこにこ)」


  カメラ引いて、膝丈スカートの清楚な制服風の衣装。


つかさ「深夜アニメ『正義戦士ジャスティスマン・アライブ』の主人公の「堂々真実どうどう・まこと」のマネで…(口元を手で隠してとても凛々しい少年の声で)『ヴィランの怪物め!許さない!へんっ…しんっ!』」


  その迫力の見事さに「おおー」という歓声が上がる。

  だが、ぶーぶー騒いでいる一群がいる


司会「なんだ?どうした!?どうした?」

生馬「ずるい!つかさちゃんずるいよ!本物じゃん!」

司会「は?何?ホンモノ!?」


つかさ「(アイドル姿でペコペコと照れて頭を掻いている)あ、ごめんごめん」


テロップ「半田つかさは『正義戦士ジャスティスマン・アライブ』の主人公の「堂々真実どうどう・まこと」役の声優」


司会「は!?何お前、声優もやってんの!?」

つかさ「本業は舞台役者なんで…」

司会「そっちは男の役か」

つかさ「そりゃボク男の子だし(にこにこ)」

司会「(一瞬詰まって)…お前、アフレコ現場にこの格好で行ってないよな?」

つかさ「行きませんよ!てゆーかボクは衣装持ち帰れないんです!」

司会「ちゃんと男の格好で行ってる?」

つかさ「行ってますって!声の仕事は見た目関係ないから普通の格好ですって!」

司会「…他の声優さんに何か言われない?」

つかさ「…言われますね」

司会「何て?」

つかさ「推しメンのサインもらってきてくれとか」(会場笑い)



―何でも出来るマルチタレントってところですね


自宅にて

キップ「アニメ声優として主役をやってるってのは中々凄いです。歌手活動を始める矢先ですけど、オーディションが開催された時期を考えると彼が話題になる少し前にキャスティングされてます。純粋に実力で勝ち取ったと言えるでしょうね」


―なるほど


「むしろ話題になってからアニメの仕事のオファーも殺到したみたいです。男女の役問わずにね」


―アニメの方からですか?


「アニメだって商売ですからね。話題性のあるキャスティングをしたいでしょう。ただ、アイドル活動が猛烈に忙しくなってしまうんで、モブ同然のゲストキャラ数人と格闘ゲームくらいしかアイドル活動中はアニメの仕事はやってません」


―格闘ゲームですか


「本人が大好きだったそうで」


―その辺も男の子ってことになるんでしょうかね


「このゲームのプロデューサーがファンだとか言ってましたね。ちなみにゲーム中のあるエフェクトで男から女に変身して戦う役だったみたいで、両方の声を収録したんで大変だったみたいです」


―ああ、そういう役なんだ


「ラジオ出演者の声をアニメ風にするラジオ番組でも有名なゲームなんですけど、ここでも存分に男声と女声の切り換え技やら形態模写をしまくってバカ受け取ってます」


―ラジオにゲストってことは既にプロ声優の司会者がいるわけですよね?


「同業者も舌を巻く声技ってことでしょ。てゆーか現役ガールズアイドルグループの一員ですからね。この番組司会が男一人女二人なんですけど、一人残らずミーハーやオタク揃いだからその発狂ぶりったらないですよ。現役バリバリのアイドルがキターーーってなもんで。公開収録もやってますけど半ばパニック状態ですね」


―はあ


「他の企画だと料理対決とか」


―それもオチ担当なんですか?


「ええ。ただ彼は家事もかなり分担してるらしくって、料理も結構出来るんですよ。というよりはこのエプロン姿がいかんですね」


  エプロン姿でカメラに向かって微笑んでいる写真


―これは…


「この番組で『お嫁さんにしたいのは誰』ランキングで普通に一位取ってるんですよ」


―本当に18歳の男の子なんですかね


「この佇まいだと二十代中盤の女性にしか見えませんね。ロリコンモードとお姉さんモードの両方出来るってのも凄い話です」


―それもまたいいというか…


「男がアイドル活動をやるにあたってハードルは沢山ありますが、大半を乗り越えても恐らく最後のそれがあります」


―なんですか


「グラビア写真です」


―う~ん、無理でしょ


「流石にこれは普通の週刊マンガ雑誌とか中綴じの写真雑誌では無理だったみたいで、所謂いわゆるオジサンが読む『週刊誌』の中の巻頭特集で最初に写真特集が組まれました」


―はあ


「現物がこれですが…ポイントがとにかく顔と手以外の素肌をほとんど露出させず、分厚い衣装のまま雰囲気だけで見せ切っていることですね」


―そうですね


「とにかく笑顔が印象的な癒し系の写真に仕上がってるのが特徴です。露出度が非常に低いため落ち着いて清楚なイメージに目一杯貢献しちゃってます。メイクもしてるんだかしてないんだか分からないほど薄目」


―…


「よーく読まないと分からないくらいにしか「男である」ことが書いてないもんだから、普段アイドルのことなんてほとんど知らないオジサンたちも普通に「可愛いモデルさんか何か」と思ってたみたいです。良く見ると『天然色美女図鑑』じゃなくて『天然色美男図鑑』にちゃんとなってるんですが」


―まあ、それも仕方がないですね


「この段階では当たり前ですけど、他のメンバーの写真集が続々と発売されている中にあって、たった一人写真集も発売されず、グラビアにも登場しない中で唯一組まれた写真特集だったので、ボチボチ登場し始めていたマニアによって買い占められて毎週の様に読んでいたオジサンたちが買えなくて苦情が殺到したそうです」


―はあ…


「でもって遂に『写真集』の発売が決定します」


―本当に出したんだ…


「とはいっても、流石に今までのチャレンジと越えるべきハードルが違いすぎますからね。ステージの写真を全体の半分くらいにして、撮り下ろし写真は週刊誌と同じコンセプトであくまで露出度低め低めで」


―地味な写真集ですね


「更に、紙媒体では発売せず基本的にダウンロードのみ」


―なるほどね


「余りにもコンセプトが異次元なのでどれくらい売れるのか、売れ残るのかが全く読めなかったために仕方なく…ということだったみたいです」


―はあ


「写真集があんなに高いのはやはりカラー印刷が高コストだからです。カラーコピーでもたった1枚につき30円とか50円掛かるんですから、納得のいくカラー写真を一冊まるごとってことになると、そりゃ高くなるでしょ」


―まあ…


「その辺りのコストが全く掛かりませんからかなり原価を安く上げることが可能です。在庫を抱えることもなくてローリスク。そして何より本人が『そんな写真集誰も買わないから目一杯安めで』なんて言いやがったもんで、何と100枚近い写真が収録されていながら値段がたったの680円でした」


―680円!?


「この枚数が収録されたフルカラー写真集としては異例の安さです。結果は…バカ売れでした」


―あーあーあー


「現時点でかなり長期間かけての累計ではありますが10万部だそうです。約1/3の写真がライブでの写真なんで他のメンバーが大量に映り込んでいたことで価値が跳ね上がりました」


―はあ


「主要メンバーのほとんどが一緒に写真が写り込んでいて、本体が安いこともあってグループのファンのほとんどが「コレクターズアイテムとして」一緒に買ってくれるみたいで」


―半田つかさくん自身の写真の方はどうなんです?


「過剰にアイドル性をアピールしない控え目な写真が多かったせいでしょうね。おおむね好調でした。結局紙媒体でも発売されて更に追加で2万部売ってます。最も、一番売れたダウンロード版が廉価なので売り上げ金額自体は他のメンバーに及ばなかったりするんですが」


―…はあ


「愛宕坂工事中」にて


*「結婚するならメンバーの内誰か」と言う質問が全員を端から当てて行く形で来る


つかさ「いや、だからボクが誰かとか言うのはシャレにならないでしょ。こういうのは女の子が言うからいいんで」

相良「いいから言えって」

つかさ「え?でも男の立場でしか言えませんよ?」

相良「それでもいいから」


階段にて

つかさ(男性時)「ある意味最大の危機だったかも(笑)」


番組中

つかさ「(腕組みをして考え込んで)メンバーから選べばいいんですよね?結婚したいなら誰かって」

火山「ああそうだよ」

つかさ「…自分?」


  スタジオ爆笑


相良「何だよお前!どんなナルシストなんだよ!」(会場大ブーイング)

つかさ「え、でも今の自分って素の自分とかけ離れてるから」

火山「あ、そうなんだやっぱり」

つかさ「この番組のオンエアとか見ても『ひとり見慣れないのがいるな~この子誰かな~』とか思ってたら『あ、自分か』って」(スタジオ爆笑)

相良「で、結婚したいと」

つかさ「ま、こんぐらいで妥協しようかなって」(会場大ブーイング)


控室にて

相良「バラエティの解答として100点でしたね」


番組中

相良「はい、このコーナー終わりです」

火山「結局半田が全部持ってくんだよな~」


NA「在籍期間が残り6か月となった段階で遂にグループとして、半田つかさ本人としての試練が訪れることになる。


―ここで遂にあの展開ですね


「思い切ったと思います。アイドルに限らずですけど本人よりも本人に詳しく徹底的なリサーチを行ってから取材することで有名な吉村剛よしむら・ごうが動き出していて、その取材成果をゴシップ誌に暴露するという噂が流れたんですよ」


―彼…吉村剛…ってそういうタイプでしたっけ?


「スキャンダルの暴露とはちょっと性質が違っていて、一種の事実報道なんで。取材は申し込んだけど断られたと言われてます」


―「愛宕坂工事中」のスペシャル版でしたっけ。


「半田つかさがもう全国区の大人気になっていたんで、枠が取れたみたいですね。元々『アイドルになっちゃった女の子の素の姿』を愛でるタイプの番組なんで、家族に一言コメントを貰うとか、『誕生祭』と称してこれまでの人生の歩みを写真で振り返ったりしてたんです」


―ほぼ全員が「誕生祭」はやってもらってるんですよね


「タイミングが合わずに研究生のまま卒業しちゃったりしない限りはね。ただ、半田つかさくんは仮にまっとうに育っていたとしてもこの企画に登場できるかどうかは微妙なところでした」


―客観的な事実だけ言えば女装してアイドルやってる変態ってことですもんね


「ええ。カラオケ番組で女装して歌い始めた時点で17歳、女の子のアイドルグループに参加して活躍してても18歳とこの時点でもまだ未成年です」


―社会人として働くには保護者の許可が必要ですよね?


「はい。若いと13歳のメンバーもいますけど、当然ながら未成年のメンバーは全員保護者に許可を貰ってます」


―そこが当初から多少は問題視されたとは言われてますね


「こんな芸能活動を許す親は一体どうなってんだ…ってね。ただ、彼は…半田つかさくん…は自分の幼少時の写真をただの一枚も持ってないんですよ」


―そう言ってましたね


「ここからは番組内で紹介された半生を淡々と申し上げますね」


―はい


「まず、彼が5歳の時にとある事件に巻き込まれて両親と7歳の姉が殺されます」


―…惨殺…でしたよね。しかも行きずりの大量殺人鬼。


「番組ではそれでもボカされてましたが、現場の状況は凄惨で酸鼻を極めたものだったそうです。奇跡的に彼自身と3歳年下で当時3歳になっていた妹さんだけが助かります」


―この時点でかなり過酷ですね


「いきなり孤児になってしまった二人ですが、きょうだいの居なかった両親の『遠い親戚』を自称する夫婦によって引き取られます」


―親戚であることは事実なんですよね?


「その様ですね。親権を取得したのはこの夫婦でした。吉村さんの取材だと、かなり残っていた両親の資産がこの夫婦によって強奪された可能性が非常に高いそうです」


―…時効…ですよね


「どうでしょう。ともあれ引き取られたはいいものの、生活能力が無い夫婦だったようで生活は困窮を極め…この兄妹だけだった可能性もありますが…ロクに何も食べさせてもらえなかったそうです。はっきりしませんが、虐待の疑いもあります」


―…ひどい


「その後施設に預けられます」


―施設って…孤児のですか?


「ええ」


―だって親権を取得したんじゃ…


「何とも言えませんけど資産をゲットしたんで子供は用無しってことなのかもしれません。ともあれ実家は既に売却されていて私物はその際に全て失われたそうです。子供の頃の写真や映像が一切残っていないのはこの時に失われたためです」


―…


「兄一人妹一人で寄り添うように生きていたんですが、どうにか小学校には行かせてもらうものの過酷ないじめに遭います」


―もしかして孤児だからってことですか?


「残念なことですが、一部の母親には両親がいなかったり片親だったりする子供は精神的に問題があるから付き合うなみたいなことを言い聞かせている人もいるそうです」


―地獄に堕ちて欲しいですね


「ともあれ、彼がほとんど語ろうとしない幼少時は記憶がある限りいじめ抜かれたそうです」


―保護者は何をしてるんです?


「無関心ですよ。施設に預けた段階でお察しでしょう。学校でもいじめられ、孤児の施設でも居場所が無かった」


―…お互いに孤児の子たちですよね?


「だから無条件で仲がいいとでも?(嘲笑)。関係者によると半田つかさくんは少々怒鳴られたくらいでは全く精神的に折れたりもしないそうですけど、こう言う下地があったんでしょうね」


―…な…るほど


「推測ですが今もあんなに可愛いってことは小学生時代なんて妖精みたいだったんじゃないかと。見た目というよりもその立ち居振る舞いとか。写真が残っていないので何とも言えませんが。…まあ、いじめられますわな」


―しかし、いじめていい訳じゃない


「全く。当時の孤児院は吉村剛氏の取材にはだんまりだったそうですが、数少ない当時の孤児院の子の証言によるとしょっちゅう擦り傷やあざを作って帰って来ていたそうです」


―…ひどい



愛宕坂工事中


つかさ「えっと…当時妹は9歳だったんですけど…自分が父親と母親の役割になってどうにかこの子を立派に大学まで出してお嫁に行ってもらう様に頑張ろうって決めたんです」

相良「…半田、お前その頃いくつだ?」

つかさ「…12歳です」

火山「12歳って…」


 スタジオ中が静まり返る。


相良「オレが12歳の頃なんてなんんんんんんにも考えずに生きてたぞ」

火山「オレもオレも」


 つかさ、ふっと笑顔を浮かべる。


つかさ「当時の保護者のおじさんたちが、お前は男だから一応高校までの学費は出してやるけど、その先は知らん。妹もお前らで何とかしろって話になりまして」


 ひえぇ~っという声があがる。


つかさ「12歳じゃどこも働けなかったんですけど、新聞配達をやってました」

相良「お前…12歳から働いてたのか?」

つかさ「はい」



―凄まじい話ですが、法律的に問題は無いんですか?


「労働基準法にも別に禁止はされていません。一日中新聞配達する訳じゃないから労働時間も短いし。就学児童には労働時間の制限が課されますがそれにも恐らく抵触しません」


愛宕坂工事中

つかさ「頑張って公立の高校に受かって、中学出ました」

相良「学費は出してくれたのか?」

つかさ「奨学金取れたんで」

火山「頭いいんだなお前」

つかさ「…でも、頑張って貯めたお金は没収されまして…また一から貯め直しです」


―これはアウトでしょ


「当然駄目です…。が、字義通りに立件できるかと言われれば難しいと言わざるを得ない。ともあれ、高校にどうにか入学出来たあたりから更に坂道を転がり落ちる様に悲劇が襲ってきます」


愛宕坂工事中

つかさ「高校に入ってすぐに…またいじめられまして」

相良「お前…当時も今みたいな感じか?」

つかさ「どういう意味です?(別に怒っている風ではない)」

相良「だからその…痩せてたり」


自宅にて

キップ「これは、『当時から今みたいに可愛かったのか』と言う意味でしょう」


―そうですね


つかさ「まあ、そうですね。ともあれ今度は暴行されて入院しまして」


 スタジオからきゃ~っという悲鳴が上がる。


つかさ「頭蓋骨が割れてたそうです。2~3日ほど生死の境をさまよいました(笑顔)。幸い後遺症も無く生きてますけど」


―これ、真相はどうなんです?


「時間の都合もあってさらりと流してますけど、吉村剛氏のレポートによるとかなりヒドいいじめ暴行事件です。彼は15歳になった時からバイトをしてるんですけど、未成年なんで銀行口座を作れません。作って振り込むと親権者に取られてしまいます。なので現金払いで貰ってたみたいです」


―現金払いって…あるんですかそんなこと?


「皿洗いのバイトみたいです。時間が来たら追い出されてその日の分を払ってくれるっていう良心的なところを見つけたみたいです」


―もしかしてそのお金をカツアゲされてたんですか?


「その様ですね。彼は妹さんの進学や嫁入りの為に頑張っていたんで、どうにか取られない様に頑張っていたんですが中々お金を出さないんで暴行したみたいです」


―参考までに、首謀者たちはどうしてるんです?


「決まってるでしょ。何のお咎めも無しですよ。未成年だし、少年事件だしね」


―馬鹿な!死んでいたかもしれないのに!


「死んでたとしても結果は同じです。学校は徹底的に事実の隠ぺいを図って、事件そのものを無かったことにしようと奔走したみたいです」


―…クズどもが…


「ちなみに首謀者たちのその後を…これは吉村さんじゃなくて鬼女板きじょばんの皆さんが…調べ上げてます」


―なんですって?


「既婚女性が集まる掲示板の有志たちです。ともあれみんな一流大学に進学して楽しい青春送ってますよ。一人デートレイプ事件を起こしてますけどこれももみ消しに成功したみたいですね。何故か現在こいつらの個人情報がダダ漏れに流出してますが多分既女板のみなさんは関係ないですね(遠い目)」


―何てこった…


「残念ながらもっとムナクソが悪くなる最悪の結末が待ってます」


―…


「必死にガードし続けてきた兄が一時的に入院したので、今度は妹さんがターゲットになります」


―…もう聞きたくないんですが


「ヒドい暴行を加えられて道路脇に倒れているところを発見されました。数日は息があったみたいですが、治療の甲斐なくこちらは残念なことに」


―犯人は?


「不明です。というか警察は事故として処理しようとしました」


―くたばれ


「意識を取り戻した彼の目の前で、人相が変わるほど殴打された妹さんが息を引き取ったそうです」


―…


「良かったことと言えば…レイプの痕跡が無かったことでしょうかね」


―(失笑)そりゃ何よりで…


「残念ながらこれで終わらないんですわ」


―…これ以上何かあるんですか?


「ええ。第三者による傷害の場合、保険証が使えません」


―は?


「一応は相手方に請求することになってます…が、まずは被害者側に請求が来ます」


―ちょっと何言ってるか分からないんですけど


「つまり、『すいません。治療の甲斐なく妹さん死にました。ところで治療費150万円よろしく』ってな感じです」


―…狂ってる…


「加害者は大抵の場合はそんなお金は払いません。というかこの場合は見つかってもいないので負担が全部半田つかさにのしかかります」


―はぁ!?


「加えて自分の治療費に入院費、妹の葬式は市役所主催の簡易なものだったそうですがそれも負担に」


―ちょっと待ってください!親権者は!?


