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始まり

著者の矢吹です。

昔から歴史や群像劇を描いたファンタジーが好きだったので、自分でスケールの大きなストーリーが書ければと思い、ペンを執りました。

なかなか更新の時間が取れないと思われますので、亀の歩みの更新になるかとは思いますが、どうぞお付き合いください。


 ―― 十年前。


 東の国アセトリシア皇国と、南の国パンナム帝国は互いに領土争いをしていた。私の国、ルミニエク連邦国は両国と国境を共有しているため、幾度か両国の争いに巻き込まれた。私の国は、国と言いながらも、六つの自治領の集まりである。最大領のルミニエク自治領を北西に構え、その周囲にパンナム帝国との国境にあるニース自治領、連邦国の中心にあるバンクル自治領、アセトリシア皇国との国境にあるヨルベル自治領がある。私の街はバンクル自治領とヨルベル自治領の南東に位置し、アセトリシア皇国との国境にあるセシル自治領だ。そして、最後の自治領がセシル自治領の西でバンクル自治領の南、パンナム帝国との国境にあるルース自治領―――。各自治領には領主が存在するが、軍隊を有しない政治的な存在でしかなかった。

しかし、東と南に脅威の大国を有し、その両国が直接衝突したため、各自治領は軍隊を持たざるを得なくなった。各自治領は自治軍を有し、団長を置いたが、私のいるセシル自治領だけは軍隊を率いるような猛者もいないため、領主ティモンが指揮を執った。だが、ティモンも武に秀でているわけではなく、実質的には西のルース自治軍の団長、カントが両軍を束ねてくれていた。強国との国境に当たるセシル自治領とルース自治領を守るため、カントは奮闘した。ところが――。


セシル自治領は川の流れる緑豊かな街で、とても紛争の絶えない国境地域とは思えない場所であった。ある日、私は幼馴染のルイとルース川で遊んでいた。ルース川とは、その名の通り、ルース自治領に源泉を有する美しい河川で、果てはアセトリシア皇国にまで流れている。

「アレス!誕生日おめでとう!」

 あの日、ルイはそう言っていた。そう、あの日は幼い私の十歳の誕生日だった――。

 ルイは昔から気立てのいい明るい女の子だ。私と同い年で、魔法の勉強をしていた。私はというと、カント団長がセシル自治領を訪れたときに少々剣術を教わっていたくらいだ。それ以外の時間はルイと遊んでいるか、本で勉強するばかりだった。

「アレスはいつも勉強ばっかして、つまんなくないの?」

 ルイはよくそう言っていた。あの日もいつものようにそう言うルイに、私もいつものように言い返していた。

「そんなことないよ!勉強してるといろんなことが分かるし、勉強ばかりしてるわけじゃない。カント団長から剣術だって教わってるんだから」

「剣術を教わってるって言っても、週に一回程度じゃない。私は毎日、魔法の勉強してるから、いつかアレスなんかよりずっと強くなるんだ!」

 ルイはそう言って笑っていた。確かに、そのときの私もそうなるだろうと思っていた。だが、それでも勉強するのは大事なことだとおぼろげながらに感じていた。

 私とルイが河原でそんな他愛もない会話をしていると――、

「はぁっ、はぁっ……」

 かすれるような息が川上の方から聞こえた。

「な、何っ……?」

 ルイは状況が分からず、怯えていた。いや、ルイだけじゃない。私だって恐ろしかった。だが、その場には私とルイしかいなかった。私がなんとかするしかなかったのである。

「ルイ、そこで待ってるんだ。僕が様子を見てくる」

「アレス…。気をつけてよ。危ないと思ったらすぐに戻ってきてね!」

 ルイの心配は嬉しかったが、喜ぶ余裕もなく、僕は川上にある大きな岩へと近寄った。恐る恐る岩の向こう側を覗き込むと――。

「カント団長っっ!!!」

 そこには全身から血を流し、水に濡れた青年が荒い息遣いで岩に寄りかかって座っていた。

「お、おぉっ…。アレスか……。よかった…。すまんが、ティモン殿のところまで……、行きたいんだ……。肩を貸してくれんか……」

「は、はいっ!団長!!」

 私は混乱しながらも、カントが戦争で負傷し、落ち延びてきたことぐらいは分かった。慌てて肩を差し出すと、何か棒のようなものが見えた。

「団長!矢が、肩に矢が刺さってるじゃないですか!!!」

「大丈夫だ…。そのままにしておいてくれ。下手に抜くと矢じりが残って危ない…。軍医に見てもらうまで……、こ、このままでいい……」

 私は待機させておいたルイを呼び、一緒にカントを運んだ。自分たちよりもずっと大きな身体の大人を運ぶのは大変だったが、今がそれどころではないことは子どもでもよく分かっていた。私たちはカントを街まで連れて行った。街に着くと、私たちに気づいた大人たちが代わってカントをティモンの屋敷に担ぎ込んだ。カントのことが心配だった私とルイも、一緒になってティモンの屋敷へとついて行く。

「カント殿!!大丈夫ですかっっ!!」

 知らせを聞いていたのか、血相を変えた白髪交じりで口ひげを携えた男性が屋敷の門のところまで駆けだして来ていた。彼がティモンである。

「わ、私のことは構わない…。し、しかし、お耳に入れたいことがある……」

「ど、どうされたっ?ルース自治領で一体何が…」

「子どもたちの前だ…。詳しくは屋敷の中で…」

 そう言いながら、カントは私たちの方を見ていた。

「そ、そうだな。おい!カント殿を屋敷へお連れしろ!医者の手配も忘れるな!」

 ティモンはそう声を上げ、屋敷のお手伝いと一緒になってカントを担ぎ込んだ。

「さぁ、アレス、ルイ。あとは任せて家に帰るんだ。ここまでよくやってくれたな」

 カントを屋敷へと担ぎこんでくれた大人に言われ、渋々私たちは家に帰った。

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