第22話 「クリスマスにはケーキを」
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電車を乗り継ぎ、なんとかセレモニーホールについたのは日が暮れた後だった。
雪の降る道、駅からは地図片手に歩いた。
『猪元家ご葬儀会場』
その看板を見たぐらいではまだイノヘーが死んだことの実感が沸かなかった。
奴のことだ。
――悪りぃ、迷惑だった?
とふてぶてしい態度で現れ、集まった俺たちを怒らせるような気がしていた。
「白河、連れて行くには早すぎだって」
俺はバックの中から額に入ったはがきサイズの写真を取り出した。
今日は同期が集まる日だ。
バディの俺が連れていかないといけない。
俺がいつまでも自動ドアの前で入れずにいると、ドアが静かな機械音と共に動いた。
「おう、綾部」
「学生長!」
二つ年上で五十九期の学生長、野中大尉と同じ第三混成大隊で小隊長をやっている人がドアの向こうに立っていた。階級章は本当に『少尉』になっていた。俺がそれをじろじろ見てたせいだろう「そんなめずらしそうに見るなって……なる気はさらさらなかったんだが、試験にたまたま受かっちまってな、今じゃ偉そうに将校様だよ」
と笑いながら言った。
そんなことはない。あの頃からすぐに部内将校の選抜に受かるだろうとみんな思っていた。学生長としてあれだけのリーダーシップを発揮していたから。
まさに『俺を見よ、俺に続け』を体現した人だから。
「今、忙しい時期なのに大丈夫なんですか?」
遠征の準備で今一番バタバタしている時期じゃないんだろうか。
「ああ、中隊長がな。お前のところから来た野中大尉、たぶんあと数日で少佐になるから野中少佐って言ってた方がいいかもしれんが、あーそういう話じゃなかった。その中隊長が『仕事なんてどうでもいいから同期の所へ行け』って、まあ半分強制的に追い出されたっていうかな」
部隊で見ていた野中大尉はそういうことを言うような感じには見えなかったから意外に思った。俺の表情を読み取ったのだろう、学生長は話を続けた。
「まあ、噂は耳にしていると思うが、年明けにはロシア遠征旅団の戦闘序列が発表されるからな。まあ、ばたばただよばたばた。だから中隊長に全員の前でそういうことを言われないととれも来れる状態じゃなかった」
「それ、熱い中隊長ですね」
「だろ、前の部隊でもそうだったのか?」
まったく違う印象だが、否定もできないので曖昧に「そーですねー」と返事をする。
「お、白河連れてきてくれたか」
俺の手元にある写真を見たのだ。学生長はにっこり笑ってバックの中から二枚の同様に額に入った写真を取り出して俺に見せた。
「ああ、主任教官も、小島助教も」
「そりゃ、連れてこないとだめだろう」
「そうですね、いや、あの世の目の前でイノヘー何しに来やがったって蹴り入れて怒りまくるんじゃないですか」
学生長が声を出して笑った。
「そりゃ間違いないな、もうあの世で正座だな、いや空気椅子かな」
学生長に連れらるようにして、通夜の会場に入った。小脇にあの事故の犠牲者達の遺影を抱えて。
イノヘーは死んだ。
そう実感したのは、イノヘーのお母さんやあのかわいい妹さんに挨拶した後、母親から頭を下げられるようにお願いされてイノヘーを見た時だった。
思ったよりも小さな木の箱だった。
イノヘー。
俺達の知っている顔ではなく。
頬はこけ。
白い。
ただ、穏やかな顔だった。
「馬鹿野郎。肥えすぎだって言っていたら、今度は痩せすぎだって。そんなんじゃ冬山で耐えれねえぞ」
学生長は、声を震わせて笑った。
俺は言葉を出し切れず震える唇を無理矢理吊り上げて笑顔を作ることが精一杯だた。
