救援依頼
五日後――。
あれから、セシル自治領では手負いのカントが兵の指南に明け暮れていた。来るべき日に備えて――。
「ティモン様!!!」
ティモンの屋敷に伝令が一人、帰ってきた。バンクル自治領へ向かった伝令である。
「おお、バンクル自治領の反応はどうであった?」
ティモンは気が気ではなかった。
「はっ。バンクル自治領領主のジェームズ様、および、団長のデューク様とのご面会賜るも、出兵拒否!!!ルース自治領陥落の今、帝国を国境に迎えるバンクル自治領にご理解をとのご回答であります!!!!!」
伝令は震える拳を床に叩きつけ、そのように報告した。
「なんだと!!!!!同じ連邦国の自治領として何の協力もないというのか?!そのような回答があるか!!!何かの間違いだ!!!」
ティモンはそう叫び、烈火の如く怒った。
「やむをえまい、ティモン殿」
訓練から帰ったカントが部屋に入ってきた。
「なんと、カント殿!何をおっしゃる?!」
ティモンは怒りが収まらない。
「貴殿がバンクル自治領の領主であるなら、同じ状況で兵を出すことはできましたか?」
カントは冷静に言い放った。
「うむ……。しかし……」
カントの言葉にティモンは沈黙した。
「今後の知らせにも、あまり期待はしない方がいいでしょう。こちらへ兵を出してくれるのはせいぜいルミニエク自治領ぐらいかと。あちらは強国と国境を有しておりませんので。ヨルベル自治領は皇国と国境を有しております。皇国は帝国とは違い、我が連邦国への侵攻の歴史はありませんが、状況が状況。帝国に対抗するために侵攻を開始するとも考えられる。援軍の期待はできますまい」
カントは語った。カントの言うことは正論である。正論であるがゆえにティモンは口をつぐんだ。ちょうどそのとき――。
「ティモン様!ヨルベル自治領へ向かった伝令が帰ってまいりました!」
屋敷の者が声を上げた。それと同時に伝令が部屋へと入ってくる。ティモンとカントは息を呑んで報告を待った。
「ヨルベル領主のリュート様、および団長ムサシ様に拝謁!ムサシ様直属の本軍の来援は不可能とのご回答!しかし、ヨルベル自治軍二万の内、一万をお貸しいただけるとのこと!援軍の将はハルト将軍が務められるそうです!」
この報告はティモンたちにとって救いだった。二人はヨルベル軍も一切兵を出さない覚悟でいたのだ。
「そうか、伝令ご苦労」
ティモンはそう言うと、伝令を帰した。
「よかった。これで我が軍はヨルベル軍と合わせて一万五千。ルース自治領に駐屯している帝国軍は十万。まだまだだ。これではまだ太刀打ちできない」
ティモンは下を向いてそう漏らした。
「あなたがそう悲観してはいけません。あなたはセシル自治領の領主ですよ。いわば領民にとっての希望です。何事も前向きにお考えください」
カントは穏やかにティモンを諭した。そう言いつつも、やはりカントも心穏やかではなかった。帝国軍十万はそれほどの脅威なのである。
「ティモン様!ただいまルミニエク自治領より帰還いたしました!!」
その声とともに伝令が部屋へと入る。
「おお!して、回答はどうであった!」
「はっ!領主カルロス様とご面会したところ、ルミニエク自治軍四万から団長カイン様およびカイン様直属軍の二万の兵を出していただけるとのこと!!」
この報告に二人は胸を撫で下ろした。いくら国境を持たない自治領とはいえ、主力部隊を向けてくれる保証はないためである。
「残すはニース自治領のみか。しかし、援軍は期待できないだろうな。つまり、我々は三万五千の兵で十万を討たねばならない。どうしたものか…」
ティモンは考えにふけった。あと十日もすれば帝国軍十万が襲ってくる。どうしたらセシル自治領を守れるのか、どうしたら領民に犠牲を出さずに済むのか、そのことで頭がいっぱいであった。
「それにしても、ニースへ向かった伝令が遅いですね。ルミニエクへ向かった伝令よりは早く帰ってくると思ったのですが」
ティモンが言った。
「おそらく、領内で揉めているのでしょう。もしかしたら、多少の援軍は期待できるかもしれませんね」
「そうであればよいが……」
ティモンは落ち着かない。
「まぁ、考えても仕方ありません。今後の戦略でも考えて待ちましょう」
こうして二人は戦略会議を始めた。