Page.4 アリス
ボァッ
「っ!?」
煙の中から一直線に自分めがけて飛んできた火に、少女は地面を素早く蹴り、人間離れした跳躍力でその場から何メートルも後ろへと下がった。
「あっぶないデスねー」
赤い煙が晴れていく。
靄のように薄くなっていくその中心に、太陽のように明るい、オレンジ色をした髪が、暗闇に映えた。
その少女はパチン、と指を鳴らすと、その間から火を燃え上がらせる。
「コンニチワ死神さン」
不敵に微笑み、不器用な片言で話す彼女に、少女は目をまるくする。
一体、どこから。
こんな、見た目だけに派手な少女は、ここにはいなかった。
それに、彼女の嗅覚には、あの男の匂いしか、たったひとりぶんしか、匂いはしなかったはずなのだ。
(あれは、誰だ)
うろたえる少女を、彼女の周りを体操のテープのように回っていた炎は、一直線に少女に向かって飛ばされる。
「っ!」
ガガガっ、と少女はそれを間一髪でかわし、地面に長い足跡をつけていく。
しかしそれでも、体力を持たぬ彼女の扱う、まるでリモコンがついているかのように自由自在にうねり、少女を追い詰める炎は、すぐにブレーキをかけ、少女へと一直線に飛び込む。
「ァッ」
遅れた右足が、何かに掴まれたようにくんッ、と伸びたまま、少女はその場に倒れ込んだ。
ドス、と衝撃で大鎌が地面に突き刺さる。
「ウェェ、あんなの持って走ってたの?化け物ですネ・・・」
「・・・」
むくりと起き上った少女は、足元を見つめる。
轟々と燃えあがる赤い火が、自分の足首を囲っている。
しかし少女は首を傾げた。
全くといっていいほど、熱くないのだ。
「大丈夫ですカ?」
右に束ねたオレンジ色に輝く髪を揺らしながら、少女は駆け寄った。
そして目の前に座り込むと、にっこりと口元を吊りあげた。
「マナっていいまス。よろしくネ」
先ほどとは違う優しい笑みに、少女は戸惑う。
けれどジャックはそれに追い打ちをかけるようにその手をとり、まっすぐに、暗い目を見つめた。
「すこしでいい。俺の話を聞いてくれ、
アリス」
少女『アリス』は、自信に充ち溢れる金色の目を、じっと見つめた。