表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アグリジェント戦記  作者: 黒いたぬき
帝国改革編
101/173

秘密のお茶会

「以上がハンブルグ侯爵領ヴァイマールで起こったことです。いかがでしょうか?」


 戦勝パーティーの翌日、皇帝家が使用するプライベート庭園。そこに集まった人々は、ハンブルグ侯爵領で起こった出来事を神妙な面持ちで聞いていた。その場に集まったのはエイミーを始め、皇族全員と調査を指揮したリヒャルダとバクスター家の娘エルザであった。


「……それだけの情報では何とも言えません。その話で分かるのは、バクスター家が王国と繋がっていたということだけですが」


 話を聞いて推測を交えることなくただ感想だけを述べたエイミーは、斜め向かいに座るエルザを見つめながらそれだけ答えると、温かい紅茶を洗練された動作で口に運んだ。


「彼女に責任はありません。徹底した調査を行いました。それはこの私が証明します」

「……ふぅ。それで貴女は何を知りたいのかしら」

「この様な事態を引き起こした犯人に決まっているっ! ……失礼しました」


 実家で起きた惨劇を防げず犯人すら不明の状況に苛立つエルザは、エイミーの態度に苛立ち声を荒げたが、すぐに皇族の前であることを思い出して謝罪の言葉を口にした。


「犯人は貴女の両親なのでは? 王国と密約を結び、それがバレそうになって凶行に及んだ。実際、貴女の父親は凶器である剣を持ち血塗れだったとか」

「それは……その通りです。ですがもはや両親は正常な状態では無かった。何か理由があるはずです」


 一瞬だけ言葉を濁したエルザだったが、実際にその目で現場を見ているために否定することは無かった。だが彼女にはどうしても両親の仕業だとは思えなかったのだ。


「王国との密約に気付いた貴女が領主軍を動かして屋敷を制圧。その際の戦闘で多くの死傷者が出た。それでこの件は終わりにしましょう」

「ふざけないでっ! 何も知らずに終わりにしろと言うの?」


 その態度に我慢できなくなったエルザはテーブルを叩いて声を張り上げて立ち上がったが、そんな彼女をエイミーは冷めた目で見つめたまま言葉を返した。


「帝国騎士団長エイミー・ベンフォード・ステラが命じる。この件を調査するのは終わりだ。それに納得出来ないというならバクスター家を反逆罪で取り潰す」


 あまりの横暴さに言葉を失ったエルザだったが、それはその場にいる全員が同じだった。皆が動きを止めてエイミーを見つめていた。


「……なぜです? なぜ終わりなのです?」


 しばらく重い空気が漂っていたが、エルザの今にも泣きそうな一言によってその空気は崩された。そんな彼女を見て、エイミーは大きなため息を吐き出してから口を開いた。


「座りなさいエルザ。ただし真実で救われるとは限らないわ。それを肝に銘じて話を聞きなさい」


 最後まで冷徹に成り切れなかったエイミーは、真剣な表情になると推測を交えて話し始めたのだった。それによって彼女が傷つくと分かっていながら。


「この事態を引き起こしたのはべリアルで間違いない。彼女は謀略を得意とする五大悪霊の直属の部下よ」


 その名前を告げたエイミーはエルザをしっかりと見据えると、彼女にとって辛い真実を言葉にした。


「べリアルの魔法は心に野心を抱いている者が掛かりやすい。つまり……貴女の両親は心の奥底で野心を抱いていた。だから帝国を裏切り王国と密約を結んだのよ」


 エイミーの言葉を聞いた誰もが口を閉ざして震えるエルザに視線を向けた。


「つまり私の両親は……五大貴族でありながら帝国を守る気が無かった……最初から……この帝国を裏切る気だったと貴女は言いたいのですか?」

「『謀神のべリアル』。彼女の前では誰も野心を隠すことは出来ない。例え虐殺の犯人では無いにしても、裏切りも者だという事実は変わらないわ」


 両親は裏切り者。エイミーはエルザが傷つくことを理解しながら、はっきりとした口調で事実を口にしたのだった。




「随分と辛辣だったな」


 放心状態のエルザがリヒャルダに連れられてその場を去ってから、ヘルムフリートは咎めるわけでも責めるわけでもなくただ感想を述べた。


「最初に私は言いましたよ。真実で救われるとは限らないと」


 重い話を終えて少々疲れていたエイミーは、それだけ告げると冷めた紅茶を口に運んだ。そして空になったティーカップの底を見つめながら言葉を続けた。


「悪霊は今度こそ必ず葬る。奴らには私も借りがありますから」

「借り?」


 その言葉に反応したテレージアが思わず尋ねたが、すぐにその表情を凍らせたのだった、何故ならそこに座るエイミーがどす黒い魔力を体から放っていたからである。その場にいた殆どが恐怖を感じて、心の底から湧き上がる恐怖に膝を震わせるなか、エイミーは冷めた声で言葉を紡いだ。


