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アグリジェント戦記  作者: 黒いたぬき
帝国反攻編
58/173

会戦を終えて

短めです。

 その日、帝都を防衛する騎士たちは万全の態勢を整えて警備に当たっていた。


「……遅いな。もうすぐ夕刻だぞ」

「そうだな。もしかしたら戦いが長引いているのかもな」


 エイミー=ベンフォード率いる騎士隊がフロスト平原において戦闘を開始したという伝令がやって来たのが午前の事であり、それからすでに六時間以上が経過した今になっても戦況を知らせる伝令は訪れていなかった。


「まさか……壊滅したとか無いよな」

「滅多な事を口にするな。ディアーナ皇女殿下も御出陣されているんだぞ」

「だが……あまりに遅すぎるだろう」


 帝都南部に広がるフロスト平原は馬で駆ければ僅か二時間の距離でしかない。

 そもそも大規模な軍勢が激突した場合、戦闘は長く見積もっても三時間で終わりを迎えるものであった。重い装備を身に着けた戦闘を長時間行うことは不可能だからである。

 よって決着が着かなくても、大体三時間も経てば普通は軍を一度後退させて休息を取るのだ。


「……我々は信じて待つしかない。結果は何れ分かる」


 遅すぎる伝令に不安を感じる騎士たちに対して、城壁から指揮を執る隊長騎士は自分も鼓舞するように皆にそう言い聞かせて伝令の到着を待った。

 そして太陽が傾き始めた頃、フロスト平原の方角を監視していた騎士が声を上げて叫んだ。

 

「隊長! 伝令の騎士が二人戻って来ました! アルテミス・アテナ騎士隊の隊旗を掲げているので間違いありません!」


 その言葉を聞いた全ての騎士が城壁から身を乗り出してその方角に目を向けた。

 確かにフロスト方面から二人の騎士が両騎士隊の隊旗を掲げて軍馬を駆けており、それを見る限り敗走したとは思えないまともな格好をしていた。


「結果は……どうなったんだ?」

「まだ決着していないのでは?」

「早く教えてくれ」


 フロスト平原からアルテミス・アテナ騎士隊の隊旗を掲げて帝都に戻って来た二人の伝令騎士。

 彼らは帝都の正門に到着すると城壁から身を乗り出す騎士たちに向けて、腹の底から声を出してフロスト平原における戦いの結果を告げたのだった。


「アルテミス・アテナ両騎士隊を率いるエイミー=ベンフォード様からの伝令である。我が騎士隊一万五千はフロスト平原において王国軍本隊五万と交戦した」


 アテナ騎士隊の隊旗を掲げた伝令騎士の詳細な報告を聞いて、帝都防衛に当たる騎士たちは悪い予感を覚えて表情を曇らせた。朝の伝令では相手の数までは報告されておらず、ある程度は互角の勝負になるのではと彼らは予想していた。

 だが今の報告で敵が三倍以上と知り、彼らはとても勝利を掴んだとは思えず、寧ろ敗北したのではと不安を募らせたのである。

 しかしアルテミス騎士隊の隊旗を掲げる伝令騎士が、そんな彼らの予想を大きく裏切る結果を告げた。


「我が騎士隊はカタパルトとバリスタの攻撃によって王国軍の第一陣を壊滅に追い込む事に成功。その後、総大将であるエイミー=ベンフォード様と皇女殿下ディアーナ=ハウゼン様を先頭に全軍による突撃を敢行して、王国軍の前線を突破する事に成功した。そして一騎討ちにおいてエイミー様が王国軍の総大将であるライナス王太子を討ち取る大戦果を上げられた。結果、我が軍は王国軍本隊の約半数をフロスト平原で討ち取った。フロスト会戦は我がザールラント帝国の大勝利である」


 誰もがすぐにはその言葉を信じらず、無言のまま僅かな時が流れた。

 だがフロスト平原の方角から戻って来る軍勢が帝都に姿を現すと、ようやく騎士たちはそれが事実なのだと理解したのである。


「た、隊長! エイミー様とディアーナ様です! アルテミス騎士隊とアテナ騎士隊の騎士たちが帰還してきました」


 約三千の騎士たちの先頭を進む二人は晴れやかな笑顔を浮かべながら、それぞれがランスに括りつけた隊旗を掲げて帝都を防衛する騎士たちに向けてそれを振った。

 エイミーは月を抱く女神が刺繍されたアルテミス騎士隊の隊旗を。

 ディアーナは盾を持つ女神が刺繍されたアテナ騎士隊の隊旗を。


 そんな二人は正門まで到着すると声を揃えて勝利を告げた。


「「ザールラント帝国騎士の勝利である。門を開けよ!」」


 もはやその言葉を疑うものは誰一人としておらず、防衛に当たる騎士たちは門を開けると我先にと帝都中を駆けて大勝利の報を民衆に広めたのであった。



「馬鹿なっ! 三倍の兵力差を覆してあの小娘が勝利しただと?」


 帝都が勝利に湧き立つ頃、フロスト平原から撤退して帝都西部のアルスト平原に帝国軍を展開していたダリウスは、フロスト平原の偵察から戻って来た部下の報告を聞いて、天幕内のテーブルを叩きながら声を荒げ叫んでいた。


「そんな事が……これでは私が間抜けではないか」


 フロスト平原から兵を撤退させたのはエイミー率いる騎士隊の敗北を確実なものにして、王国軍を打ち破る功績を自分が得る為に行った事であった。

 もちろんそこにはベンフォードの家名を地に落とすという目的も含まれていたが、結果は完全に失敗であり逆にカルヴァートの家名に傷が付いたのである。


「これでは何のために帝国軍を温存したのか分からないではないか」


 王国軍の侵攻を聞いたダリウスは、交戦を避けるよう各部隊の指揮官たちに徹底していた。

 それは確実に騎士団と騎士団長の力を削いで、現在の力関係を逆転させようと画策したからである。


「こんな事があってたまるかっ!」


 騎士団長の座を争った憎きエリオスが戦死したのは予想外だったが、お陰で今後は有利に事が運べるとダリウスは考えていた。

 そして救援に来た騎士隊を率いるのがそのエリオスが養女に迎えた娘だと知り、さらにそれを利用して手痛い打撃をベンフォード家に与えようとしたのだ。その結果がこれである。

 

「これでは全てが無意味だ」


 帝国軍とダリウス自身が帝国各地で役立たずと呼ばれていたことも彼は知っていた。

 それもこれも大きな会戦で大戦果を上げる為に耐え抜いて来たのであり、全てはカルヴァート家をベンフォード家よりも上の存在にする為にである。


「よくも……よくも私の計画を邪魔してくれたな」


 小娘でしかないエイミーに計画そのものを壊された事に怒りを露にするダリウスだったが、彼は彼女を侮る前にもっとよく調べるべきだった。

 そうすれば簡単に彼女が一等級傭兵であることや、勝利を重ね続けて負けを知らない大陸最強の傭兵団リッターオルデンに所属している事が分かったはずなのである。

 そしてさらに五大貴族の権力を行使して詳しく調べれば、彼女が圧倒的な魔力と卓越した剣技。何よりも膨大な知識から生み出される多彩な戦略と戦術を以って敵を屠り、傭兵仲間から何と呼ばれているかも知れたはずだった。

 その呼び名がロシュエル公国の大軍勢を約一年に渡って圧倒した連合王国の女王と同じである事に。


 全てを従える者――騎士女王――


 





ありがとうございました。

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