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夢想世界の少女  作者: ☆私星☆
第2章 ~夢と記憶~
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第23話 ~臨海学校の始まり~

お待たせです。

 「う~ん・・・・・・」


 「・・・・・・」


 現在、空人から見て隣には本を読む寡黙な少女、斜め向かいにはイヤホンを付け、携帯を横持ちにしてテレビを見ているややチャラそうな少年、そして正面にはこちらへ片手を伸ばし、真剣な顔つきで空人の顔をチラチラと凝視ぎょうししながら悩みにふけ白髪はくはつセミロングの少女がいた。


 「よ~しっ、こっち!」


 悩みに悩み、少女が空人から選び取ったものを見る。


 「あ~~~~もうっ! やっぱりそっちの方かぁ~っ!」


 「これで俺の3連勝だな」


 「途中で変えなきゃ良かった~! 悔しぃ~!」


 悔しがるその少女は他でもない、ユムだった。


 「お前らさ、2人でババ抜きやって楽しいか・・・・・・?」


 どうしてもそれを言わずにはいられなくなり、一度イヤホンを外し2人を見てそう言った少年は前橋まえはし修斗しゅうとだ。


 「楽しいかどうかと訊かれると楽しくは無いな・・・・・・。てか、修斗も参加すればいいだろう」


 「俺はこのサッカー中継見終わったらなーって、あ”~~~~っ! 目を離した隙に点取られてるし!」


 ユムと似たようなリアクションを取る修斗に苦笑する空人。


 「もういい・・・・・・、俺も参加する・・・・・・」


 「じゃあ3人でやるか・・・・・・」


 そう言いつつ空人は本に読み耽っている少女の方を見る。


 「静夜は参加するか・・・・・・?」


 「本、読み終わってから」


 「そ、そうか・・・・・・。分かった」


 空人に訊かれ、そう答えたのは栗山くりやま静夜しずよだった。相変わらず、寡黙で何を考えているのかははっきりとは分からない。

 ババ抜きとかやらせたら強そうだな・・・・・・。


 「そう言えば、何の本を読んでるんだ?」


 気になった空人が本を覗き込むと、見出しに「大富豪」と書かれたページを開いていた。


 「トランプのルールブック」


 「やる気満々だな!」


 空人達は臨海学校の目的地へと向かうため、新幹線で移動していた。中では、2人ずつ向かい合わせになっている座席に班ごとに固まって座る形だ。新幹線を降りた後はバスで移動するが、バスに乗り換えるまでに3時間ほどかかるらしく、空人達はそれぞれ持ってきたもので移動時間を楽しんでいるのだった。


 「しかし臨海学校って、まだ目的地に着いてないのにもうこんなに楽しいもんだな」


 「確かにな! 1日ずっとトランプでも過ごせそうだな!」


 修斗がとんでもないことを言い出した。


 「それは新手の拷問か・・・・・・?」


 「上がり・・・・・・」


 「え~っ! 静夜ちゃんもう上がったの~っ!?」


 そうしているうちに静夜が最速で手札を全て捨てる。


 「まだ俺手札5枚もあるぞ!?」


 「俺もまだ4枚あるな・・・・・・。やはり静夜はババ抜き強かったか・・・・・・」


 「運が良かっただけ」


 「次は私の番だねっ! どれにしようかな~・・・・・・」


 そう言ってユムは空人の手札を選び始める。


 「よ~し! これだっ! ・・・・・・あああぁぁぁ!!」


 「んー、ユムがババ抜き弱い理由が分かってきたよ・・・・・・」


 ポーカーフェイスという言葉を知らないユムは案の定、この後に負けるのであった。



 ――それから数時間が経ったところで、空人達は新幹線からバスへ乗り換え、自然豊かな道を進んでいた。

 景色がどうしても見たいというユムの申し出に、空人は窓側だった席をユムに譲る。


 「あっ! リスがいるよ空人くんっ!」


 「お、ホントだ! 初めて本物のリスを見たよ」


 家がほとんどなく、視界にはひたすら緑が広がっていた。空人たちの住む町ではこんな景色は中々見られないだろう。


 「湖が見えてきたよっ! すごくきれ~い!」


 「おおー! 凄いな! 写真撮っとくか」


 空人が携帯を写真モードにして景色を映そうとすると――


 ん? 何だあの建物は・・・・・・?


 ――湖の少し奥の方、林で少し隠れて見づらいが、少し暗い灰色の直方体の見た目に、上には大きめのアンテナのような装置が付いていて、何となく不気味さを感じるような建物が見える。湖の美しさに対比して嫌な雰囲気を発するその外見は、案外よく見ないと分かりにくそうだ。


