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缶コーヒーからはじめよう。  作者: 崎ちよ
第4章  俺が知らない君
13/25

第13話 「満たされるということ」

 ■■■■■■


 与助君はデートの時に手を繋いでくれない。

 私が手を掴むと困った顔をして「そんなガラじゃねえ」といって振り払う。

 なんとも可愛げのない彼氏である。

 それでも、私が上目遣いでせがむと、キョロキョロと周りを見て十秒ぐらいは手を繋ぐ。

 コチョコチョするように手を触れくれるだけだが。

 そして、十秒ぐらいするとすぐに手を離して顔を赤くする。

「二十八にもなって、盛りのついたカップルじゃないし……そんな人前でイチャつくのは恥ずかしい」

 とか。

「職場の人間に見られたらどうするんだ」

 なんていう。

 私がどうして手を繋がないのか聞くと決まった台詞を返してくる。

 あまりにも手を繋いでくれないので私がおどけて「そんなの別にいいじゃない、上司公認なんだし」と言うと困った顔をして「恥ずかしいだろ」と言う。

 だからと言って、職場の人間に見られない場所ならいいというわけではない。

 手を繋ぎ放題はない。

 面倒くさい。

 無駄に硬派ぶる男は。

 ちょっとした小旅行で、金沢を離れた時にも手は繋いでくれなかった。

 どうしてと聞くと「猫や犬みたいに人前で交尾するみたいで嫌だ」「発情期で誰彼構わずニャーニャー叫んで逢引してるみたいだ」と言う。そして彼は決まって後悔したような顔をする。