イノヘーの遺影はちょうど遊撃課程の後の顔だろう。食事をギリギリまで削った生活で体がガリガリに痩せてしまった顔だった。
奴にしては精悍すぎる顔だ。
俺たちの頭の中にいるイノヘーは大抵の卒業生が陥るリバウンドを漏れなく実行し、そのレベルも半端なく異常といっていいほどパンパンに膨れた顔だった。
お母さんが俺たちのところにやってくる。
「やっぱりこっちの方がイノヘーっぽいかしらねえ」
と胸に抱えて持ってきた写真を見せてくれる。
顎が肉で隠れ、パンパンに膨れた頬、そして人懐っこい笑顔。
俺たちは爆笑する。
「お母さん、猪元君はこっちです。こっちですよ」
お母さんも笑顔になって「そうねえ、やっぱりこっちよねえ」とうなずく。そして「みんな遠慮せずにイノヘーでいいのよ、あの子、そっちの方が喜ぶと思うから、お願いします」と笑顔で言った。
急に学生長立ち上がり後ろを向いた。
「イノヘーにはあれだけ気をつけろっていったのになあ、リバウンド」
俺が笑った。
「でも、この子ってやっぱりこっちの方がイノヘーなんでしょ、私もこっちのほうが息子だって思うし」
お母さんも笑う。
みんなも笑顔だった。
がまんした笑顔。
「今日はイノヘーのお馬鹿な話をいっぱい聞かせて。あの子がどうやって生きていたか知りたいから」
俺は限界だった。
歯を食いしばり、太ももに爪を立て、そしてやっと顔を上げた。
学生長は明らかに赤い目をして「わかりました。洗いざらい話しましょう。きっと恥ずかしくなったイノヘーが話をやめさせようと出てきますよ」と笑顔で答えた。
通夜のお経とかそういったものは終わり、同期で酒を飲みながらイノヘーの遊撃課程での思い出話に花を咲かせた。
『イノヘー切腹事件』
襲撃部隊の長の役をやったが仕切ることができず、腹にナイフを刺す。たった三針で済んで、しかも次の日から普通に復帰していた事件。
無駄に強靭な体。
『イノヘーキショイ事件』
教官が無線で話したときにイノヘーが誰かが聞き取れず「貴所はどこであるか」と問い合わせようとしたところ、慌ててカミカミになり「キショイでおじゃるか」と言って、教官にぼろくそに怒られた事件。
イノヘーは公家の出かもしれないという疑惑がついた。
『イノヘーおもちゃ事件』
普段から「俺のフィンガーテクニックはすげーぜ」と自慢していたイノヘー。奴のロッカーを点検したらオトナのおもちゃ――お一人様用――がごろごろと出てきた事件。
開き直って、使用後をベットの横に干すようになった。
『イノヘー水虫事件』
水虫には竹酢液が効くといって、毎日部屋の中でそれを足に塗り捲っているところをあまりの臭さで同期が怒り狂い、竹酢をイノヘーのベットぶちまけた事件。
ベットのシーツから毛布まで汚した罪に問われ、全員で寝ずの朝まで腕立て。
『イノヘー滑落事件』
山地潜入中に崖からイノヘーが滑落して、引き上げるからロープ持って来いと叫んでいたら「自分がもってまああああす」と地の底から叫び声が聞えた事件……おかげで救い出すのに半日かかった。
ほかの者は半日もその場で休憩できたから逆に感謝。
『イノヘー新聞事件』
卒業後学生でキャンプに行ったところ「遊撃課程卒業したんだから夜なんて寒くない」と言って、寒いからやめろと同期が止めるのも聞かず眠る。みんなが朝起きると、ミイラのように新聞で体中を覆い唇が真っ青な男を発見「寒くてやった、今は反省している」と供述した事件。
きっとその反省でリバウンドで寒さに耐えうる余りある肉をつけた原因。
数々のどうでもいいような伝説を「イノヘーは救いようのないアホだ」と言って大笑いした。
お母さんも目に涙を溜めながら爆笑して「あの子らしいわあ」と何度も言っていた。