 「なあ、あの建物なんだろうな? ・・・・・・ユム?」


 空人がそう言いながら隣を見ると、ユムは真顔でその建物をじっと見つめていた。


 「ユム、どうかしたか・・・・・・?」


 「ん、あっ、ううん、何でもないよっ」


 ユムが単に考え事をしながらぼーっとしていたのか、その時空人には分からなかった・・・・・・。



 ――少しして、紺色の服と帽子を身にまとった人が立ち上がる。

 「皆さん、景色を楽しんでいますか~! どうもバスガイドの、りかで~す!」


 そうマイクで声を発したのは、少しウェーブのかかった肩にかかるくらいの茶色に染めた髪の、20代後半くらいに見える若い女性だ。


 「って、寺本先生じゃねえか!」


 寺本先生って下の名前”りか”っていうのか・・・・・・。なんか今時いまどきだな・・・・・・。


 すると、空人の丁度真後ろの席から声が上がる。


 「せんせー! 凄く似合ってますよー! ギリギリ20代ですもんねー!」


 「前橋く~ん? 少し口を閉じないと後悔するわよ~?」


 「ひぃぃぃい!! すみませーん!!」


 寺本先生は笑顔を引きつらせ、マイクが壊れるんじゃないかと思うくらい両手で強く握りしめた。

 修斗のやつ、真後ろで何してんだ・・・・・・。

 現在29歳の、寺本てらもと理佳りか先生の恐ろしい一面を垣間見た・・・・・・。


 「気を取り直して、バス内レクリエーション、ビンゴ大会を始めまーす!」


 「いぇーい!」などと、みんなから歓声が上がる。


 「では宮坂さん、進行をお願いしますねー」


 「はいではわたくし、宮坂が進行を務めさせていただきます」


 やっぱ学級委員の帆夏が司会をやるのか。頑張ってるなー。


 「えー、バスの席決めとは違い、ちゃんと数字が書かれたビンゴカードを用意していますから、1と7を間違えることは決してないので安心してくださいね」


 「ははははっ!」と、みんなから笑い声が溢れる。

 寺本先生は、まだそれを言ってくるのか、と言わんばかりの引きつった表情を浮かべていた。


 全員にビンゴカードが行き渡ったことを確認した後、みんなはカードの真ん中を開けるように指示される。


 「ちなみに先着3名の人には景品も用意しているので、お楽しみに!」


 再びみんなから歓声が上がる。

 

 「よ~しっ、絶対景品ゲットするよ~!」


 「おう! 俺もだ!」


 ユムも空人も当たることを願い、ビンゴ大会はスタートした。



 ――そして8回目、空人とユムはどちらもリーチがかかっていた。


 「34来い!」


 「私は66~!」


 まだビンゴした人は居ないこの状況でリーチとなると、1等をゲットできるかもしれないというワクワクが止まらなかった。


 「はい、次の数字です。次は・・・・・・」


 頼む、来い・・・・・・!


 「さんじゅう――」


 ・・・・・・!!


 「ご、番です」


 「ぬあああぁぁぁ!」


 「惜しかったね~!」


 「ああ・・・・・・」


 「ビンゴ」


 「え?」


 空人の通路を挟んで左側から聞こえたその声は、ビンゴカードを無表情で上に掲げる静夜から発せられたものだった。


 「何だ・・・・・・と・・・・・・」


 「はい、出ました1等です! 栗山さんに拍手~!」


 大きな拍手に囲まれた静夜は相変わらず無表情だったが、少しそわそわした様子は喜びを表しているのかもしれない。


 「まだだ、まだ2つ景品があるはずだ!」


 「そうだよっ! まだ落ち込むのは早いねっ!」



 ――勢いの良かった二人だったが、結局その後別の人に2等、3等と景品が渡り、ビンゴ大会は幕を閉じた。

 がっかりしてプチプチと全ての数字を開けていくユム。そしてそれに加えて何重にもカードを折りたたむ空人。後ろでは修斗が悔しそうにカードを引きちぎっていた。


 はあー、結局景品は貰えなかったか・・・・・・。


 「そう言えば静夜、景品って何だったんだ?]


 左向かいにいる静夜に空人は声をかける。


 「まだ、開けてない・・・・・・」


 「ちょっと気になるから開けてみてくれよ」


 そう言うと静夜は頷き、景品の包みを開ける。すると、中から出てきたのは――


 「それはもしかして・・・・・・」


 静夜がボタンを押すと、ウィーンガシャンと言う音とともに、プラスチックでできた先端の部分が広がる。


 「マジックハンド・・・・・・」


 俺はこんなもののためにテンションを上げていたのか・・・・・・。


 「・・・・・・いらない。あげる」


 「え、いいのか? あ、ありがとう・・・・・・」


 空人も特に欲しくは無かったが静夜がくれると言っているし、折角なので貰った。


 「そうだな、ただ貰うってのはアレだから、良かったら俺の持ってきた小説でも読むか? 本読むの、好きだろ?」


 そう言って空人はバックから1冊の本を取り出し、静夜に手渡した。


 「いいの・・・・・・? ありがとう」


 その後、静夜は黙々と空人の貸した本を読み進めていった。

 空人は、自分の貸した本が静夜にとっておもしろいかどうか心配だったが、横目でずっと見ていると、段々と静夜の瞳が輝きだす。



 ――そして2時間後、静夜が本をパタンッと閉じてこちらへ顔を向けてくる。


 「全部読んだ。これ、とても面白い・・・・・・!!」


 「そ、そうか、良かったよ。続きも貸してあげようか・・・・・・?」


 「本当!? 是非借りたい・・・・・!!」


 「お、おう」


 静夜がいつもの無表情から、こんなにもキラキラした瞳を輝かせるのは想像もできなかった。それぐらい静夜は本が好きなんだな、と空人は思った。



 ――「皆さーん、そろそろ着きますよー!」


 しばらくして、そう寺本先生がコールすると、いつの間にか視界には真っ青な海が広がっていた。


 「わ~! すごいね~っ!」


 「久々に海見るなぁー」


 目の前に広がる景色に2人のテンションは更に上がっていく。

 臨海学校は、まだ始まったばかりだ。

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