 誰彼構わず寝ていた私の事を……そんな私が傷ついていると思い込んでいるから。

 私を傷つける言葉を言ってしまったと思っているから。

 まったく。

 そんなところも含めて彼は可愛い。

 ゴツゴツした筋肉質な体にチョイ悪な顔が乗っかっている。

 ついでに目つきが鋭いし、年相応のおっさんな仕草が多い。

 とても可愛いとか言える外見ではない。

 でも、そんな彼の表情――思ったことがそのまま顔にでてしまうそれ――が可愛い。

 しかも、自分ではクールな人間を装って感情を顔に出していないつもりなのだ。

 それを出してしまうことも可愛いが、出してしまった事に気づいてしまった時のあの顔が堪らない。

 『しまった』という顔や『まずいまずい』と平静を装う顔は、抱きしめてナデナデしたくなる。

 そうやってコロコロと表情が変わるとことがアレである。

 ツボ。

 ……とっても可愛い。

 だから彼が失言して悪いことをしたと思ったことや、私に気付かれなくてよかった気にしてないようでよかったと思ったことが全部、変っていく表情でわかるのだ。

 私のために一生懸命になっている彼が(いと)しくてしょうがない。

 だから、傷つけているなんて思って欲しくないけど、そうやって悩む彼も見ていたいから体中がくすぐったくなるのだ。

 少々意地悪かもしれない。

 それにしても彼は優しすぎる。

 私はそんな時は「えー手を握るぐらい、ねえ、見せ付けちゃおうよ、ラブラブなところを」と笑い飛ばす。

 「知ってた? 今発情期だからやりたいの」と言って笑わせる。

 ……彼は少しオーバーにリアクションして「たはっ」と言う。

 過去は消せない。

 だから、笑い飛ばす。

 どんなに私の胸の中に重たくのしかかっていても。

 彼は他にも気にしていることがある。

 セックスで私が満足していないと思っているようだ。

 これもまた顔に出さないようにしているけど失敗しているところが面白い。

 ……オーガズムの問題。

 私が前戯では達するのに、その後だと達したことがないことを気にしている。

 もちろん、私は体質的にイキにくいことを話したことはあるが、それでも……気にしすぎだと思う。

 ふたりで抱き合っている時間。

 それとこれとは別次元の話と言ってもいい。

 私は与助君と抱き合っている時間とあんな快感は比べるものじゃないと思っている。

 与助君は少しだけ複雑な表情をする。

 ……きっと、私の過去のせいだと思っているのかもしれない。

 セックスはイクことも大切だけど、私は充実しているつもりだ。

 あの、ちょっと汗臭い体を身近に感じるだけで気持ちがいい。

 男って面倒だ。

 少々自己満足じゃないの? と思うことが多々ある。

 でも、与助君の場合はすごく丁寧に優しく、すごく一生懸命しているのがわかる。

 ――そういう気持ちだけで満たされているんだよ。

 そう伝えてあげたい。

 彼は私の過去の一部を知っている。

 私が不特定多数の男と付き合っていたということを。

 一番最初の彼氏が酷かったことを。

 でも、あの人とのヘドロみたいな真っ暗な記憶を知らない。

 もちろん、胸にしまうようなそんな過去はほとんどの人間がもっていると思う。それを別のパートナーに知られることはまずない。

 ただ。

 彼が見せる不器用な優しさに対して、ピリピリとその記憶が痛んでしまだけだ。

 そして、たまにあの人を思い出してしまう。

 幸せな時間の後に少しの罪悪感。

 心の奥底でバカみたいに引きずる自分の愚かさ。

 でも終わった後に少しだけ彼に体を寄せて体温や匂いを感じると、そういうものは消えていく。

 それでもやっぱり、そういうことを繰り返す自分が少し情けないし、与助君に申し訳ないと思っていた。


 □□□□□□


「で、いつから交際しているんだ」

「吐け、吐かないと死なす」

 中隊長室に呼ばれた。

 入室してみると、狭いソファーにニヤニヤしている中隊長(おやじ)と鬼の形相の先任がいた。

 それと向き合って座る苦痛。

 なに、この拷問。

 部内恋愛(ナイレン)は禁止されている。しかし、目の前のおっさん二人は鈴と俺のことを言及してきた。

 やばい。

「……」

「先任の眼力と情報網をなめるな」

 中隊長がニヤニヤしながら言う。

 スッと少し画像の荒い写真をテーブルの上に置く。

「吐け」

 それは俺と鈴が郊外のショッピングモールで歩いている写真。

「盗撮じゃないですか、これ」

 更にニマニマする中隊長。

 くそう。

「これは服務指導の一環だ」

「いや、めっちゃ私生活じゃ……」

「バカモン!」

 ひいいいい。

 鬼瓦の声が響く。

「軍人にプライベートなんかチャラけたものはない!」

 プライベートってチャラいものだったんですか……。

「で、吐け」

 にこにこ中隊長。

「いや、これは例の監視業務しているところですよ」

 そもそも、不安定な鈴を監視――と言っても、副官の代わりにいっしょに買い物いったりして変な男が寄らないようにする仕事――をしろと言ったのはこのおふたかたじゃないですか。

 抗議するような目で俺はふたりを見た。

 すると先任はいつもの理不尽な力で俺の首根っこを掴む。

 そして写真に顔を押し付けやがった。

 いや、顔どころか眼球にそれを押し付けようとする。

 痛い。

 まじで痛い。

「おら、見ろ、手を繋いでいるだろう」

「い……いえ、小さくて、よく、よくわからないんですが」

「ここだここ」

 先任曹長も顔を近づける。

「お、ちょっと俺にも見せてくれ」

 中隊長が顔をのぞかせる。

 俺とおっさんふたりの顔がぎゅうぎゅう詰め合う。そして見える見えないを言い合った。

 それにしても、ふたりの加齢臭が酷い。するとギッと中隊長が俺を睨んだ。

「綾部、お前汗臭い」

 うるさい! あんたの口臭の方が酷い!

 と言うと命に関わることなのでぐっと飲み込み別のことを言う。

「なんで、俺が真田中尉なんかと」

 そう言うと、なぜか首根っこを離してもらった。

 はあはあ息を上げながら目の前のおっさん達を上目遣いで見上げるとふたりともやにやした表情で頷いている。

「ほうほう」

「ほうほう」

 なんだこのおっさんたち気持ち悪い。

「今の録音しましたよね、先任曹長」

「もちろんです、中隊長」

「真田中尉を呼びましょうか」

「うんうん、聞かせてあげましょう、きっと傷つくと思うなあ」

「好いている男に『なんかと』なんて言われたら、傷つきますなあ」

「こういうことはしたくないんだがなあ」

「ですなあ、ワシもこういうことはあまり好きではないんで」

 わざとらしい。

「いったい、何が目的なんですか」

 ギロリと睨む先任いや、じじい。

「お前らが付き合ってるかどうか確かめたいだけだ」

「付き合っているとわかったら、転属ですか」

 笑い出す中隊長。

「アホか」

「アホですな、やっぱり綾部は」

「心底アホだ」

 げらげら笑うじじい。

 は?

