第7話 ロリータは頭まで完成する
フェリシアは鏡の前に立ったまま、自分の姿を確かめる。
胸元。袖。広がるスカート。
パニエが作る丸い輪郭に、フリルとレースが重なる。
軽く回る。
裾が遅れて揺れ、形を保ったまま戻る。
「……うん。いいわね」
「とてもお似合いでございます」
クラリスの言葉に、フェリシアはもう一度鏡を見た。
可愛い。
それは間違いない。
前世で思い描いていた姿に、かなり近い。
——けれど。
「あとは……」
「まだあるのですか?」
フェリシアは自分の頭を指した。
「ここ」
クラリスが目を瞬かせる。
「頭、ですか?」
「ええ」
わずかに口元を緩める。
「足りないのは、そこよ」
記憶がよみがえる。
雑誌のページ。街で見かけた人影。
完璧に整えられた装い。
そして——
(ロリータは)
(頭まで含めて完成する)
机に向かい、紙を引き寄せる。
ペンを走らせた。
丸いフォルム。顔を囲うフリル。
顎下で結ぶリボン。
クラリスが覗き込む。
「……帽子でしょうか?」
「違うわ」
指先で紙を軽く叩く。
「ボンネットよ」
「ボンネット……」
聞き慣れない言葉に、クラリスは眉を寄せた。
フェリシアは続ける。
「顔まわりを飾るためのもの。ドレスと一緒に使うの」
クラリスは絵とフェリシアを見比べた。
「……少し、やりすぎでは?」
その一言は、これまでになかった反応だった。
だがフェリシアは笑う。
「いいの。やりすぎくらいがちょうどいい」
迷いはなかった。
「むしろ——中途半端な方が、綺麗に見えないわ」
クラリスは一瞬だけ言葉を失い、やがて小さく息を吐いた。
「……承知しました」
その日のうちに、侯爵家お抱えの帽子職人が呼ばれる。
設計図を見た職人は、目を細めた。
「これは……珍しい形ですね」
「作れる?」
短く問う。
職人は図面をなぞり、やがて頷いた。
「ええ。構造は単純です」
そして、口元を上げる。
「ですが——見せ方が新しい」
数日後。
フェリシアの部屋に、小さな箱が運び込まれた。
蓋を開ける。
白いレースとリボンで飾られた、小ぶりなボンネット。
手に取ると、軽い。
指先に伝わる柔らかさが心地いい。
それを頭に乗せる。
リボンを顎の下で結び、鏡へ向き直る。
クラリスが息を呑んだ。
ドレス。広がるスカート。
そして、顔を縁取る装飾。
すべてが一つの形として繋がる。
フェリシアが回る。
スカートが弧を描き、ボンネットのリボンが揺れる。
その動きさえ、計算されたようにまとまっていた。
「……ほら」
鏡越しに視線を送る。
「これでどう?」
クラリスは、迷いなく答えた。
「——完璧です。」
その言葉は、先ほどまでの「可愛い」とは違っていた。
フェリシアは鏡の中の自分を見つめる。
(これが——)
胸の奥で確信が形になる。
(ロリータ)
静かに息を吐く。
「これで完成ね」




