第20話 ~臨海学校へ向けて~
あけましておめでとうございます。今年初投稿です。
いよいよ臨海学校が2日後に迫る中、今日の空人のクラスでは臨海学校に向けいろいろと取り決めることになっていた。
「はいでは学級代表の方、進行をお願いしますねー」
「はい、分かりました」
そう言って立ち上がったのは空人のクラスの学級代表こと、宮坂帆夏だ。黒髪を水色のシュシュでポニーテールにしているのが印象的である。彼女との面識はあるが、空人とは一度も会話をしたことはなかった。
「では私が進行を務めますのでよろしくお願いします。まずは現地へ赴くのに利用する、バスの座席から決めたいと思いますが、決め方について何か意見はありませんか?」
しっかりしてるな・・・・・・。俺にこんな司会みたいなことなんてできないな・・・・・・。
背も他の女子の平均より低く可愛らしい見た目とは裏腹に、しっかり者の印象を醸し出すしゃべり方に空人は驚いた。
「意見が出ないようなので・・・・・・では、八条君」
「お、俺!?」
いきなり指名され、不意を突かれた空人は別の意味で再び驚いた。
それを見て隣のユムが微笑する。
「はい、何か意見はありませんか?」
「そ、そうだな・・・・・・。じゃあ、くじ引きはどうだ?」
「良い考えですね、他に意見が無いようならこの方針に決定しますが、異論はありませんか?」
その後誰からも意見が出なかったので空人が提案したくじ引きに決定した。
バスの座席は通路を挟んで左右に2人ずつ座る形となっている。
「席、近かければいいねっ」
「ああ、そうだな」
ユムと隣に座れる確率は・・・・・・結構低いな・・・・・・。
「では、1人ずつクジを引いていってください」
空人は目を瞑って1つの紙切れを掴んだ。そして恐る恐る紙を開く。
さて俺は32番か・・・・・・、後ろから5列目の一番右の座席だな。ユムは何番を引いたんだ・・・・・・?
「空人くんっ、私は37番だったよ~」
ちくしょー!! 神は俺を見捨てたのか・・・・・・。
37番は後ろから3列目の一番左の席である。ユムと会話をするには遠すぎる。
「はい、ではバスの見取り図を書いたので、1番の人から順番に自分の名前を黒板に書いていってください。」
しょぼくれた空人を見てユムが苦笑しながら肩をポンポンと叩く。
「あー、残念だったね~」
「そ、そうだな・・・・・・」
バスに乗っている時間は行きと帰り、その他の移動を含め結構長い。その長時間ユムと会話できないでいるのは空人にとって残念なことだった。
「31番の人ー? 31番は誰ですかー?」
帆夏が呼びかけるが、誰も席を立たない。
ん? 誰もいないのか? 今日は確か欠席はいなかったはずだが・・・・・・。もしくはクジを作り忘れたのか?
「おかしいですね、クジはクラスの人数分ピッタリあるはずなのですが・・・・・・。取り敢えず32番以降の人、書いていってください」
ああ、次は俺か。
空人は黒板に自分の名前を書き込み、席に戻った。
しばらく書き込みが続き、数字は37番。
「私だっ」
ユムが立ち上がり黒板へ向かうと――、
「あ、37番は私ですね」
そう言って帆夏が黒板に書き込む。
「えっ? 私も37番なんだけど・・・・・・」
「え!?」
ユムと帆夏が顔を見合わせてフリーズする。
「え、何で何で!? どういうこと!?」
予期せぬ出来事に帆夏のしゃべり方が一気に崩れた。
空人は37番が2つあったことよりも帆夏のリアクションの方に驚いた。
やっぱり見た目通り可愛いところあるな・・・・・・。
「ほら見てっ」
ユムが帆夏にクジを見せる。
「私もです!」
帆夏もユムにクジを見せる。
「ホントだ~! 何で~!?」
「どういうことですかね・・・・・・。ん・・・・・・?」
帆夏が何かに気づき、教室の左前の隅に座っている先生の方を向く。
「このクジ作ったのは寺本先生ですよね・・・・・・?」
「そうよー?」
「先生・・・・・・、『1』が『7』に見えるんですけど!」
そう言ってユムのクジと帆夏のクジを同時に先生につきだした。
「え・・・・・・、あらホントね。ごめんなさ~い」
先生の癖字によって『1』の上の左の撥ねが大きすぎてどちらも7に見えたため、ユムが勘違いしてしまったようだ。『7』の方は先生は線3本で書いていたため、それで本物との区別がついたのだった。
ん・・・・・・? ということは・・・・・・?
「では、ユムさんの本当の番号は31番ということですね・・・・・・。謎が解けました」
マジかキターーーーーー!!
31番は空人の隣である。空人はさっきの落ち込みが嘘のように晴れた。
ユムが笑顔で帰ってくる。
「私31番だって! 良かった~!」
「ああ、よろしくな!」
ああー、良かった良かった。神様ありがとう!
心の中で神に精一杯の感謝をする空人。
その時――、
・・・・・・!?
空人はほんの一瞬だけ視界がブラックアウトして、すぐに元に戻った。
何だったんだ・・・・・・?今のは・・・・・・?
「空人君、大丈夫?」
そう隣から声をかけられそちらを向くと――、
「ユム・・・・・・?」
――いつの間にか夢の世界のユムが、そこにいた。