「親権者は支払いを拒否したそうです」


―(絶句)



愛宕坂工事中

つかさ「ボクは自分はどうなってもいいから妹だけはどうにかお嫁に行くまで面倒見ようって決めてたんだけど…その妹も死んじゃって…本当にひとりぼっちになっちゃいました」


  スタジオ中が悄然として言葉もない。あちこちですすり泣く声が聞こえる。

  ひとりだけにこにこと笑顔の半田つかさ。涙は流れていない。


つかさ「流石のボクもちょっと落ち込みまして…学校に行けるようになるまで一週間くらい掛かっちゃいました(乾いた笑顔)」



―…一週間で復帰するって化け物みたいな精神力ですね


「私なら一か月は不貞寝ふてねを決め込みます…というかこの状況下で生きていられるとは思えない」


―…ええ


「残念ながらこれで終わるほど世の中甘くありません」


―もう十分でしょ


「その後、彼を半殺しにした連中が再びいじめの牙を剥きます」


―この学校ってどこにあるんです?地獄の一丁目ですか?


「ごく普通の公立高校ですよ。底辺ですらない。ただ、流石に身の危険を感じたらしくこの辺りで彼はほとんど学校に行かなくなります」


―そりゃあそうでしょう


「その後のことを考えると彼は物凄く物覚えがよくて、完全に独学でネイティブも真っ青なほど英語を使いこなせる様になったりします。高校入学も奨学金を得てるくらいなのでかなり頭はいいと思われます」


―でしょうね


「学力と言う点ではまともに進学することは簡単だったはずなんですが、それが『いじめ』と称される暴行・傷害・恐喝・脅迫・殺人未遂によって危うく中卒になるところでした」


―じゃあ、一応高校は出たんですね?


「ええ。ほとんど通ってませんけど、これも穏便に済ます処置の一環って訳です。隠ぺい体質がいい方に作用した例…と肯定的に評価したいところですが、それ以前にいじめを何とかしてほしいですが」



階段にて


―実際どんな具合だったんです?


半田つかさ(男性時)「まあ、先生もみんな頼りにならなかったですね」


―妹さんの葬式が終わって、退院してもいじめは続いたんですよね?


「孤児院ってところは私物が持てないんですけど…妹の位牌はカバンに入れて持って行ったんです。両親と姉の分もって意味で」


―授業中に出したりはしてないんですよね?


「ええ。でもそれが良くなかった」



「その位牌がいじめっ子の手に渡って…恐らくいないスキを見計らって盗み出したんでしょ…真っ二つにへし折られます」


―…すいません。良く聞こえなかったんですが


「真ん中から力任せにブチ折られてます。しかもその前に『バカ』と大きく落書きされてますね」


―マジで地獄に堕ちますよそいつら



階段にて

半田つかさ(男性時)「まあ、単なるモノですからね。実際の妹って訳じゃない」


―しかし…問題にならなかったんですか?


「恐らく妹を殺したのもそいつらでしょ。きっと罪の意識があったんだと思います」


―…人間とは思えない


「そうですか?逆に人間っぽいと思いますけどね」


―問題にならなかったんですか?


「流石にちと問題になりかかったんですけど、そもそも持って来ていいものではないのでボクが悪いってことになって、結果としてケンカ両成敗ってことになりました」




愛宕坂工事中


  隠しカメラの映像。制服風衣装に着替えた半田つかさがひざまづいている。


NA「半田つかさは控室で必ず最後に妹さんの位牌に手を合わせてから本番に臨む」


  ボロボロに継ぎを当てられた位牌が小さく映り込む。


NA「半田つかさはたった一人の男性メンバーということで、控室も別、更衣室も別だ。ただ、元々大所帯のグループなので、地方の公演会場だと控室が取れない場合もある。その時は地下室の行き止まりなどを使う」


  薄暗い地下室の隅っこをパーティションで区切って鏡を見て髪型を直したりしている。


  ボロボロに号泣している生馬。


生馬「ちょっと!そんな話聞いてないよ!(かなりの怒声)」


つかさ「…何怒ってるの?」


生馬「つーたん寂しくないのあんなところで!ひとりっきりで!」


つかさ「(ケロッとして)全然。ていうかボクは地下劇団出身だよ?廊下の隅で着替えるなんて当たり前だもん。たまに部屋がある方が驚くくらいで」


黒石「…半田、あんたこれから更衣室はともかく楽屋は一緒ね。こっちに来なさい」


  全員が頷く。


つかさ「え…でも、ファンの人が怒っちゃう」


黒石「そんな人ファンじゃない!」


  軽く静まり返るくらいの大声。


つかさ「(かなり長い間沈黙)…うん…分かった。甘える」




「ちょっといい場面ですね」


―どうしても止まなかったバッシングが完全に追い風になったんですよね。この特番が放送されてから


「そうですね。ちょっと壮絶な半生なんで」


―映画みたい…というかなまじの映画じゃうそ臭いレベルです


「はい、親権者からの援助も打ち切られた半田つかさくんはどうにか自活できる道を探して街をぶらつく訳です」


―高校にも行ってないんじゃ…どうにもならないですよね


「まあね。どういう経緯を辿ったのかは分からないんですが、地下劇団の『こんにちは計画』の楽屋に忍び込んだみたいです」


―別にコソ泥じゃないんでしょ?


「本人も余りハッキリ覚えてないみたいです。一応この時は余りに売れなくて売れ残りの券を抱えてヤケクソになった路上のキップ売りがタダ券を渡して、それで観劇したのが最初…と言う風に言われてるんで恐らくそんなところでしょ」


―15歳でしたっけ当時。そんな子でも入れるんですか?


「別にパチンコ屋とか居酒屋じゃないですからね。エロもグロもないし。難解で訳が分かんないだけで」


―いや、それ問題でしょ


「少なくとも彼の中に『演じること』へのとっかかりは間違いなくあったと思います。ガラガラの地下劇団のわけのわかんない芝居を観て何か感じるところはあったわけだから」


―はあ


「とにかく、気付いたら劇団の建物の隅っこに住んでたってことみたいです」


―そんな無茶な


「学校は言うに及ばず、唯一の拠所よりどころだった施設にも居場所が無いし…皮肉なことに妹に縛られなくなったことで身軽になったところはあります」


―そんな…


「彼の所持品は僅かなお金と位牌だけだったそうです。ボロボロの」


―ここで奥さんと出会うんでしたっけ


「ええ。将来のね。といっても結婚はこの3年後ですけど」


―奥さんは当時18歳でしたか


「出会った時には女子大生になったばかりだったそうです」


―その奥さんも中々凄いですね。そんなところに


「まあ、普通じゃないですよね。孤児で正真正銘天涯孤独の半田つかさくんに対して奥さんの方は両親も健在で、女子大生になるくらいですから割と普通の家庭です」




愛宕坂工事中

つかさ「で、街中をぶらついてた時に『こんにちは計画』見つけて入ります」

火山「奥さんと出会うんだよな」

つかさ「ええ(笑顔)。人手不足なんで、最初に観劇した一週間後には舞台に立ってました」


  どよめき


相良「そんなことありえんの?」

つかさ「もしももっと大手だったら無理だったかもしれませんけど、役者5人しかいないところなんで…」


NA「半田つかさの写真らしい写真が残っているのはこの頃からである」


つかさ「えーと…初めて『あ、これなら出来そうだ』と思えたんです」

相良「それは…お芝居をすることがってこと?」

つかさ「ええ(笑顔)」

火山「天職だったわけだ」

つかさ「…分かんないですけど…当時はまだ中卒だし、これくらいしか出来ることなかったし…楽しかったし」

相良「そうか」

つかさ「現実がちょっとつらかったから、全く別人になって泣いたりわめいたり怒鳴ったり出来るのが楽しくて」


  “ちょっとつらかった”じゃねえだろ…という空気になる。


相良「でもさあ、俺らお笑い芸人もそうだけど芝居の…地下劇団なんて食えねえだろ」

つかさ「はい!(力強く)。お給料は出なかったけど、住むところはあったから」


  余りの話の内容に青ざめているメンバーたち。


つかさ「ん~でも当時の食事の内容とかホントギリギリで、栄養失調寸前でした(笑顔)」

相良「それで痩せてんのかな?」

つかさ「多分。育ちざかりの頃に食べられなかったから」

相良「お前今18だよな?」

つかさ「はい」

相良「まだ育ちざかりだよ!今日これから焼肉連れて行ってやるから吐くまで腹いっぱい食わせてやる」

つかさ「そんな…いいですよ」

火山「お前見てえなガリガリの小食ガキ食わせる程度には売れてんだメロンガイはよぉ!」

つかさ「あ…りがとうございます」


NA「後の半田夫人、雅羅がらさんと一緒に暮らし始めるつかさ」


相良「…同棲してたってこと?(会場からひゃーっ!と言う声)」

つかさ「そうですね。でも生活は…苦しかったです。朝から晩までバイトしたかったんですけど、高校にロクに通ってない15歳の子供雇ってくれるところがあんまりなくて」

相良「だろうな」

つかさ「折角『お芝居』というどうにか出来そうなものを見つけたんで、それに関係した仕事がしたかったんです」


  手を上げる桜木玲さくらぎ・れい


相良「桜木」

桜木「客演とかは無かったの?他所よその劇団とかの」

つかさ「…1回あったけど…それ以外はなかった」

東野「こんなに可愛いのに…」


  制服風の衣装で両手を広げるつかさ。


つかさ「たまにそうやって言って貰えることもあるんだけど…この貧相な体格って舞台向きじゃないんだ。身長も小さいし、顔も小さいし…顔も薄いし」


  ええー!という不満そうな声。


つかさ「当時からあんまり身長伸びてなくて…。一番の理想は身体が大きくて、顔が大きくて、顔が濃いこと」




―全く真逆ですよね


「身体はともかくとしてポイントは顔なんです」


―顔が大きいってのは現代日本ではマイナスポイントですね


「はい。猫も杓子も『小顔』ブームですからね。ただ、彼の言う通り、『顔が大きい』ってのはお客を入れて見せる「芝居」という性質の見世物をやる上では非常に有利なんです。売れっ子歌舞伎役者は『大きな顔』を遺伝で継承してきたと言う側面もあるんですよ」


―…皮肉なことに、それが「男の子なのに女の子アイドルを演じる」事が可能な体質でもあった訳ですね



愛宕坂工事中

つかさ「その時に見つけたのが声の仕事!」

相良「あ、アニメだ!」

つかさ「そうなんです!声の仕事なら見た目が関係ないから出来るし、ランク制だから仕事が得られさえすれば確実に幾らか貰えるし!そう思ってオーディション受けまくったんです!」

火山「それでアニメやってたんだ…アニメが好きだったわけじゃないんだろ?」

つかさ「テレビとかあんまり見られなかったんで」



「もしもここで劇団所属から彼女の家に同棲、アニメ声優として端役をゲット…というトントン拍子が無かったとしたら…大変なことになっていたでしょうね」


―具体的には?


「水商売とか風俗とか」


―風俗?


「あれだけ可愛くてそれでいて男の子なんで、そっち系のアダルトソフトに幾らでも需要はあるんです。一歩間違えばそっちに行っていたかも知れない。そこまで追い込まれてましたから」


―幸運ですね


「とはいえ、現在売れっ子の声優さんでも若いころに「18禁」…所謂いわゆるエロアニメで糊口を凌いでいた時期のある方も少なくありません。というより、第一線で名前を聞いていた人がいつのまにかエロアニメ専門になってたり、別名で出演していたりします」


―普通の芸能界で言うところの「AV堕ち」って奴ですか


「似てますね。ただ、彼の場合15~17歳くらいでした。流石の『業界』でも観ることも出来ない年齢の子供を出演させる訳にはいかなかったでしょう」


―良心の呵責があると


「当局に目を付けられたら終わりだからですよ。世の中そう甘くありません」





愛宕坂工事中


相良「それでアニメに出演してたんだ」

つかさ「はい。一応ウチの劇団にもアニメ出演経験のある先輩はいたんで教わったりしながら。15歳の内に村人Aとか学生Bとかやってました」

火山「あはは!村人か」

つかさ「ここで踏ん張らないと飢え死にしちゃうんで必死でした(笑顔)」

相良「今そのアニメってお宝になってんじゃないの?」

つかさ「あはは…それはどうかわかりませんけど…必死は必死でした。で、ちゃんと履けてないけど舞台と声優の二足のわらじって感じでやってました」

相良「そうかぁ…」

つかさ「お蔭さまでアニメは途切れず役を取れてて…準主役とかもやってました。事務所の力…ってもウチの劇団なんで…が大したことないから声優雑誌のグラビアとか1回も出たことないんですよ(笑顔で頭を掻く)」

火山「…苦しい…よな?」



―今の声優さんってみんなこう言う経緯を辿るんですか?


「いえ、それこそバラバラで全員違います。ただ、一つ言えるのはある世界で売れる人ってのはもう練習して上手くなるとかそういうのじゃなくてそもそも最初からかなり出来るってことですね」


―最初から


「ええ。最初から。声優の学校出身者で活躍してる人も多くいるんで何とも言えませんけど、そこにもってきて単に業界に憧れてるとか、講師の声優さんに会いたいからとかで学校通ってる物見遊山な『声優志望』なんかとは必死さが違います。そりゃあ頭角は現すでしょ」



愛宕坂工事中

松山「どんな気分…やったの?」

つかさ「声優がってこと?…う~ん、当時16から17くらいだけど『嗚呼、自分はこれでやってくことになるんだなあ』ってぼんやり思ってた」

相良「廻りの人とか見てどうだった?最年少だったんじゃないの?」

つかさ「いや、そんなことないです。子役の子もいたし、子役出身者なんてボクより年下でもキャリア12年とかゴロゴロいました。そういう人たちがエリートだとしたらこっちは野良犬みたいなもんです(笑顔)」


  ぶんぶん顔を振っているメンバーたち。


つかさ「でもまあ、こっちはそんなプライドとか別にないし。今月の家賃の支払いに間に合うかどうかとかそんな感じで。天職なのかもしれないけど、同時に生活の手段だったし」


相良「あ、ちょっと待って。その声だけどさ…」

つかさ「(口を覆って男の子の声で)どの声です?」

相良「そうそれだそれ!それはいつ練習したんだ?」

つかさ「えっと…劇団で人が足らなくて女の子演じなくちゃいけなくなって…つってもほんのちょっとだけだけど…その時に「練習しろ」って団長に言われたんでそれからですね」

火山「ってことは入団してから?15歳で初めて17歳だともう完璧なんだよな?」

つかさ「ん~(考え込んでいる)」


  しばし沈黙。


つかさ「妹あやしながら寝てた時に…あんまり覚えてないけど、母とか姉とかの声真似はしてたかも」

相良「そうか、それでか…もう声変わりしてた?」

つかさ「して…たと思います」


  うんうん頷いているメンバーたち。


つかさ「で、前のアニメの打ち上げがあって…その時に一応出演はしてたんでごちそう食べに参加したんです」

火山「あるよなー」

つかさ「そこで『ちょっと笑える特技』ってことで女の子の声でカラオケ歌ったんです」

火山「それってもしかして…」

つかさ「それを聞いてたプロデューサーの中に「カラオケ・デュエル」のプロデューサーさんがいらしたみたいで」


  きゃーっ!と言う声があがる。


つかさ「その時まで自分が女の子に見えるとか思ったことなかったです。基本的には今も思ってないし」


  ええーーーー!!という抗議の声。


つかさ「だってそんな風に思えないじゃん!単なる舞台役者として貧相な奴くらいにしか思えないし」

相良「それで?それでどうなった」

つかさ「アフレコ現場と舞台の往復しかしてなかったから服を持ってなくて…そんなんで仕方がないから奥さんの服の中からズボンっぽいのを見つけて適当に引っ掛けて「カラオケ・デュエル」出たんです。そしたら同じころに「ジャスティスマン」のオーディション受かって」

火山「とんとん拍子だな」

つかさ「そう…なんですかね。舞台で歌うことはあったけど、歌手になる積りなんて無かったし困ったけど、出演依頼があったから、少しはギャラもらえるかなって」

相良「元々歌は好きは好きだったの?」

つかさ「好きでした…っていうか、ボクは基本的に演じることが好きなんで、「歌手の役」やってるつもりです。それが楽しいかってことなら楽しいですね」

火山「そのカラオケ番組って、お前が愛宕坂の歌を歌いまくってたって言う番組だよな?」

つかさ「はい」

火山「愛宕坂は知ってたんだろ?」

つかさ「もちろん!」

相良「どんなきっかけで知ったんだ?アイドル歌手なんて一杯いるじゃんかぁ。それこそBKAとかみどりいろダイヤモンドXとか」

つかさ「そうだそうだ。妹が…デビュー直後の愛宕坂が…その頃はまだ生きてたんで…が好きで良く聞いてたんです。そしたらいい歌ばっかりだなあって」


  松山が泣き崩れる。


端元「ちょっといい?」

つかさ「どうぞ」

端元「半田ってさ、全然緊張しないじゃない?物おじもしないし、人見知りでもないし。顔は赤くなるけど」

つかさ「そう…ですね」

端元「一緒に随分歌番組出たし、“大物”の人とかとも随分会ったけど特に普通だったじゃん」

つかさ「まあ…」

端元「ていうか声優さんなんでしょ?アニメ一杯出てれば色んなそっちの世界の有名人とかにも会うわけじゃない」

つかさ「はい」

端元「あたしたちに初めて会った時になんであんなに泣いたの」


  スタジオに緊張感が走る

  「音楽駅」の際、滝のように涙を流す場面(他局の番組ではあるが、特別に貸してもらった)


端元「こう言っちゃ何だけどあたしらデビュー5年目の“アイドル”グループな訳じゃない。あんなに泣くほど感動するって思えないんだけど」

相良「端元、いやそれはさ…」

つかさ「いや、泣いてない…」


  軽く笑いが起こる。


つかさ「涙が出ただけで泣いてはいないから」

端元「いや、泣いてるよ。泣くってそういうことでしょ。あたしらなんて、その気になれば握手会来れば誰でも会えるわけよ。なんであんなに泣くのよ」


  何故か異常につっかかる端元に静まり返るスタジオ。

  つかさ、考え込む。


つかさ「…あの日さあ…」


  真剣な表情で聴いている端元。


つかさ「端元…さんが言う通りボクは余り緊張しない性質たちだったからテレビで歌うこと自体はまあ…特に何とも思わなかったんです。愛宕坂のみんなには悪いけど、日本全国のカラオケボックスとかでこの瞬間もガンガン歌われてる訳だから、まあそれがたまたまテレビ中継されてるってだけで」


  黒石と東野の表情。


つかさ「なんだけど…まあ、人の運命なんて分からないなあってガラにもなく考えてたんです。ついこの間まで明日をも知らずに地下劇団に飛び込んだり、物凄い数のアニメのオーディション受けまくったり、アルバイトしたりして…やっと見つけたと思ったお芝居も身体が貧相だから向いてないかもって思い始めてた矢先に、思いもよらずカラオケからテレビで歌わせてもらう様になったなあ…とかね」


  表情を崩さない端元。


つかさ「あんなに必死になって守ろうと思って、それが人生の目標だった妹も死んじゃって…まあボクは根が図々しい方だから自分から死のうと思ったことは一回もないしこれからも無いと思う。…けど、これはもう死んじゃうかも…と思ったことはあるんだ。妹が死んじゃった瞬間から、自分が生き残るためには何をしたらいいのかって方向に切り換えてこの日まで必死に頑張ってきた…んですよ」


