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アグリジェント戦記  作者: 黒いたぬき
帝国解放編
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閑話・ある日のクラリスとアルフォンス

(こいつは……一体なに?)


 クラリスはその光景に唖然としていた。大地に座る白い生物は明らかに魔獣である。だが帝国騎士たちは誰一人動じる者がいないのだ。それどころか男性騎士は餌をやり、女性騎士は撫でたり抱き締めたりしている。


(帝国は魔獣と共存しているのかしら?)


 少し遠くから魔獣を観察するクラリスはそんな考えに行き着いたが、すぐにそれを改めた。昨日のお茶会でテレージアの魔獣討伐という武勇伝をミリアムから聞かされたばかりだからである。


(まさか帝国は魔獣を使役することが出来るとか?)


 魔獣を飼い慣らし戦場に投入することは王国でも長年研究されてきたが、近年それは不可能と結論付けられた。飼い慣らすことは出来ても、戦場に投入することは無理だったのだ。敵味方を識別出来ないからである。


(あの魔獣……気になる)


 クラリスは心の中で何度も同じ疑問を繰り返すが、目の前の魔獣はそんな気持ちなど知らない。大きな欠伸と共に、白い魔獣は大地へと横になり、そのまま眠り始めたのだった。


(気になる。気になるけど……あっちも気になるわ)


 白い魔獣も気になるクラリスだが、他にも興味を惹かれる存在がいた。


「いい天気ですね~。それで今日はどうしたのですか~」


 その存在とはどこかのんびりとした口調で男性騎士と会話している幼い少女であった。全く見たことも無い白の服と赤のスカート状の物を着たその少女は、その見た目に反してかなり魔法に精通しているようだった。それは会話をしている男性騎士の表情を見れば分かることだった。


「無詠唱魔法の威力が詠唱魔法より劣るというのは間違いですよ~。確かに多くの場合は詠唱魔法の方が威力が高いのですが、それは無詠唱魔法が自身の魔力を消費するからですよ~。無意識のうちに魔力の消費を抑えようとする結果なのです~」


(本当なの? 確かに理に適ってはいるけど)


「無詠唱魔法の威力を上げるには、まず自身の魔力量を把握することですね~。一度限界まで魔力を行使してみると良いのですよ~。あとは訓練あるのみですね~。ちなみに簡易詠唱も威力が落ちません。詠唱魔法と違うのは、内包魔力を少し消費するということだけです~。つまり魔法の威力を決めるのは、あくまでも術者が込める魔力量によって決まるのですよ~。そうなれば当然、魔法戦は魔力量が多い方が有利になりますね~」


(凄い。こんな少女までいるとは)


 とても幼い少女とは思えない魔法知識に感銘を受けたクラリスは全く気付いていなかった。少女の足が地面から離れていることに。


「それではまた何かあれば~」


 話を聞いて満足して去っていく男性騎士の背中に声を掛けた少女は、続いてやって来た女性騎士の質問にもニコニコ笑いながら答えていた。その様子を見れば誰にでも幼い少女が帝国騎士に信用されていることが理解出来た。


(この国は色々と面白いわね)


 敗北した当初は今まで築いてきたものが消え去ってしまったと悲嘆に暮れたクラリスだったが、今では新しく目にするもの全てに興奮していた。それは敗北によって今までの妄執に近い考えから解放された結果でもあった。彼女にとって敗北は決して悪いものでは無かったのである。




(凄い。これが――――)


 あれから人混みを離れたクラリスは、人気の無い場所で一人の人物と出会った。背中越しだったが、長いブロンドの髪を靡かせる彼女を見てすぐにそれが誰だか理解した。彼女は無言で佇みながら、次々と無詠唱で魔法を発動していた。

 最初は火球。続いて水球から雷球に風刃に岩球と攻撃魔法を展開したかと思うと、さらには各属性の防御魔法を展開していった。その速さにも驚いたが、何よりクラリスが驚いたのはそこに込められた魔力の量だった。


(次元が違い過ぎる。これが帝国騎士を束ねる騎士団長エイミー・ベンフォード)


 かつて抱いた嫌悪感などもはや存在しなかった。この様な光景を見せられては認めるしかない。彼女が優れた騎士であることを。そしてそれが出来ないほど、クラリスは頑固な人間では無かった。


