第13話 ~消失と変貌~
「そ、そ、空人。はい、あ、あ~ん・・・・・・」
「あ、あーん・・・・・・」
何故こんなことになっているのだろうと空人は思ったが、悪い気はしなかったのでそれを受け入れた。
「ん、美味い! かのん、料理上手だな!」
「そ、そう? あ、ありがと・・・・・・」
ついさっきまで威勢の良かったかのんだったが、空人に褒められた途端に顔を赤くした。そう、これが”ツンデレ”というものである。そして空人は後に気づくことになるのだが、ツンデレ化したかのんはツン要素よりもデレ要素の方が強い。
と、味見をするためにかのんを探していたわけでは無かったことを思い出した空人がかのんに問う。
「そう言えば、かのん。研究部っていう部活を知らないか?」
「研究部・・・・・・? そんな部活この学校にあったかしら?」
「やっぱり、分からないのね」
部室は存在ごと消え、かのんはツンデレ化した。後者については、もし現実世界だったならば空人は頭を抱えていたことだろう。
「あ、そろそろ時間ね。帰るわよ、空人」
「え? あ、ああ・・・・・・」
現実世界では絶対にこんなに自然に誘ってこないであろうかのんだったが、ツンデレ化したかのんは当たり前のように一緒に帰ることを持ち掛けてきた。
ああ、夢って恐ろしい・・・・・・。
「空人君、今日はもう遅いし次に夢世界で会った時にいろいろ考えましょう」
「そ、そうだな」
じゃあまた、とユムと別れて空人とかのんはいつもの帰り道を歩く。ユムの家は逆方向らしく、一緒に帰ることはなさそうだ。空人は本心、少し残念がった。
「そ、空人」
「ん? 何?」
そう呼ばれて空人がかのんの方を見ると、かのんは何故だか少し俯き暗い顔をしていた。そしてそのまま口を開く。
「今日は・・・・・・ちょっと相談があるのよ。聞いてくれる・・・・・・?」
「相談・・・・・・? 何か悩み事でもあるのか? 俺でよければ聞くよ」
「実は・・・・・・」
かのんの話はこうだった。
かのんには1つ下の妹がいる。ある日、かのんが学校から帰ると妹が何かを怖がるように帰宅してきたらしい。どうしたの? と、かのんが聞くと『お姉ちゃん、最近私、誰かに見られてる気がするの』と、言ってきた。今までにもそういったことがあったらしく、段々と怖くなってきたようだった。その次の日、心配になったかのんが学校まで一緒に歩き送り迎えしたが、そういった視線のようなものは感じられなかった。『気のせいじゃないかな?』と妹に言うと、『やっぱり気のせいだったのかなぁ・・・・・・』と思い至ったが、その日の夕方、妹がピアノの習い事を終えた帰り道で誰かに追いかけられ、泣いて帰ってきたそうだ。
それがつい、昨日のことだったのである。と言っても、空人にとって夢世界の昨日は存在しないものになるが・・・・・・。
「もう警察に連絡するしかないのかな・・・・・・。私、心配で、心配で・・・・・・」
そう言いながらかのんは泣いていた。
「かのん・・・・・・」
男として、女の子が泣いているのを見過ごせないな・・・・・。
「大丈夫、大丈夫。俺が何とかする。その誰だか分からないストーカー野郎を探し出して取っちめてやる」
泣いているかのんの頭を撫でながら、空人はそう宣言した。
「ほ、本当・・・・・・? ありがと、空人・・・・・・」
着ている制服の袖で涙を拭きながらかのんは空人に撫でられ顔を赤らめながらも感謝の気持ちを言葉にした。
「取り敢えず今日もっと詳しい事情を聞きたいから、かのんの家まで行ってかのんの妹から話を聞きたいんだが、いいか・・・・・・?」
「うん、お願い・・・・・・」
――そして、空人の家より少し先の曲がり角を曲がり、かのんの家に到着した。
「ただいまー。 帰ったわよー」
「お帰りおねえちゃん。あれ? その人は・・・・・・?」
そう言いながら出てきたのは、かのんよりも一回り背の低く、ユムよりも少し長い明るめのブラウンの髪をした、優し気な女の子が出てきた。
「この人は、私の友達よ。あなたの悩みを聞きに来たの」
そうかのんにここに来た事情を説明してもらったタイミングで空人がかのんの後ろから少し前に出る。
「初めまして、八条空人と言います。君がかのんの妹さんだね」
そして、その女の子も空人の方へ向き直る。
「はい、初めまして、――柏木彩花と申します」