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アグリジェント戦記  作者: 黒いたぬき
帝国改革編
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帝国会議

「帝国軍の再編が急務であるということは理解しております。ですがこの案には賛同出来かねます。なぜ領主軍が戦力を制限されなければならないのでしょうか」

「その通りです。領地を守るのは領主の役目です。ですがその軍備を制限されたらその役目を果たせなくなります」


 戦後始めて開催された帝国会議。その会議に提出された議題は多くの波紋を生み出した。そしてその議題に真っ向から反対を唱えたのはやはり道楽貴族たちだった。


「先の戦争において領主軍は殆ど活躍しなかった。特に帝国東部の領主方は一兵も派兵しなかった。それで何が領地を守るだ。恥を知れっ!」


 そんな反対を唱える道楽貴族に対して、帝国騎士団団長エイミー・ベンフォードも正面から反論を口にした。


「領主軍が役に立たない以上、帝国騎士団を強化するのがもっとも効率的だ。そもそも領地を守るのに強大な兵力は必要ない。特にこの議題に反対されている帝国東部の領主方にはな。そもそもどこに敵がいるというのだ。今回の戦争においても被害を受けていないではないか」

「東部だから戦力は必要ないというのか。馬鹿馬鹿しい!」

「領主軍に取られた戦力を国境の警備に回せば良い話しだろう。そもそも軍も持つなとは一言も述べていない。過剰な戦力は必要ないと申し上げているだけだ」


 力を失うことを避けたい領主たちと、その力を削いで皇帝の下に力を集結させたいエイミー。考えている事が正反対であるが故に、互いがそれを理解することは無かった。何よりもエイミーが説得を考えていおらず必要以上に煽っているため、反対する領主たちが頷く事は絶対にないのである。


「エイミー殿はそう仰るが、ステラ侯爵も多くの戦力を保有しているはずです。ならば模範を示す為にも、まずはそちらが領主軍を削減するべきでは?」


 自分たちの戦力が削減されるのは困る領主たちは、その攻撃の矛先を五大貴族であるベンフォード家へと向けた。今やエイミーの実家であるベンフォード家がこの議題に異を唱えると思ったからである。だがそれは無駄に終わることとなる。


「現在、我がベンフォード家は領主軍の削減を進めております。先の大戦において、帝国騎士団が侵略に対抗しうる存在だということは証明されました。ならば私たちが大きな軍を持つ必要ないでしょう」


 ベンフォード家の現当主であるエリノアは、率先して領主軍の削減を進めていた。それは何もエイミーの提案を受け入れてのことでは無かった。北部と南部への出兵と支援。膨大な戦費を戦争に投入したことにより、強力な軍を維持するのが困難になっていたのである。

 その代わりに彼女は将来を見据えて領地と北部領への投資を進めていた。復興事業は金になる。まさに領主として彼女は軍の削減を進めたのである。もっとも道楽貴族たちはそんなことは知らないので、その言葉を聞いて彼らはエイミーの提案を受け入れたのだと思ったのである。


「なっ……。で、では他の五大貴族の方々はどうなのです? この様な領主の権限を奪うような提案を受け入れるつもりなのですか?」

「防衛を騎士団が肩代わりしてくれるというのなら別に反対する理由は無いな」

「その通りです。特に我々の領地は戦争によって甚大な被害を受けましたから。そもそも領地の復興には金が掛かります。軍を維持する余裕はありません」


 道楽貴族の問いかけに対して、フルダ辺境伯アウレールとホルステン侯爵フロストがエイミーを支持するような言葉を返した。だが最後の一人であるハンブルグ侯爵エルザだけは曖昧な答えを返した。


「すぐに賛成は出来ません。これは領主の権益に関わることですので、慎重に判断したいところです」

「さ、さすがはバクスター家の現当主ですな。陛下、この議題は慎重に議論すべきです」


 エルザの言葉を聞いて勢いを若干取り戻した道楽貴族たちは、ヘルムフリートに対して議論を先延ばしにすることを求めた。


「確かにこの議題は帝国貴族の根幹を揺るがしかねないものだ。慎重に検討すべきことだろう」

「では陛下、この件はまた――――」

「仕方が無い。この件はまた次回検討しよう。皆も思うところがあるようだからな」


 ヘルムフリートの決定に異を唱える者はおらず、この議題は一週間後の帝国会議に持ち越されることとなった。そしてこれにより話題は被災地の復興へと移ることになった。


「最優先課題はフルダ辺境伯領とホルステン侯爵領。そして帝国北部の復興だ。どちらも帝国防衛の最重要拠点であり、同時に帝国経済を支える重要基盤だ。早急に再建しなければならないが生憎と予算は無いに等しい。対策は?」