  神妙なメロンガイの二人の表情。


つかさ「我ながらヒドい奴だなあ…とか思ってたんだ。毎日思い続けて決して忘れない様にしようとしてたのに妹のことを思い出したのがこの日一週間ぶりくらいだったんだよ」


  ぶんぶん頭を振って否定している桜木玲。


つかさ「そしたらその…みんなこれってボクの頭がおかしくなったってことかも知れないから引かないで聴いてほしいんだけど、何か妹とお姉ちゃんが話しかけてくれた気がしたんだ」


  神妙な表情のメンバーたち。


つかさ「そんなはずないけどね。幻聴だと思う。まあ、折角ならそういうことにしとこうと思っててね。そしたら幻聴が続いて『今日久しぶりに会おうよ』とか言い出すから、「ああ、こりゃ重症だ。収録終わったら早目に帰って寝ないと」とか思ってたのね」

相良「そっか…」

つかさ「そしたら気持ち良く歌ってるところに後ろの方で何だかドタバタ音がするから「変な演出だなあ」って思ってたんだ」


  クスクス笑っているメンバーたち。


つかさ「そしたら最後にポーズ決めたらなんかえらくいい匂いのする可愛いダンサーさんたちに囲まれて…」


  表情が見えない様に失笑しようとする端元。


つかさ「そんな訳ないけど…まるでお姉ちゃんとか妹が現世に現れたみたいな気がして…基本的には妹が死んでから涙も枯れて特に感情とかなかったんだけど、涙だけはダラダラでちゃって…まあ、そんな感じ」


  更に一斉に泣きだすメンバーたち。


つかさ「よりによって自分の姉とか妹を…こんな可愛い愛宕坂のみんなに見立てるなんてムチャクチャ図々しいんだけど」


  ブンブン頭を振っているメンバーたち。


相良「半田さぁ…妹さんの名前は?」

つかさ「ひばりです。半田ひばり」


  かわいーという声。


相良「一枚の写真も残ってないんだっけ」

つかさ「ボクは持ってないです」

相良「どんな感じの子だったの?愛宕坂で言うと星山ひだりみたいな」


  涙を流しながらにこにこしている星山ひだり。


つかさ「(笑いをこらえている)いやいやいや!…こんなには可愛くないですよ!…可愛くはあったけど…みんなに比べれば普通です」

火山「お前の妹ってことは、お前に似てて女の子なんだろ?」

つかさ「まあ…」

火山「そりゃムチャクチャ可愛いに決まってるわ」


  うんうん頷いている一同。


火山「…半田はさぁ、その後色々あって愛宕坂に参加することになるわけじゃん」

つかさ「はい」

火山「どう思った?このメンバーたちを」

つかさ「ハッキリ言ってこんなに心の優しい女のひとたちに初めて会ったと思いました」

相良「見た目だけじゃなくて」

つかさ「(笑顔)ええ。同年代の女子にはいじめられた記憶しかないから」

火山「それがわっかんねえんだよなあ…、今のお前ってはっきり言って女子にキャーキャー言われてるわけじゃんかぁ?」

つかさ「まあ…そう言ってくれる女の子もいますね」

火山「そんだけ可愛くて女子がいじめるか?」

相良「まあでも男でこんなに可愛かったら女子は複雑かもよ?」

つかさ「当時は女装してないし、メイクもしてないし…今よりずっと痩せて不気味だったから」

相良「今よりも痩せてたのか?そりゃガリガリだ」

つかさ「ボクは平気っていうかガマンしてたけど、妹は寂しくてよく夜泣いてたから、14歳とか15歳になっても12歳くらいの妹を抱いてあやしながら寝てたんで」


  すすり泣く声。


相良「それで?」

つかさ「ロリコンとか言われて…うん。ボクは平気だけど妹が可哀想で…」

相良「半田さあ…今度お前のことをロリコンとか言うクソブタ女がいたらここに連れて来いよ。オレがぶっ殺してやるから!」


  空気がビリビリするほどの大声。


つかさ「…有難うございます。とにかく、女の子のグループに男が入ってくるのにみんな歓迎してくれて…見た目も綺麗なのに心も綺麗すぎてもお…」



―正に『壮絶な半生』と言ったところですね


「これで若干19歳ですからね」


―末恐ろしいというか…


「私はごくごく平凡な人生しか歩んでないし、役者をやろうなんてとても思わないですけど、それにしてもこの壮絶な体験が彼のお芝居の肥やしになってるのは間違いないでしょうね」


―普通の人の一生分くらいの苦労はしてますね


「もっとかもしれません。とにかく、この特番はどっちの意味でも大評判になります」


―こんなもん見せられたら簡単にはバッシング出来ませんからね


「本人は公表したくなかったみたいです。どうしてもそれまでの立ち位置と違っちゃいますから。でも、目立ちますからね。暴露記事書かれるよりは自分からばらそうってことでしょう」


―とはいえ、これまた運営側の英断ですよね


「基本的には明るく楽しいアイドル番組なんで、事実とはいえここまで壮絶な話をぶっこむのは勇気が要ったと思います。それでもすっぱ抜かれるよりはマシと判断したんでしょ」


―親権者の虐待疑惑なんですが…


「ファンの間では触れないことになってますが、暴行に性的なものが含まれていたかどうかは…良く分かりません。暴力があったのは間違いないですが」


―なんであんなに可愛くなったんですかね


「…私は医者じゃないんで何とも言えないんですが、15歳の時の暴行事件ですね。あれで頭蓋骨を割るほどの大怪我を負って生死の境をさまよう訳です」


―はい


「どうもこの時に脳の一部を損傷したみたいで…ホルモン異常の症状が出た可能性があるのではないかと」


―…女性ホルモンが優位になったと?


「あくまで推測ですが」


―後天的にそんなことありえるんですか?


「似たような症例は世界中にありますよ。ただ、いずれも男性としての機能および社会性を失って女性になってます。彼の場合は外見的な特徴に多くは出ていますが、男性として子供も作っていますから機能までは失っていないみたいですね」


―この日から一斉に若干あったバッシングと、「男の子アイドル」をスルーする気配から同情に世評が変わりますね


「ええ。そして彼自身と妹への加害者への追及も始まります…が、既女板の皆さんが頑張ってゲリラ活動をしている程度で警察まで動いたりはしません。数年前なんで時効ではないんですが」


―それにしても、年端もいかない子供にそれだけの借金を負わせる医療及び刑事制度に問題ありますよね?


「結局この問題は国会にまで波及しました。これと言った法整備までは繋がっていませんけど、ある程度の議論は呼んだみたいですね」


―これまで「オカマ野郎」「ド変態」とバッシングを繰り返してきたゴシップ誌も「壮絶半生!」とかの煽りに乗っかる様になりますね


「事務所には『これで美味しいものでも食べさせてやってくれ』とか『借金返済を手伝うぞ』といった寄付が殺到したそうです」


―調子がいいんだか何だか分からないですね


「愛宕坂47はファンの結束が固いもんだから「半田つかさの借金を返済する連合」なんてのが勝手に複数発足してお金を集め始めてしまったりもしました」


―そりゃまた何とも…


「余りの反響の大きさに冠番組の「愛宕坂工事中」において異例のコーナーを設けざるを得なくなります」



愛宕坂工事中

半田つかさ「えーとですね…先々週に放送させていただきましたボクについての番組について…沢山の反響を頂きましてありがとうございます(お辞儀)。それでですね…事務所に「借金返済を助ける」ってことで寄付なんかが集まっているみたいですけど…大丈夫です!その気持ちだけで十分です。それで伝わりましたから、どうか直接現金を送って来たりすることは止めてください。それこそ、そのお金で愛宕坂のアルバム買ったりグッズ買ったりしてください。回りまわってボクのところにも来るんで(笑顔)。あと、ソロデビューはさせてもらってるんで、出来たらそのお金でアルバムとか買ってもらえば…むしろその方が嬉しいです(笑顔)」



―異例の「現金送らないで」宣言ですね


「実はテレビ放送ではカットされた部分が流出してます」


半田つかさ「ぶっちゃけお蔭様でアルバムの方は順調に売れてまして…といってもミニアルバムなんですが…あと、シングルもアニメのタイアップ多いこともあって売れてまして…実は借金返済は目前なんです。ということでこれからも歌手として声優として、俳優として、そして…あと少しですけど…アイドルとして頑張りますのでよろしくお願いいたします!(深々とお辞儀)」



―結構売れてたんですね


「アイドル個人のお給料の金額なんてタカが知れてるんですけど、ソミーミュージックの誇るソロアーティストになりつつありましたから、個人で歌唱印税が入りますからね。少なくともこの段階でもお昼を130円のカップそばで過ごさざるを得ない様な、新婚当初みたいな生活はしてなかったみたいです」


―…やっぱりたくましいですね


「元々どちらかというと、『男の子なのに女の子グループにアイドルとして加入して、同じ衣装で女子アイドルとして活動する』という逆境どころじゃないシチュエーションにしてはバッシングもアンチも少なかったのに、完全に追い風になりました」


―プライベートはともかく、芸能人としては『持っている』ってことなんでしょうね。


「11月に16枚目のフォーメーションが発表になるんですが、この時に番号でいうと「1」番…最前列は5人いたので、その最も下手…視聴者から見ると一番左はし…の位置で読み上げられます。史上初の『男の子メンバーの選抜入り』です。それもいきなり端っことはいえ最前列」


―「暴露放送」の後ってことですよね?


「はい。収録もその後だったそうです」


―反響…ありましたよね?


「言ってみれば最初は企画の罰ゲームみたいなもんだった訳です。男の子なのに女装してアイドルグループに1年間在籍ってのは。ただ、ごく普通の華奢な男の子ってだけなら大問題なんでしょうけど、外見だけなら間違いなく美少女で、しかも声を自在にスイッチして美少女声でガールズポップを歌いこなす…この表現が適切かどうか分かりませんけど…『職人』です」


―はあ


「しかも、単に「歌える」なんてレベルじゃない。猛烈に上手くて、上手いだけじゃなくて魅力たっぷりです。歌っている時の包み込むような笑顔はとても男の子の演技だなんて信じられません。ソロアーティストとしても活動していて、妙な話ですが『実力を買われて』加入してる助っ人という意味合いもあります」


―『女の子アイドルとしての実力』を買われて…ですよね?


「ええ。実際ライブやテレビ番組出演などでは別の仕事や都合などで欠けたメンバーの穴埋めの位置で踊ったりもしています。が、『選抜入り』ってことになると流石に意味が違います」


―シャレになんないですよね


「私は後から必死こいて調べたにわかファンですけど、愛宕坂のファンにとっては『選抜』ってのは神聖な意味を持ちます」


―その辺りがちょっとよく分からないんですが…


「仕方がない、母体であるBKAグループまでさかのぼって簡単に解説しましょう」


―お願いします


夏元硬なつもと・かたし氏は80年代にはごく普通の女子大生を寄せ集めて「お南海なんかいクラブ」という「タレントグループ」を結成し、これが一世を風靡するほどの人気になります。今も何人かは芸能界に残っていますし、熱烈なファンを獲得したメンバーもいました」


―そうでしたね


「人気絶頂のまま4年半ほどで活動を休止し、その後は「アイドル冬の時代」に突入します。唯一気を吐いていたのが「イブニングお嬢。」くらいですね。90年代から0(ゼロ)年代前半はほぼそんな感じです」


―そしてBKAグループで華麗な復活を果たすと


「実は90年代にもテレビ局と組んで「ハサミっ子」という「女子高生」世代のアイドルをプロデュースしてます。時代と合わなかったらしくてそれほどパッとしませんでしたが」


―そうなんですか


「その後BKAグループ結成に至る訳ですが、ポイントは『専用劇場を持つ』ことでした」


―そう言われてますね


「この手の地下アイドルなんてトンでも無い数がいます。その中でBKAがここまで売れた要因までは分かりません。ただ、初代の劇場支配人は最初はお酒を出すお店のステージショーみたいなイメージだったそうです」


―そうなんですか?ニューハーフショーみたいな


「まあ、そうですね。でもそうじゃなくてあくまでもアイドルポップだった訳です」


―握手権商法などが批判にさらされますが


「勝てば官軍ですな。ただ、調べれば調べるほど本当に試行錯誤の連続というか、あーでもないこーでもないと悪戦苦闘していた様子が分かります」


―例えば


「最初からかなりの人数がいましたけど、あれだけ沢山いるとどうしても扱いに偏りが出てきます」


―仕方がないですね


「そうなるとファンからは不満が出てくるわけです」


―どういう基準で選んでるのかと


「そうです。そこで出てくるのが「選挙」ですね」


―後にテレビ中継までされて、日本の子供っぽい文化の揶揄の対象にもなりますが


「そこが良く分からんですね。別にいいじゃないですか。逆に必死になって叩いてる人の方がアイドルに何を求めてるのかな?と心配になりますよ。単なるイベントです。そもそもアメリカ合衆国だって「ナショナル・アイドル」なんてアイドル投票番組があって大統領選挙よりも得票総数が多かったりするんだからとやかく言われたくないですわ」


―まあ…そうとも言えますが


「本人たちの目の前で人気投票による順位づけをするのは残酷だって話もありましたが、所詮は人気商売ですからね。ここで興味深い現象が起こりまして、いざ順位を付けてみると普段露出していたメンバーの顔触れとそれほど変わらなかった訳です」


―む~ん、でも露出していたからこそ人気になったとも言えるのでは?


「正にニワトリが先かタマゴが先かですね。この頃の夏元氏はとにかく思いもかけないサプライズを仕掛け続けてそれに右往左往する年若い女の子を観察して楽しむところがあります。やっと仲良くなったチームをバラバラに組み直して、それにショックを受けて泣き崩れるところを中継したり」


―悪趣味ですね


「見解の相違ですね。これでもなお納得のいかないファンのために、「あっちむいてホイ」大会の優勝者をセンターにした楽曲を発表したりします」


―正に国民全体がお遊戯会に付き合わされているようなものです


「ファンが観ればいいと思いますけどねえ…ファンでない方は見なければいいんで…ともあれあの手この手のギミックを仕掛け続けてファンの耳目を集めることに成功します」


―選挙の投票も一人一票ではなくて何枚でも買えるわけでしょ?


「ええ」


―握手権にしてもCD一枚で数秒権利が得られるだけ


「おっしゃる通り」


―それでミリオンヒットだって言われても納得しがたいんですが


「…一つだけ確実に言えるのは『商売』としては大成功だということ。ここは押さえないと駄目です」


―商売


「ダウンロードで楽曲を買うことも多くなってきて、動画配信サービスのミュージックビデオを見てしまえばタダでフルに楽曲が聴けてしまう現在において、ここまで「モノ」「物体」としての「CD」を売っているという実績ですね」


―しかし…


「ここだけの話、毎回ミリオンヒットなので国内のCDブレス工場がかなり命脈を保っているんです。一大産業ですからね」


―…厳しい言い方ですが、上げ底みたいな商法で翌日には大量廃棄されるCDを売る構造で幾ら国内CDプレス工場とやらが救われたと言っても、本来滅ぶべき産業をゾンビの様に無理やり延命させているだけとも言えませんか?


「それについての是非はさておきましょう。ポイントは個々のタレントの処遇です」


―は?


「現在は各地の姉妹グループ合わせると合計350人にも膨れ上がっていますけど、当時も100人に迫るメンバーがいました。どうしたと思います?」


―そういえば…


「元はソミー・ミュージック傘下だったんですけど、売れないんで飛び出した後の話です」


―そうなんですか?


「ええ。ファンなら周知なんですが、個々のメンバーがほぼ全員バラバラの芸能事務所に所属することになります」


―どうしてそんなことに?


「一説には夏元氏がタレントとしての身請けを拒んで、既存の芸能事務所に引き受けようとさせても余りの人数にそれが難しいのでバラバラにされたとも言われています」


―かなり特異な形ですね


「ええ。グループアイドルは大勢いますが、こんな形態のアイドルはまずいません。結果として個々の事務所の力関係でメンバーの露出に更なる差が出たりする結果にもなります」


―幸運にも大手事務所に拾われたら露出が増えると?


「まあ、そういうことです。現在は一応は一元管理する会社名がありますけど、長らくこの形式でした」


―それで?


「あの人数ではあるんですが、一番目立つセンターポジションにじゃあ誰を据えるか?って話になると特にこれと言った基準は無い訳です」


―確か、前山厚子でしたよね?


「はい。ぶっきらぼうなキャラ故に誤解も多く…口が悪い人は余り美人でないなんてことを言ったりもします」


―穏当な表現ですね


「案外ファンも指摘しませんが、毎年「選挙」してますけど、実は「選挙」でセンターに選ばれたメンバー…小島有子とか佐原莉恵とかは「その次の楽曲」のセンターが出来るだけで、選挙に関係ない次の曲ではまた前山に戻っているんです」


―え?そうなんですか?


「はい。あそこで交代して次の選挙までずっとセンターだと思ってる人もいますけど、あれはあくまで「第〇〇弾シングル」のセンター選挙にしかすぎません」


―そうだったんだ…


「あと、何しろ人数が多すぎです。余りにも多いので「チームB」「チームK」「チームA」みたいな感じに分けたりもしていますが」


―なんでそんなに多くなるんでしょう?


「数は力…ということです。個別のメンバーにファンが付きますからメンバー10人のファンがそれぞれ10枚CDを買ってくれると100枚売れますけど、メンバーが100人なら10人のファンが10枚ずつ買うと1,000枚売れる計算になります」


―そ、そういうことなんですか…


「さて、ここで話が愛宕坂に戻ります」


―BKAの歴史みたいになってました


「BKAの歴史やりたいならこんな雑な分析じゃ駄目です。専門的な研究所とか沢山出版されてますんでそれをどうぞ」


―遠慮しときます


「BKAは彗星のように現れた印象が強いですが、実際にはブレイクと言えるのは結成10年目くらいからです」


―案外歴史があるんですよね


「根強いファンに支えられているのは間違いありませんが、一般的な視聴率に直結するかどうかは微妙なところです」


―はあ


「ゴールデンタイムに番組を持っていたこともありましたけど、それほど長続きしませんでした」


―どうしてでしょう?


「やっぱりファン以外にとっては「単なる若い女の子の集団」にしかすぎませんからね。よほどうまく料理しないと特に面白くはなりません」


―実も蓋もないですね


「スタートが逆境状態からなので、BKAが冠番組を持つことが出来たのは結成し、デビューしてから2年後です」


―それも凄いことですが


「当時やっと注目し始めていたファンからしてみるとこれが何とも微妙でした」


―そうなんですか?


「当然一番目立つ女の子から名前を覚える訳です」


―でしょうね


「ところが、そういう子って人気だから常により優先度の高い仕事に行っていて「冠番組」に出演しないんですよ」


―え?