 人をアホアホ言って笑う。

 一体俺たちのことを探って、何をしようというのだ。

 だんだんこのふたりの理不尽な態度や言葉にイライラが積み重なって、溢れ出しそうになる。

「あのな、どうしてワシと中隊長がお前を監視役なんかに付けたと思う」

「公認安全君だから……ですよね」

「そうだ、お前は根が真面目な性格ってことは百も承知だ」

 中隊長が足を組みなおす。

 そんなことを面と向かって言われると恥ずかしいったらありゃしない。

「それに綾部は『オズの阿呆使い』でもある、ダメな子は放っておけない」

 と先任が言うと中隊長も続ける。

「そして、真面目に律儀に付き合ったとしても隠そうとする」

「まあ、部内で付き合っても風紀が乱れることはない」

「お見合い作戦は失敗したが、こっちはうまくいきましたな」

「これで、中尉の服務指導の面倒もなくなったし、良いことづくめ、それに綾部は案外ビビリだからおおっぴらにイチャついたりしない」

「いやいや、もしかしたら倉庫とかでいちゃついているかもしれません、若いってのはそういうもんです」

「先任、なんだか不安になることを言わんでください」

「今のところはやってないはずです、中隊長の言うとおり、こいつは肝心なところでビビリですから、がはははは」

 セクハラだろこいつら……それに、人の彼女をダメな子とか言うなよ……あ、だめだ、表情に出てしまった。

 おっさん達がゲラゲラ笑い出す。

「綾部、顔に出すぎだ」

「こいつ、本当にわかり易すぎますな」

「アホだアホ」

「アホだなあ本当に」

 ……くそう。

「なあ綾部、まだ気づかんのか」

「ニブチンですなあ、こいつは」

 笑顔のふたり。

「くっつけてやった恩人なんだぞワシらは」

「おう、そうだそうだ」

 無性に腹が立ってくる。

 あんた達になーんもお世話になっていません。

「中隊長は、真田中尉がこんなアホで粗暴な男と付き合うことはないとか、副官が認めないとか言っていたが、ワシは最初見たときからびったりくると思ったんだ」

「いやー、やっぱり先任は年輪が違う、さすがでした」

「あれです、だいたい一度見ればわかるもんなんです、こういうものは」

 がははは。

 と笑うじじい。

 いやいやあんた、お見合いの時は『ばっちりな男を見繕った』って鈴にあてがったのに、ことごとく失敗してたじゃないですか。

「で、そろそろ吐け」

「そうだ、吐け」

 じじいにかぶせて中隊長が言う。

 くそう。

「吐け」

「吐くのじゃ」

「吐かんかぼけ」

「意気地なし」

「ドアホ」

「単細胞」

「ボーナス査定低くしてやる」

「玉ついてんのか、くそが」

 くっっそおおおお、こいつら好き勝手言いやがって。

 ええええい。

 もうどうでもいい。

「……付き合ってます、付き合ってますよ、何か文句ありますか」

 げらげら笑う二人。

「いやー、ほんと挑発するとすぐ乗るからなあ綾部は、可愛いもんだ」

 手を叩いて笑う中隊長。

「だからお前はアホなんだ、アホ、中隊長に向かって『何か文句ありますかー』じゃないだろう、アホ」

 まったくと言っていいほど似てない俺の物まねをやるじじい。口を尖らせて俺の台詞をしゃべる顔が心底むかつく。

 そして、鬼瓦の顔が上から目線でニヤニヤしているのが気持ち悪い。

「まあ、とにかくだ」

 中隊長が組んだ足を解く。

「今のところ、部隊(ここ)でいちゃついたり、スケベなことをしたりしてはいないようなので、合格(まる)ってことにしておく」

「そうだ、人前でいちゃつくことなんかあったら、速攻飛ばす」

「あと、避妊はしろ、できちゃったなんていったら、俺の監督指導責任が問われるからな」

「そうだ、中隊長やワシに迷惑かけないように」

「どうしても、つけたくないというなら結婚しろ」

「今言ったことを破ったらどうなるかわかっているだろうな」

 すっと首に手をやるじじい。

 目が笑ってない。

 怖いよまじで。そして、中隊長がスッとその坊主頭を下げた。 

「真田中尉を頼む、綾部を男と見込んで中隊長(おやじ)としての頼みだ」

 急に口調が変わった中隊長。

 それを受けて気が抜けてしまったため思いっきり気の抜けた返事をしてしまう。

「あ、はい」

 スパコーン。

 星も飛ぶ。

 いや、本当にそんな音がした。

 じじいが思いっきり俺の頭を(はた)いたからだ。

「『あ、はい』じゃないだろう! 本当にしまりがない野郎だ、まったく……すんません中隊長あとでシメときます」

「とりあえず、あれだ……節度のあるお付き合いをするんだぞ、それとこれだ」

 中隊長がぽいっと俺に一冊の本を投げる。

「勉強しろ」

「……勉強?」

「将校の彼氏が下士官じゃバランスがとれないだろう」

「いや、それは……」

 おっさん。

 もうそんな古い考え今は流行りませんよ。

 いや、そうか、それを言い訳にして、士官候補生の試験受けさせて自分の点数稼ぎたいだけだろう。

「士官候補生学校の部内選抜試験問題集、来年の春に向けてよーく勉強しておけ……以上終わりだ」

「俺は、将校なんかに……」

 おっさん達は、俺の抗議を聞くことなく、まるで猫でも追い払うように手首で『あっちいけ』をする。

 くそう、いちいちムカつくおっさん達だ。

 しょうがないので席を立ち「失礼しましたー!」と言って部屋を出た。

 まったく、どっちが失礼なんだよ。

 俺はムッとして問題集を廊下にたたきつけようとしたが、じじいに見られたらエライ目に会うと思ったので振り上げたところでやめた。

 情けないが、あのじじいを怒らせると命に関わる。

 そうか。

 上司公認になってしまった。

 なんだろう。

 気が晴れるどころかすごく心が重い。

 本当にあのおっさん達のお節介が面倒臭い。

 くそう。

 あーちくせう!


