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アグリジェント戦記  作者: 黒いたぬき
帝国反攻編
40/173

死闘の幕開け

 合流を終えてリンダウ村を出発したアルテミス騎士隊は、捕虜にした敵指揮官からの情報を基に進路を設定してエミンゲルへと向かった。

 その結果、一度も蛮族の襲撃を受けることなく行軍は順調に進み、当初の予定より五日遅れでエミンゲルに到着した。

 だがそこで目にしたのは悲惨な光景だった。


「これは……くっ!」

「酷い…………街がこんなに……」


 街に到着した彼女たちを出迎えたのは破壊された建物の数々と道に転がる人々の遺体だった。

 その腐敗具合から見て、死んでから二日は経過していることが分かった。


「各隊は街を探索して生き残りの捜索に当たれ。絶対に単独行動は避け、必ず複数人で行動しろ。分かったら行動開始だ」


 厳しい口調で命令したエイミーの言葉を聞いて、各騎士たちは慎重な足取りで街の中心部へと進んでいった。

 一方で残った主要メンバーたちはすぐにエイミーの下へ集まるとこの惨状について話し始めた。


「一体これはどういうことだ? とても蛮族が襲撃した結果には見えないぞ?」

「そうですわね。見たところ蛮族の遺体は一つもありません。それにそこまで一方的な戦いになるとは思えませんもの」

「そうだな。ここまで奮戦してきたハイゼン子爵だ。簡単にやられるはずがない」


 周囲の状況を観察して意見を述べたロイドとミリアムに続いて、アレンもこれまでのハイゼン子爵の奮戦ぶりから総合的に判断してそんな意見を口にした。

 その間、ディアーナとマルガレータはエイミーの動向を見つめていた。

 彼女は遺体を観察しながらフレイヤと何か話しており、その表情からかなり深刻な内容だということが窺えた。


「フレイ……どう思う?」


 全身が乾燥してミイラ化した遺体を眺めていたエイミーが小さな声で尋ねると、フレイヤは滅多に見せない険しい表情でそれに答えた。


「この街の周囲に漂う魔力は危険です。それとこの様な殺し方をする人間がいるとは思えません。この街を襲撃したのは恐らく人間ではないと思います」


 人間ではないことを強調したフレイヤにエイミーも無言で首を縦に振った。襲撃したのが人間ではないということは、考えられる可能性は一つしかなかった。


「どうしたのエイミー?」


 いつも冷静なエイミーが少し動揺している姿を見てしまったディアーナが不安そうな表情で尋ねると、フレイヤが大きな声でエイミーに意見を述べた。


「お姉様、すぐにこの街から撤退するべきです!」

「どういうことです? 一体この街に何が起きたのです? 知っているのでしょう?」


 強い口調で意見を述べたフレイヤの言葉で、マルガレータは瞬時に二人が何かを知っていることを察して質問した。

 これに答えるべきか迷ったフレイヤはエイミーに視線を向けたが、彼女もまた事実を告げるべきか迷っているようだった。何せ相手は蛮族とは比べ物にならないほど強大な相手なのだ。わざわざ皆の不安を煽るような真似はしたくなかったのである。


「もしかして……これは帝都を襲撃した悪霊と何か関係があるのでは?」


 ディアーナがそんな言葉で揺さぶりを掛けてみると、二人は一瞬だが明らかに動揺した様子を見せた。すぐに表情を戻した二人だったが、もはや敵が何なのかを全員が理解したのだった。