「これは専用劇場でも同じで、『会いに行ける偶像』ったって、アホみたいな倍率を突破して半年後の入場券を購入してやっと観に行ってみれば見たことも聞いたことも無い研究生しか出演してなかったりする」


―…現実は甘くないですね


「ともかく、方法論として成功を収めたことで各地で似たようなアイドルグループを乱立させます」


―そうでした


「そんな中にあって「公認宿敵」として愛宕坂47が誕生する訳です」


―何が違うんでしょう?どれもこれも似ていて区別がつかないんですけど


「まあ、基本的には延長線上にありますけど…BKAファンには申し訳ないんですが、言ってみれば『長女』たるBKA及びその姉妹グループの試行錯誤した『経験』を『次女』たる愛宕坂47に全部最初からぶち込んだ感があります」


―といいますと?


「まず専用劇場がありません」


―それは不利なんでは?


「考え方です。これによって彼女たちは必然的にライブ中心でなく、メディア中心の活動にならざるを得ません」


―そっか…


「更には全員が所属事務所が同じです」


―結局その方が良かったと


「元々、ソミー・ミュージックへの義理を果たすために結成したという側面もありますからね」


―それで?


「劇場が無いため、人数が圧倒的に少ないです」


―どうして劇場が無いと人数が増えないんです?


「劇場があると、多少人数がいても毎日ライブステージがあるのでメンバーを遊ばせる危険性が少ないんです」


―あ…


「5年もやっているのに未だに3期生しかいません。BKAグループならもう7~8期生はいるでしょう」


―何人いるんです?


「現時点で36人です。3期生入れると48人」


―「47」人じゃないんですね


「オーディション合格者の辞退者含めると19人辞めてます。ただ、これでもBKAグループに比べると驚異的な定着率です」


―そうなんですか?


「未だにデビューシングルの選抜メンバーが2人欠けただけで再現出来るくらいですからね。名古屋を活動起点とするOOS49はデビューシングルの時からのメンバーが1人も残っていません」


―そんなに…


「初期のBKAなんて激動なんてもんじゃありません。ほぼ毎週のように入れ替わりがあったと言えるでしょう」


―恋愛禁止を守れなかったとか


「…そっちがらみのスキャンダルが多い印象なのがBKAの残念なところです。愛宕坂に流れるファン心理もその辺りが大きい」


―結果的に人数を絞り込んだのが成功の要因であると


「はい。この後に妹分の「桜坂47」も発足するんですが、こちらはたった21人で旗揚げして、選抜・非選抜の区別すらなく全員で歌うスタイルです」


―なるほど


「ポイントとして『冠番組』が準備されていたってことも大きい」


―え?でもBKAにもあったし、今もあるんですよね?


「おっしゃる通りですが、あちらは結成2年後から始まります。対して愛宕坂はなんと『デビュー前』から冠番組がスタートしています」


―デビュー前?


「ええ」


―デビュー前って…何にも見せるものがないでしょ


「はい。何もありません。なのでやれ練習風景だの選抜読み上げだのを密着するドキュメンタリー風バラエティとなります」


―面白いんですか?こちとらBKAでも顔と名前が一致しないのに


「普通は面白くはならないですね。なので、当時から売れっ子だったメロンガイを司会に起用することになります」


―ああ、そこでメロンガイなんですね


「開始当初の放送を今見ると、正直半笑いじゃないですが『何でおれたちがこんなことにつき合わされなきゃならんのだ』的な雰囲気もあります」


―え?


「不惑近い大人の男が若けりゃ13歳からせいぜい18歳くらいのどこの馬の骨とも分からん女の子の集団なんて普通は接点が無いでしょ。幾ら可愛いと言っても」


―いや、そりゃそうですけど


「実際、今でこそ美女・美少女軍団ということになってますけど番組開始当初は…ハッキリいって垢抜けない女の子たちばかり…という以上の印象は抱けない感じでしたね。現在放送中の『愛宕坂工事中』を観れば「うわっ!可愛い子だらけだ!」と驚くでしょうけど、この頃見ても大半の視聴者は特に何とも思わないでしょう。メロンガイも基本的にはそういうスタンスです」


―なるほど


「けど、その突き離し方が良かった」


―は?


「メロンガイはあくまでも『30分のバラエティとして面白さ、興味のテンションが持続するか』で番組を作ってます」


―というと?


「ちょっと意地悪言って泣かせても、それが娯楽として成立するなら遠慮なくやる訳です。ファンのための番組というスタンスでは最初からなかった」


―え?それは問題でしょ。ファンが観るんだから


「これも偶然かもしれませんが、冠番組でありながら「愛宕坂ありき」ではなかったんです。恐らくこの時点で彼らだけでも番組が成立するほどの知名度と実力を兼ね備えたメロンガイを司会に起用したことによる奇跡でしょう」


―そこまでですか


「実際、初期は「メロンガイたちがアイドル候補生をいじる番組」でした。メロンガイのファンだから番組を見ていて愛宕坂のファンになった…何て人も大勢います」


―へー


「実際、愛宕坂はこの番組が言ってみれば「ホーム」になります。確かに深夜のほぼ関東ローカル番組ではあるんですが、週に一度発信できる場を恒常的に持っていたことの意義は限りなく大きいと言わざるを得ない。これはBKAにもないアドバンテージでした。正直、BKAにもこう言う番組があったならば…と思います」


―それって「イブニングお嬢。」のデビュー当時にも似ていますね


「正におっしゃる通りで、オーディションから密着していた「YORUYAN」のスタンスと非常に似ています。これをやるとどうしたって「アイドル」という色眼鏡で見るというより、メンバー個人のパーソナリティに寄り添わざるを得ないですからね。ただ、確かにYORUYANがイブニングお嬢。に果たした役割は大きいんですが、彼女たちだけを扱う番組ではありませんから」


―あ、そうか


「この『既に売れている一流お笑い芸人の司会』による『デビュー前からの冠番組による個人の掘り下げ』は成功体験として刻まれたらしく、妹グループの「桜坂47」でもそのまんま踏襲されています」


―確かにそうですね


「どうしてもダーティでハスッパなイメージも付いてしまったBKAグループに対抗する意識が愛宕坂47のファンって強いのでBKAグループを悪く言う…口を極めてののしる…ことも少なくないんですけど、繰り返しになりますがBKAグループには「個人に密着した冠番組」みたいなのがありません。ちょっと先行グループ故の気の毒さはあるなあ…と私なんかは同情しちゃうんですけどね」


―え?でも冠番組はあるんでしょ?


「あるんですけど、メンバーに体操着着せてどついて泥の中に落とすみたいなバラエティなんですよ。馬鹿馬鹿しくて見続ける気にならないです。申し訳ないけど司会もマイナーな芸人さんです。こうなってしまうと、パッと付けた時に画面に映ってる人が誰も知らない状態になってしまいます。その点、愛宕坂はとりあえずメロンガイだけなら日本人なら誰しもテレビで見かけたことがあった状態ですからね」


―なるほど


「さてそこで「選抜」と「フォーメーション」と「センター」です」


―その話でした


「恐らくファンならこれまでの17枚のシングル曲名とセンターのメンバーの名前を全部言えます」


―え?


「私みたいな薄いのでも言えるくらいです。下手すりゃカップリングまで全部覚えてる人だっていますよ」


―病的なファンってだけじゃ…


「いや、違います。毎回毎回劇的な『選抜メンバー発表』が30分の番組一回丸ごと使って行われて、その都度ドラマがあるからなんです。嫌でも覚えます」


―30分まるごと?


「ホーム番組を持つ強みですね。確かに「選挙」を特番でゴールデンで流してもらえていたBKAには及ばないでしょうけど、これほど贅沢な時間の使い方が出来るのは「冠番組」ならではです」


―ファンはそれ見ていて楽しいんですか?


「極論ですけど、全員顔見知り同然に知ってますからリアクション見ているだけで30分なんてあっという間です」


―そこまで…


「ポイントはフォーメーションにもセンター決定にも「ファンによる選挙」が一切行われていないってことです」


―あ…


「フォーメーションもセンターも運営が一方的に決めて発表するのみです。ただ、発表時のドキドキはBKAさながらです。これが年に3~4回は行われる訳です」


―理不尽じゃ?


「確かに、これまでもファンにもメンバーにも理解不能なほど大胆な人事が行われて物議をかもしたことはあります。ただ、良くも悪くも「今回だけ」ではありますからね。次は落ちるかもしれないけど、落ちた人は次は上がるかもしれない」


―はあ


「あと、偶然ですけどこれだと「選挙」と違ってメンバー同士のつばぜり合いみたいな形にならないんです。なるとしたら一方的に運営が悪役になるだけで。愛宕坂はメンバー同士のギスギスが薄いどころかほぼ無いんですけど、この形式もそれに貢献しているでしょうね。ともあれ、定期的に襲ってくる大波乱には違いないと」


―…やっと見えてきました。噂の16枚目シングルにおいて、異色すぎる男の子メンバーたる「半田つかさ」もその渦中に巻き込まれることになる訳ですね


「その通り」



愛宕坂工事中

司会「1番、半田つかさ」


 ひゃあっ!という歓迎ムードの声が上がる。

 「あちゃあ…」といった表情で天を仰ぐつかさ。すぐに持ち直して制服風衣装で司会の席に歩いてくる。


相良「…どうですか…選抜、フロントだけども」

つかさ「(ちょっと考え込んで)…今回、『選抜選考除外』解除だって聞いた時から覚悟はしてたんですけど…こんなことになるとは…」

火山「いいんじゃないの?認められたってことなんだから。男だろうと女だろうと」


 うんうん頷いているメンバーたちの映像。



自宅にて

キップ「あの衝撃的な告白がこの少し前です。更衣室は当然ながら依然として別ですけど、楽屋・控室は同じ扱いをされるようになり、メンバーとも心理的にも距離がより近くなった直後ですね」


―とはいえ、同情人事ではないでしょ?


「話題性…ですね。あの告白が無かったら「加入までは許せても選抜なんてありえない」世論のままだったでしょう。一瞬追い風が吹いたところに次の話題を仕掛けてきたってところです」



愛宕坂工事中

つかさ「えーとですね…この度は選抜に選んでいただきましてありがとうございます(お辞儀)。(少し考えて)ボクが選抜に入るってことは、ボクの代わりにアンダーに落ちた子がいるってことなんでその…でも、ボクは選手です。監督は監督のお考えがあってのことだと思います」


(筆者注:半田つかさはよく物事を野球に例える。数少ない少年らしさ…とファンには認知されている)


つかさ「フロントの下手しもて端ってことはその…例えるなら「お前はファースト守れ」って言われてる様なもんだと思います。16人で歌う歌なんで、1人でも欠けたら駄目なので、ファーストとしてセンターの…ちょっとややこしくなっちゃいましたけど(笑)…センターを盛り立てるために頑張ります!ありがとうございます!(深々とお辞儀)」

相良「よーしっ!」

火山「はい頑張ってーっ!」


 すたすたと歩いてフォーメーションの形の雛壇に収まる半田つかさ。制服衣装もあって見事に馴染んでいる。



「熱情台地」第二弾録画より未放送部分

*****


NA「この年の11月。8月末の豪雨の中行われたバースデーライブの最終日にて発表された16枚目シングルの選抜メンバーとして、なんと「補助メンバー」でありながら選ばれる。立ち位置は一列目下手の端」


  発表直後の表情。また唇がぶるぶると震えている。


NA「このシングルは、人気メンバーだった端元が卒業及び引退を発表した曲でもある」


会議室にて

野中「これまた英断でした」


―単独ソロ名義で活動出来ているメンバーよりも、生え抜きのメンバーから選んだ方がいいのではという声もありましたよね


野中「まあ…それはね」


―どうしてそういうことに?


野中「基本的にはパフォーマンスで選びます。といっても愛宕坂の選抜及びセンターは毎回の楽曲のコンセプトに合わせて戦略的に選ぶんで、それこそ学科試験の得点の高い方から順に選ぶような選び方とは違うんです」


―コンセプトに合っていたと


野中「総合的な判断です。前回の半田の個人のサードシングルが7月で愛宕坂の16枚目が11月なんで時期的に無理のないインターバルなんで、そろそろ選抜に参加してもいいかなと」


NA「この時期、半田つかさの個人名義でのソロCDは発売されていない」


*****


自宅にて


―以前に、半田つかさはBKAじゃなくて愛宕坂でないと無理だったとおっしゃった理由が分かる気がします


「はい。そもそも専用劇場が無く、恒常的に続く週に一度の冠番組があったために細かく動向を追えるんですよ。映像資料が豊富に残っているというアドバンテージは限りなく大きいです。BKAでこの手の動向を追おうとしたら文字情報だらけになってしまうでしょう。それでも相当残ってはいるんですけど」


―昭和のプロレスみたいですね


「正におっしゃる通りです。ところが愛宕坂は週一番組によって、起こった大事件の大半が映像で記録されている新時代のアイドルです。いや、同時代のアイドルは大勢いますけど、ほぼ唯一と言っていい」


―加えて曲ごとのフォーメーションの発表ですか


「「選挙」がわりなんですけど、良く考えればあの「選挙」もフォーメーション番号の発表も兼ねていたはずなのに、そういう意識は全くありませんでしたからね。「順位」にばかり目が行ってて」


―はあ


「繰り返しになりますが総人数も少ないし、入れ替わりも少ない、離脱者も本当に少ないので必然的にほぼ全員が仲がいいんです愛宕坂って」


―その様ですね


「この手のグループで必ず聞く『派閥』とかの話がほぼ聞こえて来ませんでしたから」


―そうなんですか?


「いじめ問題にしても、グループの顔である生馬理科や黒石真紀もひどいいじめに遭って苦労して来てますから敢えて行おうとはしなかったでしょ」


―本当にいじめって無かったんですかね?30数人の女の子に対して男の子1人でしょ?


「面白いことに10枚目シングルの『何回目の青空?』のミュージックビデオにおいて、共学化した元・女子校にたった一人の男子生徒として入学して苦労する男の子…というストーリー仕立てのものがあるんです」


―え?


「今回の一連の騒動に良く似てますね。導入だけは」


―そっくりです


「このMVは作り話ですが、最初の内はいじられいじられて居場所が無かった男の子も最後にはみんなと仲良くなってハッピーエンドっぽくなります。そもそもいじられるのも深刻な雰囲気はそれほどなくてからかって楽しんでる程度です。本当のいじめなら私物が全部捨てられてたり、階段から突き落とされたりするもんですから」


―…


「実は愛宕坂は人数を絞ったと言う事ともう一つ、選考の段階でとある基準がありました」


―基準


「はい。敢えていじめられっ子と、それからお嬢さまでおっとりして屈託の無い子を狙って合格させていたそうです」


―そうなんですか


「いじめられっこ代表が生馬、黒石、お嬢さま代表が桜木、幾田というところです。東野なんかはちょっと緊張すると泣きだす泣き虫キャラでいずれも攻撃的ではない」


―BKAは違うと


「ドキュメンタリーをご覧になったことは?」


―いえ


「女の子同士でも『テメエ!ふざけんな!』と怒鳴り合う修羅場です。良く言えば体育会系の上下関係というかね。ちゃんと調べてませんけど恐らく「いじめっ子」側だった子も多いんじゃないかな」


―…まあ、芸能界でのし上がろうという子たちならそういうこともあるんでしょうね


「対して愛宕坂はこんな集団ですからまあ、いじめは無いでしょう。距離を取るくらいは普通にあるでしょうけど。そもそも最初の出会いが、目の前で会ったというだけで馬の小便の様に涙を垂れ流して感動していた子…というところから始まってますからね」


―なるほど


「BKAは確かに可愛い子が揃ってるし、個性的な子も多いけど、オタクというかオクテな男の子だと気後れしちゃう様な強気な女の子の集まりでもあります。それに対して愛宕坂のコンセプトはいじめられっ子と屈託の無いお嬢さまの集団です。イマドキの男の子がどっちを好むかは明白です」


―ちと情けなくはありますね


「愛宕坂の人気の特徴は『女の子にも人気』というところがあります。結局は女の子もそういうのが好きなんですよ。男ばかりが責められてもねえ。BKAもかなり女子のファンが多かったですけど、愛宕坂のそれはちょっとカリスマ的ですね。現役モデルが7人もいるというところもあるんでしょう」


―確かに


「そもそも最初に半田つかさを受け入れたのはむしろ女子のファンの方でした」


―そうなんですか?


「はい。不思議なもんで女子は一旦「あ、女だ」判定をしちゃうと一気に無警戒になるみたいです。歌ってないと駄目な子で、いつもにこにこしているので「軽くバカなんじゃないか」雰囲気もありました。加えてあの生い立ちなんで同情的になるのに何の障害も無いというか…」


―なんとなく分からんでもないですが…


「加えて最後まで妹を守ろうとして果たせなかった天涯孤独の孤児です。それでいて妻帯者なんで安心と」


―はあ


「小学生の女の子たちが可愛い男の子をガサツな男子から集団でかばったりするでしょ?そういう心理なんじゃないでしょうか。女性ファンだと『半田つかさ推し』言っても変態と見られにくいってこともあるし」


―なるほどねえ


「女性は…敵に回すと恐ろしく、味方に付けると頼もしいですよ。特にそれが感情的なきっかけだとね」




リビングにて


半田雅羅はんた・がら「はい…この度はどうも」


―「愛宕坂工事中」にご出演ご苦労様です


雅羅「…(苦笑)そうですね」



「愛宕坂工事中」

相良「はい!今日は素敵なゲストが来てくださってます!」

火山「では…どうぞ!」


  ラフなジーンズ姿ですらりと背が高く見え、髪の長い美人がつかつか歩いてくる。

  物凄く動揺する制服衣装姿の半田つかさを抜くカメラ。

  メンバーたちがその凛々しい美人ぶりにきゃーきゃー言いながらヒソヒソしている。

  その場に突っ伏す様に上半身を前方に折り曲げてうずくまる半田つかさ。


相良「あれぇ?どうしたのかなー?」

つかさ「(押し殺す様な声で)ちょっと…」

火山「何か様子がおかしいぞ~?」


  つかさの異変に気付いたのか、メンバーたちのひそひそが大きくなる。


相良「はい、お名前をどうぞ」

雅羅「(凛々しく)…えっと…半田雅羅はんた・がらと申します」

火山「え?はんたさん」

雅羅「はい…」


  頭を抱えているつかさ。


相良「あれ~?どうしましたそちらの半田さん?」


  頭を抱えて立ちあがり、髪を振り乱して思わず一回転してしまうつかさ。長いスカートがふわりと広がる。


火山「あなたこの方がどんな人か知ってますね?」

つかさ「(赤信号みたいに真っ赤になって)…はい」

相良「では、あなたの口からおっしゃって下さい」


  カメラが目一杯寄る。


つかさ「ボクの…お嫁さんです」


  キャー!!!と言う悲鳴やら怒号やらでスタジオ大混乱になる。


  しばらく混乱続く。


相良「ああそうですか…しっかしあなたも随分またお綺麗でいらっしゃる」


  凄い勢いで顔の前で手をブンブン振って否定する。


相良「失礼ですがお幾つですか?えっと半田って幾つだっけ?18?」


  つかさ頷く。


雅羅「21です」

火山「若い!」

相良「勝手なこと言いますけど、愛宕坂に入っても全然イケるでしょ」


  スタジオ中から「イケるイケる~!」といった声。


雅羅「無理です無理です!こんなキラッキラに綺麗な子たちの中に混ざれません」

火山「え?でも黒石なんてもう24のババアですよ」

黒石「あぁ!?」


  黒石の睨みつける顔のアップ。

  スタジオ爆笑。


相良「どう思うよ生馬?」

生馬「もう夫婦で愛宕坂入っちゃえばいいじゃん」

火山「あなたは入れないっておっしゃってますけど、旦那さんは入ってますからね?」


  どーん!という効果音と共に抜かれるつかさ。


つかさ「ちょ…ま…っ!テレ…テレビってここまでやるんですか!?」

相良「お、流石のプロのビジネスアイドルも動揺するかこれは」

つかさ「しますよそりゃ!…てかあんた何やってんの?(雅羅に対して結構マジモードで)」


  スタジオ爆笑。

  雅羅、指で輪を作ってお金のサインを出す。


つかさ「えーーーーー」(スタジオ爆笑)


