第12話 ~放課後の異変~
ユムが研究部に所属してから1か月以上経ったある朝、いつも通りチャイムが鳴る前頃に空人は教室にたどり着いた。
「おはよう、ユム」
「あら、おはよう、空人君」
「・・・・・・! てことはこれは夢か・・・・・・」
久々に遭遇した夢世界のユム。相変わらず現実世界とは異色の雰囲気を放っている。空人は今までに何度も夢を見てきたが、夢を見るということは、空人の身の周りに何か異変が起こること他ならなかった。即ち空人にとって夢とは、異変が起こるシグナルのようなものである。その内容は実際に目にしなければ分からいのは当然だが、何が起こるのか分からない故に、空人は少し緊張していた。
「・・・・・・。空人君、大丈夫よ。何が起こってもこの世界で起きたことは夢なんだから」
「ああ、そうだな・・・・・・」
見透かされたようにユムにそう言われた空人は、その言葉のおかげで少し緊張が解れた。
確かに、起こる前に悩んでいちゃしょうがないよな。何が起こるのかこの目で見届けた後、どうするか考えるのが得策だ。
と、不意に気になったことを聞いてみる。
「そう言えば、ユムは亜衣歌の部屋で記憶が戻った時から研究部に入ったところまでのことは覚えているのか?」
「ええ、覚えているわ。空人君が夢を見て私と遭遇するまでの間の出来事は現実世界と同じになっているわね。空人君が夢を見るまでの間の記憶が途切れ途切れになることは無いみたい」
なるほど、俺が夢を見ているときの記憶しかない、なんてことは無いみたいだな・・・・・・。
「八条空人ー」
「あ、はい!」
「花崎結夢ー」
「はい」
いつの間にか寺本先生が教室に来ていて出席を取っていたようだった。
全然気づかなかった・・・・・・。
「では、授業を始めますよー」
1時限目は国語だった。
やべっ、教科書忘れた・・・・・・。まあ、バレなければ大丈夫――
「ではここを八条空人君、呼んでもらえますか?」
マジか、思ったそばから何でこんな時に当たるんだよ・・・・・・。しょうがない、正直に忘れたって言うしか――
「空人君、使って」
ユムが小声でそう言って、教科書をこちらへ差し出してきた。
「いいのか?」
「ええ、遠慮しないで」
「ありがとうユム、助かるよ」
そして空人は起立して指定された個所を音読した。それが終わると席に座り、教科書をユムへ返す。
「サンキュー、マジで助かった」
「ええ、どういたしまして。次は忘れないようにね」
夢の中でもやはりユムはとても優しかった。そう言う本質のようなものは現実世界と全く変わらないのだと空人は思った。
――放課後。空人はユムと一緒に部室へ向かっていた。
今のところ特に変化は無いようだな・・・・・・。このまま何も起こらないのが一番いいけども・・・・・・。
しかし、その期待はすぐに裏切られた。
研究部の部室の前に着いたはずだと思っていた空人はとても大きな異変に気づく。
――部室が、無い。
亜衣歌の部屋の時と違い、部室の中が消失したわけでは無く、本来ならばあるはずの部室のドアごと消えていた。
やはり異変が起きてしまったか・・・・・・。
「空人君。無い・・・・・・わね」
「ああ、無い・・・・・・な」
「部室ごと消えるなんてね。柏木さんはもう来たのかしら?」
かのんが既に来ていたなら、この異変を俺達に知らせるためにここで待っているか、探しに行ったかもしれない。はたまた、顧問の寺本先生のところか・・・・・・? いや、部室そのものが消えていたならば、亜衣歌の時同様、誰も研究部があることを認識していないかもしれないか・・・・・・。
「とりあえず柏木さんを探しに行きましょう」
「そうだな」
――その後、しばらく二人で手分けして校内を探し回った。
しかし空人はかのんを見つけることはできなかった。
一体どこだ? もう帰ってしまったとか・・・・・・? それとも、亜衣歌のように居ないことになってしまったのか・・・・・・!
すると、廊下の向こうからユムが走ってきた。
「空人君、居たわ。家庭科室よ」
「本当か!?」
「でも、様子が変なの。いつもの柏木さんでは無かったわ」
「なんだって?」
それを聞いて空人はすぐに家庭科室へ向かう。
「いた、おーい! かのーん!」
家庭科室に到着し、見知った後ろ姿を発見した空人はかのんを呼ぶ。
だが――、
「あ、来たわね空人! ちょっとこのシチュー味見してみなさいよ! べ、べつに空人のために作ったんじゃないんだからね!」
ああ、俺は夢を見ていたんだったな・・・・・・。
空人にかつてない衝撃が走った。