「そうです。だから必ずこの手で葬る」


 左手をゆっくりと上げたエイミーは、話が終わると同時に手を握ってみせた。必ず潰す。まるでそう宣言するかのように。


「それは頼もしい事だが、もう少しその魔力を抑えてくれないか? 恐ろしくて震えてしまう」


 エイミーが放つ威圧をものともしないヘルムフリート。彼の言葉を聞いてようやく我を取り戻したエイミーは無意識のうちに放っていた威圧を引っ込めると、素直に頭を下げて謝罪を口にした。


「さて、やりたい放題をこうして許してしまったわけだが今後はそうはさせない。ついては帝国軍の再編と被災地の復興だ。軍を立て直して経済を復活させる。問題は山積みというわけだ」


 フィーナが新たに淹れた紅茶を飲みながら、ヘルムフリートはこれからのことを話し始めた。


「次の帝国会議で、軍の再建と被災地の復興を議題に上げるつもりだ。そして敵をはっきりさせようと思う。ついては明日のやり取りについて相談したい。確実に敵を把握したいからな」

「もちろんです。そのように約束しましたから」


 今後のために助力することを約束していたエイミーは、躊躇うことなくそれに同意した。


「ありがとう。それでお主にはディアーナと軍の再建を行ってもらいたい。今の体制を大きく見直すか現状から立て直すかは好きにしてくれ。とにかく精強な軍として再建してもらいたい」

「了解しました陛下。一応、案はありますので、ディアーナ様と少し検討してみたいと思います」


 立ち上がったエイミーは軽く頭を下げると、すぐに作業を開始するためディアーナを連れてその場をあとにした。


「それにしてもバクスター家をどうするか」


 エイミーたちが立ち去ったのを見送ったヘルムフリートは、まるで独り言の様にそんな言葉を呟いた。だがその視線は明らかに娘のリゼールに向いており、彼女に尋ねているのは明白だった。


「……エイミー様のご提案通り、王国との密約に気付いたご息女エルザ様が領主軍を動かして屋敷を制圧。その際の戦闘で多くの死傷者が出た。これで領民を納得させるべきだと思われます」

「その理由は?」 

「五大貴族は本来、皇帝に絶対の忠誠を誓う貴族であり守護する家系です。ですがカルヴァート家が反逆罪で既に取り潰されています。その上バクスター家まで取り潰せば、五大貴族の権威は失墜するでしょう。それは反皇帝派の勢いを強めるだけだと思われます」

「内通していた事実だけでも十分攻撃材料になる。その時点で権威は失墜するだろう」


 取り潰そうが庇おうが結果は同じだ。そう告げるヘルムフリートに、リゼールは微笑みながら策を口にした。


「それを利用しましょう。バクスター家には反皇帝の先頭に立ってもらいます。バクスター家の領主軍は強大です。それが反皇帝の先頭に立てば、間違いなく野心のある者たちは乗るでしょう。それに一度は内通した家です。再び裏切っても彼らは何も疑問に思わないでしょう」

「あのエルザがそれに乗るか?」

「逆らえば取り潰せば良いのですよ」


 はっきりとした口調で策を告げるリゼールだが、その中身は完全に謀略と呼べる代物であった。


「お前の行く末が心配になるな」

「本当ね。昔は純真な子だったのに」

 

 かつては優しく誰かを陥れる様な真似など絶対にしなかったリゼールの変化に、両親は揃ってそんな声を上げた。だがそれを聞いた彼女は、不思議そうな表情を浮かべ首を傾げていた。


「私は何か変なことを言いました?」


 リゼールが今まで口にした言葉は、別に誰かを嵌めようと思って考えたものでは無かった。ただ自然と思いついたものであり、彼女にとっては至極当たり前の考えだったのである。


「……本当に将来が心配だな」


 リゼールが謀略を謀略と思わず平然と使いこなす人間であると察したヘルムフリートは、本気で娘の将来を心配した。一歩間違えれば、娘の名前が悪女として歴史に刻まれてしまうからである。


「? どうしたのですか?」


 盛んに首を傾げるリゼール。その名が後世にどう伝わったのかはまた別の話であり、それを知る術をその場にいる全員が持たなかった。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