Page2.番人
匂いがする。
暗闇のなか、まるで鈴の音のように美しい少女の声が響いた。
目を覚ましたその少女は、長い髪を払いのけながら、冷たく光る眼を、丘の下へと向けた。
そこに並ぶ何百もの石の数だけ、腐った死体が眠るそこは、彼女の居場所であり、その中に紛れている墓のひとつは、“彼女”の墓だ。
今夜もそこに、やってきた。
旅人が、ひとり。
「消さなきゃ・・・」
墓を荒らす、やつらは。
きっとまた、この町の探索にきたんだわ。
懲りないやつら、と少女は左の金に輝く目意外を覆う古びた包帯に触れながら、小さく舌打ちをした。
彼女の横に聳え立つ、枯れた大木に刺さる、あまりに物騒な首切り鎌についた長い取っ手を右手だけで掴み、ずしりと重いだろうに、彼女はなんなく、その細い腕で抜きあげた。
「大丈夫、守るから・・・」
銀色に鈍く輝く、その大きな刃に手を添えながら、優しく微笑む。
辺りの空気が、一瞬、やわく揺るいだ。
少女は見慣れた空に浮かぶ三日月を見上げ、唇を噛みしめる。
「私は、ここ(墓地)の番人だもの」
守らなくちゃ。
タン、
その足音は、静かに、まるで羽音が一瞬なっただけのように。
彼女はもう、すでにそこにはいなかった。