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弟子入り

 この後、カインたちは陣を引き払いセシル自治領へ帰還した。帰還後はすぐにティモンの屋敷を訪れ、防衛成功と今後のダイモスの協力を報告した。ダイモスの協力にはティモンも歓喜したが、唯一、帝国軍の不可解な退却には不安の色を隠せなかった。

「なにはともあれ、どうもありがとうございました。お陰でセシル自治領始め、連邦の平穏が保たれました。皆様、ぜひここで休息されてからお帰りください」

 ティモンは深々と礼をした。ルース自治領のことは悔やまれるものの、そこにいる誰もがルース自治領の奪還ができるような状況でないことは分かっていた。一同はティモンの屋敷を後にすると、宿へと向かった。一泊して休養を取った後には、ルミニエク自治領へ報告に行くためだ。一同が街中を歩いていると、救国の戦士に向けて喝采が湧き上がる。しかし、ハルトとダイモスに守られたとは言え、セシル自治領には帝国軍が侵攻してしまった。その傷跡が生々しく一同の目に飛び込んでくる。

「もう二度とこのような悲劇を起こさせてなるものか」

 クリスはそう呟いた。その手にはひそかに拳が握られていた。クリスだけではない。そこにいるすべての戦士が胸に誓いを立てた。

「将軍っ!!」

 ふと、幼い声が響いた。一同が辺りを見回すと、先頭を歩くカインの足元に幼い少年の姿があった。その少年の姿を見て、ダイモスが口を開く。

「君は、あの時の少年か」

「はいっ!」

 少年は真っ直ぐにダイモスの目を見て答えた。

「ダイモス殿、この少年をご存知なのですか?」

 クリスの問いかけにダイモスは頷いた。

「少年よ、あの時は君の母上を救うことができず、申し訳なかった。父上にもこのダイモスの詫びを伝えてもらえぬか」

 ダイモスは幼い少年の前に跪いた。この言葉ですべてを悟ったカインたちも目を閉じて(うつむ)き、哀悼の意を表した。

「父さんは…、父さんは戦で行方が分からなくなりました」

 少年の口から発せられた言葉に一同は声を失った。連邦の防衛に成功した戦ではあったが、幼い少年から家族を奪ってしまった。この少年の心の傷を考えると、気休めのような言葉はかけられなかった。

「将軍、クリス様からダイモス殿って呼ばれてましたよね?」

 少年が続けた。少年の目に悲しみの色はない。あるとすれば、それは闘志のようなものであった。

「いかにも」

 少年の様子を悟ったのか、ダイモスもこれにこたえる。

「僕、アレスといいます!僕を将軍の弟子にしてください!!」

 少年の発言に一同は目を丸めた。両親を失った少年が力を求めている――。ダイモスにはそう思えてならなかった。

「アレスよ、なぜ私の弟子になりたいのだ?」

「僕が弱いばかりに母さんは殺されました。だから僕は強くなりたいんです!」

アレスは迷うことなく答えた。その目には力が溢れていた。ダイモスにはその幼い目が復讐の炎に燃えているかのように見えた。そして、真っ直ぐにアレスの目を見据え、一呼吸置いた後、こう言った。

「ではもう一つ質問だ」

 ダイモスの言葉にアレスも真っ直ぐにその目を見て黙って頷く。

「もし今また、目の前で大切な人が兵士に殺されたとしたら、どうする?」

「仇を討ちます!!」


―――パアアァァァン


 アレスが力強く答えた瞬間、その小さな身体は宙を舞い三メートル離れたところに音を立てて落ちた。ダイモスが平手打ちをしたのだ。思いもよらぬ出来事にカインたちは戸惑った。

「ダ、ダイモス殿、いかがされた?!」

 さすがのカインも、幼い少年へのあまりの出来事にたじろいだ。

「アレスよ、あの時の私の言葉を忘れたのか?!逃げろと教えたはずだ!!」

 アレスは殴られた頬をさすりながら呆然としている。

「勝ち目のない戦いに挑んで死ぬのはただの無駄死にだ。無駄死には何も良い結果をもたらさん!無駄死にするかもしれん奴を弟子に取る気はない!!!」

 今まで穏やかだったダイモスからは考えられないほど、彼は鬼の形相をしていた。

「だったら!僕を無駄死にしないくらい強い戦士に鍛えてください!大切な人を守れる強さを僕に教えてください!!!!」

 アレスは立ち上がると、力の限り訴えた。幼いアレスにそこまでさせるほど、かの戦争の影響は大きかった。普通の子どもであれば大泣きしてもおかしくないこの状況でアレスの見せた強さにダイモスも思わず目を見張った。

「ではアレス、私との約束が守れるか?」

 表情を落ち着けたダイモスは、冷静になってアレスに再び問いかけた。

「どんな約束でも!」

「ならば、手にした力は守るために使え。守ること以外で力を使うことは決して許さん。どうだ?守れるか?」

「もちろんです!」

 アレスに迷いなどあるはずもなかった。アレスの揺るぎない決心を受け、ダイモスはアレスを預かることにした。それは、アレスの期待に応えるためでもあれば、両親を失ったアレスを立派な大人に育てるためでもあった。幼いアレスを放っておくわけにはいくはずもない。そこにいる誰しもがそう思った。

「カイン殿、申し訳ないが連れが一人増えてもよいだろうか?」

ダイモスはカインに詫びを入れた。カインもこの申し出を断るはずがなかった。

「あ、ありがとうございます!!!!」

 弟子入りが叶ったと知り、アレスは歓喜した。深々と一礼すると、勇んで一同の後ろについて歩いた。先頭を歩くカイン。その斜め後ろを歩くダイモス。ダイモスの横に並ぶクリス。その一歩後ろを歩くハルト。大きな大人たちの背中を見て、アレスも大人になった自分に思いを馳せた。いつか自分も国を守る戦士になると幼な心に誓いを立てたのである。こうして、小さな仲間を一人加えた一同は、ティモンの用意した宿で休息した。

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