「臣民に対して臨時徴収を課してはいかがでしょうか?」

「今の税でさえ納められない臣民が多数いる。そこに臨時徴収など課したら、多くの臣民が路頭に迷うだろう。そうなれば経済は打撃を受ける。駄目だ」

「やはり軍事予算を削減してはいかがでしょう? 戦争は終わったのですから」

「再建は絶対だ。軍事費の削減はあり得ない」

 

 ありきたりな提案しか示さない道楽貴族たちに半ば呆れた表情を浮かべたヘルムフリートが強い口調で否定の態度を見せると、彼らは口を閉ざして互いに顔を見合せた。

 その行為が余計に機嫌を損ねる結果となり、ヘルムフリートは眉間にシワを寄せ始めると鋭い視線で

道楽貴族たちを睨みつけた。


「ではこういうのはどうでしょう陛下」

 

 そんな悪循環に陥った空気を、一人の若い貴族が打開しようとそう言葉を発した。自ずと視線は彼に集中することになったが、若いは貴族は緊張することなく話を続けた。


「借用です。国家の借用ですから国債とでもいいましょうか」


 今までにない提案にヘルムフリートは、しばらくの間じっと彼を眺めた。


「……話を続けろ」


 興味が湧いたヘルムフリートが続きを促すと、若い貴族は一礼してから対策案を話し始めた。


「臨時徴収はあくまで納めるものですが借用は違います。借りるのですからそれは返す必要があります。それも利子を付けて。元々、帝国の経済は大陸最大。復興が進めば税収も元に戻るはずです。復興完了後、借用した金を利子付きで返していく。その利子を期間によって変動することにすれば、少なくとも商人たちは興味を示すでしょう」


 この提案をヘルムフリートは頭の中で考えた。確かにこの方法なら、疲弊した経済の崩壊を心配する必要はない。あくまでも任意で金を貸してくれる人間を募るのだから。金を貸そうとする人間は、余裕のある人間だけだ。

 そして金を貸した相手も、将来的には貸した以上の金が手元に戻って来ることになる。これはどちらにも利益のある提案だった。ヘルムフリートはそこに至り満足そうな表情を浮かべたが、若い貴族はそれを見て今度はマイナス面について語り始めた。


「ただこの手の手法は信頼が大事です。それと貸してくれる相手は余裕のある人。つまりこの時世に力を持つ人間ということになります。つまり期間までに返済出来なかった場合、それは不満となって爆発することになります。しっかりと計画を立てなくては将来、帝国が崩壊することになります」

「確かにな」

 

 そう答えたヘルムフリートであったが、すでに腹の内は決まっていた。斬新な手法を提案する人間は、自分の主張に自信を持っているために、そのマイナス面に対して意外と考えが及んでいない事が多い。

 だが目の前の若い貴族はそのマイナス面を計算した上で提案を行ってきている。つまり彼の頭には、この提案を成功に導く具体案がすでに出来上がっているということだ。


「面白い案だ。貴様を復興担当責任者に任命する。早急に復興にかかる予算を算出して、その案を実現してみせろ。それと返済計画についてもだ。いいな」


 ついさっきまでの不機嫌な気分が吹き飛んだヘルムフリートがそう告げると、若い貴族は片膝をついて頭を深く下げ答えた。


「はっ。必ずや陛下のご期待に答えてみせます」

「では本日の帝国会議を終了する」

 

 その言葉を聞いて貴族たちが立ち去って行くのを見送っていたヘルムフリートは、やがて椅子に背中を預けながら、隣に座るテレージアに向かってこう切り出した。


「若い貴族にも使える人間がいるではないか。何かと難癖をつける厄介者どもしかいないと認識していたが、どうやら改める必要がありそうだな」

「確か彼はバルト家の次期当主ですよ。確かベスター家の長女が嫁いでいます。戦争にも兵を派遣していますよ」

「バルト家の者だったか。ベスター家の長女が嫁いでいるならならそう案ずることも無いな。問題はやはりエイミーの提案だな」


 先程の光景を思いだして表情を険しくしたヘルムフリートと同じように、テレージアもその顔を顰めていた。 

  

「本当に彼らは何を考えているのでしょうね」

「権益を守る事だけだろう。復興にも手を貸す気は無いのだろうな」


 道楽貴族たちの態度からそう考えたヘルムフリートだが、その予想はほぼ間違いでは無かった。何せ彼らは遊ぶこと以外では金を使わない人種なのだ。


「やはり消えてもらう必要があるな」

「そのためにもバクスター家のエルザがどこまで敵を欺けるかですね」


 エイミーの提案に難色を示したエルザだったが、実はあの行動は最初から計画されていたものだった。反皇帝の先頭に立って敵を纏める。それがエルザに課された使命だったのである。


「まぁあまり心配はしていない。あの娘は帝国のために戦ってくれる人間だ」


 最後にそう告げたヘルムフリートは、椅子から立ち上がるとテレージアに手を差し出した。そしてテレージアがその手を取ると、二人は仲良く会議場から出て行ったのだった。

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