第二十二話 人身売買じゃないよ! 安定志向!
「おじさん殿。人身売買は当然、御法度であります。ここは大人しくお城に申し出て、罰を受けるであります」
「やだあー! 違うよおー! オッチャンホントに知らないんだよおー!」
グリフォンリースに腕を掴まれ、子供のように泣き叫ぶオッチャン。
マユラは暗い目をして、震えながらグリフォンリースの足にしがみついている。少女らが自分にうり二つなところまで気づいているかはわからないが、相当ショックだったのは間違いなさそうだ。
周囲の人々も何事かと首を伸ばしてこちらを見ている。
まずい! 大事になってしまう!
「ま、待てグリフォンリース……。早まるんじゃない!」
俺はグリフォンリースの腕を掴んだ。
「コタロー殿! 止めないでほしいであります! この人は現に、人を、こんなに小さな女の子を……」
「……冷静になってみろ。こんなところで堂々と人身売買が行われるわけないだろ? それに、マユラに買わせるか? それを」
「そう、そうだよ兄ちゃん! オッチャンはそんな馬鹿なことしないよ!」
オッチャンが俺にすがりついてくる。
すまないオッチャン。あんたは何も悪くない。
「何かがあったんだ。得体の知れない大きな間違いが。それが何かはわからないが、ひとまずはこの女の子たちを檻から出してやるべきだ。グリフォンリース、向こうの露店で毛布が売ってたから、買ってきてくれ」
「は、はいであります」
グリフォンリースが毛布を買いに向かっているうちに、俺は檻の中の少女たちに声をかける。
「おい、大丈夫か? 三人とも、俺の言葉はわかるか?」
できるだけ優しく声をかけると、三人は怯えながらうなずいた。
「よかった。大丈夫だ。危険はないからな。おまえたち、どういう経緯で檻に入れられたかわかるか?」
「わか……りません。何も……覚えてないの」
真ん中にいた少女がかすれた声で答え、咳き込んだ。のどが乾いているのかもしれない。
「ひとまず、三人分の毛布を買ってきてもらってるから。それが届いたら、外に出してやるからな。あと、何か食べられるものを……。パニシード、ちょっとグリフォンリースたちに追加のお使いを頼んできてくれ」
「あい」
少しして、毛布とお菓子を買ってグリフォンリースとマユラが戻ってきた。
檻から出た三人は、おどおどしながら毛布を受け取って羽織り、手渡された砂糖菓子とハーブティーを口にする。
「大丈夫でありますか? ケガなどはしてないでありますか」
グリフォンリースの問いかけにうなずく三人。体の震えもだいぶおさまっている。
「さっき、何も覚えてないと言っていたが……」
俺が話の水を向けると、三人は互いの顔を見合わせ、弱り切った様子で首肯した。
「気づいたら……この中に閉じこめられてて……」
「自分が誰なのかもよくわからない……」
「ここ、どこなの? わたしたち、売られちゃうの……?」
動物から変化したことで、記憶も吹っ飛んでしまったか。
「三人とも、そっくりであります。きっと三つ子の姉妹であります。……あれ?」
グリフォンリースはそう言ってから、ふと彼女らとマユラを見比べ「?」顔になった。マユラと彼女たちでは生気が違うが、それでも同じ顔ということは明白だ。
「よ、世の中には自分と似た顔が三人いるとかいうからな。この子たちは三つ子みたいだし、実質、一人目の同じ顔としてカウントしてもいいぐらいだろう」
俺は適当にごまかした。
「おじさん殿。彼女たちをどうするつもりでありますか。この責任をどう取るつもりでありますか?」
「えっ!? 責任!?」
グリフォンリースの問いかけに、上擦るオッチャンの声。
「む、無理だよ引き取るとかは。うちには子供が二人いるし、貧乏だし、カーチャンになんて説明したらいいかわからないよ」
「なんと無責任な! カーチャンくらい説得するであります!」
「まあ待てグリフォンリース。カーチャンは強い。とても勝てない。ここでオッチャンを責めても彼女たちが救われるわけじゃない。この子たちは……そうだな。まあ、うちのアパートで面倒を見るか」
「コタロー殿!」
グリフォンリースが嬉しそうに俺に抱きついてくる。
あの、その、元はと言えば、俺のせいだし……。
「あなたがわたしたちを買ってくれるの?」
女の子の一人が、不安げに俺を見つめる。
「奴隷じゃないんだ。買うなんて言わなくていい。俺が引き取って保護者になる。アパートにはまだ空き部屋があるし、マユラも同じ年頃の友達ができて喜ぶだろ。とりあえずは記憶が戻るまで……で、もし記憶が戻ったら、そのときどうしたいかを改めて自分たちで決めればいいよ」
「あ、ありがとう……」
「よかった……」
「嬉しい……」
三人は肩を寄せ合って喜び合った。
と、とりあえず、これでバグの被害者はゼロだな……。
※
「こ、こんな綺麗な部屋を使っていいの……?」
アパートの一室に案内された少女たちは、はじめのうちは怖がってなかなか部屋に入れないほどだった。
このあたりは、キツネだった感覚が影響しているのかもしれない。同じ少女の内面を共有しているはずのマユラなんか堂々と入ってきたし。
「ああ。ただ、空き部屋の関係で、三人一部屋で使ってもらうけど、それでいいか?」
「は、はい。わたしたちも、三人一緒の方が安心できるから……」
「ベッド大きいよ。三人一緒でも眠れそう」
「すごいね~」
この三人……最初は同一人物にも見えたけど、よく観察すると、顔つきは微妙に違い、性格もわりと異なっている。
外見上はグラフィックバグのせいで同年齢だけど、大人しくお淑やかな長女、快活な次女、おっとりした三女、といった風体だ。
「名前も思い出せないというのは困るでありますね……」
「うむ。そうだ、コタロー。おまえが彼女たちに名前をつけてやったらどうだ?」
自分にそうしたように、と言外に言いつつ、マユラが俺に提案した。
女の子たちもそれを聞き、嬉しそうに俺に駆け寄ってくる。
「そ、そうだな。そうするか……」
やべえ。いきなりそんなこと言われても、ゲームのキャラメイクに一時間はかける俺だ。特に名前は相当悩む。どうする。どうする!?
「じゃあ、こういうのはどうだ?」
長女、ミグ。
次女、マグ。
三女、メグ。
深く考えなかっただけあって、似たような名前しか思いつかなかった。
余計にわかりづれーじゃねーかと思ったが後の祭りで、三人はすっかりそれを気に入ってしまい、早速互いの名前を呼び合っては笑顔を向け合っていた。
やばい。早く三人の顔と名前を一致させないと。
ゴッドファーザーが理解できてないとか、相手が傷つくってレベルじゃねーぞ。
つーか、ここ数日で増えた住人が全部同じ顔って、世間じゃどんな扱いになるか、わかったもんじゃねーな……。
デルタアターックとかは使えません
あねじゃー