第6話 『クラシカルロリータ完成』
「クラリス」
鏡越しに呼ぶ。
「もう一度、ドレスを」
「はい」
クラリスは頷き、試作を差し出した。
淡い水色の生地に、小さなリボン。裾には控えめなフリル。
それだけでも十分に愛らしい。
だが——
フェリシアは、その下に新しく仕立てた下着を身につける。
「それが……例の?」
「ええ。パニエよ」
まだ信じきれていない顔だった。
ドレスをかぶり、袖を通す。
腰のリボンを引き、結ぶ。
そして、鏡の前へ。
次の瞬間。
クラリスが息を止めた。
「……あ」
スカートが、広がっている。
ただ落ちる布ではない。
空気を抱き込んで、丸く形を保っている。
先ほどまでのドレスとは、別物だった。
フェリシアが一歩踏み出す。
軽く回る。
裾が追いかけるように揺れ、遅れてふわりと戻る。
「……すごい」
「でしょう?」
間を置かず、フェリシアが返す。
クラリスははっきりと言った。
「とても可愛いです。さっきまでとは、全然違います」
その言葉に、フェリシアは鏡へ視線を戻す。
リボン。フリル。そして、この膨らみ。
すべてが噛み合っている。
(……できた)
胸の奥が高鳴る。
前世で憧れていた形。
本でしか見られなかったシルエット。
それが今、自分の手で再現されている。
「クラリス」
「はい」
「これ、流行ると思う?」
即答だった。
「はい。間違いなく」
その言い切りに、フェリシアはわずかに笑う。
そのとき。
廊下の向こうから声がした。
「クラリス? 何かあったの?」
別の侍女だ。
扉が開き、顔を覗かせる。
そして——止まった。
「……え?」
視線が吸い寄せられる。
広がるスカート。整った輪郭。
見慣れない、完成された“形”。
「……なに、それ」
驚きが先に出た。
続いて、小さく。
「可愛い……」
その声に、別の侍女が反応する。
「何? どうしたの?」
覗き込んで、同じように固まる。
「……すごい」
今度は、少し違う声。
「こんな形、見たことない……」
さらに人が集まる。
「可愛い!」
「お人形みたい……!」
「でも、その広がり……どうなってるの?」
ただの称賛だけではない。
戸惑いと興味が混ざり始める。
クラリスは腕を組み、少しだけ誇らしげに言った。
「仕組みがあります」
「仕組み?」
「中に着ているんです。広げるための下着を」
「下着で……?」
ざわめきが一段大きくなる。
フェリシアはその様子を鏡越しに見ていた。
スカートが揺れる。
可愛い。
それだけでは終わらない。
(まだ足りない)
レース。
リボン。
帽子。
組み合わせ次第で、いくらでも変えられる。
(ここからよ)
その日。
一つの屋敷で生まれたこのドレスは——
やがて社交界に、違和感と熱狂を同時に広げていく。
新しい“可愛い”の、始まりだった。




