Page3.初めまして
「あぁー・・・、ここか」
土埃をかぶった、古い石墓を見つけると、ジャックはふふん、と得意げに頷き、土を払い落した。
何百年も昔のものらしく、随分と年季が入っている。
ヒビや傷があったり、石家が彫った字が薄れていたりと、なかなかのものである。貫禄やそんなものではなく、ゴミ捨て場にかなり前から置き去りにされていた物のような、そんな存在だ。
『ご主人、それでス、それっ』
声をあげ、やっと見つけましたね、とマナの声に、そうだな、と何処か遠い目をして、ジャックはこの敷地内の入口を見つめた。
「やぁっと、長旅の目的がひとつ果たされようとしてんだもんなー」
力入れてかねぇとな。
そう、ジャックがぼやいた時だった。
ヒュン、と鋭い風音がしたと思えば、彼の足元に、細く、深い傷跡が一本、そこにできていた。
ジャックは闇の方を向き、ランタンを掲げる。
生白い、細い脚が映しだされた。
「早すぎんだろ・・・っ」
照らす生足の前に、一瞬巨大な銀の刃が揺らいで消えていくのと同時に、ジャックは身軽に長身の体をひねり、後ろへと下がった。
途端、先ほどと同じような傷跡が、そこにできている。
「チィッ」
あからさまな舌打ちが聴こえ、その直後、ジャックは右手をその方へと突き出して、指先で素早く、何かを宙に描いた。
そしてその指が辿った跡が紫色に輝き始めると、それはぐん、と大きく広がり、闇に紛れ、捉えにくくなっていた姿を、黒を背景に映し出した。
ウ゛ンっ
上下左右、前後を、同じ形の魔法陣が少女を囲む。
そして正方形を作り上げると、ジャックは口笛をヒュウっと鳴らし、どうだと言わんばかりの満面の笑みを浮かべた。
見上げると、その少女は、どう見ても普通ではなかった。
どこの貧相な娘よりもひどい格好をしている。
身体中を覆う包帯の範囲に、ジャックはごくん、と、唾を呑みこんだ。
そしてまじまじと、その目を見つめる。
「えぇっと・・・言葉はわかるか?」
ダンッ
返事の代わりに、強烈な一撃が、魔法陣に鋭く叩きつけられるのをみて、ジャックは一瞬目をまるくして、そうか、と応えた。
そこに腰を下ろすと、再び、名も知らぬ少女を見上げた。
背と包帯の上から浮き出るどこか幼げなラインからして、まだきっと十代であろう。
そう推測したジャックは、にこりと微笑んだ。
「初めまして、僕はジャックというんだ。君の名前は?」
「・・・・・・」
無言。
しばらく経っても、名を告げない。
困ったなとちらりと横を見た時、ふと、先ほど触れた覚えのある、墓を見つけた。
「あぁ、じゃあこれを見ればいいのか」
そう、墓に刻まれた名を読みあげようとした時。
「みるな」
バリンッ
鋭い刃が、ガラスが割れるような音と共に、魔法陣を破った。
『ご主人、危ないっ!!』
が。
彼女とジャックの間を、赤い煙が遮った。