「……すぐに騎士を呼び戻してこの街から撤退する。生存者の捜索は諦める」

「そんな! まだ生き残っている者がいるかもしれないのに」

「隊の生存が最優先だ! 相手が悪霊では分が悪い。こちらは何の準備も――」

「み~つけた」


 エイミーが準備不足を指摘しようとした時だった。そんなのんきな声が街に響いたのである。

 死の街と化した場所に響く声に剣を抜いて警戒態勢を取ったディアーナたちは、すぐに前から歩いて来る二人の人物を発見したのだった。


「女の子ですか?」

「可愛らしい格好ですが、何だか場違いな気がします」

「気がするじゃなくて完全に場違いだろう」


 ディアーナたちが目撃したのは、帝都を襲撃した例の二人組の悪霊だったが、実際に二人を見たことが無い彼女たちは一瞬だけ警戒心を解いた。

 だがエイミーとフレイヤだけでは違っていた。特にフレイヤは敵意を前面に押し出していたのである。


「三千年経っても胸糞悪い格好ですね。クソ悪霊」

「五大精霊で最弱の風神如きが。お前の格好だって変だろうが」

「黙れよ悪神の腰巾着。何だったらここで殺してやろうか?」

「はっ! お前に殺せるなら殺してみろよ。女神の飼い犬が」


 子供の喧嘩レベルの会話を繰り広げる二人とは対照的に、エイミーともう一人の悪霊は互いに無言で睨み合っていた。

 そしてしばらくすると二人同時に口を開いたのだった。


「……灼熱の覇王タルウィ」

「……継承者エイミー」


 次の瞬間、二人は同時に剣を抜くと一瞬にして間合いを詰め、その剣を振り下ろした。

 そして強大な魔力が込められた二つの剣の激突は、その場に強烈な衝撃波を生み出したのである。


「まずいっ!」【ヴィント・シルト】


 全てを吹き飛ばす強烈な衝撃波から仲間を守るため、フレイヤは簡易詠唱で防御魔法を展開したがあまりの威力に押され顔を歪めた。


「ま、まずいです。このままで……」


 フレイヤの切羽詰まった声を聞いて、ミリアムもすぐに詠唱を行って光の防御魔法を展開したが、それでもその威力が弱まることは無かった。


「この街の惨状は貴様たちの仕業かっ!」

「だったらなんです? まぁこの街は用事のついでに過ぎませんが」

「用事だと?」


 剣がぶつかる毎に強烈な衝撃波を引き起こす二人。

 そんな中、エイミーはタルウィの言葉を聞いてそんな疑問の声を上げた。その疑問にタルウィは視線をエイミーから少し逸らして答えた。


「創世の担い手であるあなたを殺すことですよ」


 不敵な笑みを浮かべたタルウィは剣を構えたまま一歩後ろに下がった。視線が逸れたことが気になったエイミーは、相手が目を向けた方向に思わず視線を向けた。


「なっ!」


 そこには街の生き残りである幼い子供が怯えた表情で二人を眺めていたのである。一瞬のことに動揺したエイミーは、タルウィより先に動くことが出来なかった。


「この街の人間は殺し尽くしたと思っていたのだけど見過ごしていたとはね。迂闊だったわ」


 幼い子供の前に立ったタルウィは、その真っ赤な剣を構えると優雅に微笑んで言った。


「さようなら。小さな人間さん」


 虫でも殺すかのように幼い子供に向かって無造作に剣を突き出したタルウィ。

 だが次の瞬間、その剣が突き刺したのは全く違う人間だった。


「エイミーっ!」

「お姉様っ!」


 その光景を目の当たりにしたディアーナとフレイヤは悲鳴に近い声を上げて叫び、ミリアムやマルガレータたちは声すら上げられなかった。

 そしてその光景は当のタルウィですら想像していないものだった。


「……正気か? こんな子供のために」

「さぁ何でだろうね…………私にも……分からない……わ」


 体を貫いた剣を右手で握ったエイミーは、幼い子供に視線を向けると笑顔で言った。


「早く……向こうへ行きなさい」


 ディアーナたちの方に逃げるように促したエイミーは、その幼い少女が駆けだしていく姿に安心して、そのまま地面へと崩れ落ちた。


「ふん。呆気ないものですね。これが創世の担い手ですか。興醒めですよ」


 剣をエイミーから抜いたタルウィは、もはや興味を失った目でディアーナたちを見据えるとつまらないといった感じで言葉を紡いだ。


「もう殺しちゃっていいわ。飽きちゃった」

「そう? なら遠慮なく殺らせてもらうね」


 タルウィとは違い楽しげな表情で剣を抜いたザリクは、その凶暴な本性をむき出しにして剣を振り下ろした。

 それを阻止したのは、ディアーナの絶対零度の魔法剣だった。


「うわ~。絶対零度の魔法剣を使うなんて聞いてないよ」

「貴様っ! ここから生きて帰れると思うなよ!」

「人間風情が我々に勝てると思っているのか?」


 エイミーをやられて激昂するディアーナとは違い、どこまでも余裕の表情を見せるザリクだったが、それは当然の反応だった。

 ディアーナの絶対零度の魔法剣とフレイヤ以外に脅威は無く、その二人も彼女たちからしてみれば弱者に過ぎない存在だったからである。


「…………私は……」


 地面に倒れ自分の血溜まりに浮かぶエイミーは薄れゆく意識の中、懸命に闘うディアーナたちの姿をその目で捉えた。確実に押されつつある彼女たちを見て、エイミーは愛剣にゆっくりと手を伸ばした。


「力を……貸して…………お願い……」


 エイミーはもはや自分の力ではどうすることも出来ず最後の賭けに出た。自分になら出来るはずだと信じて。

 目を静かに閉じた彼女は、記憶に残るその凛々しい姿を思い浮かべながら詠唱を開始した。


〈創世の騎士…………それは世界を守る……絶対の守護者……我が記憶に眠る…………初源の騎士よ 我が名はエイミー=ラ=フォンテーヌ=ローザンヌ 創世の力を受け継ぐ者なり 我が願いを聞き入れ……女神の下よりその姿を現せ 汝の名は……エミリア=ラ=フォンテーヌ=ロザンヌ 全ての騎士を従えた……騎士女王よ〉


「この魔力は何だ?」


 エイミーを包み込むように集まり始めた魔力は、これまでとは違って黄金の輝きを放つ綺麗な魔力であり、そんな力の存在を知らないタルウィとザリクは初めて驚きの表情を見せた。

 やがてその魔力が晴れわたるとそこには一人の若い女性が立っていた。

 黄金に輝くブロンドの長い髪と透き通るようなマリンブルーの瞳は一緒だったが、明らかに背の高さも雰囲気もエイミーとは違っていた。


「……灼熱の覇王タルウィに旱魃の魔女ザリク。お久しぶりね。創世戦争では随分と世話になったわ」


 凛とした姿のその女性は、ディアーナたちを一瞥すると微笑みながら言葉を告げた。


「あとはお任せを。我らが子孫たちよ」


 剣を手にした彼女は軽く手の中で回転させてから二人の悪霊に刃を向け、その姿を見て厳しい顔つきになった悪霊二人は同時に剣を向けて彼女と相対した。

 一方、何が起きているか理解出来ないディアーナたちは、一番理解していそうなフレイヤに視線を向けギョッとした。彼女は両手で顔を覆いながら大粒の涙を流していたのである。

 やがて彼女の口から、その人物の名前が静かに語られた。


「彼女は…………創世戦争を勝利に導いた英雄……エミリア=ロザンヌ様です。そして我らが母である女神アスタロト様の力を最初に受け継いだ……創世の騎士です」


 三千年の時を越えて現れた彼女の姿に号泣するフレイヤ。

 そんな風神様に優しい笑顔を送った彼女は、スッと表情を変えると二人の悪霊に強い口調で告げたのだった。


「その身に再び刻め。敗北と屈辱を。そしてこの現世から消えろ。現世にお前たち悪霊の居場所は無いと知れ!」


 




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