少年
そのころ街では――。
「アレス、そんな剣を振り回して…」
穏やかな女性の声が家の中から聞こえる。外ではアレスが木の幹に棒をぶら下げ、棒に向かって剣を振り回していた。
「だって、もうすぐ戦争になるんでしょ?そんな時に勉強なんてしていられないよ!僕だってこの街を守りたいんだから!!」
アレスは真剣な眼差しで女性を見ている。
「何を言っているの!!戦争は大人の仕事です!!訓練するのはいいけど、戦争になったらあなたは逃げなさい。あなたたち子どもがいなくなったら、それこそ未来はないんですよ」
「母さん……。分かったよ。でも、みんなが危なくなったら、僕だって戦わなきゃいけないんだ。そのときのために練習してるんだよ」
アレスは黒い髪を汗に濡らし、その汗を振り払うように再び剣を振り始めた。
「まったく、この子は…。おとなしい子だったのにどうして…」
「ははは。私に似たのだろう」
奥から鎧に身を包んだ男性が言う。
「あなた…。もうすぐ駐屯地へ出陣ね。気をつけて行ってきてね」
「なあに。他の自治領からの援軍もあるだろう。きっと大丈夫だ。そう心配するな」
そういうと、男性は腰から剣を下げて出て行った。
「ほら、アレス。お父さんが行っちゃうよ!」
「あ、うん!父さん、頑張ってね!!母さんのことは僕が守るから!!」
「アレス…。うむ、任せたぞ。見送りはいらん。必ず生きて帰ってくるからな」
アレスの父は、息子の頼もしい一言に誇らしさを感じた。
「じゃあ、行ってくる!!」
そう言ってアレスの父は家を出て行った。頼もしく出て行く夫を、アレスの母はさびしい気持ちで送り出した。