表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/14

一撃

 数時間後、ハルトは陣中に戻ってきた。そして、すぐにカインの幕内へと報告に向かった。

「おお、ハルト殿!ワーズの様子はどうであった?」

 待ちかねていたカインがはやる気持ちを抑えて尋ねた。それはクリスもダイモスも一緒である。

「はっ!思った以上に短気で、最終的に怒って幕舎から出て行きました。しかし、時折冷静な一面も見せておりましたので、総攻撃はまずけしかけてこないでしょう。ただ――」

 ハルトはそこで一つ息をついた。

「ただ、我らに策があるのか、それとも虚勢に過ぎないのか、試してくる可能性はあるかと思われます」

 ハルトの言葉に、カインは顔を曇らせた。どうしたら連邦軍に策ありと思わせ、帝国の足を止めることができるのか思案していたのだ。

「その際は私がなんとかしましょう」

 ダイモスが静かに口を開いた。最初はそれでいいものかと思っていたカインとクリスも、黙って頷いた。ここはもうなんでもやってみるしかないのである。一同が険しい表情で今後のことを考えあぐねていると、慌ただしく一人の兵が幕内に入ってきた。

「敵襲です!三キロ先にアリシア率いる五千の部隊が接近!いかがいたしましょうか?!」

 あまりの行動の早さに、三人は目を見張った。

「さすがはワーズ。やるなら迅速に、か。では、ダイモス殿、お願いいたします。兵は何人ほどご要望ですか?」

 カインが言った。

「五百で結構。同数かそれ以上でぶつかっては、策なしと思われてしまいますので」

 そう言うと、ダイモスは幕舎から出て行った。

 ダイモスはカインの用意した五百の兵を従え、自身はカントの黒馬に跨り、意気揚々と出陣した。ダイモスは連邦陣から百メートルほど離れると、そこで部隊の足を止めた。

「ダイモス様、こんな陣の近くで迎え討っては、もしもの時に味方の準備ができないのでは?」

 兵卒の一人が恐る恐る尋ねた。

「いや、ここはすべて常識から外れた行動をとることが重要。でなければ帝国を欺くことはできない」

 ダイモスはまっすぐに前を見据えて言った。そのダイモスの考えを知っている陣中のカインたちも、陣内では一切、兵を動かさなかった。それはまるで、陣内に誰一人いないかのような静けさであった。

「来たか」

 そう言うダイモスの目線の先には、帝国の女将、アリシアが部隊を率いて迫っていた。敵軍を視界に捉え、ダイモスの戟を握る手に力が入る。

「我こそは帝国軍第二軍団団長アリシア!!望み通り討って出てやったぞ!!!」

 アリシアの叫びとともに、帝国軍が迫る。それに呼応するかのように、ダイモスも馬を飛ばした。百メートル、九十メートルと両軍の距離が縮まるが、馬に乗ったアリシアとダイモスが真っ先に激突した。誰しもが、これから壮絶な戦いが繰り広げられると思った。しかし――。

 勝負は始まった瞬間、終わった。ダイモスの振った戟をアリシアが剣で受け止めようとしたが、抑えきれずにそのまま腹に受け、馬上から十メートル飛ばされた。帝国の軍団長がものの一撃で弾き飛ばされる様を見た両軍は戦うことを忘れ、激突することなく立ち止まった。両軍を沈黙が襲う――。

「我こそは連邦軍の客将ダイモス!勝負を望む者は前に出ろ!!」

 ダイモスは大声で叫んだ。あまりの出来事に、帝国兵は後ずさった。

「それでいい。命は大切にするんだ。アリシアも連れて帰ってやれ。今は気絶しているだけだ」

 ダイモスはそう言うと、無防備に帝国軍に背中を向け、部隊を陣中へ引き揚げた。しかし、帝国軍に戦意はなく、アリシアを担ぐと、兵たちは帝国陣営へと引き揚げた。

 この様子に驚いたのは帝国軍だけではない。幕内から見守っていたカインたちも同じだった。幕内に戻ったダイモスは、言葉を失っている三人に言った。

「これでしばらく、帝国は兵を動かせないでしょう」

 しかし、誰も何も言えなかった。幕内ではただ一人、ダイモスだけが落ち着いて戦後の給水をしていた。これで、持久戦とバンクル自治軍による奇襲の土台は完成したかに思われた。しかし、事態は急展開を迎える――。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