開戦
翌朝――。
カインの幕内にカント、クリス、ハルトが集まった。すると――。
「伝令――――っ!!!敵軍の出撃が確認されました!!先陣を率いるのは第二軍団長のアリシア!後陣を第三軍団長のワーズが率いております!!」
「ついにこのときが来たか…。カント殿は早速二万の兵とともに迂回して三キロ先に伏兵を仕掛けてくれ。私はまっすぐ向かい、五キロ先で敵軍を迎え討つ!」
カインが言う。そのとき、全員が息を吞んだ。
「では…、出陣!!!」
カインの号令とともに、四人は幕舎を駆け出した。
「全軍、我に続け!!!何としてもセシル自治領を死守するのだ!!」
カインの叫び声とともに、二万の兵が討って出る。しばらく進むと、前方に砂塵が見えた。
「敵軍か」
カインは慎重だった。
「我こそは帝国第二軍団団長アリシア!!」
そう叫んだのは敵軍の先頭を率いる黒髪の女性だ。漆黒の鎧に身を包み、馬上で剣をかざした。
「おおお!来たか!!!我こそはルミニエク自治軍団長カイン!!!侵略者どもめ、覚悟しろ!!!」
二人の声に合わせ、両部隊が激突する。カインとアリシアは真っ先に剣を交えた。一合、二合――。戦場に冷たい金属音が鳴り響く。キィ―――ン。三合目で二人の剣が止まった。
「ふん、三十にもならぬ小娘が小生意気な!!!」
カインが睨む。
「そちらこそ、名声は聞き及んでいるが、過去の英雄であろう!!そろそろ引退してはいかがか?!!!」
アリシアは負けじと叫んだ。
「なにを―――っ!!!」
怒ったカインは大きく剣を振りかざした。
「スキあり!!」
瞬間、アリシアはカインの懐に剣を突き出した。しかし、間一髪、カインはその剣をかわす。
「くっ!やむをえん!退却だ!!」
カインの号令とともに、全軍が踵を返した。
「待てっ!!老兵が!この程度で背中を向けるのか!!」
アリシアは思い切り馬の腹を蹴った。逃げる連邦軍を帝国軍が追いかける――。そう、これこそがカインの策略であった。
カントは二万の兵とともに馬を飛ばした。故郷を思うカントにとって、仇討の機会である。なんとしても作戦を成功させたかった――。
「よし、このあたりでいいだろう。茂みの中で待機だ」
カントはそう言うと部隊を雑木林の中に隠した。全軍が息を殺して敵軍を待つ。しばらくすると、先に進んでいたカインの部隊が退却してきた。それに続き、大きな砂塵が後を追いかける。
「カント様!敵軍です!敵の部隊が現れました!!」
カントの部隊に斥候からの連絡が入る。
「静かに。ここはやり過ごすんだ。ワーズ率いる後続部隊の腹を叩く!」
はやる気持ちを抑え、カントはじっと待機した。まだだ。まだだ。まだだ。心の中でそう言い続けた。
「進軍速度が速いようだが、一体前線はどうなっているのだ?」
短い白髪頭に立派な口ひげとあごひげをした男が馬上で叫ぶ。
「はっ!ワーズ様、どうやら、敵将カインがアリシア様の部隊により敗走している模様です!」
「ふむ…。カインが敗走…。嫌な予感が…」
ワーズが悟ったそのとき――。
「敵襲―――――っっ!!!!我が隊は前後に分断されました!!!」
突然の襲撃に帝国軍は浮足立った。
「くそぉっっ!なぜもっと早く気付かなかったんだ!!我が隊は引き返すぞ!!」
ワーズは踵を返して後続へと駆けて行った。
「我こそはルース自治軍団長、カント!!!憎き帝国軍に報いん!!!」
カントは混乱する帝国軍の中、剣を振り回して奮闘した。すると、帝国軍の中に変化が起きた。
「あれは、カント様!!カント様がご無事でいらっしゃるぞ!!!」
「お、俺も帝国に家族を奪われた……。そんな帝国なんかの犬になり下がってたまるか!!もう一度、カント様の下で戦うぞ!!」
こうした声とともに、元ルース軍の兵たちが次々とカントの部隊に寝返った。
「何事だ?!」
後続部隊の異変に気付いたアリシアが叫ぶ。
「はっ!後続部隊が伏兵に遭い、攻撃を受けております!!」
「なんと!!!退却は策略であったか!!戻れ!!伏兵部隊を挟み撃ちにしてくれん!」
こうしてアリシアも部隊を引き返した。この動きに退却をしていたカインも気付く。
「どうやら、カント殿の攻撃が成功したようだ。我らも本領を発揮するときが来た!!引き返して今こそ敵軍を叩くぞ!!!!」
カインの号令により、連邦軍の先鋒も引き返し、両軍入り乱れての凄まじい戦いが繰り広げられた。最初は連邦軍の奇襲作戦により連邦軍の旗色がよかったが、帝国軍が落ち着きを取り戻し始めるとそういうわけにもいかなかった。やはり、数で勝る帝国軍は強い。