相良「折角なんでお前ちょっとこっち来い。夫婦で並んで出演ってことで」


  ひゅーひゅー!と囃すスタジオ内。

  ちょっと渋っていたが、仕方なく司会者席の隣までとてとてやってくるつかさ。当然「愛宕坂47」の清楚な制服衣装のままである。

  ジーンズ姿でボーイッシュに決める半田雅羅と並び立つ。ほぼ同じ身長。


相良「はい、半田夫妻でーす!」


  大喝采と共にぺこりと頭を下げる半田夫妻。

  メンバーたちの興奮がしばらく収まらない。


火山「で?どうですか?旦那様のこの姿見て」


  つかさの足元から顔までパンアップするカメラ。膝下丈のスカートの制服衣装が清楚で可愛らしい。


雅羅「(困ったような複雑な表情で)…まあ…うん」


  スタジオ爆笑。思い切りぶりっこポーズをするつかさ。反射的に頭を叩く雅羅。


雅羅「(同時に)うっとおしい!」


  ばふっ!と髪の毛が乱れる。多くのメンバーがひっくり返って爆笑。


雅羅「あ!あれ何だ!(あらぬ方向を指す)」

つかさ「え!?」


  反射的にそちらを向こうとしたところで、スカートを思いっきりめくり上げようとする。


つかさ「うわわわわわわ!!」


  咄嗟に押さえたが、脚の肌色が太もも辺りまで見えてしまう。


つかさ「ちょっとぉ!…(目を真ん丸に見開いて)…テレビ!テレビ!」


  メロンガイも転げまわって笑っている。


  スローモーションやら何やらでえしつこく何度もリピートされる「うわわわわわわ!」の瞬間。


CM


  CM明け。二人とも椅子に座らされている。


相良「はい、それでは改めて本日のゲスト、半田雅羅はんた・がらさんでーす!」


  拍手。


相良「ついでに愛宕坂47のメンバーで夫である半田つかさにも隣に座ってもらってまーす」


  拍手。


相良「雅羅がら…さんとお読みするんですね?」

雅羅「はい」

火山「かなり変わったお名前ですね」

相良「本名ですか?」

雅羅「はい。本名です。子供の頃はガメラとか言われてました(スタジオ笑)」

相良「いきなり本題に入りますけど、妻としてどう思いました?夫が愛宕坂47に入るって聞かされた時は」

雅羅「いや…へたっくそな詐欺もあるんだなあって」


  スタジオ爆笑


雅羅「だって本当に意味が分かんなくて」

相良「まあ、それはそうですよね」

火山「その前にカラオケ番組で女装して歌ったりしてましたよね?」

雅羅「あ、っはい」

火山「そっちはどうだったんですか?」

雅羅「まあその…(照れて顔を真っ赤にして突っ伏す)」


  スタジオ中から「かわいいー」の声


雅羅「(つかさに向かって)あんたよくこんなこと毎週やってんね?」

つかさ「(そっぽ向いて)毎週じゃないよ。二本撮りだよ」

火山「おい!」


  スタジオ爆笑


雅羅「まあ…てゆーかすいません。最初にこんなことになったのって、あたしの吹き替え…っていうか代役だったんですよ」

相良「あ、同じ劇団の先輩だったんですよね?」

雅羅「そうです」

相良「代役って女の子のってことですか?」

雅羅「まあ、その頃は今より身体もちっちゃかったし…あんまりセリフも無いから何とかなるだろうってことで」

相良「そうなんだ」

つかさ「…はい。本番20分前に言われて仕方なく」

相良「あ、VTRあるそーでーす」


  きゃー!と言う悲鳴。

  ほんの少しだけだが、野暮ったい夏服のセーラー服のおさげの男の子?がうすぼんやり何かを言っているらしいことが分かる荒い画面。


火山「ちょっとこれだと分かりにくいですね」

雅羅「この頃はまだ今よりは女の声とか出せない頃で」

つかさ「ですね」

相良「でもまあ、可愛いよね」


  スタジオ中「かわいー!」の合唱。


つかさ「団長がひどくて…この後毎回兼ね役で女の子降って来るんですよ」

雅羅「ウチ、人数少なかったんで。今も少ないけど」

相良「はいどーもありがとうございます―」


  スタジオ拍手。


雅羅「まあ、お互い演じるのはプロなんで…大丈夫だとは思います。そこは信じてるんで」

火山「愛する旦那が女装してスカート履いててもいいと」

雅羅「いいですね。むしろもっと可愛くやってほしい」


  おおーという声。


相良「いや、ぶっちゃけ十分すぎるほど可愛いですよ。少なくともあの辺とかその辺とかよりずっと」


  指さされたあたりが「おいおいおいおい!」「いやいやいやいや!」みたいに立ち上がる。


火山「ほら、あーゆー若手芸人みたいなリアクションになるんで」



リビングにて

―よく出演されましたね


雅羅「実は隠れて見学に行ったこともあるんです。その時にプロデューサーの方に見つかっちゃって」


―そうなんですか


雅羅「その場でも『出てくれ』ってことになったんですけど、お断りしてたんですよ」


―はあ


雅羅「そしたら、必ず面白くするって話と、ウチの小屋の芝居宣伝してもいいからって話に乗せられて…どうせ一年だけだって話なんで記念に1回くらいはって思いまして」


―実際問題、妻としてはどうなんです?


雅羅「う~ん…お互いに劇団入った時からかける恥は全部かいてるってところがあるんで、今更スカートの一枚でどうとは思わないですけど…」


―平気であると


雅羅「あなた多分、私に「ちょっと恥ずかしいです」とか言ってほしいと思って誘導してるんでしょうけど」


―いえ、そんなことは…


雅羅「一般的な夫婦とは大分違いますよ。そりゃ。でもまあ、女に化けた時の彼は…ムチャクチャ可愛いです。あたし好みですね(笑顔)てゆーか妹欲しかったし」


―確かつかささんはお姉さんに憧れてたんですよね


雅羅「そうですね」


―お互いの求めるものが一致したと


雅羅「うるさいなぁ(笑)」



「愛宕坂工事中」


相良「えーここで関係者からのタレこみ情報です」

雅羅「えっ!?」

相良「どん!」


  フリップを出す。


  相良、読み上げる。

『半田つかさ夫人、雅羅さんは毎晩の様に愛宕坂47の振り付けを旦那に教えてもらっては一緒に踊っているらしい』


  転がりまわって爆笑しているメンバーたち。


雅羅「ちょ…(小声で)喋った?喋ったの!?ねえ」

つかさ「(小声で)ボクじゃない!ボクじゃないって!」

火山「すいませ~ん、マイク拾えないんでハッキリお願いします~」

相良「えーこれは事実ですか~」

雅羅「…(うつむきながら)事実…です」


  スタジオ爆笑。


相良「あ、なんかクール系の奥さんに見えたんですけど意外にミーハーなアイドル好きだったんですね」

火山「まあ、一番の身内がアイドルですからねえ」

相良「半田、どうなんだこれ」

つかさ「…結構踊れるようになってますよ。指導がいいから」

雅羅「ちょっと!」

相良「それでは少しだけ踊って頂きましょう。夫婦そろって」

雅羅「待って待って待って待って!!!」


  猛烈に盛り上がるスタジオ。


  早速、制服衣装で椅子から立ち上がる半田つかさ。スタッフの方角に向かって言う。


つかさ「衣装って余ってないですか?余ってないですよね?」

雅羅「ちょっとやめてよ!」


  顔を真っ赤にしてつかさの手を引っ張る雅羅。


つかさ「え?だって一度でいいからああいうの着てみたいとかいってたじゃん。ボクは毎日着てるけど」


  またバシン!と頭を叩く雅羅。スタジオ爆笑。


***


  結局着替えはせずに神妙な顔で待機している雅羅。


相良「えー何踊るの?半田」

つかさ「じゃあ、『ロウ・オブ・ガールズ』のサビの部分で」


  ひゅうううう!!と盛り上がるスタジオ。


相良「はい、それでは踊って頂きましょう。『ロウ・オブ・ガールズ』のサビの部分ですどうぞ!」


  音楽が流れ出し、つかさがキレのある動きで踊り、雅羅も若干タイミングずれはあったもののすぐに追いついて見事にシンクロした動きになる。


  大いに盛り上がり、拍手が沸き起こる。


***


相良「はい、有難うございます。とんだミーハー夫婦の宴会芸が見られたってところで」

つかさ「ちょっとお!(ニコニコと楽しそうに)」

相良「タレこみまだあります。どん!」


  フリップを読み上げる相良。


『半田つかさ夫人、雅羅さんは夫であるつかさくんを着せ替え人形にするのが趣味』


  大盛り上がりのスタジオ。



―これまで謎だった半田夫人が遂にテレビに出演した訳ですが


「これまたホームを持つグループの強さですねえ。冠番組を持つ芸能人は少なくありませんけど『自分たちのためだけの』番組ってそうはないでしょう」


―確かに


「1回丸ごと使ってツアーの思い出話をしたり、MVの見どころ解説したり…魅力的なメンバーが多いのは事実ですけど余りにも恵まれてます」


―奥さん、かなりの美人でしたね


「メンバーの黒石真紀にも似てるとか言われてました。メイクの具合にもよるんでしょうけど、目鼻立ちのくっきりした美女で、“薄い顔”を自称する素朴で儚げな美少女風の風貌の半田つかさと対照的です。身長は同じくらいなんですがね」





 階段にて


―どうでした?奥様を出演させてみて


つかさ「こちらからお願いした訳じゃないんですけどね…」


―本当に美人ですね


つかさ「まあ…でもあの告白の回から後、メンバーのお母さんたちから可愛がってもらえることになりまして…」




自宅にて


「メンバーの家族同士が仲が良くて、半ば『家族会』みたいなものが存在しているみたいです」


―凄い話ですね


「それまでのグループアイドルにも全く無かった訳ではないんでしょうけど、ここまで表ざた(?)になったケースはまれでしょうね」


―まるで仲のいい女子学級です


「おっしゃる通り。そしてどうやら同年代の…こちらは本物の女子同士である、半田つかさ夫人雅羅さんとメンバーは個人的に友人になっている例が多いみたいですね」


―奥さんとですか


「旦那は倫理的問題で余りベタベタ出来ませんけど、女同士なら問題ないと運営も判断したし、ファンも許容したってことでしょう。本人は否定してますが、愛宕坂に入っても違和感ないほどの美人だし年齢も21歳とメンバーとほぼ同じです。仲良くなると思いますよ」




階段にて


つかさ「何人かのお母さんからは、ボクが孤児だと分かってから『母親と思っていいからね』って言ってもらいました。…有難いことです」


―家族ぐるみでお付き合いがあるんですか?


つかさ「はい。何人かとは。ボクも人見知りしない方ですけど、ウチの奥さんはそれに輪を掛けて凄いからいつの間にか片山パパとか東野パパとかと飲んでるみたいです」


―奥さんお酒はお強いんですね?


つかさ「酒豪ですよ。ボクは未成年なんで飲まないですから付き合えないけど」


―それはまた…


つかさ「メンバーって年頃の娘さんたちなんで、お父さんたちとはどうしても感情的な行き違いも多いみたいなんですけど、ウチの奥さん通して連絡付けたりしてもらってるみたいですね」


―なるほど


つかさ「何だか物凄く感謝されてるみたいです」




第二弾放送予定の未放送部分より


  テロップ「愛宕坂47メンバー キャプテン・桜木玲さくらぎ・れい

廊下にて

桜木「メンバーの中では満場一致でした」


  テロップ「愛宕坂47メンバー 星山ひだり(ほしやま・ひだり)」

廊下にて

星山「つかさちゃんしかいないかなって」


  テロップ「愛宕坂47メンバー 端元奈々はしもと・ななお

廊下にて

端元「まあ…その為に入ったんでしょとしか…。今度はあたしが選抜選考除外だったけど(苦笑)」


NA「そして、待望の最新シングルが発表されたが…センターは半田つかさだった」


「愛宕坂工事中」

女アナウンサー「センター…半田つかさ」


  神妙な顔をしてじっとしている半田の表情。


階段にて

―どうでした?センターとして読み上げられて


つかさ(男性時)「…この段階でもう9か月くらいは在籍してるんですよ。もっとか。いっそゲストみたく入っていきなりセンターやって後は後進に譲る…みたいな感じだったらプレッシャーとかも感じなかったんでしょうけど…」


―そうじゃなかったと


つかさ(男性時)「みんなとも大分友達になってたし…。女の子のアイドルグループがどんなものかって大分分かって来てたから、流石にこれは場違いかなって…とはいえ、決まったからには助っ人らしく目一杯やるしかないですよ」




―遂にセンターですか


「卒業間近でしたからね。歴史も若くて離脱者の少ない愛宕坂47は、主要メンバーの卒業となるとセンターに据えて記念の楽曲を作成するところがありますから順当なところです」


―とはいえ男の子ですからね


「これまでセンター経験者というと、生馬理科、黒石真紀、堀井奈央、東野彩萌、幾田絵理、深山麻美、斎賀晶そして端元奈々緒です」


―すらすら出て来るのは流石ですが、ファンではないのでそう言われても余りピンと来ません


「暗中模索時代の初期にあてがわれた生馬以外は不動のセンター二枚看板の黒石・東野が基本で後はサプライズか卒業記念…という感じですね。全員魅力的であることは間違いないんですが」


―そうなんですか?


「ちょっとここで半田つかさくんのソロアーティストとしての活動とアニメファンの捉え方について考えてみましょう」


―ああ、そうそう。声優さんでしたね



  愛宕坂47のメンバーが洋画の吹き替えなどをしている風景。


―彼の出自って結局どう捉えられてるんですかね?


「声優として売れていたかってことですが、『声優としてブレイク寸前』だったと思います」


―それも凄い話ですよね


「元々素質に恵まれていて才能もあって、全身全霊で取り組んでますからあと少しで声優として売れっ子になっていたと思いますよ」


―どうしてそうならなかったんですかね?


「いえ、決してそんなことはありません。彼が仕事を得はじめたのは16歳で初めてオーディションに受かってからですよ?18歳の誕生日を迎えるとほぼ同時に最初の主役を射止めて、ここで「カラオケ・デュエル」からのシンデレラストーリーです。声優としてのキャリアも順風満帆としか言えないですね」


―声優としてのファンはいたんですか?


「これについて調べてみたんですが、少なくとも18歳より前に大きなメディアに取り上げられた形跡はないですね」


―大きなメディアといいますと?


「それこそアニメ・ゲーム・声優系のブログ・ホームページなどですね。アニメファン・声優ファンの間で相当程度のポピュラリティを得ていたかといえば得てはいなかった…というのが一応の結論になります」


―一応…ですか


「最初のブレイクはやはり二年前の「カラオケ・デュエル」です。やせっぽっちの男の子が普通に話してたのに、いざ歌い始めると突然女の子の声になってこれがまた驚くほど上手いという」


―改めて注目されてますけど、この動画って本当に凄いですよね


「この時点で10月なんですけど、ここで『実は声優である』ことが分かって、2回目…ほぼ年末ですね…に出場した時に翌年4月から開始の『正義戦士ジャスティスマン・アライブ』の主役オーディションに受かってます」


―カラオケ番組による底上げはあったんでしょうか?


「無い…でしょうね。一応『声優』として取り上げられはしたものの、10月の時点で名前のある役は1つしかやっていません。初の準レギュラーが1~3月期のアニメなので、10月時点でオーディションは終わってます」


―ということは、いざ注目された段階からの10~12月期には彼が出演してたアニメは放送されていなかったと


「そうです。つまり特定の「色」が付いていなかったと言えるでしょう」


―でも、アニメファンって彼を声優出身だと思ってますよね?


「そうですね。一部のアニメファンって業界を食い荒らすアイドルを敵視するところがあります」


―敵視?アニメファンってアイドルも好きなんじゃないんですか?


「それも誤解です。両方のファンを兼任する人もいますけど、意外にくっきり分かれますよ」


―そりゃどうしてです?


「どうしてと言われても…まあ、冗談半分でしょうけど『三次元の女には興味がねえ』何てことを言いますね」


―…はあ


「アイドルって好きな人は好きですけど、嫌いな人は「バカバカしい」と思うものの最たるものでしょ」


―そうかもしれません


「まあ、そういうことです」


―アニメファンがそれ言いますか


「ともかく、アニメファンは自分たちを日陰者のジャンルだと思っているところがあって、被害意識が旺盛なところがあります。歴史を考えればそれも無理はないんですが」


―そうなんですか


「特に話題作の洋画の吹き替えや、大作アニメともなると全く声優なんてしたことも無いような芸能人やらタレントが声を当てたりするでしょ」


―はい


「あれにカンカンになる訳です」


―む~ん


「普通に考えたら、やっと晴れの舞台が回ってきた!と思ったらそれを『いつも陽の当たるところにいる連中』がかっさらっていくんですから怒り心頭ですよ」


―話題性ってことだと思いますけどねえ


「そそ。話題性優先です。ただ、往々にしてド下手クソな棒読み以下の吹き替えで作品そのものを破壊してしまったりします。技術も確かな声優が群れを成しているってのにね」


―とはいえ、商業的な理由ですからねえ


「だからアニメファンは下手なアイドルなんかが声を当てるのを嫌がります」


―まあ、それは分かります


「しかも、声を当てるなんて簡単だと思われるのにも本当にカンカンになるので、アイドルを引退して声優になろうなんて人には相当風当たりが強いです」


―む~ん…心が狭いとしか


「まあ、飛騨より子さんなんて名前はともかく声を聞けば日本人誰でも知っているほどの声優界の大物にして大ベテランですけどこの方は元アイドルです。アイドル出身の声優って意外に多いんですが、別にだからといって反発を食らったりはしていません。要は『下手なクセに元・アイドルってことで優遇されてる』ことに噛み付いている訳です」


―…それなら一応分かりますが


「この頃に引退を発表したBKAの嶋田晴美はポロッと「次はギブリスタジオの声優なんかやってみたいなあ」みたいなことをつぶやいたために大バッシングに遭いました」


―気の毒に…思慮と分別の足らない小娘の戯言たわごとでしょうに


「『声優なめんな!』ってことでしょう。バッシングするかどうかはともかく、私もオタクの末席を汚すものとしてそういう軽んじた発言はちと愉快ではないですね。実際、BKA出身でも現在アニメの声優として一目置かれている佐光亜美なんて存在もいますから、「アイドルだから」といって反射的に叩いている訳じゃありません」


―そうですか


「さて、問題は我らが半田つかさは『声優』なのか『アイドル』なのかというところです」


―禅問答みたいですね


「ややこしいついでに言ってしまいますが、実は『アイドル声優』といったジャンルがあります」


―?


