Page.5 呪われし者
「あり・・・す」
少女は、その単語を呟いた。
そして俯き、ジャックの掌に、アルファベットを指でつづった。
『ALICE』
ジャックは満足げに頷くと、アリスに微笑みかける。
「そう、それが君の名前」
「・・・アリス」
うわごとのように彼女は自分の名前を何度か呟くと、コク、と小さく頷いた。
さっきとちがいすっかり大人しくなった彼女に、マナは首を傾げる。
先ほどの石墓に目を凝らすも、彫られた溝はは町の人によるものか、何か刃物のようなもので何度も傷つけられ、文字と認識するのも困難で、名前が書かれているとはとうてい思えないほどであった。
しかし面倒くさがりなのか、それとも何か根拠あってかの諦めか、マナはまぁいいかと立ちあがり、緑に縁取った白い足首まである半袖の上着の裾をはためかせた。
「ハナシ」
少女はジャックが切りだした話を早く、とこどもが菓子をねだるように、彼の目をじっと見つめ、袖を引っ張った。
ジャックはそれにすこし考え込むように口元に手をやった後、そこにあぐらをかいて、くしゃくしゃの黒髪を払う。
そして懐からボロボロの地図を広げて、それを覗きこみ、ある大陸に指差した。
「現在、俺たちは此処、南米大陸のレモンドにいる」
トントン、と音をたててそこをたたく。
少女はこくりと頷き、その赤で印づけられた地点をじっと見つめた。
他にも各地にマルがつけられていたり、その上にバツがつけられていたりと、なにか目的あっての印というのがわかる。
ジャックは一度彼女の機嫌を確かめるように上目にその警戒していない表情を見て、試すように言葉を並べた。
「気に障るようなら悪いが・・・此処は『魔女の元本拠』だろう」
アリスの肩が、びくりと揺れた。
オォォオオォォ・・・
暗かった闇が、より一層深まったのを感じ取ると、ジャックは小さく舌を打った。
突然辺りの空気がざわつき、風が、木々が、威嚇するように、雄叫びをあげるように大きな音をたてた。
地図が飛びゆくのを寸前で掴んだジャックは、まるでわかっていたように再びそこに座り込んだ。
マナも肌を打ちつけ乱れる髪を押さえ、平然とそこに立っている。
「それが、どうした」
一瞬にして、彼女の足を止めていた炎の輪が消し去られた。
わなわなと震える長い黒髪。怒りに満ちる少女の目に、怯えるどころか、彼らはにた、と口元を吊りあげた。
「いや、君がその『呪い』を受けた者だったか知りたくてね」
にこりと、ジャックは愉快そうに微笑んだ。