一人の男がいた
一人の男がいた。
彼は、苛立っていた。何に、かは彼にも分からない。ただ苛立って仕方なかった。だから周りに当たり散らした。気に食わないことがあれば、気が済むまで暴れまわった。
だがどれだけ暴れても、彼の気分は晴れない。
一人の男がいた。
彼は、求めていた。何を、かは彼にも分からない。ただ求め続けていた。だから周りに誰もいなくなると手を伸ばした。毎日毎日たくましい両手を空気へ伸ばし続けた。
だがどれだけ伸ばしても、彼の手は何もつかめない。
一人の男がいた。
彼は、叫んでいた。何に、かは彼にも分からない。ただ叫び続けた。だから周りは彼の声を聞くと震えた。びくついた周りを見るたびに彼の叫び声は大きくなっていった。
だがどれだけ大声を出しても、彼の胸にしこりが残った。
一人の男がいた。
彼は、諦めていた。何を、かは彼にも分からない。ただ疲れ果てて諦めた。だから周りを視界に入れることがなくなった。地面を見てひたすらに諦めの息をついた。
だがどれだけ諦めても、彼の心に空虚さがあった。
一人の男がいた。
彼は、独りだった。何で、かは彼にも分からない。ただずっと一人だった。だから周りにいつも誰かを連れて歩いた。たくさんの人間を連れて歩いた。
だがどれだけ引き連れても、彼の孤独は埋まらなかった。
一人ぼっちの男がいた。
彼は、知らなかった。何を、すら彼には分からない。ただ知らなかった。だから彼は周りに誰かがいても一人ぼっちだった。
そして永遠に彼が知ることはなかった。
真っ赤に燃えた城の中で、彼は笑った。どうしてこうなったのか。彼には分からない。ただ、自分を傷つけるほどに苛立ち、痛みを堪えて手を伸ばし、血反吐を吐くまで叫び、空虚さを抱えて諦めることを、もうしなくていいことは理解した。
だからこそ彼は笑ってこの宴の主催者に、言葉を贈った。
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男のイメージは織田信長だったんですが、出来上がったら時代背景の描写が全くなかったので誰でもいいという落ち。なお、イメージを優先するために織田信長についてろくに調べてません。
さて、最後に彼がなんと言ったのか。伝わるといいなぁ。
もっとこうファンタジー風味なお題作品書きたい。