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私が着られなかったロリータ服を、異世界で広めます。  ―転生令嬢のドレス革命―  作者: 烏斗
第2章:初めての一着

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第9話 ざわめき

フェリシアが会場へ入ってから、しばらく。


夜会の空気は、どこか落ち着かなかった。


音楽は流れている。

会話も途切れない。


それでも——


視線だけが、同じ方向へ引き寄せられていく。


フェリシア・ルミエール。


会場の中央近くで、彼女は姿勢を保っていた。


背筋を伸ばし、手を重ねる。

その立ち姿に乱れはない。


だが目を引くのは、やはりドレスだった。


スカートが、丸く広がっている。


落ちるのではなく、形を保つ。

空気を含み、柔らかな曲線を描く。


今夜の流行とは、明らかに違う。


細く絞ったウエストに、後ろへ流すライン——

それが王都の主流。


だがこのドレスは、前から見ても横から見ても、

均整の取れた半円を描いていた。


裾のフリルは細やかで、主張しすぎない。

色合いは落ち着き、レースは繊細。


胸元の小さなリボンが、全体をやわらかくまとめている。


そして——ボンネット。


顔まわりを縁取る装飾が、印象を一段引き上げていた。


装いは、ばらばらではない。

一つの形として完成している。


令嬢たちは、遠巻きにそれを見ていた。


「……綺麗」


一人が呟く。


「いいえ」


別の令嬢が首を振った。


「綺麗というより……可愛い、かしら」


その言葉に、空気がわずかに揺れる。


「ええ」

「でも子供っぽくないわ」

「むしろ上品ね」


評価が揃い始める。


「どうしてあんな形になるの?」


視線がスカートへ集まる。


「自然に広がっている……」

「作っているのに、不自然じゃない」


興味が、好奇心へと変わっていく。


令嬢たちは距離を詰めた。


最初は数歩。

やがて、輪ができる。


観察するための距離。


フェリシアはその中心にいた。


(……見られてる)


逃げ場はない。


だが——


嘲る気配はなかった。


あるのは、探るような視線。


一人の令嬢が、意を決して声をかける。


「フェリシア様」


「はい」


「そのドレス……」


一瞬だけ言葉を選び、はっきりと言った。


「とても素敵ですわ」


周囲も続く。


「見たことのない形だけれど……」

「可愛い」

「近くで見てもいいかしら?」


フェリシアは小さく息を吐いた。


(……よかった)


肩の力が、わずかに抜ける。


受け入れられている。


その実感が、ようやく形になった。


——だが。


少し離れた場所で、その光景を見ている令嬢がいた。


ヴィオレッタ・アルディーニ。


腕を組み、視線を向ける。


今度は、目を逸らさない。


広がるスカート。

動いたときの揺れ方。

そして——周囲の反応。


(……浮いている)


まず浮かぶのは、その感覚だった。


流行から外れている。


それなのに——


(崩れていない)


むしろ、視線を集めている。


令嬢たちの距離が少しずつ縮まっていく。


拒絶ではない。


興味。


(どうやっているの?)


視線がスカートに落ちる。


自然に広がっているように見えるが、

偶然ではない。


(仕組みがある)


確信まではいかない。


だが、感覚はある。


ヴィオレッタは小さく息を吐いた。


(……作っている?)


ドレスを。


それとも——


視線が、フェリシアへ向く。


(……面白い)


フェリシア・ルミエール。


その名を、改めて意識する。


長く続いた流行は、安定している。


だが——停滞でもある。


今夜。


その均衡に、わずかなひびが入った。


まだ小さい。


けれど確実に。


社交界の空気が、変わり始めていた。

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