「お母さん、イノヘーは兵隊になる前は気品ある文学少年で、美少年だったって言っていましたが」
伝説の一つ。
イノヘーは昔は美少年で今みたいにごつくて男性ホルモン満載みたいに毛深い人間ではなかった。
「そんなことありませんよ、ほら」
お母さんがバックの中から小さいアルバムみたいなものを取り出す。
そこには小学生のイノヘーが体操服を着て走っている写真。きっと運動会か何かの写真だろう。
そこにいる小学生の彼は、今のイノヘーとなんら変化がなかった。
「小学生のくせして男性ホルモン振りまいてやがる」
同期の一人がそう言って写真を見て爆笑する。
お母さんも声を出して笑った。
「ほんと、イノヘーは死ぬ日まで空気読めないな」
「今日は十二月二十三日だぞ、クリスマスイブの前日だぞ」
「ほんとによ、明日は俺んとこのちびは楽しみにしてる日なのになあ」
「え、俺、こっちに行くっていったら彼女にふられたら、まじ、イノヘーのせいだ。化けて出てこい!とっちめてやる」
「そんな女、お前の嫁さんには向いてねーよ、つうかやめとけ」
「帰ってもな、ちびの枕元にプレゼント置くだけだから、俺は全然構わないけどなー」
「くっそー、既婚者は余裕じゃねえかよ」
「しっかしまあ、命日がクリスマスって、イノヘーもやるじゃねえかキリストの命日だろ?」
「馬鹿野郎、キリストの誕生日」
「しかも、中途半端に一日前だ一日前」
「あと一日ぐらいあいつなら生きそうだけどな、フンガーとか叫んで」
「おいおい誕生日は二十四日じゃなくて、あくまで二十五日だからな」
「んじゃあと二日ぐらい生きろって」
「正月までだと何日だ?」
「九日、九日」
「そんぐらい伸ばすなら、一年ぐらい先にできそうじゃね」
「あ、いいなそれ。そうすれば今から帰って、彼女に謝ってより戻せるかも」
「ばーか、そんな女はやめとけって言ってんだろ」
同期が馬鹿な話を馬鹿みたいに好き勝手言い合って大笑いする。
「ちったあ言い返したらどうなんだ、なあ、イノヘー」
「お、今日の夜ぐらい化けてでてきやがるんじゃねーか」
「上等だ、説教したる」
「もう一回竹酢ぶちまいてやる」
「あー棺の中はあれじゃねえか、新聞紙が暖かくていいんじゃねーか」
「ばーか、やっぱおもちゃだろうおもちゃ」
誰かがしゃべると全員で大声で笑った。
繰り返し繰り返し。
お母さんも涙を拭きながら笑っている。
皆も時々、下を向きながら。
目頭を押さえながら。
だいぶ遅くなるまで何度も大笑いした。
その日はそれぞれ近くのホテルに泊まることになっていた。
明日も告別式があるので、二日酔いではまずいと思い、コンビニにで肝臓エキスが入ったドリンク剤を二本と水を一リットルほど買って飲んだ。
シャワーを浴びたあと、備え付けのグラスを二つおいて、売店で買った四合瓶の日本酒を垂らして飲んでみた。
イノヘーといろいろ話せればいいなと思ったが、奴もまずはあのお母さんへの挨拶があるだろう。
まあ、気が向いたら来いよ。
と言いながら飲んでいた。
……気がつくとテーブルに酒が入ったままのグラスが朝日に照らされていた。
座ったまま眠ったせいか体中が痛い。
俺はグラスに向かって「今日はこそはてめえと飲むからな」と言って、洗顔に向かった。
「第五十九期遊撃課程!」
学生長が三歩前に立ち、その後ろに二列の横隊で並んだ。
俺達第五十九期の……もちろん、あの事故の犠牲者達――主任教官、小島助教、同期の安田、平川、そして俺のバディだった白河――の遺影を抱え整列していた。
「「「レンジャー!!!」」」
会場が揺れるように二十四人の男が叫ぶ。
「総員二十八名、事故なし、集合終わり!」
「教官も助教も来たからな……」
学生長が、イノヘーの遺影を睨むようにしてつぶやいた。