 ■■■■■■


 仕事が終わったので、軍人宿舎に戻りシャワーを浴びる。そして与助君と電話で話をした。

『なんか、中隊長(おやじ)先任(じじい)の公認になった』

「私も呼ばれて言われた」

『……鈴さんも? ってことはなんかセクハラなこと言われなかった』

「ううん、なんか気持ち悪いぐらいの笑顔で『応援してるぞ』って言ってた」

 ――節度を持ってお付き合いしなさい。

 って真面目な顔で中隊長には言われた。

『そうか……』

「なに? 与助君は変なことを言われた?」

『ん、うん、避妊がどーたらこーたらとか、いちゃいちゃするなよーとか』

「変なの」

『変だよ、変……お節介すぎるというか』

「ほんとお節介」

 なんなんだろう。

 あの人たちは。

 私が部隊(こっち)に配置されてからというものの、ずっとそういうお節介ばかりしてくる。

 親戚のお節介叔父さんにでもなったつもりなんだろか。

 もしそうだとしたら、すごく迷惑しているからやめてくださいと言ってあげたい。

 あの、お見合い作戦といい、与助君を監視役に付けたことといい。

 叔父さんとは言わないまでも、田舎のお節介なご近所さんですか? って言いたくもなる。

 でも、そのお節介のお陰でこうして電話で話せるんだし、感謝していないわけではない。

 そうは言っても、なんというか、あのおっさんふたりは。

 うざい。

 すごくうざい。

 私たちはそういう話をして『あいつらはうざい』と結論付けた。それから週末どこに行こうかという話をして電話を切った。

 冷蔵庫のオレンジジュースを取り出し、コップに注ぐ。

 その時だ。

 与助君や晶とは違う通常の着信音が鳴った。

 番号のみ。

 一応出てみようかと思う。

 変な電話だったら切って、着信拒否にすればいい。そして通話ボタンを押した。

「……もしもし?」

『鈴か』

 瞬間的に貧血のような感覚に陥る。

 血が頭から引いていくのがわかった。

 一瞬でその声が誰のものかがわかってしまったから。

『久しぶりだな』

 感情のない声。

 機械的な、そしてどこか官能的で、私を狂わせた声。

「……なんで今更」

『お前が金沢にいると聞いた』

「もう、あなたと話をすることなんてないから」

『そうか、まあいい』

 電話を切ろうと耳から携帯を離す。

『しばらく、金沢基地にいる、欲しくなったら連絡しろ』

 私は返事をせずに電話を切った。そして、その場にしゃがみ込む。

 山岡恵助(ヤマオカケイスケ)

 海軍少佐。

 その顔を思い出した瞬間、フラッシュバックが起こってしまった。

 手を繋いで歩いた街並み、ホテルのベット、彼の部屋……失神するようなオーガズム。

 縛られて、這いつくばって、欲しいとねだる私。

 強烈な吐き気。

 トイレに行こうとするが立ちくらみがして、その場から動けない。

 すごく気持ちが悪い。

 あの、感情の起伏が無いくせに自信に満ちた声。

 高圧的な話し方。

 でも私はそんな彼の喋り方を含めて全てを愛していた。

 大丈夫。

 彼の仕草、彼の肉体、彼の冷たく見下ろす表情……果てる時の一瞬だけ見せる私をすべて満たしてくれたあの顔。

 私はひとつひとつのことを思い出して、そして落ち着かせる。

 大丈夫。

 その思い出は全部気持ちが悪い。

 虫唾が走ると言ってもいい。

 震えるぐらいに。

 さんざん苦しめられた。

 大嫌いな男の。

 思い出。

 私は声にならないぐらいにそう呟いて自分自身に言い聞かせる。

「与助君……」

 私は携帯を触って与助君の電話番号を表示させた。

 でもなぜか、呼び出しボタンを押すことができず、携帯を抱きかかえたまま涙を流した。

 わかっている。

 与助君から一瞬でも心を離したわけではない。

 それは反射的なものだとわかっている。

 だけど、少しでも反応している自分が許せなかった。

 与助君に電話することが怖くなった。

 きっと彼は気付く。

 私に何かあったんじゃないかと。

 心配をさせたくない。

 大丈夫。

 自分でこれはなんとかできる。

 自分でなんとかしないといけない。

 清算しよう。

 大丈夫。

 私には与助君がいる。

 だから私は、泣くわけでもなく、ただ携帯を胸に抱えたまま涙を流した。


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