第7話 ~ユムの記憶~
「夢の中・・・・・・!? これが!?」
「ええ、そうよ。妹さんがいないのは、今いるこの世界が夢の中だからよ」
空人は驚きを隠せなかったと同時に、いくつかの疑問点が浮かんだ。
これが夢だとしたら、何故自分はこんなにも長時間、現実のような夢を見ているのだろう。確かに、ユムの言葉通り、不可解な現象は夢だとしたら納得がいく。しかし、1日丸々分の夢なんて今までに見たことがない。
そして、その長時間の夢は、次の日の出来事に酷似している。正夢にしても、2日連続なんて・・・・・・。
そしてもう一つ、
「ユムは何故それが分かるんだ・・・・・・? 確かにこれが夢なら、尚更ユムがそんなこと言ってきてもおかしくはないけども・・・・・・」
「それは現実の私が、空人君と”同じ夢”を見ているからよ」
「同じ夢・・・・・・!? 俺とユムが!?」
空人は再び驚いた。
そんな、同じ夢を見ることなんてあり得るのか・・・・・・?
「でも、現実の私は空人君と同じ夢を見ていることは、忘れてしまってるの。夢の中の私だけが知っていることなのよ」
確かに、覚えていたならばそのことを空人に話していてもおかしくはないだろう。
「それと夢の中の私は、”記憶喪失”なの」
「え・・・・・・?」
「あることがきっかけで、今までのことはすべて忘れてしまっているの。だから、以前の私がどんな性格だったのか、どんな表情をしていたか、全て分からないままよ」
それで、現実のユムとは違う感じだったのか・・・・・・。
「でも記憶喪失になっても、自分の名前や自分の立場は覚えていたわ。だから学校には通っているの。そして、記憶喪失になった代わりに、この夢の世界に関わることが分かるようになったわ。例えば空人君、あなたの繰り返しの現象。それは私の記憶が失われた前後から起きているわね」
「俺のこの現象も、ユムの記憶に関わっているのか・・・・・・?」
「それは分からないわ・・・・・・。でもこの部屋に来るまでは、私が夢世界にいるということすら忘れかけていたの。この部屋が元に戻った瞬間に私の記憶も戻ったということかしら・・・・・・?」
確かにさっき、部屋が戻った時にユムに変化があったように思えた。何故か空人にしか認識できていなかった亜衣歌と、元々は存在していて元に戻ったこの部屋。空人に起こっている現象はユムに関わっていることは間違いなかった。
何か分からないことが多いな・・・・・・。でも、これが夢だって分かってちょっと安心したかもしれない。
「私にとっては現実の私が夢みたいなものなの。私が妹さんの存在を覚えていたのは、現実の私が空人君と会話した記憶が、私にも少し残っていたのかもしれないわね」
「そうか・・・・・・」
まるで、現実のユムと夢世界のユムは別人のようだった。現実のユムはこの夢を見ても忘れてしまっている。夢の中のユムも現実で起きたことは微かに記憶にあるだけだ。
「私は記憶を失う前の自分を知りたいの。どんな自分だったのか、周りにはどんな人達がいたのか。時間をかけてでも、少しずつ思い出したい・・・・・・」
夢の中でもユムはユムだ。記憶が戻るまで、俺はユムの力になりたい。
「俺もできる限りは協力するよ。この現象は俺一人じゃ何も分からないしさ」
「そう・・・・・・。ありがとう、空人君」
――空人はこの夢の世界で初めて、ユムが一瞬微笑んだように見えた。
その直後、階段の方から足音が聞こえてきた。
まさか?
そして――
「ただいまー・・・・・・ん? ちょっと、お兄ちゃん! 私の部屋で何してるの!」
「亜衣歌!?」
さっきので部屋だけでなく、亜衣歌も戻ってきたのか!
「その女の人は? お客さん?」
「初めましてね。私は花崎結夢、空人君のクラスメイトよ。空人君からあなたのことは聞いているわ」
「あ、こちらこそ初めまして! 私は妹の八条亜衣歌です・・・・・・って、そうじゃなくて! お兄ちゃん私の部屋勝手に入ったでしょっ! 女の人と私の部屋に入るってどんな状況よ!?」
「いや、すまんがいろいろあってな・・・・・・」
空人はいきなり戻ってきた亜衣歌にどう弁解するか悩んだ。
これ夢だろ? 早く覚めてくれないかな・・・・・・。
すると、ユムが前に歩み出る。
「亜衣歌さん、私が勝手に間違って開けちゃったのよ。ごめんなさいね」
「え!? そうだったんですか? いえいえ、気にしないでください!」
おい、俺の時と反応が全然違うじゃねえか。でもユム、超ナイス!
「じゃあ私はそろそろ帰るわね」
「用があったんじゃないんですか?」
「もう済んだわ。じゃあまたね」
と、ユムはそのまま下へ降りて帰ってしまった。
いろいろと理解しがたいことを聞かされた空人は、自分の部屋に入りしばらく思いに耽っていたが、亜衣歌に夕食を呼ばれて下に降りた。
昨日のカレーの残りを食べながら、空人は亜衣歌にふと疑問に思ったことを聞いてみた。
「なあ、亜衣歌。今日は学校行った・・・・・・よな?」
「うん、勿論行ったよ? 私がサボるわけないじゃん」
「そ、そうか・・・・・・」
亜衣歌はあの時まで存在しなかったが、学校へ行ったことにはなっているのか・・・・・・。他の人の認識は変わっているだろうか・・・・・・?
「そんなこと聞いてどうかしたの?」
「いや、何でもない。気にするな」
「ところで、花崎さんってお兄ちゃんの彼女とか~?」
と、意地悪そうな顔で亜衣歌が聞いてきた。
「そ、そんなわけないだろ! 俺に彼女とかできるわけが・・・・・・」
「だよね~、そんなわけないよね~」
こいつ、人をからかいやがって・・・・・・。
そんな会話をしているうちに夕食を食べ終えた。
空人はいつものように部屋に戻ると、ベットに寝転がる。
目が覚めたら明日じゃなくて、また今日が始まるのか・・・・・・? 夢だし、今日という表現は少し怪しいけれども・・・・・・。
――そうしているうちに、空人の意識は途切れた。