「アニメファン…こう言う言い方は心苦しいんですが…“だけ”に熱狂的に支持されている方々ですね」


―はあ


「要は声優さんなんですけど、アニメ人気および演じたキャラクター人気に引っ張られて声優さんまで人気になるパターンで、レコードをリリースし、大きな会場でライブしたりもしてます」


―見たことありますよ


「どう思います?」


―どうと言われても…


「オタクとして不惑まどわず越えるまで生きてますと、好きな声優さんの一人や二人は出ますよ。ただ、アイドル(偶像)みたいにあがめるかというと、ちょっとそういう時代には年を取りすぎてましたね」


―キップさんはオタク第一世代でしょ?そういう存在が出現し始めた頃にしたって当時二十代くらいじゃないですか


「今の十代の女の子とかマジで熱狂的ですよ」


―まあ、狭いジャンルの人がカルト人気を得ることは良くありますよね


「声優さんは全員じゃありませんけど下積み及び訓練期間が長いので、人気・実力ともに備わるまで待っているとどうしても二十代前半から半ばくらいになっちゃうんですよ」


―いいじゃないですか


「そっからアイドル活動と言われても結構キツいものがあります」


―う…


「何しろ愛宕坂の最年少は13歳です。20を越えると当の美少女であってすら『制服衣装がキツい』なんて言われてるんです。ところが…大変申し訳ないんですが、決して容姿のみで選ばれている訳ではない声優さんたちが『アイドル活動』を始めるのはその、当のバリバリの美少女たちですら「キツい」とされた20を超えて、下手すりゃ卒業する年になっていざ始まるわけです」


―…


「しかも今のアニメって当たると息が長いから10年とか平気で続きます」


―そう…なんですか?


「このジャンルの元祖的存在の『アイドルメンター』はもう10周年を迎えます。中の人…声優さんのことです…はそろそろ四十路よそじですよ」


―む、む~ん…


「アイドルそのものの魅力としてはもう適わない訳です。だから、アニメの幻想を見てたり色々です。別にこれが悪いと言ってる訳じゃないんです。要は『普通のアイドル』とは別ジャンルのアイドルであるってことが言いたい訳ですわ」


―はあ


「若干19歳ながら半田つかさくんの声優としての技量は一流です。それは疑いようがない」


―それはアニメファンの総意ですか?


「ですね。何しろ役そのものが少なかったんで当初は判断材料が無かったんですけど、ジャスティスマンも良かったしその後のアニメの端役やら、イベントでの『生アフレコ』なんかを観ていてもちゃんと「アニメのお芝居」になってます。上手いですよ」


―アニメのお芝居?


「彼は舞台役者なので、それとはまた違いますからね」


―ああなるほど


「なので、アニメファンの意識としては『声優が紆余曲折あって請われるままにアイドルを“やってやって”いる』という感じですね」


―なんかエラそうですね


「アニメファンは言ってみれば声優さんを正当に評価しますからね。声さえ出せればアフレコにはなりますけど、決してそれだけじゃなくてちゃんと声優としての技量がしっかりあって声優としても活動をしていたので」


―…素朴な疑問なんですけど、彼以外に「声優兼アイドル」っていなんですか?いそうに思うんですけど


「先ほど申し上げた『声優アイドル』さんたちがいるじゃないですか」


―…そっちジャンルじゃなくて、『普通のアイドル』やっていて声優でもあるって人のことですよ


「あはは…すいません。ちょっとからかってみました。う~ん、何をもって『声優』であるとするかなんて何とも言えませんけど、『実力“だけ”でオーディション突破出来るほどの声優としての技量』を持っているって意味にするならば、彼ほど声優どっぷりでありながら『普通のアイドル』兼任してる存在はいないかもしれませんね」


―なるほど


「一部の俳優さんの中には、「売れっ子アニメ映画監督」に重宝されてる人なんかもいますけど、『声優』とは認識されていないでしょう。それこそ一回きり“たまたま”国民的大ヒットアニメ映画に出演した俳優を「声優」として認識するかと言えばそれは否なわけです」


―ふむふむ


「実際、業界は物凄く助かったと思いますよ。これは卒業後ですけど、とある話題作の吹き替え声優に半田つかさくんが起用されてお馴染みの記者会見が開かれます」


―普通にドレス着せられてますね


「まあね。しかもその役ってのが性転換した元・男…実際に演じてるのは女優さんで、声のお芝居もほぼ女性ですが…という特殊な役です」


―あつらえたみたいですね


「ええ。話題性もバッチリだし、うるさがたのアニメファンも半田つかさくんは紛れもない『声優』なんで、話題優先のキャスティングって訳じゃない…いや、話題優先には違いないけど、決して実力不足ではないから怒りの拳の振り上げようが無いんです」


―…とはいえ、19歳の男の子にどうみても成人女性みたいな役を振るのはどうなんです?


「この映画の吹き替え版ご覧になりました?」


―いえ


「いやちょっと信じられないレベルです。普通に女性です。役者って怖い…と思わざるを得なかったですね」


―そうなんですか


「恐らく注釈が無かったら実は19歳の男の子が声を変えてお芝居してるなんて一生知らないまま死ぬ人が多いでしょうね」


―そんな大げさな


「ある意味『一般人でも知ってる一番有名な声優』になれたってところです。これは大きい」


―はあ


「しかも彼にとってもいいのは、これまではアイドルの仕事は仕方がないとしても、声の仕事については少なくとも自分から女の子の声のオーディションを受けには行かなかったそうなんですよ。でも依頼ならね」


―それは自信が無いからでしょ


「違いますよ。本人はそうは言ってませんけど、間違いなくこうです。男である自分が生粋の女性でも問題なく演じられる女の子の役を奪っちゃったら『女性の声優さん』の立場が無いでしょ。立場どころか『存在意義』すらあやうくなる」


―…まあ、そうとも言えますけどそれはあくまでオーディションの結果ですからねえ。それこそ話題優先ならそういうキャスティングだってありでしょう


「それに、彼はヘンなところで真面目なところがあるから、歌やらアイドル活動はともかく『自分の全てをさらけ出す』お芝居には『作った声』では無理なんじゃないか…と思ってたんだそうで」


―作った声ですか


「実際、諸先輩方にはそうしたアドバイスをくれる方もいたそうです。現場でね」


―どんな感じです?


「雑誌インタビューを引用すると『半田よお、女の子の声もいいがそれは言ってみれば曲芸だ。確かに吃驚びっくりはする。色んな声を出し分ければ声優いや俳優じゃない人間は驚くだろう。だが、極論すればあんなのは程度を問わなきゃ誰でも出来る。俺だって出来る。だがしかし、それで芝居が出来てる訳じゃない。曲芸ばかりやってウケを取るのもいいが、ちゃんと本道の芝居も練習しとけよ』…ということだったみたいです」


―なるほどねえ。


「実際、『演技のステレオタイプ』ってありますからね。つかさくんくらい器用な演者で女の子の声でなぞれば『女の子の演技っぽく聞こえる』演技は簡単でしょ。でも、それが真の意味でのお芝居と言えるかどうか…ってなもんです」


―なるほど…。奥の深い話ですね。…ところで、声優業界で人気に嫉妬されたりしたこともあったんじゃないですか?


「全く無い訳じゃないでしょう。元々人気者になりたくて入ってきた人だって沢山いるわけだし。ただ…声優さんたちの間でも普通に大人気だったみたいですね」


―(ずっこける)


「私は会ったことは無いんですけど、実際に出会った人は全員『ちっちゃい!』と言うそうですね」


―…まあ、確かに大柄ではないですね


「公称158センチですが顔が小さくて手足が細くて長いので、妙な話ワンサイズ小さな人みたいな印象になるそうで…余りにも可愛らしいので女性声優さんには大うけ。男性声優さんもメロメロだったそうで」


―…なんかチョロイですね


「『声優アイドル』さんはゴロゴロいますけど、本物の現役アイドルはそんなにアフレコ現場にホイホイ来ませんからね」


―男の子なんですがね


「彼はメディアでは一度もそうは言わずに『推しメンのサインもらってきてくれと言われて困った』と誤魔化してますけど、実際には彼自身が一番サイン求められてます」


―え…


「結構コワモテでならしてる声優さんと共演した時は『お前が推しメンだ』と言われて結構困ったそうです」


―アッー!…冗談はともかく、彼ってまさかアフレコ現場にアイドルのステージ衣装着て行ったりしてないですよね?


「それ、物凄く聞かれたみたいですけど衣装の持ち出しは禁止なので素っ気ないシャツにパーカーとかですよ。ただ、普通にしてても美少女オーラ出まくってるので共演者さんはドキドキだったみたいですが」


―…何だか凄い話ですね


「ただ、一回だけ物凄くスケジュールが押しまくっていてメイクを一旦崩して落として男モードになってもう一度アイドルモードに戻る時間が作れないからってんであの制服衣装でアフレコに来たことがあったそうです」


―やっぱりあるんじゃないですか


「マネージャーベタ付きですけどね。この時はセリフ別撮りで一人収録して抜ける予定でした。別のスタジオに一人だけ入って出る予定だったのに『俺たちは構わんからこっちに来てくれ』と他のキャスト全員が言うので仕方なく合流したそうです。この時はマナーにうるさいベテランが偶然一人もいない現場でほぼ全員が若手・中堅だったそうです」


―…それって…


「構わないから…なんて言ってますけどホンネでは『頼むから来てくれ』でしょうね。残念ながら映像は残ってないんですけど、恥ずかしさに「美少女アイドル姿」でおずおず入ってきた半田つかさくんに『おおーっ!』というどよめきと拍手が起こったそうです。最も、原色バリバリのフリフリの露出度高いドレスとかじゃなくて、そこは愛宕坂ですから清楚な制服風衣装で長袖、スカートも膝下丈だったみたいです。この頃はまだロングヘアのウィッグしてる時期なのでかなり髪も長い状態ですね」


―…これは…というかある意味セクハラですね


「声の仕事って見た目は関係ないからどんな格好しててもいいことはいいんです。まあ、ノイズになるので余り音がするようなじゃらじゃらしたアクセサリーを付けないといったルールはありますけどそれ以外だったらジャージだろうが何だろうが構わない訳です。ただ、公序良俗を考えると男が女装してくるのはおかしいに決まってます」


―まあ…


「彼は本当に仕事以外では女装しない…プライベートでは一着の女物も持ってない…タイプで、当然本業の仕事場に女装して来たことなんてありません。芝居でならどんな恥ずかしいことでも嬉々としてやりますけど、これは流石に恥ずかしかったでしょうね」


―なんか、看護婦とかCAの奥さんに「制服のまま帰って来てくれ」っていうスケベ旦那みたいな感じですね


「ある意味そうですね。どう見ても出番終わってた人とか、下手すりゃ出番の無い人まで何故かスタジオに入って来てて見学者も多かったそうです」


―…あのさあ…


「動画はありませんけど、写真ならあります」


―普段着のおっさんおばさんの中に美少女アイドルがいますね


「それでいて凛々しい男の子の役ですから声は格好いいいという」


―頭がおかしくなりそうです


「長い髪のカツラを台本をめくる邪魔にならないようにナチュラルにポニーテールに髪を縛り上げる仕草に周囲の男性声優さんたちが萌えまくって『気絶しそうだった』なんてことを言ってる人もいます。ヘアゴムを一時的に口にくわえるアレです」


―…う…これはいかんですね…。


「『女の子の何気ない仕草』ってのは男の大好物です。それが男の子ってことになってる存在から来るんですからねえ」


―キュン死って奴ですか…女性声優さんたちの反応は?


「こっちは気絶してたそうです」


―どういうことですか


「それでいて出て来る声は格好いい少年の主役ですからね」


―む~ん


「まあ、少年の声は往々にして女性の声優さんが当てますから見た目と声が一致しないのは良くあることではありますが」


―それにしても


「ちなみに彼はアニメでは女の子は演じない…のが一応のポリシーですが、主人公の幼少時代の声は自分で演じました。この辺は便利ですね」


―確かに


「『女性声優さんが当てる少年の声』ってのも一つのジャンルでして、これはこれで熱心なファンがいるんですが、半田つかさくんの『少年声』は俗に『殺人兵器』と言われるほど強烈です」


―大げさな。そもそも『少年声』ったって彼自身が少年じゃないですか


「単なる少年声じゃなくて、『女性声優さんが演技で出している少年の声っぽい声』なんです。まあ、これは聞いてもらうのが一番ですね」


―…これは…


「ヤヴァイでしょ?…ともかく、アニメ雑誌や声優雑誌のインタビューにも普通に答えてますから、アニメ業界的には彼は『アニメ業界の人』と思ってたと思いますよ。愛宕坂の活動はともかく、ソロアーティストとしての楽曲は全部アニメかゲームのオープニングやエンディング、もしくは挿入歌ですし」


―インタビューって…少年の姿でインタビュー答えてるんですか?


「両方ありますね。まあ、男性状態ってことになっている写真も『男装した美少女』状態で下手に女装するより可愛い状態になって逆効果になってる気もします」


―…確かに


「あと、声優雑誌も折角なら普通のアイドルファンとかにも買ってもらいたいのでそっち方向のグラビアにするみたいで」


―折角念願の声優雑誌に出られたのに女装ですか


「流石に普通に女装したんじゃ女装趣味の人になっちゃうので、アイドル衣装限定にしたそうですけど完全に逆効果で普通に『美少女アイドルに変身する男性声優』特集になっちゃってます」


―あちゃー


「普通は男性の女装なんて見られたもんじゃないんですけど、ここまで拡大しても普通に…というかムチャクチャ可愛いのが凄いですね」


―女性はこれ見てどう思うんですかね


「当然ですけど、彼がテレビ出る度に『女やめさせていただきます』とか『もう女イラネ』とか『完全に女として負けている件』とか書き込みが殺到します」


―まあ…そうでしょうね


「普通は男性の女装って『男性的な特徴を上手く隠す』方向でやるんですよ。顔の輪郭とかね。結果として“盛り”気味になったり、過剰になったりします。煎じ詰めると『セクシー路線』に行きつかざるを得なくなります。本物の女性でも化粧が濃すぎると『オカマ』に見えるでしょ?でもつかさくんの場合は虚飾を剥げば剥ぐほど女の子の自然な状態に見えます」


―む~ん


「それこそ10代からホルモン投与をしてる人であってすらある程度年齢が行くと顔の輪郭の角ばった感じとか男性的な特徴が出て来てしまったりします。更にもみあげとか、目立ちませんけどひたいの生え際の形が男女異なるので虚飾を剥げば剥ぐほど分かりやすくなっちゃいます」


―なるほど


「逆に言うと、そういう細かいポイントが女性的であったりすると記号的に「女の子だ」認識を脳がしちゃうということはありますね」


―彼はその辺りが女性的なんですか?


「完全にそうですね。メンバーの名言として『つかさちゃんは世の中の女の子に謝ってほしい』というのがあります」


―男にしては可愛らしすぎるってことですか?


「この時期愛宕坂に限らず、キャンペーンガールなどで呼ばれて別の芸能人と一緒に映った写真も何枚もありますけど、生半可な女優さんとか下手すると別のアイドルでも『公開処刑』状態になると恐れられていたそうです」


―公開処刑?


「仮にも外見を売りにしてる女性芸能人が男の子と並んで男の子の方が可愛いってことになったんじゃメンツが丸つぶれでしょ」


―…まあ…


「彼はアイドル兼任時代にアニメ業界の飲み会に参加した例はそれほど数は多くないんですけど…そもそも未成年ですし…、『ジャスティスマン』の打ち上げにライブ終わりで参加してます。主役なんで来ない訳にはいかなかったんでしょう」


―なんかコンパニオンにお酌させようと狙ってるオヤジの集団みたいですけど


「この時は中盤からの参加になったんですが、頑張って着替えて男の子に戻って飛び込んだのに『空気読め』とぶーぶー言われて困ったそうです」


―なんなんですか


「主賓なのに全員にお酌して回ったそうです。まあ、未成年なんで飲めないから丁度良かったのかもしれません。でも、彼の存在が結構いい風に働いたこともあるんですよ」


―といいますと?


「愛宕坂47って女子高生くらいの年齢のイマドキの女の子の集団なのでアニメファンが多いんですよ」


―あ、そうか。なら「声優・半田つかさ」のファンとかもいたりとか


「はい。生馬理科なんかは熱烈ファンを自称して今もライブには必ず行ってるそうです。「半田つかさの友達だぞ」と自慢するのがしょっちゅうだそうで」


―というかあんたは愛宕坂の生馬さんじゃないですか


「まあそうですね。だから事務所に許可取って声優さん同士の飲み会にメンバーを何人か連れて行ったこともあるそうです」


―え?合コンですか?


「そんなもんじゃありませんよ。子供ばっかりだし。でも、今を時めくアイドルたちに目の前できゃーきゃー言われて男性声優さんたちも悪い気はしなかったでしょうね」


―まあそうでしょう


「実際、半田つかさが媒介役になって声優さんたちとアイドルたちの知人・友人関係はかなり広がったそうです」


―なるほど


「業界を越えたコラボもよく行われるようになりましたし…まあ、大抵は半田つかさくんがメインですけど…いい影響でしょう。基本的にはスタッフなどの第三者を立ち合わせないと半田つかさくんとメンバーだけで会話するのは禁止なので」


―え?まだそんなこと言ってるんですか?


「かなり厳密です。ただ、これも結構いい風に働きました」


―ほお?


「構成作家さんやらカメラマンさんなんかを絡めないといけないんだけど、逆に言うと普段はメンバー同士のおしゃべりに終始するアイドルたちがスタッフさんたちとかなり打ち解けて話せるきっかけ作りにもなったんだそうです」


―あ、なるほど


「つまり、アイドル業界は『半田つかさはアイドルだ』と思い、アニメ業界は『半田つかさは声優・アニメシンガーだ』と思ってる…ってのが実際です」


―モテモテですね


「ええ。ただ、一般メディアの番組なんかではそれほどアニメ業界関係者のインタビューは取り上げられていませんね。『熱情台地』でも最初の30分版では冒頭に紹介VTRが数秒映ったくらいで声優であるという方面はほぼフォーカスしてません」


―それは何故ですかね。やはり差別ですか?


「いえ、半田つかさくんの活動領域が多岐にわたりすぎているので取り上げる時間的な尺が取れなかっただけだと思いますよ。はっきり言って『アイドル』だけで120分行けます。過去には元BKAの前山厚子なんかも取り上げられてますし。同じく『歌手』としてだけで30分番組作れと言われれば楽勝だし、『声優』でも同じ。大量の素材が取れた中でどれを取捨選択するかと言われればアニメ部門をカットするでしょ」


―アニメファンは落胆したのでは?


