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夢想世界の少女  作者: ☆私星☆
第1章 ~夢の始まり~
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第8話  ~放課後の邂逅~

 「空人くん、おはようっ!」


 「おはよう、ユム」


 ――夢の中のユムが記憶喪失だと知ってから1週間、あれから空人は1度も夢を見ていなかった。不思議な現象が起こることが無くなって少し安心したような、夢世界のユムに遭遇しなくなり落ち着かないような。そんな心情が渦巻いていた。


 「そう言えばそろそろ部活何にするか決めないとなー・・・・・・、ユムは決めたのか?」


 「私もまだ迷ってるんだよね~。でも今週中に決めるように先生に言われてるし・・・・・・」


 この学校では、必ず何かしらの部活に所属する決まりになっていた。帰宅部というものは存在しないのだ。

 空人は、中学時代は部活をやっていなかったため、部活を選択するのは今回が初めてだ。


 「空人くんスポーツはやらないの~?」


 「あんまり得意じゃないなー。俺はどちらかというとインドア派だし・・・・・・」


 「そうなんだ~、私もインドア派かな~」


 亜衣歌ならスポーツもできるんだがな・・・・・・。

 勉強、家事だけでなくスポーツもできてしまう亜衣歌のことを思い出しつつも、部活動紹介のパンフレットのような冊子を取り出してパラパラめくる。

 そこで、1つの部活動に目が止まった。


 ん? 研究部? 何を研究するんだ?

 空人は研究部の概要を読んでみる。

 研究する内容は自由、調べたことをまとめるだけか・・・・・・。これは楽そうだな、この部活にするか。

 見てみると、今日の放課後に見学ができると記載されていたので、空人は行ってみることにした。


 ――そして授業が終わり放課後、空人は研究部の部室を探しに3階へ上がった。

 冊子に地図書いてないのかよ・・・・・・。

 そんな文句を浮かべながら廊下を歩いていると、上のプレートに”研究部”と表記してあるドアの前に到着した。

 ここか・・・・・・。

 空人はとりあえずノックをしてみるが、中から返事は聞こえなかった。

 誰もいないのか・・・・・・?

 ドアノブを回し引いてみると、鍵はかかっていないようだった。

 「失礼します・・・・・・」

 電気は付いていたが、やはり誰もいないようだった。

 中は、普段空人が過ごしている教室の半分以下の広さに、両脇に2台ずつ、合計4台のパソコンがあり、正面には空人よりも背の高い大き目の本棚が1つあるだけだった。

 これで一体何を見学すればいいんだ・・・・・・。

 これから誰か来るかもしれないと思った空人は、とりあえずパソコン前の背もたれ付きの回転椅子に座って待つことにした。


 ――それから20分程経ったが、誰も来る気配は無かった。

 本当に今日見学できる日なのかよ・・・・・・。

 冊子を見直してみたが、今日の日付で間違いなかった。

 待ちきれなくなり、一旦部室を出ようと椅子から立ち上がろうとしたその時、


 トントンッ


 ドアをノックする音が聞こえた。

 空人は急に音が聞こえてきてドアの方へと目を向ける。

 するとその直後、ゆっくりとドアが開かれた。

 「失礼しまーす・・・・・・って、そ、空人さん!?」


 「か、かのんか・・・・・・!?」


 ドアを開けた人物――柏木花音かしわぎかのんは、空人の中学時代の同級生だった。肩より少し上のやや短髪の黒髪に、優しい瞳。おとなしくて、声がやや小さめなのが特徴である。中学1年からずっと空人と同じクラスだったが、高校ではクラスは別々になってしまった。中学1年の時、かのんが男子2人に苛められてるところを空人がかばってから、かのんは空人のことが好きになっていた。空人もかのんには少なからず好意を抱いている。勿論、そのことはお互いに知らないわけだが。


 「空人さんってこの高校に通ってたんですか!?」


 「かのんも同じ高校だったなんて気づかなかったな・・・・・・」


 お互いに同じ高校に進学していたことには気づいていなかったので、2人とも驚きを隠せなかったようだった。


 「そ、そうだったんですね・・・・・・!」


 思わず、やった・・・・・・! とかのんは小声で叫んでしまったが空人にははっきりと聞こえなかった。

 

 「ん? 何か言った?」


 「あ、いえ! な、何でもないですよ!」


 かのんは空人に聞かれてそう誤魔化した。


 「かのんも冊子見てこの部室に来たのか?」


 「は、はい、そうですよ・・・・・・って、空人さんもこの部活に入ろうとしてるんですか!?」


 「そう思ってたんだけど・・・・・・、誰もいないんだよな・・・・・・」


 いつになったら誰が来るのか何も分からないので、かのんにも一旦ここを出ようと持ちかけたその時、再びガチャッとドアが開かれた。


 「あら、ごめんなさいね。誰もいなかったでしょう?」


 「って、寺本先生じゃないですか・・・・・・」


 入ってきたのは、空人のクラスの担任――寺本てらもと先生だった。

 話を聞くと、寺本先生は研究部の顧問を担当しているらしい。


 「見学って書いてあるけど、現在部員は0人なのよ」


 「えっ、どういうことですか?」


 「実は、去年の部員は3年生しかいなくて、今年はその3年生が卒業した後だったから部員が誰もいないのよ。つまり、今年は新入生が入ってくれないと研究部の活動が一切なくなってしまうわ」


 部員が1人でもいれば部活動として成立するらしい。誰も入らなくても部活自体は廃部にはならないが、少なくともその年は何も活動が無くなってしまうようだ。


 「研究部って本当にただ調べてまとめるだけなんですか?」


 「そうね、前例もみんな結構自由な感じで調べてまとめていたわ。この学校で一番フリーな部活じゃないかしら?」


 先輩も誰もいないうえにこんな楽な活動ができる部活は他にないだろう、と思った空人はこの部活に入る決心をした。


 「じゃあ俺、研究部に入ります」


 「わ、私も入りたいです!」


 「分かったわ。じゃあ、この申請書に名前を書く欄があるから、2人とも書いて頂戴」


 そう言われて2人は名簿の欄に名前を記入した。


 「あ、そうそう。他に誰もいないし、どちらかが部長になってもらう必要があるわ」


 そうか、他に誰もいないから当然か・・・・・・。


 「かのん、どっちがやる?」


 「じゃ、じゃあ、私が・・・・・・」


 「じゃあお願いね、柏木さん」


 「は、はい! 頑張ります!」


 かのんが部長に決定し、先生は申請書を持って部室を出る。


 「こ、これからよろしくお願いしますね、空人さん」


 「ああ、よろしく。しかし、かのんが部長か・・・・・・」


 「な、なんですか・・・・・・? 私だと不安ですか・・・・・・?」


 手を胸の前あたりに合わせて、少し目をうるうるさせてかのんがこっちを見てきた。


 「い、いや。かのんが部長だなんて中学の時じゃ絶対見れなかっただろうと思ってさ」


 「わ、私だってたまには頑張りますよぅ・・・・・・」


 おとなしく、少しひかえめな性格のかのんが部長を務めることに少し関心する空人であった。


 「で、でも、また空人さんと会えて良かった・・・・・・」


 かのんは微笑みを浮かべて小さな声でつぶやいた。


 「かのん、何か言った?」


 「い、いや、何でもないですよ? ふふっ」


 「何笑ってるの?」


 「何でもないでーす」


 何故か嬉しそうに微笑むかのんに、空人は疑問を浮かべながら、放課後の時は過ぎてゆくのであった。

 

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