「素晴らしいものを見せてもらいました」


 全てが終わった時、クラリスは心の底から湧き上がった言葉を自然に口に出していた。これを聞いた女性騎士はゆっくりと振り返ると、少し照れたように笑った。


「ありがとう。でもあなたにもこれくらい出来るはずよ。光の精霊の加護を受けし者なのだから」

「…………」


 クラリスは目の前のエイミーを冷静に見つめながらその言葉の真意を確かめた。表情を見る限り、決して嘘を述べているようには見えなかったが、彼女のように魔法を展開することは出来ない。


「どうすれば貴女のようになれるのですか?」


 強くなりたい。そんな想いを込めてクラリスが質問すると、エイミーは少しだけ困った様な表情を浮かべた。


「それは答えられない。加護を受けし者は、自らその答えに辿り着かねばならない。そうしなければ本当の意味での聖騎士には到れないから。一つ言えるのは、貴女には足りない物がある。それを見つければその加護は本当の力を発揮するはずよ」

「私に足りないもの?」


 クラリスはその言葉を聞いて自問自答する。強くなりたいと願い生きて来た。それは願いを叶えるためにどうしても必要なことだった。だが目の前のエイミーはそれだけでは足りないと言うのだ。


「一体……私には何が足りないの?」

「さっきも言ったわ。私は答えられない。でもそれは絶対に必要なものよ」


 微笑を浮かべたエイミーが去っていくのを眺めながら、クラリスはその言葉の意味を考え続けた。だが答えが簡単に見つかるわけも無く、その日から彼女はその答えを探すことを決意したのだった。





 天幕の内で寝そべるアルフォンスは、先程終えたばかりの会談の内容を思い出していた。会談で提示されたのは明らかに王国有利に見えた講和条件であった。


「ヘルムフリート皇帝か。底が知れないオッサンだったな」


 話した第一印象はまさにそんな感じだった。豪快でいて相手の些細な変化を見逃さない洞察力を持つ人物。まさに交渉相手としては強敵であった。そんな彼が提示した講和条件。普通に考えれば裏があるとしか思えないが、これを蹴るほど王国に余裕はない。蹴れば間違いなく王国は滅ぶことになる。


「どうしたものか」


 今日の会談の内容は伝令を通じて国王にも届く。きっと国王はこの内容を受け入れるはずだ。


「帝国がなぜこの講和条件を提示したのか、その理由さえ分かればいいのだが」


 帝国は明らかにこの戦争を経て変化した。その変化は王国にとっては好ましくないものだ。何せ外の世界に興味を持っていなかった帝国が、外の世界に目を向け始めたのだから。

 軍事大国ザールラント帝国。それが動乱に介入すればさらに大きな戦争が巻き起こることになるのだ。


「王国内部に巣食う敵か」


 それを告げたあのエイミーは確信を持っていた。敵は確かに存在するのだろう。今ではアルフォンス自身もそう思っていた。何せあの新興貴族が積極的に戦争に参加したのだ。新興貴族にとって大事なのは名誉でも誇りでもない。全ては金である。故に彼らはこれまで戦争参加に消極的だった。当たり前の話、戦争には金が掛かる。装備に人員に補給。全てにおいて金が必要だ。

 しかし今回の帝国進攻では率先して動いた。確かに帝国は魅力的だ。肥沃な大地に埋蔵する途方も無い鉱物資源。戦争に勝利すれば莫大な富を得られるのは間違いない。


「……新興貴族を唆した敵がいるのは間違いないだろうな」


 戦争とは何も武力で決することが絶対ではない。諜報に始まり謀略。見えないところでも国家間は争いを続けている。そして現実として、レアーヌ王国に敵意を抱く者は多い。


「帝国の思惑は気になるが、助かったと考えるべきか」


 帝国が何を考えているのかは定かではないが、この講和内容は一時的にでも王国を滅亡から救うことになる。その間に軍を立て直して内部に巣食う敵を掃討出来れば王国は復活可能だ。

 そしてそれが出来なければ――――。


「完全に終わりだ」


 疲弊した王国が長い時間存続できる程、世界は優しくない。弱みを見せれば喰われる。今まで王国がそうしてきた様に。


「出来ることをするしかないな」


 戦争に敗北した事実は変えられない。ならばこれからのことに全力を尽くすしかない。生き残るためにはそれしか方法が無いのだから。


「少し眠るか……」


 交渉の行く末と王国の将来。二つのことを考えて限界に達したアルフォンスは、大きな欠伸をしながら目を閉じるとすぐに眠り始めた。自身が思っていた以上に疲れが溜まっていたのである。







本日もありがとうございました。

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