「敬礼っ!」
俺達は一斉にお辞儀の敬礼をした。
数年ぶりに会う同期。
きっと一糸乱れない動作だったと思う。俺達はチームなのだから。
声を挙げて泣く声が響いてきた。
お母さんかもしれない。
妹さんかもしれない。
もしくは親戚の人々かもしれないし、ただ参加した関係者の人かもしれない。
俺達は歯を食いしばり、遺影を睨んでいた。
絶対に泣くな。
笑って送れ。
あの日、冬の山で主任教官が凍って死んだ日の後、学生長がそう言った。
――もう泣くな、今後仲間を送るときは笑って送ろう。
俺達はそう誓った。
だから歯を食いしばり、目を見開いた。
そうしている同期達のの体の震えが、心の揺れ動く波を強く感じた。
きっと、全員が感じていたと思う。
火葬まで終わり、小さく白くなったイノヘーとのお別れは終わった。
さて帰ろうかと、制服の襟やネクタイを正してるついでに携帯を取り出した。そしてメールが来ていたことに気付く。
『真田中尉一件』
恥ずかしいことだが付き合う前に登録したものだから未だにこういう表示になっているのだ。
着信が昨日。
少し焦りながら見る。
『明日は何時ごろ帰る?』
昨日から俺の返信を待っていたのかもしれない。
そういう時なにか気の利いた言葉は何かないかと考えたが、あまり想像できなかったため、結局問いに答えるだけの『二十二時に金沢駅』と返信した。
電車の時間まで駅ビルを歩きながら、何かプレゼントでも買おうかと考えたが、元々準備していなかったんだから今更慌ててもしょうがないと思ったからやめた。
その変わり年末はどこか二人で美味しい夕食を食べにいこう。
そう思った。
帰りはほとんどの同期が北陸方面だったので、自然にいっしょの電車、いっしょの座席になった。
学生長は「横浜だから新幹線」と言って手を振って別れた。
別れる前に少しだけ話をした。
「年末年始休暇なんて有って無いようなもんだ」
俺が忙しいんでしょ?と聞くと笑顔でそう答えた。
「まあ、上司に恵まれてるし部下もまあかわいいもんでな」
そういうと写真を懐から取り出す。
「今の家族みたいなもんだ」
学生長を真ん中にしてアホ顔を作った男達が二十人ほど取り囲んでいる。
そして写真のうち一人を指差した。
「こいつ、下北一等兵って奴なんだが、ほんとお前にそっくりな性格でな」
「あ、かなり優秀な奴ってことですね」
「馬鹿野郎、面倒かけまくりな奴だよ。喧嘩早いし、言うこと聞かねえし、態度も悪い。でもまだ十九でよ、まあ弟みたいに可愛いもんで、よく懐いている」
「俺は学生長に懐いた覚えはないですが」
「お前、遊撃課程で一番きつかった時のこと覚えてるか?『がくちょおおおううう』って鼻水垂らしながら来てたじゃねえか」
「あれは、腹が減ってですね」
「言い訳はいらんわ」
「あんまり若い子いじめないようにして下さいね」
「ばーか、少尉に向かってなに偉そうに言ってるんだよ」
「はは、すんません」
こんにゃろと言って学生長は俺の頭をポンッとつつく。
「あ、そうそう将校になったから名刺なんか作っちまった。使いもしないけどな。つうことで、これ渡しとくから」
名刺には『第三混成大隊軽歩中隊第二小隊長』と書かれていた。
笑顔。
そして笑顔のまま改札口で手を振ったとき、学生長が今までにないほどに遠くへ行ってしまった気がした。
将校になったからか。
それとも、ロシアに行くからか。
とにかく、そういう予感がした。
一方俺達が乗った北陸に向かう帰りの特急はただの宴会場になっていた。
ほとんどが北陸勤務者なのだ。
十二月二十四日の特急。
あまり人は乗っていない。
アルコールは飲んでいない。だが通夜と同じようにイノヘーの馬鹿話で盛り上がった。そのうちに誰持ってきたのだろうか「クリスマスはケーキ食うって決まりだろ」とか言って、電車の中でそれを分けだした。
