第9話 ~研究部の活動~
1週間から1日過ぎてしまいました。
「はい、じゃあお昼休みにしてくださーい」
授業が終わり、昼休みの時間になった。
「空人くんっ、お昼食べよ~?」
昼休みになると、ユムが空人の前の席に座って弁当を食べるのが日常化してきた。周りの男子が少し羨ましそうにそんな2人を見てくる。
「そう言えば、ユムはもう部活決めたの?」
「そう、それっ! 全然決まらなくてヤバイんだよぅ」
明日までに部活を決めなくてはならなかったが、ユムはまだ決まっていなかった。
「空人くんは決まったんだっけ?」
「ああ、俺は研究部に入ったよ」
「私も研究部に入ろうかな~。でもお母さんは料理部にしたら?って言うし・・・」
確かにユムの作った弁当は見た目も味もかなりいい。料理部を勧められるわけもわかる。
「まあ、自分がやりたいとこに入るのが一番だと思うよ」
「そうだねっ、明日までに考えておくよ~」
――そして昼休みは終わり、午後の授業が始まった。
眠い・・・・・・。昨日ゲームに熱中したのがここで響くな・・・・・・。
空人は眠さに耐えられずにこっくりこっくりと首を振り始める。
それを見たユムはちょっと笑いながらちょんちょんっと、空人の頬を指でつつく。
「はははっ、ちょっと空人くんっ、寝ちゃってるよ~?」
「はっ! 俺は何を・・・・・・!?」
「何その反応っ、あははははっ」
ユムはこらえきれずに笑いだす。それに気づいた空人も、ああ、俺は寝てたのかと苦笑を浮かべた。
その後も空人は眠気を我慢できずに寝てしまっていたが、ユムはにっこりと左を見ながらもそっとしておいてあげた。
――周りが騒がしいな・・・・・・はっ!
もう授業は終わり、周りの人は3分の1程既に教室を出ていた。
俺、また寝ちまっていたのか・・・・・・。
右の席を見ると、ユムはもう教室を出ていったようだった。
はあ・・・・・・。そう言えば今日は部活やるってかのんが言ってたっけ。
かのんに言われたことを思い出した空人は、しぶしぶと机の上のものをカバンにしまい、教室を出て階段を上がり始めた。
寺本先生に聞いたところ研究部は本当に自由な部活で、いつ行ってもいいし、いつ帰ってもいいというフリーな活動だった。
こんな楽な内容なのに全然部員が居ないってどういうことなのだろうか。まあ、他にも楽な部活はたくさんあるからなー。主に文系だけど。
部室に着いた空人はドアを開く。
「あ、空人さん! 忘れてて来ないんじゃないかと思いましたよー」
そこにはかのんが既に椅子にスタンバイしていた。
「ちゃんと覚えてるよ。ところで、今日は何するの?」
「な、何も決まってません・・・・・・」
「えっ? そ、そうか・・・・・・」
てっきり何をするのかかのんが決めていたものだと思っていた空人は度肝を抜かれた。
「まあ、自由な部活だし、最悪何もしなくてもいいんじゃないかな・・・・・・」
「そ、そうですね・・・・・・」
部活動の本来の意味がかき消されそうになる部活だな・・・・・・。まあ、楽でいいけど。
「入部するって人は他にいないのかな」
「い、今のところいないみたいですね・・・・・・そ、その方がうれしいですけれども」
「何か言った?」
「い、いえ! 別に!」
最後の方の声は相変わらず小さくて聞き取れなかった空人が首をかしげる。
「そう言えばかのんって中学の時、何か部活やってたっけ?」
「い、いえ、何もしてませんでしたよ?」
「へぇー。でも確かかのんの家って俺と同じ方角だよね? 帰りに全然会ったこと無かったから部活でもしてるのかと思ったよ」
「そ、そうでしたっけ? あ、いや、ええっと、そうでしたね!」
かのんは中学の頃、帰り道で空人に会うのが恥ずかしくていつも後ろをこっそりついていく形になっていたのを思い出してあたふたした。行きはそもそも空人が起きるのが遅いので、早起きのかのんに会うことはなかったのであった。
「じゃ、じゃあ・・・・・・今日は一緒に帰りませんか?」
勇気を振り絞ってそう誘ってみたかのんは上目遣いで空人の方を見る。
「あ、ああ。別に構わないけども」
「ほ、本当ですか!? やったー!」
空人は何をそんなに喜んでいるのか理解できなかったが、女の子と一緒に帰ることなんて人生で一度も無かった空人は少しどきどきした。
――たわいもない会話をしているうちに、いつの間にか夕方になっていた。空も少しオレンジ色に染まっている。
「そろそろ帰るか」
「そ、そうですね」
そして二人で学校を出る。
「きょ、今日は楽しかったです」
「ああ、俺も久々にかのんとたくさん会話できて良かったよ」
「そ、そうですか? ふふっ」
かのんはそう言って笑顔を浮かべた。
やっぱりかのんの笑顔を見ると、安心するな・・・・・・。
中学の頃よりもかのんは少し積極的になった気がする。それもかのんの心が成長したということなのだろう。これからもこんな日が続くと思うと、今後の学校生活はとても充実したものになるだろうと空人はかのんを見て思った。
「あ、夕焼け、綺麗ですね・・・・・・」
「そうだな・・・・・・」
今日は晴れていたので夕焼けがとても綺麗に見えた。川にオレンジ色が映っていて写真に収めたくなるような景色だ。
かのんは景色を眺める空人を見てどきどきしていた。自分にもっと勇気があったら、この景色をバックに告白していたのだろうか。確かに中学よりも自分の思いを人に伝えられるようになったかもしれない。でも、まだ自分には足りないものがある、それは克服しなければならない、とかのんは心の中でそう考えていた。
「あ、あの、空人さん」
「ん? 何?」
「あ、あの・・・・・・、私・・・・・・!」
――と、次の瞬間左からトラックがかのんに突っ込んできた。
かのんが土手の上に吹っ飛ばされる。
空人は一瞬何が起こったか理解できなかった。
「か・・・・・・のん・・・・・・?」
空人の手が震えだす。瞳孔が開かれ、呼吸も早くなる。目の前の衝撃に空人は耐えられずに叫んだ。
「かのん!!! おい、かのん!!!」
急いで飛ばされたかのんに駆け寄る。
空人が腰より上をすくうようにかのんを抱えると、体からは血が大量に流れていた。
「かのん・・・・・・! なあ、おい、かのん・・・・・・!」
空人は涙を流しながら必死にかのんに声をかけるが返事は無かった。呼吸もしていない。
――そう、かのんは死んでいた。