「したでしょうね。とはいえそこまで入れ込んでしまうと3時間番組にしても終わらなくなります。後に放送しきれなかった部分をWEBで編集して流す走りになりますが、そこにアニメ業界関係者のインタビューもありますよ」




ラジオ収録のスタジオにて

―半田さんと共演されたことあるんですよね?


「アニメではないんですけど、同じ格闘ゲームに出演させていただいてます。あと、ラジオですね」


―いかがでした?


「可愛いです!ムッチャクチャ可愛くて…ぐははぁ(ちょっとおっさんぽい笑い声)!あ、すいません」




「アニメファンにはお馴染みの声優・今居麻恵いまい・あさえさんですね。ちなみに「アイドルメンター」の主要アイドルを演じている方だったりもします。笑い方がおっさん臭いのは芸風ということで」


―はあ…


「これまでの出演者には…特にメンバーにはみんな名前入りだったのに、今居さんになるとテロップが『共演した声優』になってます」


―あ、ホントだ。ヒドいですねこれは


「こんなのまだマシですよ。この程度の字幕すら出ないことなんてザラです」


―はあ


「要は『視聴者は誰だか分かんないだろ?』ってことなんでしょうけど、それは編集してる側の思い込みってだけですし、だとしたら尚更名前くらいはしっかり表示して欲しいですね」


―…


「名前は表示されませんが、次は杉山智弘すぎやま・ともひろ氏です。当代随一の売れっ子です。技量が確かなのは当然ですが、オタクで非リア充路線でも有名ですね」


―というと?


「実際、あまり友達の居ないぼっち生活で学生時代を送った…ってなことをよくラジオでネタにしてます。自らしょっちゅうネタにする後退気味の生え際と、じっと黙っていればイケメンに見えなくもないですが基本は三枚目路線で、グラビアでイケメンポーズ決めて写真集やアルバムが売れまくる男性声優さんとはちょっと立ち位置が違います」


―なるほど


ラジオ収録のスタジオにて

「うん…まあ…凄いですね。ええ。(何か言いかけて編集が切れる)」


―これ、どういうことです?


「彼は多くのオタクと同じでフェチっぽいネタとかアニメならではの萌え演出とかが大好物なんですよ。アニメの声優さんの中にはアニメをほとんど見たことが無かった人やら、劇団出身で純粋に「仕事として」声優やってる方やら、児童劇団出身で『演じること』そのものが生活の一部どころか呼吸同然で何の屈託もない人やら大勢います」


―はあ


「それに対して杉山氏は…こう言う言い方は失礼ながら「こじらせ」タイプで、アニメやゲームが好きで好きで観まくっていて、憧れて志望して業界に飛び込んだタイプです。言ってみれば「単なる視聴者」いや「重度のオタク」に最も視点が近いとも言える」


―別にそれ自体が問題だとは思わないですが…


「全く何の問題もありません。ただ、逆に言うと物凄く『屈託がある』タイプです。ラジオでの言動の端々を聞いていると、それこそアニメみたいなシチュエーションに素直に憧れてる節があります。例えば『出来るものなら男と女を行き来してみたりしたいなあ』と思ってるとか」


―え?


「実際、アニメのイベントなどでもしょっちゅう女装しますし、別のゲームのインターネット番組に頼まれてもいないのに何の意味も無く女装して現れたことなんかもあります。まあ、登場キャラのコスプレなんで何の関係も無いという訳ではないんですが」


―はあ…


「といっても杉山氏は男前よりとはいえごく普通の男性ですから、女装は「ネタ」にしかなっていません。写真ありますけど、今よりずっと若いころならともかく最近は普通に『おばさん』もっと言えば『オカマ』にしか見えません」


―む~ん


「その杉山氏が何もしてなくても美少女オーラが出まくるほど素で可愛くて、さっきまで普通に少年声で喋ってたのに一瞬にして少女声に切り換えられたり、何よりその可愛らしさを武器に男の子でありながら現役の美少女トップアイドルとしてぶいぶい言わせてる半田つかさくんをどう思ってるか…は想像が付くでしょ」


―もしかして「うらやましい」と?


「間違いなくね。実際ラジオ番組でもどんな可愛らしい女性ゲストが来てもそれほどうろたえなかった彼が照れまくってまともに進行できなくなってしまいます」


―…インタビューした身からすると分かります。男の子の姿でインタビューさせてもらったんですが、もしもアイドル状態だったら物凄く困ったと思います


「相手が本物の女性だったならば照れる男性の心理を“可愛い”くらいに解釈してくれるかも?という余地がありますけど、つかさくんは男の子ですからね」


―そうなんです。全部見透かされているに決まってるから、男が男にときめいてんじゃねえよくらいに思われたらどうしよう?とかこっちが委縮するというか


「はい。恐らく杉山さんはその辺りを言ってみれば『照れ隠し』で「評論家視点」で長々と分析してみせたんでしょ。カメラの前で」


―評論家視点…そうですね


「杉山さんは何かを誤魔化す時に饒舌になるのは有名ですからね。で、どこをどう編集しても使いようが無いのでバッサリ全部切られたと」


―…はい


「格闘ゲームのラジオのゲストで1回、その後公開録音で1回、その後自分の番組のゲストで1回呼んでます」


―かなり頻繁ですね。マネージャーの荒井さんはアイドルの間は余りアニメ方面の仕事は入れなかったと言ってますけど


「少ない方だと思います。で、出演者を紙芝居の様にゲームキャラに見立ててアニメ風に動かす「見る」ラジオの走りなんですが、この時の映像がこちら」



「あおらじ」

杉山「半田ちゃんのさあ…その」

つかさ「(少年声で)はい」

杉山「その声って…最初から出せたの?生まれつき?」

今居「聞きたい聞きたい!」

つかさ「(少年声で)練習ですね」

遠藤菜々えんどう・ななこ両声類りょうせいるいって奴だよね!」

つかさ「(少年声で)そう…ですね」

今居「練習ったってどうやるの?」

つかさ「(少女声で)知りたいですか?」

他三人「「「っ!!!」」」

今居「すごーい!」

つかさ「(少年声で)僕の知ってる方法で良ければ(少女声で)教えますけど」


 パニック状態になるスタジオ内。


つかさ「(わざとアニメ風の少女声で)みなさんおちついてー!落ち着いてくださーい」




―いわば声のプロのはずの声優さんたちがここまで動揺する「声技」ってところですね


「プロだからこそ…なのかもしれません。我々よりもより深く分かるというか」


―なるほど


「ここで披露されたのが先ほど紹介した練習方法です。もっとも、似たようなレクチャー動画は半田つかさくんが登場する前からWEB上にはかなり存在するんですが」


―そうなんですか



「あおらじ」

今居「こんな感じで練習すればどんな男の人でもつかさちゃんみたいな可愛い声が出せる様になるの?」

つかさ「(少女声で)出せると思いますよ」

今居「杉山くんでも?」

つかさ「(少女声で)はい」

今居「どうするよ杉山くん!こんな可愛い声になれるってさ!」

つかさ「(少女声で)あ、でもちょっと注意点が」

遠藤「何なに?」

つかさ「(少女声で)個人差はあるみたいですけど、あんまり喉をいじると高い声も出せる様になりますけど、元の声が完全には出せなくなるってこともあるみたいです。元の声が壊れちゃうというか」

今居「そうなの!?」

遠藤「じゃあ、つかさちゃんの男の子の声も変わっちゃってるってこと?」

つかさ「(少年声で)そこは良く分かんないです。でも、(少女声で)ボクが仕事始めた時にはもうこの声出せたからそこからは変わってないと思いますよ」

杉山「ほらな!そんなこったろうと思った!」

つかさ「(少女声で)杉山さんの商売道具のその格好いい声が変わっちゃうかもしれないんで…そこはちょっと」

杉山「まあ、俺はこんな声どうでもいいからちょっと練習してみたいな」

今居「ちょっと!やめてよね!」



―これは事実ですか?


「そうですね。元々男性が女性的な声で話すための訓練メソッドというのは性別適合手術を受けた方なんかが行うものでした」


―そうか…必要に迫られてやっていたわけだ。趣味ではなく


「はい。外見は相当程度女性に近づけられても案外落とし穴なのが『声』だったりするんです」


―確かに…ん?でも佐山かのとか椿山綾乃とかは綺麗な女性の声ですよ?


「彼女たち…戸籍も女性になってるそうなんで彼女たちで構わないでしょう…彼女たちも同種の訓練を受けてるはずです。佐山かのはホルモン投与はしていたみたいですが外科手術はほぼしていないというのが売りです。逆に言えば成長期の10代からホルモン投与はしているわけです。自然となった訳ではないはずです」


―でも確か声に関しては何もしてないと言ってた気が


「可能性はありますね。元々あの声だと言う可能性は。だとすると余計に『訓練によって男性が完全に女性の声を出す』ことがいかに難しいか、という傍証にもなる。最も、最近は「声帯」も手術で高い声にすることが出来るみたいです」


―あ、そうなんですか


「人工的にキーをいじるんで「高い声」にはなりますが「可愛い声」かどうかは保証の限りではないですが」


―なるほど


「この後も杉山氏はつかさくんに異様にからみます」


―アブナイですね


「からむと言っても難癖を付けるとかじゃなくて、心の底から興味津々という感じですね」




「あおらじ」

杉山「大変だと思うよ?アイドルの女の子たちったって結構色々あるだろうし、ましてや幾ら可愛いったって男の子が入ってくればさあ。俺は俺が元からいた女の子だったらいじめるかもしれない」

つかさ「ん~…(少女声で)アイドルとしての質問だと思うんでこっちのモードで答えますね(笑)。そこはまあ、仕事ですよ。一緒に共同生活しろとか言われたんならともかく、お互いに歌だったり踊りだったり、プロとしてのパフォーマンスを提供し合う仲間なんで」

今居「カッコいい!」

遠藤「素敵!」

杉山「仕事っつったってさあ…半田ちゃん男の子だよね?」

つかさ「(少女声で)…一応(苦笑)」

杉山「基本的なこと聞いてゴメンね…あの可愛い制服着て女の子に混ざるの恥ずかしいとか思わない?」

つかさ「(少女声で)全然」

杉山「そりゃ何で?自分が可愛いから?」

つかさ「(吹き出しそうになる音)…(少女声で)有難うございます(笑)。」

杉山「いや、そうじゃなくてさ」

つかさ「…(少女声で)…ボクはあんまりお芝居に自分の感情とか込めたこととかないです。演技始まったら身体が勝手に動くというか…だから制服着てステージ立ったり歌収録とか始まったらそれを滞りなくやり遂げることを第一に考えるだけだから、別に『うわースカート恥ずかし―』とか考えてるヒマが無いというか…」


 スタジオが不気味な沈黙。


杉山「ああ…うん…(沈黙)」

今居「(噴き出す)なに?杉山くん、もしかして自分も可愛かったら愛宕坂入りたかったとか思ってんの?」

杉山「バカ!そんなわけあるか!」

つかさ「(少女声)折角だから振り付けの一曲くらい教えましょうか?気分だけでも」

杉山「いいよ!いいって!」

遠藤「あー赤くなってるー(笑)」




―杉山さんという方を初めて知ったんですが…まあ分かりやすいですね


「お蔭で聞きたかった質問がかなり聞けたところはあります。この放送は孤児だったことを告白するカミングアウト前に行われているんですが、その時期で最も踏み込んだ番組の一つと長らく見做されていました」


―何だか紙芝居みたいなアニメが付いてますけど、基本的には声だけだから本当にコロコロ性転換してるみたいに聞こえますね


「そのアニメもそれに合わせてますしね。ともあれ、つかさくんはこの後翌年5月に愛宕坂を卒業するまではゲスト出演するくらいでアニメには本格的にレギュラー出演はしてません」


―どうしてでしょう?


「事務所の方針でしょうね。基本的には裏方でスポットライト浴びない声優ポジションよりもアイドル及びソロアーティスト活動の方が実入りがいいという」


―なんともはや


「アイドルも歌手も声優も出来るつかさくんは、…こう言う言い方は不遜だと承知で言いますが…声優しか出来ない声優プロパー(生え抜き)の方々にしてみれば『他に幾らでも稼ぐ場所があるのに、わざわざこれしか出来ない俺たちの食い扶持をかっさらっていく厄介な存在』と言う風に見做されてもいたでしょう」


―う~ん…


「人気声優なんで、話題作の内2本に1本は大げさでも3本に1本くらいは出演してる杉山智弘氏はこの後もちょくちょく半田つかさくんと共演してますけど、アフレコ現場で全然話しかけてくれないから嫌われてると思った…と卒業後に杉山氏のラジオにゲストで呼ばれた時に告白してます」


―じゃけんな態度を取っていたと?


「どうも、杉山氏の方が照れてどう接したらいいのか分からなくて隅っこでチラ見ばかりしてて目が合いそうになったら逃げてたみたいですね」


―好きな女の子を相手にした小学生の男の子ですか?


「まあ、そんな感じでしょう。彼は典型的な「隠れ狩人」です」


―隠れ狩人かりゅうど


「半田くんの苗字の読みが「はんた」なのでそこから「ハンター」と連想させて、半田つかさファンのことを「ハンター」つまり「狩人かりゅうど」と言ったりします」


―はあ


「ところが、余りにも立ち位置が特殊なもんで、『女装の男の子が好き』なんて公言できないから黙ってるファンが多いんです。特に男に」


―難儀ですな


「まあ、分かりますよ。男の子にしては可愛すぎますから。じっと黙ってたりぼーっとしててもあの有様なのに歌い出すともお…って感じですから」


―はい


「男にこんなにときめくなんて頭がおかしくなったんでは?とか思い悩む男が続出したそうです」


―大げさだなあ


「だけどグッズやら雑誌、CDやDVDは買う訳です。そしてそれを他人に見つからない様に抱え込む」


―違法薬物じゃないんだから


「でも、杉山氏は単なるファンじゃなくて同じ人気声優という立場なんだからもっと接触しても何もおかしくない訳です。スケベ心じゃなくて言ってみれば仕事仲間なんだから」


―まあ、そうですね


「実際、男性の中堅や同年代…はつかさくんが若すぎるので余りいませんけど…の男の声優で彼と仲良く友達付き合いをしてるのは大勢います」


―半田くんも社会人になって友達作れるようになったんですね


「普段は女の子にばかり囲まれてるから、ちょっとリラックス出来るってこともあるんでしょうね」


―やっぱり女の子のアイドルグループに所属する唯一の男の子ともなると無言のプレッシャーはあるんですね


「別に嫌って訳じゃないけど、どうしても女の子相手に完全にガード下げきる訳にはいきませんからね。ともかく、はしゃいでる半田くんを中心とした輪の中にどうしても入れなかったみたいですね」


―…ぼっち…


「まあ、そんな感じです。半田くんはその点もエンタテイナーだから彼の個人番組にラジオ出演した際にはちょっと過剰なくらいスキンシップでひっついて写真を撮らせまくってます」


―…あの…これ、中年男性に美少女が絡みついてる様にしか見えないんですが…


「ま、ファンサービスですよ。“男同士”のね。“絡みついてる”ったって腕組んで笑顔でピースサインで写真に写り込んだり抱きついたりしてるだけでしょうが」


―いや、男の子のリアクションじゃありませんよこれ


「この写真が撮られた段階では卒業してますから、現役アイドルじゃないアイドルとしてのお芝居ですね」


―ベテラン声優さんたちはどうなんです?ちゃらちゃらどころか現場に女装してやってくる不埒な新人に苦い思いをしてたんじゃないですか?


「だから現場に女装して現れたのは1回だけですって。それも仕事の都合で仕方なくね。ここだけの話、彼ほど美麗な外見もしていないのに、ユニセックスな恰好で現れる『勘違い男性声優』さんもいるそうですよ」


―え?そうなんですか?


「私の聞いた範囲ですがね。半田くんは…一言で言えばオーラを消す様な地味でダサくて野暮ったい恰好ばかりです。造形は美少女でも『女装』とは言えないでしょう。愛宕坂が清純派グループなんで茶髪も金髪もネイルも禁止です。当然彼もそのルールには従ってますから見かけがちゃらちゃらしてるってことはありません」


―まあ、見かけの問題はいいですけど


「きょうび、アイドル的な活動してる声優にいちいち目くじら立ててたらベテランさんだって仕事になりませんよ。世間的には聞いたことなくてもさいたまスーパーアリーナやら下手すりゃ東京ドームだって埋めるスターがほいほいいますから」


―そうですか。私が偏屈なベテランだったら「おい、オカマ小僧。気色悪い恰好で調子に乗ってんじゃねえぞ」とか言わないまでも態度に出ちゃいそうですが


「人気商売なんで嫉妬やらやっかみも無い訳じゃないんでしょうが…。一応捕捉しておきますと、声優業界について辛辣過ぎる親書を発売して一部で話題になってるベテラン声優の小塚春夫氏…は半田つかさくんを絶賛してます」


―え?そうなんですか?


「この人お世辞言いませんからね。実際一緒に仕事して見て『こいつは上手い』と認めたってことでしょう」


―実力が伴っているってことですか


「当たり前ですけど、つかさくんは普段は女装もしないし、仕事モードに入っていれば必要以上に女の子の声を出して周囲をケムに巻いたりもしません。劇団出身ということもあってか挨拶もしっかりするし、要はちゃんとTPOをわきまえている訳です。それでいて実力もありすぎるほどあるし、謙虚だし、真面目でひたむきです」


―なるほど


「世間の注目度が低いお蔭で余り表ざたになりませんけど、一部の“人気声優”さんの中には人気を鼻に掛けて相当鼻持ちならない態度を取ったりする『問題児』も多いそうです」


―そうなんですか?


「ええ。ま、ともかく最初は偏見から入る人もいるみたいですけど、いざ一緒に仕事をしてみればそのミニサイズの身体に折れそうな細さで懸命に頑張ってるところを見て応援する側に回るそうですよ」


―そうでしたか


「話が大幅に逸れました。次に歌手・ソロアーティストとしてです」


―そうでした


「基本的にはその美貌がポイントとはいえ、やはり歌の上手さですね」


―普通の女の子が華麗に歌うだけでもギャップにギョッとするのに、男の子ですからね


「そうなんです。4月に『ジャスティスマン・アライブ』のOP主題歌。これまた思い切りましたよねえ」


―ちょっとありえないですよ


「同じアニメで主人公の格好良く決める青年ボイスでありながら、ガールズボーカルの主題歌担当ですからね」


―アニメファンでないと気付かないってことは無いですよね


「彼は声優は本名の「半田司」クレジットなんで、OPはアーティスト及びアイドル名の「半田つかさ」ですから…一応別の人扱いということではあります」


―いや、気付きますよ


「愛宕坂に入る前の唯一の個人名義のシングルがこれになります。次が6月発売のシングルで、名義は「半田つかさ(愛宕坂47)」となってます」


―加入するための罰ゲームが放送されたのってほぼ同時期じゃなかったでしたか?