「あーしまった。あいつの葬式、ケーキっつたらパイ投げすればよかった」
「なんじゃそりゃ」
そう言って笑う。
「そういやイノヘーは一人でケーキ丸ごと食ってたよな」
「そうそう、甘い物が好きで」
「だから肥えるるんだよ」
「ほんとだな」
「ああイノヘーは救いようのないアホだ」
「ほんと救いようがなかったな」
「ああ、アホ過ぎた」
そんな風に繰り返し言っては大笑いしていた。
涙が出るぐらいに大笑いした。
■■
『二十二時に金沢駅』
メールを見て私は「……んにゃろ」と小声で言ってしまった。
「何?のろけ?」
晶が興味津々な顔をしている。彼女はテーブルを乗り越えるようにしながら携帯を覗こうとした。彼女の胸――当社比二倍――がケーキにつかないかハラハラしてしまう。
「こんなん」
私は彼女に携帯の画面を見せる。
「ラブラブね」
彼女はニヤニヤしながらいやらしい声で言った。
私はムスッとする。
「もうちょっとかわいげがあっていいと思うんだけど」
と口を尖らせて言った。
今日は世の中が赤鼻のトナカイと赤い服の人に浮かれて、道を歩けばカップルだらけの町。そんな日にフリーな女二人で早朝から金沢の温泉という温泉をハシゴした。
お昼は町の中を歩いて「いろいろ誘われるけどあえて一人の女ごっこ」をして楽しんだ。声をかけて来る男を尻目にお店めぐり。
少し趣味が悪いかもしれないけれど、意外と面白かった。
また、ちょっとしたハプニングがあった。途中同業者――しかも、同じ部隊の野郎――に声をかけられた。もちろん相手も気づいてしまい、しまったと逃げようとしたところを「まてコラ」と晶が捕まえて説教したぐらいだ。
で、さっきの会話の続き。
「んふふふふ」
「晶、何?気持ち悪い」
「言葉少なくても通じ合うっていいね」
私の理想。
言葉少なく通じ合う。
そうあって欲しいし、そうあろうとする。だからこういう短い文のやりとりはすごくしっくりくるものだと思っている。
だけど、今日はいつもと違う気分だ。正直。
彼のメールはあまりにも淡白過ぎた。
もっと言いたいことがあるんじゃないかって。同期が死んで、辛いんじゃないかって。
「……でも今は言葉が多いほうが安心」
私は普通にしゃべろうとしたが、出てきた声はぼそぼそっという感じになってしまった。
だって、そういう言葉の安心がないと、こんな風に怖くなることがある。
晶はニヤニヤした顔を元に戻し、目の前のレアチーズケーキを頬張った。そしてコーヒーを飲んで、おしぼりを三角に畳む。
「よし。私は用があるから、鈴は帰るんだよ」
「ほら」と言って私にメールを見せる。送り主は『モモコさん』『海軍と飲み会はいったからヘルプして、いい男います』
「ちょ、だって」
何かとお世話になっている桃子さん――喫茶店を経営、三十五歳独身、彼氏は海軍艦隊勤務――は、近頃彼氏さん繋がりで海軍との場をセッティングしているようだ。
「来年こそは生娘ちゃんの卒業が目標」
「何カマトトぶって」
本当のことはわからないが案外、晶は生娘なのかもしれない。
「うっわー、すっごい上から目線」
「上から目線ついでに言うけど、変なのに捕まらないようにしてよね」
「鈴はいつから私のママになったの?」
「晶こそ私のママ気取りだったんでしょ?」
「違う」
「どこが」
「『だった』じゃなくて、ママ気取り現在進行形」
「……」
「素直になって、ちゃんと二人でお話しなさい」
「……」
「返事は」
「はーい。ママ」
素直になれか。
与助くんこそ素直になることは必要だと思うんだけど。
しょうがない、まずは私が素直になってみようと思った。




