第17話 ~事態の収束~
「んん・・・・・・?」
空人が目を開けると、そこには見知らぬ天井があった。
「あ、空人さん!! 目を覚ましたんですね! よかった~・・・・・・」
いきなり左側から声がしたので視線を横にやると、良く見知った女の子が安堵している姿があった。
「おお、かのんか・・・・・・」
その後ろを良く見ると、彩花も安心した様子でこちらを窺っていた。
「空人さん、本当にありがとうございました! 私がこんなこと頼んだから、空人さんが・・・・・・」
「いいんだよ彩花、俺がしたかったことをしただけなんだから・・・・・・」
「いえ、こうなったのは私のせいです・・・・・・。もう私が責任を取るしか・・・・・・!」
「うおっ!」
そう言って横になっている空人に抱き着いてくる彩花。
「ちょ、ちょっと何してるの彩花! 空人さんの怪我まだ完治してないんだよ!」
と、彩花を引き剥がしているように見せかけて実は自分もちょっと同じことをしたかったかのんが一瞬だけ空人に抱き着いてから離れた。
2人に聞いたところ、空人は男に刺された後気を失い、かのんが呼んだ救急車に搬送され空人の学校の近くの病院に運ばれた。やや深い傷だったが幸い命に別状は無いらしく、2週間ほど安静にしていれば治ると医者が話していたらしい。その後、2時間ほど経ってようやく目を覚ましたのであった。
一方の男の方は救急車と一緒に呼んだ警察に取り締まられ、学校も退学する羽目になったようだ。彩花はその男と生徒会で知り合い、いろいろと話す仲になっていた。しかし、時間が経つにつれ男が過剰に言い寄ってきたため、彩花はその男に嫌気がさすようになっていた。一度彩花はその男に告白され、付き合ってくれと言われたことがあったが、彩花は断るために仕方なく、『私もう他の人と付き合ってるので』と嘘をついた。そのことをきっかけに男がストーカー行為を始めたのは言うまでもなかった。男の目的は彩花と付き合い始めた男の詮索。あの時男は、空人が彩花と付き合っていると勘違いし、今の結果に至ったわけである。行き過ぎた”愛”は、”憎しみ”へと変化したのだ。
「そろそろ帰ろう、彩花」
「そうだね、じゃあまたね空人さん!」
「ま、またお見舞いに来ますね」
「おう、寂しいからいつでも来てくれ」
そう言って横になった状態で手を振り2人を見送る空人。窓の外を見るともう陽は落ち、周りの民家の明かりがぼんやりと見えていた。
2週間もこの病院で過ごすのか・・・・・・、暇過ぎるな・・・・・・。
でも、彩花やかのんを助けることができて良かった。一歩間違えば刺されていたのは俺じゃなくてかのんだ。もう二度とあんな悪夢のような光景は見たくない。それに比べればこんなの大したことないじゃないか。
その時、コンコンッとノックの音が聞こえた。
誰だろう?
「はい、どうぞー」
扉が開かれると、また見知った顔が姿を現す。
「お兄ちゃーん? あ、元気そうだね」
「亜衣歌か、心配かけたな」
「話は柏木さんって人から電話で聞いたよ? お兄ちゃんが無茶したって」
「あの2人はそんな言い方しないから、今のは亜衣歌の思ったことだろう・・・・・・」
「あ、ばれた? ふふっ」
口ではいつもの様にからかってくる亜衣歌だったが、本当は空人が心配だった。その気持ちは、口に出さずとも空人には分かっていた。これが兄妹の絆というものである。
「早く治して帰ってきたら、また私がカレー作ってあげるから」
「ああ、楽しみにしているよ」
「それじゃあね~」
そして亜衣歌も帰って行った後、空人は考え事をしていた。
あの男がかのんを刺した時、あれは夢のはずだった。なのにどうして、ユムやかのんは現実と同じ様子だったんだろうか・・・・・・? 知らぬ間に2人共元に戻っていたとは考えにくいな・・・・・・。
そして、空人は一番印象に残る違和感があった時のこと思い出す。
――”へぇ~、なら仕方ないね~”
空人は、あの時のユムの言葉が何故かずっと頭から離れなかった・・・・・・。