「いえ、その騒動は4月に始まっていて6月に決着して加入となります。一応インターネット投票とかもありましたけど若干前倒しで進行してたんでしょうね。一部には「半田つかさ」のみの名義のCDが限定枚数流通したことがある…みたいな都市伝説もありますけど…まあ取るに足らない噂でしょう」


―4月・6月とハイペースですね


「この時期の激動ぶりが凄いんで忘れがちですけど、前の年のカラオケ番組の出演から話題が徐々に上がって行く頃で、テレビの露出も増え始める時期です。一応携帯用ゲームのタイアップってことになってますが余り誰も覚えてません」


―タイアップ多いですね


「というより、つかさくんはソロアーティストとしては全てが何らかのタイアップです。アニメ主題歌だとかゲーム主題歌だとか。個人名義では握手会も投票権も付けないので、売るにはアニメやゲームに引っ掛けないと無理です」


―そうですか?


「今はCDが売れない時代ですからね。7月期のアニメの主題歌が7月に発売」


―この時期ちょっとどうかしてますね


「はい。この後が色々問題です」


―問題?


「愛宕坂の運営は色々とフットワークが悪いことで有名なんですが、加入前に決まっていたに等しい3枚目シングルまでは順調に発売されたんですがここからがいけない」


―というと?


「ハッキリしたことは分かりませんけど、この時期愛宕坂は夏のツアーが始まって地方公演に引っ張り回される時期です」


―7月ですもんね


「唯一ソロアーティストを兼任してる半田つかさくんは個人としての活動を休止せざるをえません。ちなみに愛宕坂では選抜入りしていないメンバーは言ってみれば『控え』選手枠のアンダーに入ってアンダーメンバーとして活動することになります」


―プロ野球で言う二軍みたいなものですね


「はい。愛宕坂は専用劇場を持たないのでアンダーメンバーは本当に何もすることがありません。なのでアンダーはアンダーで独自チームの様に別枠で活動することになりました。比較的チケットが取り易かったこともあってかアンダーにも根強いファンがいます。こっちのみのファンも多いくらいで」


―へえ


「何しろこの控え枠だけでも日本武道館を埋めるくらいの人気になってます。BKAグループでは考えられませんね。ただ、半田つかさくんはソロアーティストでもあるので、カップリングのMVでアンダーのセンターを1曲務めたくらいでアンダーメンバーとしての活動はほぼしてません。と言うより出来なかったですね」


―そうなんですか


「正規の選抜メンバーでもないのに存在として猛烈に目立つため選抜に混ざる形でテレビ出演なんかはする訳で、直接聞いた訳じゃないですけど選抜に入りたくて仕方のないアンダーの女の子たちにしてみれば複雑だったでしょうね」


―…そうですね


「とはいえ半田くんの人間力がすごいのかアンダーの子たちとも仲が良くて目立ったトラブルは起こしてないんです。ともあれ、愛宕坂のアンダーメンバーとしてよりソロアーティスト活動を優先しました。最初から対象になっていないとはいえ選抜落ちの形ではあるのに半田くんにはアンダーという印象はありません」


―マネージャーの荒井さんはそういう方針で行くと決めたとおっしゃってましたが


「ただ、新譜の録音自体はしてるんです」


―え?


「何しろ半田つかさくんは存在自体が猛烈に面白いので、プロデュース依頼が殺到します」


―…プロデュースしたいって人が殺到してるんですか?


「いかにも」


―でも、愛宕坂といえば夏元さんでしょ?


「愛宕坂ならね。でも、『半田つかさ』個人ということで言うならば愛宕坂の呪縛には縛られないはずなんです」


―あ、そうか…


「歌手には色んな生き方があって、一人のプロデューサー・作曲家と二人三脚で引退まで一心同体で作品を生み出し続けるタイプと、その都度新しい人から楽曲提供を受けたりプロデュースをお願いしたり…というタイプがいます。個人アーティストとしての「半田つかさ」は明らかに後者でした」


―なるほど。それであんなに楽曲の印象が不統一なんですね


「バラエティ豊かと言っていただきたいですね。ともかく、この真夏の真っ最中に幻の4枚目シングルが発表されます」


―幻?発売されなかったんですか?


「シングルとしては発売されてません。これ、格闘ゲームのテーマ曲なんです」


―ああ、あのラジオ出演した


「はい。オープニングムービーで1番と2番の途中まで鳴り響いてます。最後までクリアするとフルに聴けます」


―そんな…タイアップったってそりゃないでしょ


「このゲームは一旦発売するとそのマイナーチェンジ版を2つも3つも出すのでちょっと評判が良くないんですけど、ともかく余りにも主題歌が格好いい上に、今を時めく半田つかさがプレイアブル(操作出来る)キャラとして登場した上にメインテーマまで歌ってるってことで、マイナーチェンジ版のゲームに初回限定特典として音楽CDとしてマキシシングルになってます」


―ちょ!…何ですかその発売の仕方は!


「これ、契約の段階で双方が譲らなかったみたいで発売形式がこうならざるを得なかったみたいです。ソミーとしてはシングル売りしたいし、ゲーム側としてはプレミア付けたい訳です」


―はあ


「結果としてゲームを全くやらないのにシングル欲しさに買う人が続出して1万枚は余計に売れたと言われています」


―何ともはや。でも、1万枚って少なくないですか?


「このゲームの限定版が幾らすると思います?7,800円ですよ。CDのためだけに1万人も余計に買ったと思うとなかなか凄い話です」


―…ウソでしょ?


「ちなみに、ゲームとしても最初は半田くんのキャラそのものもDLCダウンロードコンテンツでお金取って売ろうとしてたみたいだけど、流石にそれは無理なんでアニメパートの追加シナリオとか新規衣装とかを相当ダウンロードコンテンツにしてます。ゲーム側も半田くんの人気に相当乗っかっている訳です」


―はあ…


「この時期、忙しすぎて個人のアルバム制作は出来ていないのは有名ですが、一応はシングル3枚とカップリングを全部足して新曲1曲の上、リバイバル入れたミニアルバムを制作しますがそこにも入ってません」


―ええっ!?


「卒業後のファーストアルバムにやっと収録されるてんやわんやでした」


―ここでも取り合いですか


「4・6・7月の怒涛どとうの新曲ラッシュに8月の愛宕坂の真夏の全国ツアー。同時期に幻の4枚目騒動と格闘ゲーム出演。断り切れずに参加した幾つかのアニメのイベントに引っ張りだこになります」


―聞くだけでげんなりしますね


「この頃は両方の名義…流石に愛宕坂メインになりますが…で、毎日は大げさでも週に一度はどこかのテレビ番組に出演してました。10月には孤児であったことや家族を全員無くしてたことなどをカミングアウト、そして同月の19歳の誕生日と前後して16枚目シングルで初の選抜入り、そして年末の紅白出場です」


―普通に過労で死にますね


「その合間を縫ってミニアルバム収録曲を活用してライブをやってます」


―凄い…


「その後全国ツアーに発展するんですけど、運営としてもどのくらいやれるのか見たかったんでしょうね。ちなみにライブなら幻の4枚目シングルも聞けるのでファンはそれも楽しみにしてたと言われてます」


―そのライブですけど、女の子という体裁でやるんですか?


「そこなんです。つかさくんはガールズボーカルが物凄く魅力的なんですけど、普通に男の子としても歌えます。この時期に3度行われたライブはその実験場だったと言えるでしょう」


―実験場ですか


「はい。ファンなら知ってますけど、ソロアーティスト「半田つかさ」とアイドル・半田つかさは微妙にファッションセンスや、そして何より曲の方向性が違います」


―はあ


「楽曲からして集団で歌うアイドルソングと、一人で歌うポップスですからね」


―どっちがいいんです?


「それは好みですよ。レコード会社が同じということもあって、実験的に一人で愛宕坂の曲も歌ってみてるんですけど、お客の反応はイマイチですね」


―あれ?どうしてですかね


「求めてるものが違うんですよ。アイドルソングがお遊戯会なんてことは言いませんけど、ステーキハウスに行っていきなりスイーツが出て来たら幾ら美味しくても場違いでしょ?そういうことです」


―なるほど


「それでいて『アイドルは女の子、アニメは男の子』と使い分けてました」


―我々外野よりもよほどちゃんと考えてるんですね。当たり前ですが


「ええ。だからアイドル活動と並行してほそぼそと行っていた舞台では必ず男の子の役です」


―そうやって均衡を保ってたなんて言われてますけど


「そんなにヤワじゃないですよ。芝居が終われば普通の男の子です」


―制服着て、スカート翻しながらキュートに踊って笑顔を決めても脱げばまっとうな男の子に戻ると


「ええそうです。舞台上で殺人鬼演じても帰り際に通り魔やらないでしょ?」


―…失礼しました


「面白いのは、6月に加入して…まあ、ありていに言えばちょっとしたセンセーションを巻き起こす訳ですけど、夏を過ぎて秋から冬くらいに掛けては『どっちのジャンル』の番組にも引っ張りだこになります」


―『どっちのジャンル』と言いますと?


「普通の一般視聴者が見る番組と、オタクだけが観るマニアックな番組ですね」


―なるほど


「一般視聴者が観る番組といえば、何と言ってもあれでしょう」


―紅白歌合戦



「熱情台地」第二弾より 未放送部分

*****


NA「15枚目シングルの段階に於いては在籍していながらそもそも選抜メンバーの選考対象外とされていた半田であったが、16枚目において待望の選抜参加。そして、ここに来て年末の一大イベントが控えていた。毎年暮れに放送される『NHK紅白歌合戦』である」


会議室にて

―11月の新曲発売って、紅白狙いだったんですか?


野中「まあ…そうとも言えます(笑)」


―16枚目って結局売り上げ記録になったんですよね?


野中「なりましたね。グループとして初ミリオンです。まあ、出荷枚数でですが。で、CDシングルは4バージョン作りますけど選抜だけにきっちり映ってます」


―半田つかさ版の売り上げはいかがです?


野中「大体他の版と同じです」


―そうですか


野中「他のメンバーの根強いファンもいますから。その中で最も拒否反応があって当然なのに売り上げが落ちていないのは驚異的です」


NA「その年、愛宕坂47は2年連続2度目の紅白歌合戦出場を決める」


CM


NA「女性ボーカルグループは紅組に分類されるため、これまで紅組として出場した男性は多いが、純然たる女性アイドルグループの一員としての参加は前例が無かった」


書斎にて

  テロップ 評論家 萩原吉


萩原「話題沸騰でしたから。話題性作りに負けたってところですね」


*****


自宅にて


―MHKが半田くんそのものの存在は勿論ですが、「不幸な生い立ち」とかに触れなかったのは奇妙ですね。一番フックになりそうなところなのに


「重すぎでしょ。中途半端に触れるくらいなら触れない方がいいです。別に半田くんが女装してアイドル活動してることはMHK的にタブーでも何でもなくて、別番組では触れられてます」


―なるほど


「いずれにしても、一年前には夫婦水入らずで炬燵こたつで観戦してた紅白歌合戦にまさか美少女アイドルグループの一員として出演するなんて思ってもいなかったでしょうね」


―そりゃね


「とにかく、年が明けて5月に卒業を控えた半田つかさに対し、2月発売の17枚目で遂にセンターに選出されます」



「熱情台地」第二弾 未放送部分より


*****

愛宕坂工事中


  青ざめてブルブル震えている唇と、マイクを持つ手がクローズアップになる。


つかさ(女性時)「えっとその…ん、んんっ!(咳払い)すいません…。ただでさえ女の子アイドルの中に男が入るってだけで袋叩きにされてその…ボク自身は幾ら何を言われても平気なんだけど、愛宕坂そのものをあれこれ言われるのは本当に辛くて」


 長い沈黙


つかさ(女性時)「とはいえ…えらそうで本当にゴメンね!…たった1年とはいえ呼ばれて参加させてもらってるってことは『ちょっとは貢献しやがれ!』ってことだと思います…。参加してるからには、全身全霊で愛宕坂に尽くします!…傑作にしますのでよろしくお願いします!」


  深々と頭を下げる半田つかさ。膝丈のスカート衣装と、ショートカットの髪が揺らぐ。


社長室にて

夏元硬「純粋にオーディションで決めました。というか「確かめた」という感じでしょうか」


  テロップ「愛宕坂47メンバー 端元奈々はしもと・ななお

廊下にて

端元「…悔しいけど半田って、プロ意識が凄いんですよ。間違いなくあたしよりあります(苦笑)」


   ジャージ姿でレッスンに汗を流す半田つかさ。


NA「メンバーとの全体練習が限られる半田つかさはとにかく自分で出来ることは全て行った。世間では愛宕坂47のセンターはメンバーが何年掛かってもおいそれととることが出来ないポジションであり、男だろうと無かろうといきなりゲットすることはありえないと思われていた」


   ジャージなどの練習着による集団レッスン。


NA「元々身体を使う事や、セリフなどは猛烈に物覚えがいいという半田つかさはなんと全員分の踊りを完璧にマスターしており、結果的にセンターを巡るオーディションはトップで合格していた」


   新曲のMV。


NA「新曲のMV。なんとこれが『アニメ風』になっている」


   スタジオ内を移動しながら1カット繋ぎで次々にメンバーが印象的に登場しては「名前」の文字と共に数秒フリーズする。その間も印象的でジャジーなインストが流れ続ける。


NA「元々半田つかさは番組にも数々のアイデアを持ち込んで貢献していた。例えばコミュニケーションゲーム「デンゴンストレーション」を行うことを提唱し、成功させた。これによって「デンゴンスレーション」の売り上げは急増し、愛宕坂バージョンまで売り出されたという」


  愛宕坂メンバーが楽しそうにプレイしている写真が使われているバージョンの「デンゴンストレーション」。


NA「メンバー同士がペアになって寸劇を行うコーナーにおいては、劇団付きの脚本家の力を借りてクオリティを上げた」


  寸劇を披露している場面。


NA「これによってテレビ局と劇団脚本家の交流が活発になり、他メンバーが演劇に出演する機会を大いに増やすことになったという」


  ジャジーな音楽と共に10人のメンバーを紹介するMVの続き


NA「キャラクターの名前を次々に表示していくこの方法はアニメファンの間ではお馴染みだが、集団アイドルには使われたことが無かった。彼が愛宕坂を卒業した後も形を変えてこの方式は継承されている」


  非常に激しく動く画面やカメラ。


  手のクローズアップから顔、そして瞳に寄ったり、対峙するその周りをカメラがぐるぐる回ったり、奥に向かって進むカメラに向かってかき分ける様に人物たちが流れたりする。


NA「アニメ演出班との共同作業によるこのMVは大評判となった。いわば実在の人間をアニメの様に演出する手法なのだが、以降数えきれないほどのフォロアーを生んだ」


  手法をパクッった(?)と思われる実写映画の場面。


NA「非常にアップテンポなこのシングルは今もライブの一番盛り上がる局面で使われる定番曲である」


  アニメのOPのラストカットの様にずらりと並んでカメラ目線で決めるメンバーたち。


NA「大きなスキャンダルと壮絶なバッシングを乗り越えた半田つかさと愛宕坂47によるこの新曲はMV効果もあってグループの記録となる売り上げを叩き出し、遂に初の初週出荷でなく売り上げのミリオンを達成した」


   混雑する売り場。

*****



自宅にて


「このグループはずらりと横一列に並ぶジャケットが有名なんですけど、センター曲のジャケットではそのど真ん中にいます。結局ジャケットに登場してるのって二枚だけなんですよ」


―そうなんですか?


「サードアルバム発売の頃にはもう卒業してていなかったですし、15枚目には在籍はしてますが参加してません。16枚目で初フロントです。ここで登場。そして17枚目のセンター。今でも「勿体ない」と言われますが…当時の情勢考えると仕方がないですよ。そして…身長差もあるのに『全員が同じ高さになる様にカスタマイズされたスカート丈』のファンにはお馴染みの衣装コンセプトで収まってるんです」


―…スカートですか


「発売された限定のシングルCDとDVDセットのタイプDにこのジャケット撮影時のドキュメンタリーが短いですけど収録されてます」


―はあ


「流石に『鉄の精神』とか言われてて、人格も分離してるとすら言われるほど演技が上手くて、若いころから舞台上でどんな格好でもしてたので女装くらいでは全く動揺しないつかさくんもこの時ばかりは恥ずかしそうにしてます」


―そりゃそうでしょ。18歳…19歳か…の男の子がお揃いのミニスカートの衣装でずらり並んだ美少女たちのど真ん中で女の子みたいにしなを作って映り込むんだから


「まあね。科は作りませんけども…。不思議なことに彼は『女の子モード』の時だけは赤面症になるみたいで、冠番組では『赤信号』と呼ばれるほどすぐに真っ赤になるんです。もっとも、これもお芝居なのかもしれませんけどね」


―はあ


「この時もそのモードに突入しちゃってたみたいで、彼の顔の赤らみが戻るまで撮影が終わらない…かと思いきやそのまま撮影が続行されてしまって、いつもの笑顔に比べて明らかに少し恥ずかしそうに赤くなってる表情で写ってます」


―…確かに


「この時の周囲のメンバーが面白がって囃すこと囃すこと!完全に受け入れられてますね」


―はあ


「普通に考えればこのシチュエーションは『恥ずかしい』とか『気持ち悪い』ってことになるんでしょうけど、数か月掛けて「人格の憑依」というファンタジーを定着させてきた甲斐があったというべきか、これまた『可愛い』ってことで受け入れてもらえたみたいです」


―なるほどね


「5月のライブはさながら卒業のためのコンサートという扱いになり、センター曲はもちろん、メイン曲もアンダーのセンター曲、更にはソロ曲まで2曲披露しました」


―こんなに大勢いるのにソロですか


「他のメンバーにもソロ曲持ちはいますし、メイン主役扱いだから別に問題無いでしょ」


―受けたんですか?


「ウケたなんてもんじゃありません。熱狂・狂騒状態です」


―そうなんですか


「元々あの歌の上手さです。楽曲も非常にクールで格好いい、盛り上がる曲ばかり選んでいます。それをあのにっこにこ笑顔で歌うもんだから萌えるやら燃えるやらでもう大変。ぶっちゃけ一人だったとしてもかなりのお客さん呼べてたでしょう。実際その後ソロコンサートでも同じ規模の人数集めてますし」


―…確かに、曲を聞いた後思わずダウンロードとかでこの曲買いたくなります


「どれだけのタレント(才能)だろうと、ガールズグループに男が入るなんて許せない!と息巻いていた端元奈々緒ですけど、レギュラー番組の歌企画の後、思わずつぶやいてます『こんな人が同じクループ内にいるんだ…』ってね」


―確かに、普通に独立してやれる才能が偶然グループに所属してたって感じですね


「1年間の期間限定って話だったんだけど、グループ全体の注目度を相当程度引っ張ってる形に近くなっててかなり引き留められたらしいです」


―そうなんですか


「ただ、「卒業したら受ける」約束になってる個人の仕事が猛烈に溜まっていて、実際問題辞めないって選択肢は無かったみたいです。…ともあれ、人気が尻上がりに上昇し続けている真っ最中で、正に惜しまれて辞める最高の形になりました」


―まあ、そうとも言えるかもしれませんね


「ラストコンサートでのソロパート観てると、確かに凄いんですけど、集団アイドルのライブとちょっと違っちゃってるな…という気がします。ファンも『ああ、こりゃこの人をグループに留めてちゃ駄目だ』という雰囲気濃厚になったそうです」



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